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第3話 イオの誕生 ✳︎

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固まっている雄飛をよそに彗は言葉を続けた。

「プロジェクトの協力者を一般で募って、子宮や卵巣、精巣、細胞を提供してもらいます。臓器はアンドロイドに移植します。細胞から『コア』という物体を作り、それを一番最後にアンドロイドに入れます。この『コア』というのは僕達人間でいうと他の全ての臓器の役割を果たしていて、生殖機能や人工知能、心理プログラムだけでは補えない問題を解決します。メンテナンス時には充電をしながら、この『コア』に栄養剤を注入します」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、彗」

雄飛は慌てて彗の言葉をさえぎった。その声は震えていた。

「アンドロイドに生殖機能を付けるだって……?そんなこと……可能なのか?」

「やってみないと分かりません。でも、今のわが国の科学と医療技術なら不可能ではない。父はそう言いました。それには雄飛くん、君の力が必要なんです。君のお父さんは外科医、お母さんは科学者です。お父さんは臓器移植にも詳しい。そんな二人の血を引く君は新しい可能性を秘めているんです。もちろんご両親の承諾は既に得ています。アンドロイドの、いや人類の未来のためにぜひプロジェクトメンバーになって欲しいんだ」

投影された映像の中で、彗は真剣な顔で頭を下げた。

雄飛は二人のルナのことを思い出した。彼女達は心も体もれっきとした女性だった。ルナ初号機は胸の膨らみも、下着に隠された秘密の場所も十分過ぎる程、精巧せいこうに作られていた。ルナ2号を作る時、雄飛は初号機に付いていた女性特有のそれらを、自身の記憶に加えて外科医である父親が持っている資料などを読み込んで同じように精巧に作った。

しかし、作る上でどうしても彼には解決できない問題があった。それは、熱い、寒い、冷たい、といった五感機能の中に「性的な快感」を付けること、そして、子供を作る機能だった。

雄飛はキッチンで片付けをしているルナを後ろから抱き締めた。

「雄飛?」

「ルナ……好きだ。触ってもいい?」

「ふふっ、急にどうしたの?いいわよ、雄飛の好きにして?」

ルナは楽しそうに笑うと振り返って背伸びをし、雄飛の首筋に腕を回した。雄飛は彼女を思い切り抱きしめると、その唇にキスをした。

「んんっ……ルナ」

そして、エプロンの紐を解いて洋服の中に手を入れ、膨らみを両手で揉みしだいた。しかし、彼女は一言も声を上げない。ただ静かに目を閉じて、雄飛の手に全身を委ねていた。雄飛は下着を全て脱がし、白い肌に触れた。そして、何の汚れもない綺麗な秘部にそっと指を差し込んだ。

「……ルナ、どう?何か感じる?」

「うーん……何かが入ってるのは分かるけど……特に何も感じないわ」

「痛いとか気持ちいいとかも?」

「……うん」

雄飛は諦めて、指を秘部からそっと抜くと、次に胸の突起を指で優しくつついた。すると、ルナは驚いた様子で体を震わせた。

「ひゃっ!」

「えっ?!なんか感じる?」

雄飛は嬉しそうにそのまま突起を指でくりくりと弄りまわし、愛撫した。

「きゃっ!あっははは!雄飛、くすぐったいわよ!」

ルナは体をよじらせて、笑い転げた。

「そっか……ダメか……」

残念ながら期待通りの反応が返って来ることはなく、雄飛はがっくりと肩を落としたのだった。

二人のルナとの情事を思い出し、雄飛はふと思った。

(もしかしたら、その『コア』ってやつがあればあの問題を解決できるかも……)

彗の言う「人類の未来」はもちろんだが、自分にはまだ新たな可能性があること、そしてその可能性に挑戦できること。彼にとってはそれらが何より重要だった。雄飛は顔を上げて言った。

「彗、俺もやるよ。そのプロジェクト」

「雄飛くん……!ありがとうございます!君なら承諾してくれると思いました……!」

彗は嬉しそうに満面の笑みを浮かべると、張り切った様子でプロジェクトの説明を続けた。

「1人につき1体、男女のアンドロイドを開発します。雄飛くんは健康的で丈夫な女性アンドロイドを、僕は戦闘能力に長けた強力な男性アンドロイドを作ります。それぞれに臓器移植技術に長けた敏腕な医師が助っ人で付きます……君の場合はお父さんですね。ゆくゆくはメンバーを増やして行く予定ですが、まずは僕と雄飛くんの二人で始めましょう」

「分かった。後で改めてプロジェクトの詳細を送ってくれ」

「承知しました!」

彗は得意気な顔で敬礼のポーズをすると、ウォッチを切った。目の前から映像がフッと消えた瞬間、雄飛は苦笑いをしながらポツリと呟いた。

「勢いでやるって言ったけど……とんでもないことになったな」

それから雄飛は彗の父親―水端流みずはしりゅうが作ったというプロジェクトの研究センターにおもむき、学業と両立してアンドロイドの研究と開発を本格的に始めた。両親から身体や科学知識と臓器移植知識を学び、更に人間、特に女性についての心理学を独学で学び、人工知能(AI)に様々な心理や感情を細かくプログラミングした。

「雄飛くん、一からアンドロイドを作るつもりですか?ルナ2号を改造すれば……」

雄飛がアンドロイドの設計図や計画データとにらみ合っていると、隣にいた彗がパソコンの画面をのぞき込みながら問いかけた。雄飛は首を横に振った。そして、寂しそうに笑うと言った。

「俺もそうしようと思ってルナを途中まで改造したんだ。でも、上手くいかなかった。ルナはその後、壊れてしまったんだ」

「そうだったんですか……残念ですね」

「仕方ないさ。初めから簡単にできる訳がない。でも、俺は今でもルナのことを想ってる」

雄飛はそう言って優しく微笑んだ。彗はその表情から雄飛がどれだけルナのことを大切に思っていたのかを感じ取ったのだった。

雄飛と彗によるアンドロイドの研究と開発が進んでいくと同時に、移住の為の宇宙船の準備も着々と進んでいた。デモや争いは日を追うごとにヒートアップした。大気汚染も進み、外に出るには防具服で身を包まなければならない程にまで状況は悪化した。世の中のニュースの大半はそれらの話題で埋め尽くされた。

研究センターの外では汚染された大気の下、毎日誰かが誰かを攻撃し、大勢の人間が傷ついた。そんな動乱の真っ只中で、遂に雄飛の手によって生殖機能がついたアンドロイドの第1号が完成した。

「……あなたは?」

自分の顔を心配そうに覗き込む1人の男性。イオはベッドに横たわったまま彼に問いかけた。

「俺は雄飛、だよ。今日から君の……そうだな、パートナーって言った方がしっくり来るかな?」

「ユウヒ……パートナー……」

イオはしばらくその言葉を繰り返した。「脳」に、いやまるで生まれたばかりの「心」に刻み込むように。

「そう。そして、君の名前は、イオ、だよ」

「アタシの名前は……イオ」

彼女はまた言葉を繰り返した。そして、大きく頷くとゆっくりと体を起こし、ニコリと笑いながら雄飛に向かって両手を差し出した。

「アタシはイオ。ユウヒ、よろしくね!」

無邪気なイオの笑顔に雄飛は自分の胸が高鳴ったのを感じた。ああ、俺の理想の女の子が今、目の前にいる。そう思い、歓喜と興奮で心が弾んだ。自分に向かって両手を伸ばすイオの生まれたままの体を思い切り抱きしめた。

イオは研究用の白い服を着せられた後、雄飛に連れられて、大きな研究センターの内部を見て回った。

「ここが君の部屋だよ。近くにあと数部屋あるけど、いずれ君の仲間が入ることになる」

「アタシの……仲間?」

「そう。アンドロイドの仲間だ」

「ふぅん……」

ベッド、クローゼット、ドレッサーぐらいしかない簡素で小さな部屋を眺めながら、イオはぼんやりと返事をした。イオは最後に分厚い防具服に身を包むと初めて外へ出た。しかし、そこは戦場だった。

大気で汚染された空は気味の悪い濃い紅色をしている。その下を飛び交う悲鳴、怒号どごう、何かが投げられる音、切り裂かれ、撃たれる音が絶えず響き渡る。地面には防具服を着た大量の人間が血を流して横たわっている。

その向こう側には政府が作った広大な基地があり、巨大な宇宙船がいくつも並んでいた。明らかに異常な世界。イオは思わず目をつむり、耳を塞いだ。

「何?ここ、嫌だ。怖いよ」

彼女が「歓喜」の次に感じた感情は「恐怖」だった。雄飛は震える彼女の体を優しく抱きしめて言った。

「イオ。これが今、俺たちが住んでいる世界なんだ。でも、俺たちはじきにここから脱出する。ほら、見えるだろ?あの宇宙船に乗って空気の良い平和な星に行くんだよ」

「そうなの?雄飛も?アタシも行くの?」

「もちろんだよ。俺は何があっても君を守る。安心して。俺を信じて」

雄飛の真剣な眼差しにイオは胸を打たれた。「恐怖」の次は「安心」だった。

「うん!」

イオは満面の笑顔を浮かべると大きくうなづいたのだった。
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