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第17話 心の声 *

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※無理矢理表現あり。苦手な方はご注意ください。



「生命力を表す数値が異常に高いんです。もしかしたら、富士山で遭難しても生き延びられたのはこの影響が大きいのかもしれません。それだけじゃない。彼女のコアの数値は全体的に女にしては高い」

黒はそこまで言うとクセのある前髪をいじりながら、全員の顔を見回した。

「ってことは、彼女の中に入っているのは、男性のコアかもしれないってことね?」

ベネラの言葉に黒は頷いた。

「その通りです。彼女を作った開発者は女のアンドロイドの中に男のコアを入れた。それも、もしかしたら実際に遭難した経験のある者のコアを使用している可能性が高い」

「何だと……?!」

「まぁ、これはあくまでぼくの憶測ですけどね。何せコアの情報が一切手元にないんですから。数値から予想するしかないんです」

黒はそう言って肩をすくめた。

「それは……丈夫なアンドロイドを作るためってことかしら?」

「きっとそうです。ハレーとベネラさんもサバイバル系のアンドロイドですが、あなた達はどちらかというと戦闘向きだ。彼女はそれとはまた違う。サバイバル系でも、過酷な環境を生き延びることに特化したアンドロイド……と、まあ、これがぼくの予想です」

「あんた、意外としっかり仕事してるじゃないのさ」

暁子が口元を緩めながらそう言うと、黒は鼻で笑って答えた。

「『意外と』は余計ですよ。だって、彗が全く仕事しないんですから。言っておきますけど、ぼくはこの仕事が別に嫌いじゃないんです。むしろ興味がある。だから、彼女と宵月先生のご主人の調査だってきちんと協力しますよ」

「ふん、そうかい。そうしてもらえるとありがたいねえ」

すると、ベネラが暁子に尋ねた。

「暁子は黒の予想を聞いて何か思い当たることはないの?」

「……あるよ。あり過ぎるぐらいだね」

「ええっ、ホントかよ」

ハレーが驚きのあまり声を上げた。

「あいつは『山で遭難しても生き延びられる心身ともに丈夫なアンドロイドを作る』って言ってたのさ。それもコンセプトは『山の妖精』だと……まったく、笑っちまうよ」

暁子はそう言って笑った。

「山の妖精……?」

北翔が首を傾げた。暁子は北翔の肩に腕を回すと、愛おしそうな笑顔を浮かべて言った。

「この人間離れした美しいルックス……北翔を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんじゃないか。あんた達、初めて北翔に会った時、びっくりしただろ?見惚れたんじゃないかい?」

「ま、まぁ……確かにな」

ハレーが頭を掻きながら言った。ベネラがそんなハレーのことを冷ややかな目で見つめる。ハレーはハッとすると両手を合わせてベネラに向かって頭を下げた。

「ですが……宵月先生のご主人が北翔を作ったという証拠がないといけません。ご主人の消息だって突き止めなきゃならないんですから。まっ、生存は限りなく絶望的ですけどね」

「ちょっと、黒。そんな言い方ないじゃない」

ベネラの言葉に暁子が言った。

「いいんだよ、ベネラ。私だって生きてるとは思ってないさ。せめて最期の瞬間にどこで何をしていたのかぐらいは知りたいけどね。それじゃあ、私と黒は北翔と明彦の調査をする。ハレーとベネラは最後の宇宙船について調査してくれるかい?」

「分かったわ。ところで、イオとシリウスが見当たらないけど、どうしたの?」

ベネラの言葉にその場に気まずい空気が流れた。

「イオは今、体調を崩して寝込んでいるそうだよ。何かできることがあれば言ってくれとメッセージは送ってるんだけど、返って来ないのさ。家まで様子を見に行くのも申し訳ないしねえ」

「イオだって誰にも言いたくないことぐらいあるでしょう。特に宵月先生にはね」

黒が冷ややかな目で暁子を見ながら言った。暁子は黒を睨みつけながら問い返した。

「……どういう意味だい」

「まあまあ、二人とも。イオには私からも連絡してみるわ。だから、今日はひとまずこれで解散しましょう」

ベネラの言葉に一同は頷き、それぞれ持ち場へと戻って行ったのだった。

***

それから一同はそれぞれの仕事と調査に励んでいた。体調を崩したイオはほとんど、自宅から仕事をしていた。そして、調子の良い日だけセンターを訪れていた。黒はセンターを訪れたイオの後を付け回したが、暁子やハレーに阻止そしされて思うように接触がはかれないでいた。

(まともに会話すらできない……クソっ)

気晴らしに運動でもしようかと黒はトレーニングルームに向かった。渡り廊下に差し掛かった。すると、窓辺に立ち、雪が降り積もった中庭をぼんやりと眺めている北翔の姿があった。最近の北翔は妙に色気づき、女性らしい服を身に着けるようになった。この日はデニムのスカート、白いパーカーの上に黒いブルゾンを羽織っている。頭には耳当てがついた可愛らしいニット帽。彗に告白した日に被っていたものだ。

デニムスカートの下からはスラッとした丈夫な足が見えており、滑らかな白い肌が雪灯ゆきあかりに透き通って美しく見えた。その姿に黒はふと暁子の言葉を思い出した。

(山の妖精……か。雪の妖精……と言っても良いのかもしれない。ってぼくは一体、何を考えてる?彼女には興味はないはずだ)

黒は白衣のポケットに手を突っ込んで再び歩き出した。そして、彼女の横を素通りしようとした。

「……黒」

急に腕を掴まれ、黒は驚いて振り向いた。彼を見る彼女の淡い灰色がかかった瞳は美しく、黒は息を飲んだ。思うようにイオと接触できない、イオを抱くことができない鬱憤うっぷんが溜まりに溜まっていた彼は、彼女のその美しい瞳や白い肌に体の奥底が疼くのを感じた。

「……来い」

黒はそう言うと彼女の腕を掴み、渡り廊下を引き返した。自分の研究室に戻ると眼鏡と白衣を脱ぎ捨てて北翔の体を強く抱き締めた。

「……っ?!」

驚いた北翔は体を強張こわばらせた。二人は、北翔が黒を拒んでから一度も肌を重ねていなかった。北翔は彗を呼び戻すことを目的として何度か服を脱いで黒に接触を試みたが、黒はそれを拒んだのだ。だから突然、黒に抱き締められたことに戸惑いを隠せなかった。黒は北翔のニット帽を脱がせると両手で彼女の頬を包み込んで、その唇に自身の唇を重ねた。

「んんっ……!」

隙間から舌先を入れ、濃厚に絡め取りながら何度もキスを繰り返すと、彼女の唇から熱い吐息が漏れた。

「はぁっ、く、黒……なんで急に……んんっ」

「……うるさいですね。せっかくその気になったんだから、ちょっと黙っててください」

黒は彼女の唇を塞いで熱いキスを繰り返しながら、彼女のブルゾンを脱がした。そして、パーカーの内側に手を入れると背中に回し、滑らかな肌の感触を楽しんだ。真ん中にある大きな傷痕を指先でなぞると、北翔の体がピクンと跳ねた。

「んあっ……!」

黒はそのまま下着に手を掛け、緩めると片手を胸元に戻し、膨らみを揉みしだいた。

「ああっ、黒、ヤダ……やぁん」

嫌がりながらも久々に湧き上がる快感に北翔は必死に堪えようと目を瞑った。

「ヤダ?だって、あなた、ずっとぼくのこと誘ってたじゃないですか。今更何言ってるんです?」

「ち、違う、そうじゃない……わたしは彗を……はぁん」

「彗を呼び戻そうってわけですか?まあ、確かにセックスは人間の本能ですからね。普段の生活で呼びかけるよりも、反応が返ってくる確率は高いでしょうね」

黒は鼻で笑いながらそう言った。と、同時に徐々に気分が高揚するのを感じた。

(はぁ……凄くむしゃくしゃする。でも、それだけじゃない。最近、ずっとしてないから尚更だ……)

黒は北翔のパーカーと下着を脱がすと、ベッドに押し倒した。雪の結晶が揺れる。そして、自分のパーカーも脱ぎ捨てると彼女の両手に自身の両手を絡め、首筋に刻まれている数字に唇を這わした。甘い刺激に彼女の肌が粟立あわだった。

「やぁん……!」

彼は両手を解くとそのまま下にずらし、再び膨らみに触れた。そして、片方の突起は唇で、もう片方は指先で摘まんで愛撫した。北翔は体の奥底がじわじわと熱を帯びていくのを感じた。

「あぁん……」

「おや?どうしたんです?彗を呼び戻すんじゃなかったんですか。すっかりぼくに身を委ねてるじゃありませんか……」

黒は片方の手をスカートの内側に滑らせた。内腿を撫で回して肌の感触を確かめると、器用にスカートを脱がした。下着の上から指で触れるとそこはもう熱く湿り気を帯びており、黒は自身の欲望がむくむくと反応するのを感じた。

「ああ……ここ、堪んないですねえ」

そう言って下着を一気に脱がすと、花びらに指を突っ込んだ。

「やぁんっ!」

そして、その中を思い切り掻き回した。その乱暴で鋭い刺激に次々と甘い蜜が溢れ出し、北翔の唇から甘い吐息が漏れた。彼女は目を瞑り、初めて黒の存在を認識した時のことを思い出した。

(彗の中に全く知らない人がいて……凄くゾッとした……乱暴で、痛くて、怖かった)

北翔が目を開けた瞬間、自分を見下ろす黒と目が合った。その目は深い『闇』の色をしていた。ドス黒い感情が渦巻いているのを目の当たりにした彼女は恐怖が蘇り、途端に自分の背筋に寒気を感じた。

「いや、やめて……あんっ」

押し寄せる恐怖と快感。彼女はこれまで感じたことのない混ざり合った感情に戸惑いながらも、必死に首を横に振って懇願こんがんした。

「やだ、指、抜いて……お願い、黒……!」

黒は彼女を冷たい目で見下ろしながら、指の動きを早めた。

「何故です?セックス、したいんでしょう?」

「違う、違う……こんなの嫌……ああっ!」

「違う?何が違うんですか?」

「彗、すい……!」

彼女は名前を呼びながら果てた。黒は下着を脱ぎ捨てると、彼女の花びらに硬くなった自身を押し当てた。

「これ、欲しかったんじゃないんですか?」

「いや……!欲しいのは、キミじゃない……あぁ、ダメ、入れないで」

「どうしてですか?だって、ぼくの体は彗と同じですよ?ぼくが入れようが彗が入れようが、変わらないでしょう?」

黒は意地悪く笑いながらそう言って、自身を彼女の花びらに擦り付けた。北翔は体の疼きを感じた。が、必死に堪えた。

(ああ、体は彼を欲しがってる……でも)

「違う。心が違う。わたしは彗が好き。彗としたいの……!」

黒は悔しそうに唇を噛み締めた。北翔は黒の漆黒の瞳を見つめた。そして、その奥底に眠る彗に向けて思い切り呼びかけた。それは心からの、魂からの叫びだった。

(彗、いるんでしょう?!目を覚まして!わたしを助けて!お願い!わたし、このままだったら黒にやられちゃう……助けて、彗!)
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