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共鳴4

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「それじゃぁまず二人の今後の戦地に赴く際の処遇について王宮内に伝えてくる。その際に此度の戦に関わっている貴族達にも同席してもらい、意見を聞いてこよう。その間なんだが…。」

チラッとダニエル様は涼ちゃんの方を見た。着いてきて欲しいのだろうが、先程の【商売道具】という目線で自分達が見られてる事が引っかかるのか、彼女は彼とは頑なに目線を合わせなかった。それが王子殿下も分かっているみたいで、声が出せていない。

「涼ちゃんは…ダニエル様から何か伝えられるまでここにいたらどう?ダイナー局長良いですか?」
「えぇ、私は構わないけれど…良いんですか?」
「…致し方ない。数日間彼女を頼む。」



「お、お兄ちゃんーー!!私達これからどうなっちゃうの?魔法なんて殆どまだ分からないし、そもそもこの世界の事だって分からないことだらけなのに前線で二人だけで戦わなくちゃいけないの?!私…私死にたくたいよぉ……うわぁぁぁぁん!!!」
「涼ちゃん…まだ決まったわけじゃないから…落ち着いて。俺だって死にたくないよ。今は…ダニエル様を信じるしかないんだ。」
「ダニエル様だって…私の事を聖女様としか見てないし…、信じるのはちょっと……難しいかな。」

ダニエル様一行が帰城するため、郵便局から出た瞬間に涼ちゃんがそう訴えかけてきたのだった。
話を聞くに、俺としては彼女と同意見なのは間違いない。だが、この世界で生き抜くには今は従う仕方ないのだとも理解している。

「涼ちゃん。さっきも言ったけど、あくまでもこの世界にとって切り札なのは俺達なんだ。だから、機会を待とう。」
「……………うん。」

この世界はあくまでも聖女信仰を第一と考えている節がある。この世界に溢れて出ている瘴気及び魔獣の撃退は聖女による浄化魔法でなければ祓う事が出来ないのだと。
つまりは俺や涼ちゃんが聖女である以上、無下にすることが出来ない。
たとえ戦地に二人きりで赴かなければいけなくなったとしても、俺達の意見を優先させてくれる可能性があるのだと。騎士団を連れて行けなくても、何かしらの支援をしてくれる。無駄死には避けられる。

極端な話、大金を頂いた上でトンズラする事も…可能だろう。
こればかりは前線に出てみて本当に討伐が無理そうならば涼ちゃんに提案してみようと思っている。よく知らない異世界で命を散らすだなんて御免だからね。
そう考えながら、彼女の頭をゆっくりと撫でた。少しだけでも、安心できるように、そう願いを込めながら。


王子殿下が涼ちゃんを郵便局に置いてくれる事を許可してくれたので、涼ちゃんの部屋決めやここでの生活についての話し合いををする事になった。

「部屋は…お兄ちゃんと一緒でいいや。」
「それは、ダメじゃない?家族になったとはいえ、血縁関係は無いんでしょ?万が一って事があったらどうすんのさ。」
「そーだぞ、スズ嬢。奏多が夜まで紳士とは限らねぇもんな。女子部屋もあるんだし、そっちの方が安全だと思うぜ。」
「んん…それじゃぁ今夜だけ。せめて今夜だけは一緒の部屋に居させて欲しいな。だめ、かな?」
「…俺は別に構わないけど。」
「!!ありがとう、お兄ちゃん!」

あーあ、とヨハンとアルフレッドが呆れたような顔をして俺達二人を見ていた。間違いを起こす事は絶対にしないけれど、傍から見ればやばいのはよく分かっている。
彼女の顔を見るに、先程あった精神面の乱れを何とかしたいのだろうと、そう読めた。端的に言えば不安で仕方がない。同僚の二人もそれは理解しているみたいで、これ以上は突っ込んでこなかった。

「それじゃぁ、まずはネグリジェから郵便局員用の制服に着替えてもらって。奏多と一緒にグリーンヴァルドの配達に行ってもらおうかしら。」
「制服!!お兄ちゃんとお仕事!!頑張ります!!」
「すっげー一気に元気になってるよこの子。」
「気分の切り替えは大切だしね…。」

ダイナー局長に誘導されて、ホールの横にある職員専用入口に入っていった。
今ここの時間だけでも彼女にとっての息抜きとなればいいなと思わざるおえない。アレだけの【聖女様】への拒否反応を見てみれば、どれだけ彼女にとって嫌な日々だったのか物語っている様に思えた。

「奏多。」
「…ヨハン…うぉっ?!」

後ろから声をかけられて、振り返ってみれば髪の毛を思いっ切りワシャワシャとかき混ぜられた。絶対に数十本毛が抜けた。俺よりも一回り大きな手のひらでそうされたのだ。

「……あまり、気を張るな。局長にも言われたろ、あくまでもお前はここの郵便局員の一人に過ぎないんだ。」
「!!…忘れてた。」
「でしょーね。奏多が考えてるのは、前線に行くフリして逃げるとか…じゃない?」
「うぐっ。」
「やっぱり。…僕としては二人が…奏多が生き長らえるなら全然賛成だし手助けもしてあげないこともないけどね?」
「どっちだよ。」
「助けてあげるよ。君だけはね。」

頭をかぎ混ぜるのが終わり、頬に手が添えられ強制的に二人を見あげる形になった。

「二人とも、なんでそんな…。」
「何でだろうな、俺はお前が心配で仕方ねぇんだわ。」
「…僕もそうだよ。」
「?」

今にも泣きそうな、可哀想なものを見る目で俺を見ていた。どうして、そんな。
俺達だけの問題だと思っていたのだが、何か勘違いでもあったのか?

「な、泣かないでよ。」
「泣いてねーわ。」
「…誰かさんが泣かないから代わりに担当してあげようかと思ってはいたけど。そう簡単にはいかないね。」
「さっきから二人が言うことがわかんないんだけど…。」
「いいさ、分からなくて。…ただ、俺達はお前の味方って事だけ覚えてくれればそれでいいさ。」
「う、うん。」

それは、よく分かってる。
二人が俺にとって何よりも大切な仲間だと言うのは分かりきってる。
だが、それだけでは収まりきれない感情が二人の瞳から溢れている気がしたのだった。
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