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第16話 もう一人の開発者
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暁子はすぐにウオッチを起動し、水端流に連絡を取ろうとした。しかし、忙しい様子でなかなか出ない。
「宵月くん、悪いが後にしてくれるかね」
暁子は水端流が言い終わらない内に食い気味に声を上げた。
「教授、緊急の連絡なんです。北翔の存在が漏れました」
すると、水端流は眼鏡の奥で目を丸くした。
「何だと……?」
暁子は経緯を掻い摘んで説明した。水端流は珍しく動揺してる様子で話を聞いていた。
「話は大体分かった。で、北翔の存在を漏らしたのは我が息子ということなのだな?」
「そうです。でも、それにはかなり深刻な事情がありまして」
「どういうことだ?」
「今、あなたの息子さんの中には二人の人格がいます。一人は彗、もう一人は黒という人格です。この黒というのは彗が抱えている『闇』が人格化したもの。彗は黒を何とか抑え込んでいましたが、次第に支配されるようになった。そして、遂に負けてしまい閉じこもってしまったんです。だから今、表に出ているのは黒。あなたが知っている息子さんではありません。北翔の存在をハレーに漏らしたのも黒です」
水端流は茫然とした表情を浮かべていた。信じられない、といった様子だった。暁子は口を開いた。
「教授、あなたが何を知っているのか私には分かりませんが、もう隠し通すことはできない。確信がなくても構いません。だから、今の段階で知っていることを話して頂けませんか?」
水端流はしばらくの間、押し黙っていたが、やがてゆっくりと口を開くと言った。
「……うむ、良かろう。では、宵月くん、皆を集めておいてもらえるかね?すぐにそちらに向かう」
「分かりました」
暁子はウォッチを切ると、順番に連絡を入れた。最後にイオに連絡を取ると、シリウスが出た。
「もしもしー?」
「ああ、シリウス、元気にしてるかい?」
「あっ!さとこせんせー!ボクは元気だよ!でも、イオは今ねてるんだ」
「寝てる?体調が悪いのかい?」
「うん。さっきセンターから帰って来たんだけどね、つかれたからねるって」
「そうかい……何か私にできることはあるかい?」
「うーん……大丈夫だと思う」
「じゃあ、何かあったらすぐに連絡しておくれよ」
「はーい!」
暁子はウオッチを切った。
(イオ……あの子の話も聞いてあげないとならない。でも、尋ねても『大丈夫だから』って何も教えてくれない。たぶん私には言いたいくないんだろうねえ。メッセージだけ送っておこう。違う機会に北翔を紹介しなくちゃならないし)
暁子はパソコンを起動すると、イオにメッセージを送信した。
すっかり日が暮れた頃、ハレー、ベネラと志希、黒、北翔、暁子が揃った会議室に水端流が現れた。
「諸君、毎日の任務ご苦労。さて、今日は重要な話を諸君にしなければならない。実は彗と雄飛くん、宵月くん以外にもアンドロイドの開発に携わっていた者が一人だけいる」
その瞬間、会議室内に緊張が走った。
「その者とは地球にいる頃から開発を進めていてな。訳あってお前たちとは別の場所にいたのだ。それで、アンドロイドが完成したらメトロポリス星で落ち合おうと約束していた。だが、明日宇宙船に乗り込むと連絡をして来たきり、消息を絶ってしまったのだ」
「その宇宙船、いつの便か分かりますか?」
スヤスヤと眠っている志希を抱きながら、ベネラが冷静な顔で言った。
「……恐らく、最後の宇宙船だ」
「最後の宇宙船といえば、乗車券――パスを巡る争いが最も激化して死者が沢山出たことで有名だね」
暁子の言葉にベネラが続いた。
「それに、この星に着いた時も着陸に失敗して大事故を起こした。呪われた宇宙船って言われた便だわ」
「っつーことは……そいつはもう死んでる可能性があるってことか?」
ハレーの言葉に沈黙が流れた。それを破ったのは黒だった。
「教授。その消息を絶った開発者が北翔を作った、そういうことですよね?」
水端流は黒の顔をじっと見つめると、眉をひそめた。
(これがもう一人の息子ということか……確かにこの冷静沈着な雰囲気。彗とは似ても似つかない)
「……ああ、その通りだ」
「……名前はなんです?」
すると、水端流は一瞬、暁子の顔をじっと見つめた。そして、言った。
「宵月明彦……君のご主人だよ」
水端流による衝撃的な告白に一同は驚愕した。しかし、宵月明彦に一番身近な存在であるはずの暁子は全く表情を変えなかった。
「そういう事ですか」
彼女の冷静な反応に驚いたのか、水端流も眉をひそめてしばらくの間、彼女の顔を見つめていた。が、やがて咳払いをすると口を開いた。
「北翔、今の話を聞いてどう思う?何か思い出すことはあるか?」
北翔はしばらく考え込んだ後、首を横に振って言った。
「……分からない」
そして、一言付け加えた。
「でも、暁子の名前を初めて聞いた時、何となく聞いたことがあるような気がした。特に『宵月』って苗字」
「ほう、そうか」
興味深そうな顔でそう言うと、水端流は言葉を続けた。
「宵月明彦くんと何度か連絡を試みたんだが、やはり繋がらなくてな……消息不明、ということで処理してしまったのだ。申し訳ない、隠していた訳ではないのだ」
すると、黒が静かに口を開いた。
「それは言い訳でしょう。あなたは彼の存在を秘密にしていた事を責められるのが嫌だった。それに……連絡が来ないからといって探しもせずに消息不明で処理するなんて……約束した相手に失礼ではないですか?」
あまりも棘のある口調、言葉に全員が息を飲んだ。水端流は驚いて黒の顔を再びじっと見つめた。そして、冷ややかな眼差しで言った。
「……宵月くんから聞いてはいたが、確かに君は我が息子ではないようだ。息子はそんな風に私に対して口答えをすることはないからな」
黒は鼻で笑うと水端流を思い切り睨みつけて言った。
「教授、あなたは知っていますか?彗は口答えをしなかったんじゃない。できなかったんだ。あなたのやり方に何度も意見しようとした。しかし、頑固なあなたは聞く耳を持たなかった。いや、聞こうともしなかった」
「なっ……」
水端流は驚いた。眼鏡の奥の瞳が見開かれ、わなわなと唇が震えた。
「だから彗は自分に自信を無くして育ったんです。常に劣等感に苛まれた。頭が良くて、成績も申し分ない。十分に胸を張れる要素があった。それなのに、いつもおどおどして周りに気を遣って生きてきた。彗が閉じこもってしまったのは、あなたにも原因があるんですよ、水端教授」
水端流は何も言い返せず、悔しそうに唇を噛み締めていた。
「ぼくは彗の『闇』の部分です。だから、ぼくの中にはあなたに対する深い憎悪がある」
黒はそう言って水端流をより一層、鋭い目で睨みつけた。再び沈黙が流れる。それを破ったのは暁子だった。
「黒、あんたの気持ちは分かるけどね、そういうのは違うところでやっておくれよ。私達はあんた達の親子喧嘩を見るためにここに集まったんじゃないんだよ」
黒は暁子の言葉に小さく舌をすると、目を逸らして押し黙った。水端流は咳払いをすると、気を取り直したように言った。
「宵月くんの言う通りだ。話が脱線して実に申し訳ない。それで、先程の話に戻るが……諸君には北翔と宵月明彦くんの調査を依頼したい。誰がどのように調査を進めるのかは諸君に任せることにする。何か少しでも分かったことがあれば、すぐに報告をしてくれ」
水端流は思い出したように続けて言った。
「ああ、そうだ。地球にいる頃に明彦くんから度々送られて来た報告メールがある。後で宵月くんに転送するから参考にしてくれ」
「じゃあ、それを見ればそいつが北翔を作ったかどうか分かるんじゃねえか?」
ハレーの言葉に水端流は困惑した表情を浮かべて言った。
「それがだな……残念ながら個体を具体的に表す文章が一切ないのだ。もちろん私は言った。もっと具体的に教えてくれと。だが、彼はそれを拒否した」
「何でだ?言いたくない何かがあったのか?」
「分からない。とにかく、完成するまで待ってくれ、そう言っていた」
すると、暁子が口を開いた。
「理由なんてない。あいつはもったいぶるのが好きなのさ。夢や理想、希望は積極的に語るが、今自分がどんな仕事をやっているのかは私にも教えてくれなかった。離婚する前の話だけどね。きっと、後で驚かせようと思ったんだろうねぇ」
一同は考え込み、黙ってしまった。しばらくして、水端流が気を取り直したように言った。
「では、私はこれで失礼する。引き続き任務に励むように」
水端流は足早に出て行った。会議室には沈黙が訪れた。皆、暁子と黒に気を遣っているようだった。
黒は腕を組んだまま、何かを考え込んでいた。その隣で北翔は黒の様子を伺っていた。ベネラは北翔に歩み寄ると声を掛けた。
「初めまして、北翔。私はベネラよ。ハレーと暁子から色々聞いたわ。私もできる限り協力するわね」
「ベネラ……ありがとう。彗から色々聞いた。キミはとても強い女性。頼り甲斐がありそう」
顔色を変えずに北翔はそう言った。しかし、その声色にはベネラを信用しようとする暖かい色が見え、ベネラは少し驚いた。
「まぁ、ありがとう。あら?志希も反応してるわ」
「だーだー!」
ベネラの腕の中で志希が満面の笑顔を浮かべ、両手をバタつかせながら北翔を見つめていた。北翔は志希の頬にそっと指で触れた。
「あったかい……それに、ベネラとハレーに、よく似てる」
「ふふっ、よく言われるわ」
「……よろしく、志希」
北翔は志希のふっくらした頬を指先でぷにぷにとつつきながら言った。その微笑ましい姿にベネラは心が温かくなるのを感じた。
(感情が表には出ないけど……優しい子なんだわ)
と、その時だった。
「皆さん、ちょっといいですか」
黒が突然、声を上げたのでその場にいた全員がハッとした。
「……やだなぁ。そんな目で見ないでくださいよ。こいつまた何かやらかすんじゃ、みたいな」
暁子は警戒しながら言った。
「何だい?用があるなら早く言っておくれ」
「ぼくは先日、彼女のコアを調査しました。そうしたら、興味深いことが分かったんです」
「興味深いこと?何だい、それは」
暁子の言葉に黒は口元を緩めた後、語り出した。
「宵月くん、悪いが後にしてくれるかね」
暁子は水端流が言い終わらない内に食い気味に声を上げた。
「教授、緊急の連絡なんです。北翔の存在が漏れました」
すると、水端流は眼鏡の奥で目を丸くした。
「何だと……?」
暁子は経緯を掻い摘んで説明した。水端流は珍しく動揺してる様子で話を聞いていた。
「話は大体分かった。で、北翔の存在を漏らしたのは我が息子ということなのだな?」
「そうです。でも、それにはかなり深刻な事情がありまして」
「どういうことだ?」
「今、あなたの息子さんの中には二人の人格がいます。一人は彗、もう一人は黒という人格です。この黒というのは彗が抱えている『闇』が人格化したもの。彗は黒を何とか抑え込んでいましたが、次第に支配されるようになった。そして、遂に負けてしまい閉じこもってしまったんです。だから今、表に出ているのは黒。あなたが知っている息子さんではありません。北翔の存在をハレーに漏らしたのも黒です」
水端流は茫然とした表情を浮かべていた。信じられない、といった様子だった。暁子は口を開いた。
「教授、あなたが何を知っているのか私には分かりませんが、もう隠し通すことはできない。確信がなくても構いません。だから、今の段階で知っていることを話して頂けませんか?」
水端流はしばらくの間、押し黙っていたが、やがてゆっくりと口を開くと言った。
「……うむ、良かろう。では、宵月くん、皆を集めておいてもらえるかね?すぐにそちらに向かう」
「分かりました」
暁子はウォッチを切ると、順番に連絡を入れた。最後にイオに連絡を取ると、シリウスが出た。
「もしもしー?」
「ああ、シリウス、元気にしてるかい?」
「あっ!さとこせんせー!ボクは元気だよ!でも、イオは今ねてるんだ」
「寝てる?体調が悪いのかい?」
「うん。さっきセンターから帰って来たんだけどね、つかれたからねるって」
「そうかい……何か私にできることはあるかい?」
「うーん……大丈夫だと思う」
「じゃあ、何かあったらすぐに連絡しておくれよ」
「はーい!」
暁子はウオッチを切った。
(イオ……あの子の話も聞いてあげないとならない。でも、尋ねても『大丈夫だから』って何も教えてくれない。たぶん私には言いたいくないんだろうねえ。メッセージだけ送っておこう。違う機会に北翔を紹介しなくちゃならないし)
暁子はパソコンを起動すると、イオにメッセージを送信した。
すっかり日が暮れた頃、ハレー、ベネラと志希、黒、北翔、暁子が揃った会議室に水端流が現れた。
「諸君、毎日の任務ご苦労。さて、今日は重要な話を諸君にしなければならない。実は彗と雄飛くん、宵月くん以外にもアンドロイドの開発に携わっていた者が一人だけいる」
その瞬間、会議室内に緊張が走った。
「その者とは地球にいる頃から開発を進めていてな。訳あってお前たちとは別の場所にいたのだ。それで、アンドロイドが完成したらメトロポリス星で落ち合おうと約束していた。だが、明日宇宙船に乗り込むと連絡をして来たきり、消息を絶ってしまったのだ」
「その宇宙船、いつの便か分かりますか?」
スヤスヤと眠っている志希を抱きながら、ベネラが冷静な顔で言った。
「……恐らく、最後の宇宙船だ」
「最後の宇宙船といえば、乗車券――パスを巡る争いが最も激化して死者が沢山出たことで有名だね」
暁子の言葉にベネラが続いた。
「それに、この星に着いた時も着陸に失敗して大事故を起こした。呪われた宇宙船って言われた便だわ」
「っつーことは……そいつはもう死んでる可能性があるってことか?」
ハレーの言葉に沈黙が流れた。それを破ったのは黒だった。
「教授。その消息を絶った開発者が北翔を作った、そういうことですよね?」
水端流は黒の顔をじっと見つめると、眉をひそめた。
(これがもう一人の息子ということか……確かにこの冷静沈着な雰囲気。彗とは似ても似つかない)
「……ああ、その通りだ」
「……名前はなんです?」
すると、水端流は一瞬、暁子の顔をじっと見つめた。そして、言った。
「宵月明彦……君のご主人だよ」
水端流による衝撃的な告白に一同は驚愕した。しかし、宵月明彦に一番身近な存在であるはずの暁子は全く表情を変えなかった。
「そういう事ですか」
彼女の冷静な反応に驚いたのか、水端流も眉をひそめてしばらくの間、彼女の顔を見つめていた。が、やがて咳払いをすると口を開いた。
「北翔、今の話を聞いてどう思う?何か思い出すことはあるか?」
北翔はしばらく考え込んだ後、首を横に振って言った。
「……分からない」
そして、一言付け加えた。
「でも、暁子の名前を初めて聞いた時、何となく聞いたことがあるような気がした。特に『宵月』って苗字」
「ほう、そうか」
興味深そうな顔でそう言うと、水端流は言葉を続けた。
「宵月明彦くんと何度か連絡を試みたんだが、やはり繋がらなくてな……消息不明、ということで処理してしまったのだ。申し訳ない、隠していた訳ではないのだ」
すると、黒が静かに口を開いた。
「それは言い訳でしょう。あなたは彼の存在を秘密にしていた事を責められるのが嫌だった。それに……連絡が来ないからといって探しもせずに消息不明で処理するなんて……約束した相手に失礼ではないですか?」
あまりも棘のある口調、言葉に全員が息を飲んだ。水端流は驚いて黒の顔を再びじっと見つめた。そして、冷ややかな眼差しで言った。
「……宵月くんから聞いてはいたが、確かに君は我が息子ではないようだ。息子はそんな風に私に対して口答えをすることはないからな」
黒は鼻で笑うと水端流を思い切り睨みつけて言った。
「教授、あなたは知っていますか?彗は口答えをしなかったんじゃない。できなかったんだ。あなたのやり方に何度も意見しようとした。しかし、頑固なあなたは聞く耳を持たなかった。いや、聞こうともしなかった」
「なっ……」
水端流は驚いた。眼鏡の奥の瞳が見開かれ、わなわなと唇が震えた。
「だから彗は自分に自信を無くして育ったんです。常に劣等感に苛まれた。頭が良くて、成績も申し分ない。十分に胸を張れる要素があった。それなのに、いつもおどおどして周りに気を遣って生きてきた。彗が閉じこもってしまったのは、あなたにも原因があるんですよ、水端教授」
水端流は何も言い返せず、悔しそうに唇を噛み締めていた。
「ぼくは彗の『闇』の部分です。だから、ぼくの中にはあなたに対する深い憎悪がある」
黒はそう言って水端流をより一層、鋭い目で睨みつけた。再び沈黙が流れる。それを破ったのは暁子だった。
「黒、あんたの気持ちは分かるけどね、そういうのは違うところでやっておくれよ。私達はあんた達の親子喧嘩を見るためにここに集まったんじゃないんだよ」
黒は暁子の言葉に小さく舌をすると、目を逸らして押し黙った。水端流は咳払いをすると、気を取り直したように言った。
「宵月くんの言う通りだ。話が脱線して実に申し訳ない。それで、先程の話に戻るが……諸君には北翔と宵月明彦くんの調査を依頼したい。誰がどのように調査を進めるのかは諸君に任せることにする。何か少しでも分かったことがあれば、すぐに報告をしてくれ」
水端流は思い出したように続けて言った。
「ああ、そうだ。地球にいる頃に明彦くんから度々送られて来た報告メールがある。後で宵月くんに転送するから参考にしてくれ」
「じゃあ、それを見ればそいつが北翔を作ったかどうか分かるんじゃねえか?」
ハレーの言葉に水端流は困惑した表情を浮かべて言った。
「それがだな……残念ながら個体を具体的に表す文章が一切ないのだ。もちろん私は言った。もっと具体的に教えてくれと。だが、彼はそれを拒否した」
「何でだ?言いたくない何かがあったのか?」
「分からない。とにかく、完成するまで待ってくれ、そう言っていた」
すると、暁子が口を開いた。
「理由なんてない。あいつはもったいぶるのが好きなのさ。夢や理想、希望は積極的に語るが、今自分がどんな仕事をやっているのかは私にも教えてくれなかった。離婚する前の話だけどね。きっと、後で驚かせようと思ったんだろうねぇ」
一同は考え込み、黙ってしまった。しばらくして、水端流が気を取り直したように言った。
「では、私はこれで失礼する。引き続き任務に励むように」
水端流は足早に出て行った。会議室には沈黙が訪れた。皆、暁子と黒に気を遣っているようだった。
黒は腕を組んだまま、何かを考え込んでいた。その隣で北翔は黒の様子を伺っていた。ベネラは北翔に歩み寄ると声を掛けた。
「初めまして、北翔。私はベネラよ。ハレーと暁子から色々聞いたわ。私もできる限り協力するわね」
「ベネラ……ありがとう。彗から色々聞いた。キミはとても強い女性。頼り甲斐がありそう」
顔色を変えずに北翔はそう言った。しかし、その声色にはベネラを信用しようとする暖かい色が見え、ベネラは少し驚いた。
「まぁ、ありがとう。あら?志希も反応してるわ」
「だーだー!」
ベネラの腕の中で志希が満面の笑顔を浮かべ、両手をバタつかせながら北翔を見つめていた。北翔は志希の頬にそっと指で触れた。
「あったかい……それに、ベネラとハレーに、よく似てる」
「ふふっ、よく言われるわ」
「……よろしく、志希」
北翔は志希のふっくらした頬を指先でぷにぷにとつつきながら言った。その微笑ましい姿にベネラは心が温かくなるのを感じた。
(感情が表には出ないけど……優しい子なんだわ)
と、その時だった。
「皆さん、ちょっといいですか」
黒が突然、声を上げたのでその場にいた全員がハッとした。
「……やだなぁ。そんな目で見ないでくださいよ。こいつまた何かやらかすんじゃ、みたいな」
暁子は警戒しながら言った。
「何だい?用があるなら早く言っておくれ」
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