抱きたい。抱かれたい。

Lopeared

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Devour Hope

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 夕食を終えて、カモミールティーを淹れるルーシー。
今から語られるセトの秘密に少しでも同様せず落ち着こうと言う姿勢だろうか。
お茶をセトの前にも差し出す。

「ありがとう」

 対に座る二人。
お茶を一口含んで飲み、一息ついてセトが語り出す。

「俺の祖父はエルフの里では名のある弓の名手で、人間に頼まれて人狼狩りの手伝いを受けた。銀の弓で人狼の動きを止める役目で、祖父の活躍は功を成して怪物を討伐ではきた……その時に呪いを受けた」
「の、呪い……?」

 娼館と薬草屋の狭い世間しか知らない箱入りのルーシーは人狼なんてものは童話の世界だと思っていた、もちろん呪いなんてものもインチキだと。

「人狼が自分にまじないをかけていたらしい……己を殺めた者たち5代先の子孫までを自分と同じ衝動にからせる。満月の夜に人を襲いたい衝動が抑えられなくなるんだ……だいたいの者は発狂するか、聖職者に討伐される。人狼を討伐した英雄にはこのうえない屈辱の呪いだね」
「セトも……満月の夜に人を殺したくなるの?」

 
『あの時、セトが自分を傷つけ正気に戻らなければ死んでいたのかもしれない……』
物語に出てくる食い散らかされた少女達の描写を思いだし軽く身震いするルーシー。

「呪いを受けた事をいち早く察知した祖父は白魔術師と精霊達の加護の力で呪いを弱体化させる事に成功したんだ……。内臓を貪り食う代わりに異性への肉欲への衝動が尋常じゃない……満月の夜の度に」

 冷えて湯気が消えたティーカップを見つめるセト。
地上でもっとも清く慎ましやかに生きようとするエルフにとって何と酷な呪いなのだろうか……ルーシーはセトの一族に同情した。

「……ディノに祭りに誘われたんだってね。彼は単純で子供っぽいところもあるが仕事は熱心だし何よりお前を想ってくれている。祭りで将来を誓いあいなさい。巣立つには……良い時期だよルーシー」

 セトの『父親』としての愛が、女として拒絶された事が胸を締め付け抑え込めない悲しみが涙になって頬を伝う。
それを見たセトは追い討ちをかける。
ルーシーが仄かに抱く彼への想いを立ちきるために。

「俺の子孫も呪われる……だから俺は妻を持てない。希望は無いんだよルーシー……」

 傷を負う左手でルーシーの頭を優しく撫で自室に向かう彼の足音を耳にしながらルーシーはテーブルにつっぷして声をあげて泣きじゃくった。



 夜半、喉に渇きを覚え目覚めるセト。
水差しに手を差し伸べたが空っぽだったので体を起こしてダイニングに向かうとルーシーがつっぷしたまま泣き疲れてそのまま眠ってしまっていた。

「祭りが終わってから話すべきだったか……、晴れの姿の日に目を腫らしてしまうな……目覚めてからすぐ腫れ止めの湿布が使えるように調剤しよう」

 ルーシーを抱え彼女の寝室に運ぶ。
セトはじめて彼女と出会った日の事を思い出す。
潔癖なぐらい清く育てられた長子のセトは少女が変態に犯される様を見ていられなかった。

 ……変態から少女を買ったは良いが、その先を考えていない浅はかなセト。
成人して一人前のつもりでいたが里を出たばかりの彼も正義感だけで後先考えない世間知らずの坊っちゃんだったのだ。
 薬草屋に帰路の道中たどり着いた答えは少女が成人するまでの何年間か面倒を見て頃合いを見て送り出す。
エルフの一生から見れば人の数年など瞬きの間だ、その間だけ家族ごっこをしよう……簡単だ。
そう思っていた愚行を今のセトは過去の彼を鼻で笑う。

 セトの無色で孤独な時間に鮮やかな色彩を与えたルーシー。
手放す事が辛い。
笑顔に癒され、名前を呼ばれる度に高まる鼓動。
父としてでは無い気持ち。

 ……『恋』なのだと。

 呪い持ちの男に嫁いでくれなど、愛してるからこそ言えない。
ルーシーを幸せにできるのは自分ではないのだと言い聞かせる日々。
『父と呼べ』と言うのはセトの意思を再確認させるためだ。



 腕の中で寝言を言うルーシー。

「セ……ト、セト……、好き……スキ……」

『俺もだよ……』口にしかけ口ごもる。
心の中で愛を囁く。

 愛する女をベッドに横たわらせ、額にくちづける。
彼女が目を覚まさないように静かに部屋を後にしようとしたが一旦足を止めルーシーの寝顔を見つめる。

『……後どのぐらい、この顔を見ていられるのだろうか。自分から別れを告げておいて未練がましいな』
ルーシーのそばに戻り唇に唇を軽く重ねる。

「俺のお姫様、幸せになって……誰よりも」

 セトが今度こそ部屋を後にすると暫くしてから薄目を開けるルーシー。
毛布を頭までかぶって今起きた事を反芻しては子供のように足をばたつかせ喜んだかと思うと……ため息をついて意気消沈する。
愛されてはいるが、先に進めない恋。

「どうしよう……」

 毛布ごしに天上を見つめポツリとルーシーは呟いた。
 
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