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SP(息抜きサブストーリー集)
SP2 その狼は、ただ愛を欲しがる。(4)
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こんな彼の様子に、伊都は若い狼に嫌われ抜いていると思い込む。
何せ常に怒っているか、悪口を言われるか、はたまた行動指針が気に入らないとばかりに、仔狼らとの憩いの時を壊されるかしているのだから。
彼女から見ると若い狼とは、強いて言えば一番苦手なタイプだ。声が大きく威圧的な男性は、出来れば距離を置きたい存在だが、大好きな動物の姿をしているからまだ許容出来るという感じであって。
……正直なところ、人間なら絶対に縁を持ちたいと思わない相手である。
だから今も伊都は、彼の怒りをやり過ごす事しか考えていない。
パワハラ被害者の常で、萎縮し考えが硬化した彼女は、その怒りが冷める時をじっと待つという消極的姿勢で彼へ心を閉ざすのだった。
だが、そんな魔女の気持ちなど、この理不尽な思春期狼が分かる訳もない。
小学生男子とほぼ同様に、好きな子の反応を見る為、つついて叩いて暴言吐いて、その顔が己の為に歪んだら観心を得られたと、まるで明後日の解釈をしてひたすら嫌がらせをすることを腐心する。
日々そんなことをしていたら、人間関係が破綻するのは当然である。
(何でだよ、そんな顔して)
びくびくとこちらを窺う態度が気に入らない。
(その柔らかい体を押しつけて、今すぐ俺に情けを請えば甘やかしてやるのに、何でそこなんだよ、何で距離を取るんだ)
彼女は弟達に囲まれて、しかもじりじり彼から距離を取り、怯えた表情を浮かべるから腹が立つ。
だから……。こうして威嚇してしまうのは、彼女が悪いのである。
全く理不尽な彼は、そのように考えるから状況はどんどん悪化していく。
(俺を見ろ)
ずっとそう、出会った時から思っている。
(俺だけを見ろ)
その黒い瞳で、彼だけに笑い掛けないのだから彼女が悪いのだ。
(他の奴を、構うなよ)
仔狼らはずるい。彼女を存分に鳴かせるジルバーはもっとずるい。若い狼はずっと、そう考えている。
(その白い手で俺を抱き締めてくれよ)
そんな事を考えながら、威嚇しているのだから全くどうにかしている。彼だってこの態度がいけない事ぐらいは分かっているのだ。
でも、元々が意地っ張りで見栄っ張りな彼には、やめられない。素直に甘えを請うなど、彼には許される態度ではないのだ。
「どうしても、受け入れられないのね……」
彼女は悲しげに俯いた。
「ごめんなさい、嫌いな女が居るなんて耐えられないでしょう。お使いついでに、しばらく巣を離れるわね。その間に、気を鎮めてくれるかしら」
そして荷物を持ち、巣穴を出て行く。
(……どうしてだ?)
いつもこうだ。彼女は彼を見ない。彼を甘やかさない。
不器用なアピールが彼女の怯えに繋がる。彼の言葉が彼女を遠ざけていく。その事に思春期の理不尽さで、彼は彼女に怒りを覚える。
(どうして、俺だけを見ないんだ!)
何せ常に怒っているか、悪口を言われるか、はたまた行動指針が気に入らないとばかりに、仔狼らとの憩いの時を壊されるかしているのだから。
彼女から見ると若い狼とは、強いて言えば一番苦手なタイプだ。声が大きく威圧的な男性は、出来れば距離を置きたい存在だが、大好きな動物の姿をしているからまだ許容出来るという感じであって。
……正直なところ、人間なら絶対に縁を持ちたいと思わない相手である。
だから今も伊都は、彼の怒りをやり過ごす事しか考えていない。
パワハラ被害者の常で、萎縮し考えが硬化した彼女は、その怒りが冷める時をじっと待つという消極的姿勢で彼へ心を閉ざすのだった。
だが、そんな魔女の気持ちなど、この理不尽な思春期狼が分かる訳もない。
小学生男子とほぼ同様に、好きな子の反応を見る為、つついて叩いて暴言吐いて、その顔が己の為に歪んだら観心を得られたと、まるで明後日の解釈をしてひたすら嫌がらせをすることを腐心する。
日々そんなことをしていたら、人間関係が破綻するのは当然である。
(何でだよ、そんな顔して)
びくびくとこちらを窺う態度が気に入らない。
(その柔らかい体を押しつけて、今すぐ俺に情けを請えば甘やかしてやるのに、何でそこなんだよ、何で距離を取るんだ)
彼女は弟達に囲まれて、しかもじりじり彼から距離を取り、怯えた表情を浮かべるから腹が立つ。
だから……。こうして威嚇してしまうのは、彼女が悪いのである。
全く理不尽な彼は、そのように考えるから状況はどんどん悪化していく。
(俺を見ろ)
ずっとそう、出会った時から思っている。
(俺だけを見ろ)
その黒い瞳で、彼だけに笑い掛けないのだから彼女が悪いのだ。
(他の奴を、構うなよ)
仔狼らはずるい。彼女を存分に鳴かせるジルバーはもっとずるい。若い狼はずっと、そう考えている。
(その白い手で俺を抱き締めてくれよ)
そんな事を考えながら、威嚇しているのだから全くどうにかしている。彼だってこの態度がいけない事ぐらいは分かっているのだ。
でも、元々が意地っ張りで見栄っ張りな彼には、やめられない。素直に甘えを請うなど、彼には許される態度ではないのだ。
「どうしても、受け入れられないのね……」
彼女は悲しげに俯いた。
「ごめんなさい、嫌いな女が居るなんて耐えられないでしょう。お使いついでに、しばらく巣を離れるわね。その間に、気を鎮めてくれるかしら」
そして荷物を持ち、巣穴を出て行く。
(……どうしてだ?)
いつもこうだ。彼女は彼を見ない。彼を甘やかさない。
不器用なアピールが彼女の怯えに繋がる。彼の言葉が彼女を遠ざけていく。その事に思春期の理不尽さで、彼は彼女に怒りを覚える。
(どうして、俺だけを見ないんだ!)
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