抱きたい。抱かれたい。

Lopeared

文字の大きさ
8 / 8

店番

しおりを挟む
「いらっしゃいっ! お客さん、何にします~?」
「おや、何であんたが。仕事変えたのかい?」

 調剤カウンターで客を迎えるいつもと違う店員に驚く客。
少し猫っ毛の赤毛の短髪、異国の血が混じる褐色の肌に、肉体美を追及しつづけ鍛練を怠らない引き締まった体にほど良くついた筋肉。
セトとは違った美しさを持つ男、ディノッゾ。

「二人して寝坊で……支度できるまで俺が店番中」
「あんただって仕事があるだろうに」
「急ぎの受注はないから、どっちかってぇと暇してる……格安で嫁さんの裸婦画でも描こうか?」
「はっはっはっはっ! バカ言え、あんな脂肪の塊の絵誰が見るってんだよ」

 ディノは話術に長けている。
モデル達に良い表情をつくらせるために日頃話しかけているからだ。

「そういあ、あんたここのルーシーとできてるんだってなぁ~昨晩は燃えたかい?」

 ゲスな笑みを浮かべる客。

「妄想好きな主婦の噂の一人歩きだよ、旦那。俺は他に好きな人居るからねぇ~ん」
「へぇ、そいつは誰だい」
「これ買ってくれたら教えてやらなくもない」

 客の前にずずっと小瓶を差し出すディノッゾ。
小瓶に付いてある値札を見て目を丸くする客。

「銀貨50枚! 出せる訳ないだろっ、何の薬なんだ」
「さぁ……知らない」

『俺の秘密は銀貨50枚じゃ話せないけどな……』

 クスリと心の中で笑う。

「すみません、お待たせしました。何をお探しですか?」

 風呂上がりでまだ髪が濡れたままのセトが奥から店に入ってきた。
石鹸の香りがディノの鼻をくすぐり、セトの上気した肌に欲望を刺激される。

『やべぇ、押し倒したい』

 胃薬と勃起薬を買い求めた客を見送るやいなや、ずいっとセトの前に出てカウンターと両腕で愛しい人を閉じ込める。
何をするんだと怪訝そうな表情の眉間のシワが可愛く感じそこに口づけしようとするディノの鼻先に気付け薬をかざすルーシー。
気付け薬はアンモニアや酢などツンとする強烈な臭いが多い。
袖口で鼻をふさぐ両者。

「いきなり何するんだデカパイ!」
「あんたこそ私のセトに何してくれてるのよっ! はっ! 風呂上がり色気増しましなセトにムラムラしたのね! あ~やだやだ真っ昼間から!」
「ぐっ(図星)」

 恋のライバル(?)同士火花を飛ばし合う二人を尻目にカウンターに腰掛け産婦人科系の本に目を通すセト。
植物の知識には長けているのだが、それ以外の知識がまだ乏しい若輩者エルフ。人間の妊娠の事はよくわからないのだ。

『さすがに人狼の子種がどのぐらい女の胎内で生存できるのかなんて記されてないか……、傷の回復力が尋常じゃないからあいつの時の子種は生命力が強いのかもな。ーーそれにしても、満月でもないのに何で衝動にかられたんだろう……リリスの枝に惑わされたルーシーの体液に伝染するフェロモンでも含まれていたんだろうか』

 セトが読書に集中すると回りが見えない事を知っているルーシーとディノは一時休戦し訪れる客をあしらう。

 
 客足が途絶えるとルーシーが紅茶を淹れてディノとセトの前に出す。
良い香りに本から紅茶に視線を変えてからルーシーの方に目をやると賑やかコンビが微笑む。

「ありがとう」
「どういたしまして!」
「ディノに言ったんじゃないわよ」
「俺だって店番してるしぃ~」
「あぁ、本当に店番ありがとう。助かったよ」

 朝一に店に訪れたディノッゾは最初店内で待っていたのだが中々出てこない二人を心配して昨日ルーシーを看病したセトの部屋に向かったのだ。
昨日ディノが扉を閉めずに出たものだからベッドの上で慌てて服を着ようとしているセトと裸のルーシーを目撃して……そっと扉を閉めて店番をはじめた。
良いやつである。

 本に視線を戻すセトを見てからルーシーに話しかける。

「俺はお前と結婚しなくて良くなったんだな」
「うん……」
「親友に寝とられるとわねぇ~。はぁ、セトさんにキスした後にそのまま押し倒しておけば祭りジンクスワンチャンあったのかなぁ~俺にも」
「無い無い、私たちは赤い糸で結ばれてるんだから!」
「裁縫ハサミでそんな糸ちょんぎってやる」

 恋敵討論から『セトの素敵ポイント言い合い選手権』に変わり、
爪切りを失敗して深爪したり、読書に集中しすぎて飲み物をこぼしては火傷を負うおっちょこちょいのところ、寝ぼけてボタンをかけ違えるところまで『素敵』に見える『恋は盲目コンビ』の会話は飽くことなく続き……。

 ーーこの賑やかで温かい空間に幸福を感じるセトだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

義兄様と庭の秘密

結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...