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SP(息抜きサブストーリー集)
SP3 銀狼の妻問婚(5)
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時間は流れ、冬間近。
今年は随分と早く寒さが襲ってきた。
(……まさか、こんな早くにインフルエンザ流行の話を聞くとは)
どの業界でもそうだが、身体が資本で、日々忙しく働く白銀も、寒波の襲来にうんざりとした顔をして、マスクの下で咳をする同僚らに同情の眼差しを向けつつ、風邪を引かないようにと注意して過ごしていた。
それに合わせたように、ある早朝、出勤の準備を整えて玄関で靴を履くその背に彼女から声を掛けられた。
「あの、これ……良かったら、ですが」
そう言って、彼女はおずおずとニットのマフラーを差し出してきた。
「これを、俺に?」
思わず目を見張る。
珍しい、と彼は思った。現実の彼女は、滅多な事ではプレゼントに手編みのものを贈らないと聞いている。
なのに、手編みのマフラーとは。
冬に手編みのマフラーを貰えるのは、彼氏の特権というイメージがあるので、微妙にくすぐったい気分だ。
(学生時代にでも戻った気分だな……)
まあ実際は、強面で長身の学生時代の彼は整った顔立ちに隠れた人気があっても近寄り難く、女性から手作りの物など貰った試しはない。例外は、義母のみだ。
「……ええと、その。店の試作品と一緒のものなんですけれど……。私って、ほら、贈る相手がいないと気合いが入らないっていうか、その……。大事な人に贈るものを編む時が一番進みがいいっていうか。それで、一つ白銀さんに編むつもりでやんなさいって、そんな課題をサキさんに出されて。素材も販売する物と同じ品質のものですから、悪くないと思います。それにサキさんもお墨付きで、出来は悪くないと思うんですけれど……」
しどろもどろに、しかし饒舌に。相変わらず編み物に関してだけはよく話す伊都である。
どうやら彼女の姉貴分のサキが、手編みの一つも持っていない可哀想な彼氏へと気を利かせ、課題を与えたようだ。
「成る程」
(全く、あの人はやたらと悪知恵も回れば気も回る)
リッコが強引に引き込み、手弁当で伊都(実質はリッコのだが) のニット作品ブランドのブレインとして働かされている状態の白銀に、サキなりの気を効かせたというところか。
「有り難う。あんたの物なら何でも嬉しい。今年は寒くなるのも早いからな。同僚も風邪を引いている奴が多いし、正直有り難い」
などと言えば、彼女は頬を赤らめて嬉しそうに笑み崩れた。
なんと、可愛らしい生き物だろう。
彼が目元を緩めたその時、彼女が背伸びをするようにして首元に手をやり、手にしていたものをふわりと首に巻いてくれる。
今年は随分と早く寒さが襲ってきた。
(……まさか、こんな早くにインフルエンザ流行の話を聞くとは)
どの業界でもそうだが、身体が資本で、日々忙しく働く白銀も、寒波の襲来にうんざりとした顔をして、マスクの下で咳をする同僚らに同情の眼差しを向けつつ、風邪を引かないようにと注意して過ごしていた。
それに合わせたように、ある早朝、出勤の準備を整えて玄関で靴を履くその背に彼女から声を掛けられた。
「あの、これ……良かったら、ですが」
そう言って、彼女はおずおずとニットのマフラーを差し出してきた。
「これを、俺に?」
思わず目を見張る。
珍しい、と彼は思った。現実の彼女は、滅多な事ではプレゼントに手編みのものを贈らないと聞いている。
なのに、手編みのマフラーとは。
冬に手編みのマフラーを貰えるのは、彼氏の特権というイメージがあるので、微妙にくすぐったい気分だ。
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まあ実際は、強面で長身の学生時代の彼は整った顔立ちに隠れた人気があっても近寄り難く、女性から手作りの物など貰った試しはない。例外は、義母のみだ。
「……ええと、その。店の試作品と一緒のものなんですけれど……。私って、ほら、贈る相手がいないと気合いが入らないっていうか、その……。大事な人に贈るものを編む時が一番進みがいいっていうか。それで、一つ白銀さんに編むつもりでやんなさいって、そんな課題をサキさんに出されて。素材も販売する物と同じ品質のものですから、悪くないと思います。それにサキさんもお墨付きで、出来は悪くないと思うんですけれど……」
しどろもどろに、しかし饒舌に。相変わらず編み物に関してだけはよく話す伊都である。
どうやら彼女の姉貴分のサキが、手編みの一つも持っていない可哀想な彼氏へと気を利かせ、課題を与えたようだ。
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