アンドロイドの歪な恋 ~PROJECT II~

松本ダリア

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第2話 彼女は毒の花 *

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一年前、イオが子供を産めないと分かった時、ハレーは荒れに荒れた。怒り、悲しみ、悔しさ、色々な感情が一気に押し寄せたが、それらを上手く処理するすべを不器用なハレーは知らなかった。

(オレはイオを愛してた。だから、あいつとヤってる時、すげえ幸せを感じてた。彗の奴が『愛する人との子供を作るということはとても幸せなことなんです』って言ってたからだ。それなのに……オレは裏切られたのか?クソッ!)

押し寄せる波のような複雑な感情を振り払うために、ただひたすら暴れた。戦闘訓練やトレーニングは続けていたが、感情をコントロールできない彼は上手く力を加減することができず、射撃ではことごとく的を外し、片っ端から武器を壊した。

「クソッ!今まで完璧だったのによ!」

ハレーは拳銃を思い切り床に叩きつけた。

「オレは最強のアンドロイドだ。ミスなんかするワケがねえ」

自分の様々な感情を上手くコントロールできないがためにミスをしてしまうということをハレーは知らなかった。また、教えてくれる人も誰もいなかった。唯一彗はそのことに薄々勘づいてはいたが、まともに会話ができないハレーに怯え、アドバイスをする勇気がなかった。ハレーは孤独だった。

「どいつもこいつも……オレを怪物みたいに扱いやがって」

人々の冷たい視線や態度はハレーの心に次第に暗い影を落としていった。ベネラが現れたのはそんな時だった。女性にしては長身で妖艶なオーラをふりまく彼女は、ハレーの目の前で鮮やかに的を撃ち抜いた。そして「強くて優しい人が好き」と言って、ハレーの頬にキスをして去って行った。まるで風のようなあっという間の出来事だった。ハレーは一瞬で彼女に心を奪われた。彼女は的だけではなく、ハレーの心をも撃ち抜いたのだ。ハレーは毎日、訓練に行く度に彼女に会えることを期待した。しかし、なかなか機会は訪れない。

「……あの女、ちっとも来やしねえ」

実はそれは宵月暁子よいづきさとことベネラの二人による「ハレー焦らし作戦」だった。何でも自分の思い通りになると思い込んでいる彼の性根しょうこんを叩き直すことが目的で、ベネラを使ってハレーの忍耐力をきたえようという訓練の一貫いっかんでもあったのだ。そうとも知らないハレーは毎日ひたむきに彼女を待ち続けた。

その日、ハレーは導入されたばかりの新型の拳銃を試し撃ちした。しかし、弾はことごとく的の真ん中を外した。円の下部に上がる煙を眺めながらハレーは思い切り顔を歪めながら言った。

「チッ、今日もダメか」

と、その時だった。背後に人の気配を感じ、ハレーはハッとした。

「銃を構える時、体の重心がブレてるわ。それじゃダメね」

少し鼻にかかった色気のある声。ハレーは咄嗟とっさに振り返った。

「最近、集中力が落ちてるんじゃないの、ハレー?」

得意気な微笑びしょうを浮かべて、腕を組んでいるベネラの姿があった。黒いレザーのジャケットとスラリとしたたくましい両足が覗くスカート、ゆるく波打つ赤髪。そして、色気のある口元のホクロと大きなたれ目。初めて会った時と変わらない彼女の美しい姿にハレーは思わず息を飲んだ。しかし、動揺を悟られまいとすぐに表情を戻して言った。

「よう、久しぶりじゃねえか。確か、ベネラ……っていったか?」

「まぁ、覚えてくれていて嬉しいわ」

ベネラはさも嬉しそうに微笑むと、ハレーの隣に移動して言った。

「もう一度、銃を構えてみて?」

ハレーは言われた通りに銃を構えた。すると、彼女はハレーに自身の体をグッと寄せて拳銃を持つ彼の手に自身の手を添えた。

「もっとこっちよ……そう、そのあたり」

ベネラはハレーの手の位置をゆっくりと修正した。その間、彼女の豊満な胸元が体に密着し、ハレーは自身の体が熱くなるのを感じた。

(こ、こいつ……わざとか……っ?)

「よく集中するのよ……さあ、撃って」

ハレーは引き金を引いた。鋭い音が響き、弾は的のど真ん中に命中した。ハレーは呆気に取られた。

(ベネラの腕は本物だ……美しいだけじゃねえ。正確さと強さも……こいつ、ただ者じゃねえ)

「ハレー、大事なのは集中力よ。中心を狙いたかったら、雑念を振り払いなさい」

ベネラはハレーの目を真っ直ぐに見て言った。

「……雑念?」

「そうよ。あなたは今、ごちゃごちゃと余計なことを考えながら撃ってるでしょう。だから当たらないのよ」

ハレーはハッとした。彼女の言葉の意味を理解したのだ。それと同時に、自分の迷いを見抜いた彼女の洞察力に深く感心した。それは彼女の「相手の心を読む能力」によるものだったが、ハレーには知る由もない。咄嗟に彼女の腰に腕を回して言った。

「……なぁ、この間も思ったけどよ。お前、なかなかやるな」

「あら、そう?」

ベネラは少しとぼけたような顔をして言った。

「ベネラ、今すぐオレと一緒に来い」

「どこに?」

「決まってんだろ、オレの部屋だよ。オレはお前を気に入ったんだ。今すぐヤらせろ」

すると、それまで微笑を浮かべていたベネラの口元がキッと結ばれた。次の瞬間、ベネラは片手でハレーの頬を思い切り叩いた。突然、鋭い痛みが走り、ハレーは驚きのあまり目を丸くした。

「ふざけないで。誰もがあなたの言いなりになると思ったら大間違いよ」

「お、お前……何しやがる」

「大昔、女は子供を産む道具だとか何とか言った男がいたらしいけど、それは違う。女は子供を産む『人間』。男の『道具』じゃないわ。女は女の強い意志があるの。馬鹿にしないで」

ベネラの大きな瞳は鋭く光っていた。その光に激しい怒りを感じて、ハレーは思わずひるみ、彼女の腰から手を離した。ハレーの素直な反応を見てベネラは微かに口元を緩ませた。そして、トドメを刺すが如くこう言い放った。

「言ったでしょ?私は強くて『優しい』男が好きだって。自分勝手な男、大嫌いだわ」

ベネラはきびすを返して立ち去ろうとした。ハレーは慌てて彼女の腕を掴むと言った。

「わ、分かった、分かった!オレが悪かった。優しくすりゃあいいんだろ?!」

ベネラは振り返ると、微かに口元を緩ませた。そして、自身の腕を掴んでいるハレーの手を取ってグイと引き寄せた。先程の怒りの表情から一転、再び妖艶な微笑みを浮かべると言った。

「……じゃあ、行きましょ。あなたの部屋に」

ハレーはベネラを自分の部屋に連れて行き、ベッドに押し倒した。そして、スカートに手を掛けようとした。が、その瞬間。ベネラはハレーの手を思い切り払い退けると素早く上半身を起こしてハレーの体を思い切りベッドに押し倒した。そして、ジャケットのチャックを少しだけ開けた。

突然の形勢逆転けいせいぎゃくてんにハレーは呆気に取られた。四つん這いの体勢で自分を見下ろすベネラは得意気な笑みを浮かべていた。中途半端に開けられたチャックの隙間からはくっきりとした深い胸の谷間が見える。ハレーは思わず生唾なまつばを飲み込んだ。

「お、お前……?!」

「私がそう簡単に服を脱がされるとでも思った?」

「なっ……」

「私はね、イオとは違うの。そう簡単に裸は見せないわよ」

ベネラは悪戯っぽい笑みを浮かべ、無造作に放ったままのハレーの両手を上げさせると自身の指を絡めた。

「……おい。お前はオレのことどう思ってんだ?オレのこと好きなのか?」

「ふふっ。あなたって自意識過剰じいしきかじょうなのね。いいわ、教えてあげる。私は年上で優しくて紳士な人が好きなの。あなたじゃないわ」

「んなら、何でこんなことする?彗のヤツが言ってた。女は好きな人としかヤラねぇって。ヤツの言うことが本当なら、お前はオレのこと好きなんだろ?」

「彗は純粋な子ね。いえ……彗だけじゃない。恐らく世の中の人の殆どがそう思ってるんじゃないかしら。一般論っていうやつ?でもね……いい?ハレー。覚えておいて。例外もあるの」

「例外?」

「そうよ。私はその一人。性欲と恋心はイコールにはならないのよ」

そして、ベネラはうっとりした顔でハレーの唇にキスを落とした。

(オレは今まで他人の気持ちなんて考えたこともなかった。オレ以外のヤツがオレをどう思ってるかなんて知ったこっちゃねぇ、オレのことを嫌ってても憎んでてもどうでもいい、オレ自身がいいと思うなら……そう思ってた。だからオレはイオを無理矢理、自分の女にしたんだ。あいつがオレを嫌ってて雄飛を好きなことは分かってたからな)

ハレーが必死に葛藤している間にも、ベネラは余裕のある笑みを口元に浮かべながらハレーの逞しい肉体を愛撫し続けた。

アンドロイド達にはそれぞれ目立たないところに刻印が入っている。彼女はハレーの黒いタンクトップをたくし上げると、厚い胸板に刻まれ、肌の色と同化したその刻印しるしを優しく指でなぞった。

「002……私は003。どこに入ってるか、知りたい?」

「あ、ああ……どこに入ってる?」

「ふふっ。内緒よ」

悪戯っぽく笑いながら人差し指を口元に当てる彼女が、ハレーにはまるで小悪魔のように見えた。動く度に彼女の豊満な膨らみがハレーの肌に触れた。黒いレザーに隠されたそれがどんなに柔らかくて温かいものなのか。理解した瞬間、ハレーは自身の欲望がはち切れそうになるのを感じた。

「うっ……ベネラ……っ」

うわ言のように呟き、ベネラの愛撫を素直に受け入れながらハレーは思った。

(ベネラはイオとは違う……何考えてんのかサッパリ分からねぇ。何でこんなことするんだ……)

そして、胸が酷く痛むのを感じた。その痛みはイオが子供が産めないと分かった時以来だった。また、その痛みがイオと雄飛を酷く傷つけた代償だいしょうだということに彼は気づくのだが、それはもう少し後の話である。

(……オレはこいつに弄ばれているだけだ。オレがこいつを好きなことを知っていて楽しんでんだ……なんて女だ……)

「ハレー……ここ、もう熱くなってるわよ」

ベネラは四つん這いの体勢のままミリタリーパンツ越しにハレー自身に触れた。そして、悪戯っぽい笑みを浮かべた。彼女の緩やかで長い赤髪が零れ落ち、ハレーの頬をかすめた。

「ああ……っもう我慢できねぇんだ……っ」

ハレーは胸の痛みとはち切れそうになっている自身の圧迫感に今にも押し潰されそうだった。苦しそうに顔を歪め、ベネラの両肩を掴むと思い切り引き寄せ、抱き締めた。そして、彼女の耳元に唇を寄せて言った。

「ベネラ、たのむ……イカせてくれ……っ」

「ふふっ、いいわよ」

彼女はわざと甘い声でそう囁くと、ハレーのミリタリーパンツと下着を一気に脱がせた。そして、硬くなったハレー自身を優しく握った。その時、ベネラは上目遣いでハレーを見つめた。あまりにも妖艶なその眼差しにハレーはハッと息を飲んだ。

(……美しく誘い、容赦なく傷つける。ベネラはまるで……毒の花だ……)
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