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第3章 Side 珠喜
第6話 初めての秘密の恋 後編 *
しおりを挟む彼はアタシの背中を黒板に押し付けた。まるで獣のように激しい熱を帯びた瞳。普段の優しくて穏やかな眼差しからは想像もつかないその目に胸がドキドキした。彼はアタシの肩から胸元に掛かっている長い髪を払い、首筋から胸の谷間に唇を這わした。久々のその感覚に体が一気に熱を帯びた。
「はぁっ……せんせぇ……もっと……っ」
彼の頭を抱き締め、耳元に唇を寄せて甘く囁くと彼はアタシの背中に腕を回してブラのホックを外した。大きくて温かい手がゆっくりと優しく、時にいやらしく膨らみを愛撫する度に体の奥が疼いた。
「やぁん、あぁっ……!」
と、その時。教室の前の廊下を誰かが走って来る音がした。ハッとして顔を見合わせる。
「まずい」
彼は咄嗟にアタシの腰に腕を回して引っ張った。二人で教壇の影に隠れる。廊下からは死角になっていてこちらは見えないはずだ。足音は教室の前の廊下を駆け抜けて行った。足音が遠ざかると、教室内にはまた静けさが訪れた。閉め切った薄いカーテンの隙間からは夕陽が差し込んでいる。
「……びっくりした」
「それはこっちのセリフだ……見つかったら即クビだぞ、俺は」
彼は額に滲んだ汗を拭きながら大きな息を吐いた。その手を取り、露になったままの膨らみに添える。
「せんせえ……早く続き、しよ?」
彼はアタシの唇にキスをして舌先を絡めながら両手で膨らみを愛撫した。時折、先端の突起を摘まんだり指でこねくり回した。体が再び熱を帯びていく。
「あぁ、イイ……っ」
「夏目……っ」
「いや……せんせえ、名前で呼んで……?」
熱い眼差しを向けると彼は嬉しそうに微笑み、耳元に唇を寄せて低く甘い声でアタシの名を呼んだ。
「たまき……好きだ……ずっとこうしたかった……」
嬉しさのあまり体が震える。返事の代わりに唇にキスをすると、彼はスカートの内側に手を滑らせた。
「あぁん」
両方の内腿をいやらしく撫で回していた手が、やがて付け根に触れた。下着越しに秘部をゆっくりと撫でられ、思わず吐息が漏れる。
「ぁっ……そこ、ダメェ……っ」
「ダメ?お前の方から誘ったんだろ?今更拒んでも無駄だぞ」
彼は耳元で楽しそうに囁くと、いきなり下着の中に手を突っ込んだ。
「ひゃあ!」
「もうぐちょぐちょじゃないか……」
「ぁっ、ダ、ダメ……っそんなに掻き回しちゃ……いやぁん!」
彼は中指でアタシの中を激しく愛撫した。次から次へといやらしい蜜が溢れ出すのが自分でもよく分かった。徐々に疼きが大きくなる。彼の首筋に腕を回し、押し寄せる快感に身を委ねた。
「そんなに腰振って……気持ちいいのか?」
「うん……っ。んあぁ、ダメ、イっちゃう~~!!」
アタシは体を震わせて思い切り果てた。
「夏目、今日はもうやめておこう」
「えっ、でも、先生のここ……苦しそうだよ?」
大きくなっている彼自身を撫でると、彼は苦笑いをして首を横に振った。
「ここでこれ以上はできない。避妊するものなんて持ってないし」
「大丈夫だよ?もし赤ちゃんできたら、アタシきちんと育てるし……」
「ダメだ。お前はまだ高校生なんだ。勢いでそんな危険なことしてはいけない。俺はお前を傷つけたくない。大切にしたいんだ。好きだからこそ」
「先生……」
彼の目は真剣だった。アタシは胸が熱くなるのを感じた。
「こうなったからには、俺は責任を持ってお前と付き合う。ただし、俺達の関係は決して口外してはいけない。それは分かるよな?」
「もちろん。って、責任を持ってって……先生、真面目すぎ!」
「あ、当たり前だろ!教師が生徒と付き合うなんて許されない行為なんだぞ!だ、だが……好きになってしまったんだから仕方ないだろ」
恥ずかしそうに目を逸らした彼に抱きつき、唇にキスをした。
「先生、ありがと。大好き」
続きはその週の日曜日に彼の自宅で行われた。「補習」ではなく「セックス」だ。朝から彼の家へ行き、夜まで何度もした。彼は何度もアタシの中に入って、何度も果てた。買ったばかりの避妊具が一気になくなるぐらい。あの「補習」の日、彼は相当我慢していたに違いない。大好きな彼に何度も求められ、幸せを感じた。
母はアタシの恋の相手が誰なのか、その都度尋ねて来た。毎回、隠すことなく正直に伝えたけど、太宰先生との関係は彼との約束を守って頑なに口を閉ざした。でも、すぐにバレてしまった。
「あんた、先生と付き合ってるわね?」
「ち、違うよ!」
「その顔は図星ね」
「……何で分かったの?」
「電話してる時の会話で何となく分かるわよ。『先生』って呼んでなくてもね」
母はタバコをふかしながら口元を緩めた。
「……さすがお母さん。男に関しては鋭いね」
「ふふっ、伊達に男と付き合ってないわ」
「アタシが先生と付き合ってること怒らないの?」
「別に。お互い好きなんだったらいいじゃないの。乱暴された訳じゃないんだし」
母はそう言って笑ったけど、目は笑っていなかった。アタシ達の関係をよく思っていない訳じゃない。「娘に何かしたらただじゃおかない」そういう意味だ。すると、母は吸っていたタバコを潰し、アタシの顔をじっと見つめて言った。
「珠喜、私と約束してくれる?」
「何を?」
母は一切の笑みを消して毅然とした態度で言った。
「セックスをする時は必ず避妊すること。例え男が『責任を持つ』なんて言ってきても信じちゃ駄目。そんなのは大抵口から出まかせよ」
「そうなの?太宰先生はきちんとゴムしてくれるよ」
「先生は教師だからよ。生徒に何かあったら困るのは自分だから。でもね、そんな立場をわきまえた理性のある男ばかりじゃないの。世の中、自分のことしか考えてないクズばっかり」
母は「クズ」という言葉をまるで吐き捨てるように言った。
「クズ……」
「いい?珠喜、女はね、自分を守れるのは自分しかいないの。自衛することはとても大事なことなのよ」
「……分かった」
そんな母の強い思いの裏側に母を裏切った父親の存在があるなんてこの時はまだ知る由もなかった。
アタシは卒業したら太宰先生と結婚するつもりでいた。「卒業したら一緒になろう」彼にもそう言われていたのだ。でも、彼との関係は高校を卒業すると同時に呆気なく終わった。卒業式の後、自分の家で彼は突然アタシに別れを告げた。
「別れたい……?いきなりどういうこと?」
「離婚して海外に行っていた嫁が日本に戻って来たんだ。離れている間にお互いが大切な存在だと気づいて……」
「ハァ?アタシに隠れて会ってたってこと?先生、言ったよね?アタシが卒業したら一緒になるって。あれ、嘘だったの?」
彼は何も答えなかった。目を逸らしたまま黙っている。
「そっか!若いアタシなんかよりも、先生はおばさんを選ぶんだ?!ふーん!」
「た、珠喜……」
「やっぱりアタシとは遊びだったんだ?大切にしたいとか言ってたのに嘘ばっかり!」
「違う。決して遊びなんかじゃ……」
「アタシの青春返せ!このクソじじい!」
「珠喜……!」
彼が呼ぶのも聞かず、家を飛び出した。涙が止まらなかった。アタシは自分のことを過信していた。若くてキレイで可愛い。だから、先生はアタシを好いてくれてる。そう思っていた。家に帰って母に泣きつくと母は言った。
「珠喜、外見だけじゃ人の心は動かせないのよ。確かにあんたは若い頃の私に似て、若くてキレイで可愛い。でも、それ以上のものを先生は奥さんに求めたのよ」
「何よ偉そうに!お母さんに外見以上に魅力的なものがあるの?!いつも色目使って男を誘ってるくせに!」
我ながら酷いことを言ったと思う。でも、母は動じることなく言った。
「あるわよ。あんたがそれに気づいてないだけ。悲しいわね」
「どういうこと?」
「珠喜、私がどれだけあんたを愛してるか分かる?愛してなければ、あんたをここまで育ててないわ。たぶん施設に預けてるわね」
思わずハッとした。親が子を育てることは当たり前だと思っていたけど、そうじゃない。母はアタシのことを見捨てなかった。毎日働いて学校に通わせてくれた。男癖の悪さは相変わらずだったけど、それ以外は優しくて頼りになる母親だった。自分がどれだけ恵まれていて幸せな子供なのか、初めて気づいた。
「そうだった……ごめんね、お母さん」
母は優しく微笑んだ後、また真面目な顔で言った。
「あんたに足りないもの、それは人生経験よ。当たり前だけど奥さんの方が遥かに上。経験を積まないとこればかりは分からないわね」
「人生経験……」
しかめ面をしているアタシの頭を撫でながら、母は言った。
「あんたは失恋してひとつ大人になった。早速経験を積んだのよ」
「そっか……」
「それにあんたはまだ18。人生これからじゃないの。何も今すぐに30代後半のオヤジと結婚することないわ。もったいない。振られて良かったのよ。おかげであんたはまた新しい恋ができる」
「うん!」
――――――
思い返してふと気づいた。アタシはこれまで自分が愛されることばかり考えていた。付き合った彼らに対して一体何をして来ただろう?
「何もしてない……。ただ『可愛いね』とか『好きだ』とか言われて体を求められることに満足してただけ……」
アタシに足りなかったのは『相手に尽くす』とか『相手を想う』ってことなのかもしれない。母が伝えたかったのはきっとそういうこと。
「小泉さんの為に何ができるんだろう?」
ふと辺りを見回してみる。家の中は整理整頓されていて汚れひとつない。仕事をしながらこの清潔さを保つのはなかなか難しい。彼はアタシが眠っている間に早起きをして家事や掃除を済ませているのだ。きっとアタシが来てからはやることが倍に増えてる。料理だって毎日二人分作るのは大変なはず。それでもこうしてわざわざメモまで残して、アタシの面倒を見てくれる。思わず胸が熱くなってしまった。
「小泉さんってやっぱり優しい人……」
アタシは決意した。彼の為に自分にできる精一杯のことをしようと。それは「彼に好かれたい」という思いだけじゃない。出会ったばかりのアタシに親切にしてくれる彼へ「恩返しがしたい」そんな思いもあった。
――――――
帰宅した小泉さんの片手には買い物袋があった。
「おかえりなさい!何買ってきたの?」
「夕飯の材料に決まってんだろ」
「何作るの?」
「教えるかよ。出来るの待ってろ」
「小泉さんってばイジワル!」
彼がエプロンをつけてキッチンに入ったので、一緒になって並んだ。デニム生地のシンプルなエプロンだけど付け慣れているのか馴染んでいてかっこいい。
「何してんだ」
「何作るのか見届けようかな~って」
「邪魔だから向こう行ってろ」
「ええー?なんで?!」
「俺は見られるのが嫌いなんだよ。あっちで映画でも見てろ」
彼はイライラしながら冷蔵庫から野菜を取り出した。
「はいはい、わかりました~」
しばらくの間、ウルフロックのライブ映像を見ているとキッチンから良い香りが漂って来た。振り返るとテーブルの上にランチョンマットが敷かれ、豪華な食事が並んでいた。ライスとサラダ、それに……
「ロールキャベツ?!美味しそ~!このスープは何?」
「オニオングラタンスープだ」
「オシャレ!小泉さん、何でも作れるんだね!洋食屋さんのシェフみたいでカッコいい!」
彼は恥ずかしそうに目を逸らした。アタシが素直に褒めると大体同じ反応をする。褒められるとどうしていいのか分からないのかもしれない。
「めちゃくちゃ美味しい!そもそも何で料理しようと思ったの?」
「父親は料理ができなくてな、いつもスーパーの弁当や惣菜だった。その内飽きてきて、自分で作った方がいいんじゃないかって気づいたんだ。父親が死んだ後、祖母に引き取られたが、祖母に料理を教わってからは更にレパートリーが増えた」
「へぇ~!アタシ、家事手伝ってたけど料理はしたことないからなぁ。元の世界で一人暮らししてるけど殆ど外食だし。こんなに美味しいもの作れるなら楽しいだろうね」
「お前もやってみたらどうだ?どうせここにいる間はやることないんだろ?」
「じゃあさ、料理教えてくれない?レシピ調べたいけど字が読めないからさ」
すると、小泉さんは眉をひそめた。
「言わなきゃ良かった……」
「え?何か言った?」
「いや、何も。仕方ねえ、教えてやる。ただし、容赦しないからな。しっかり覚えろよ。そうすれば、戻った時に彼氏に美味いメシ食わせてやれるだろ」
カレシという言葉に一瞬ドキッとした。ヨリを戻すつもりはない。何故なら彼とは禁断の関係だから。それ以前にもしかしたらもう戻らないかもしれない。
「そ、そうだね!」
アタシは必死に笑ってごまかしたのだった。
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