編み物魔女は、狼に恋する。〜編み物好きOLがスパダリ狼さんに夢と現実で食べられる話。

兎希メグ/megu

文字の大きさ
203 / 220
八章 彼女が彼と、住む理由。

二十五話 団らんと共に届くメッセージ(1)

しおりを挟む

 そんなこんなで、白銀と肩を並べた伊都は、食卓の先の母と一緒に三人で食事をとる。
 母と白銀が打ち解けた様子なので、接待は母に任せ、伊都も気張らずにのんびりとおかゆを食べた。

 食後のお茶……伊都だけ薬の効きをよくするため白湯だが……を飲んでいる時。
 ふいに、伊都のスマホが電話の着信を知らせた。部屋から響くベルの音に、慌てて席を立つ。
「あの、電話が……ちょっと席を離れますね」
 二人に断り、伊都はぱたぱたとスリッパを鳴らして部屋に飛び込むと、スマホを取る。

「はい、織部です」
『ああよかった、繋がった。イトちゃん目が覚めたのね』
「サキさん?」
 電話の主はサキであった。

「もしかして、心配掛けてしまいましたか? 済みません。すぐに折り返しで返事しないで」
『いいの、いいの。無事ならあたしの事は気にしないで。それより、イトちゃんの事だから明日出社する気でしょ?』
「それは、まあ……」
 仕事だから当然と、そう言おうとするが。
『ダメよ、歩道橋から転落なんて、どう考えても大事じゃないの。自分の身体なんだから、自分で大事になさい。貴女が立つ気でもあたしが許さないからね!!』
 結構な剣幕で叱られてしまった。
「は、はい。済みません……」
 伊都は反射的に謝る。

『それは置いといて。それで、身体の具合はどうなの?』
「そうですね……特に骨折などはないんですけれど、全身を強く打ったみたいで。包帯だらけです」
 伊都は明るく言うが、電話の向こうの声は深刻だ。
『そう……。ならそうね、診断書は後でもいいから、とにかくしっかり休む事。打ち身ってね、後からどんどん辛くなるのよ? 軽く見ないで、ちゃんと休みなさい。っていうか、貴女のお母さんに聞けばいいじゃないの』
「あ、それもそうですね……そういえば、お母さんにも痛みが出てくるわよって、脅されたんですよね」
『でしょう? 緩和ケアの仕方なんて素人のあたしがいうより、貴方のお母さん方が詳しいでしょ。ちゃんと言うこと聞いて大人しくなさいな』
「はい、肝に銘じます」
 姉のように親身なサキの言葉に、伊都は神妙な顔で頷く。

「あの、ところで話はぜんぜん変わるんですけれど……」
『何かしら?』
「その。白銀さんに、最近私がやたらトラブル続きになっているからか、心配なので一緒に住まないか、と言われていまして」
 伊都は、そういえば既婚者からアドバイスを聞けばいいんじゃないかと、さっき聞いたばかりの話をする。
『あら、同棲? いいじゃないの』
 だが、サキから明るい声でかえってきた言葉はすっきり明快とした肯定だ。
「そ……そうですか?」
 既婚者二人目のお言葉に、伊都は動揺の余り部屋をうろつく。
『そうよ、一緒に住んでみたら食の好みや生活リズムが合わなくて離婚、なんて今時珍しくないし。お試しで同棲してみるのは結構大事なのよ? 』
「はあ……」
 そういう見方もあるのか、と伊都は新鮮な気持ちで聞く。

 何せ、彼女は職場でも奥手で通ってきたのだから、姉貴分であるサキともこういった恋愛話をじっくりした事がないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...