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第15話 動物達の行軍 後編
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シリウスと犬たちは様子を伺いながら廊下に並ぶ部屋をひとつひとつ開けて、監禁されている動物達を次々に解放した。最後に一旦外に出て、屋外の狭い檻の中にいる大型の動物を解放した。
最初は犬だけだった集団が、鳥、うさぎ、猫を始め、爬虫類や猛獣類までに膨れ上がり、あっという間に総勢50匹以上の大群になった。シリウスは犬だけではなく彼らの言葉を全て理解し、意志の疎通を図ることができた。彼らは皆、先頭に立つシリウスを群れのリーダーだと認識し、彼の言う事をよく聞いた。ライオン、トラ、ヒョウなどの猛獣でさえも、シリウスの言う事を聞いて大人しく群れの後ろについて堂々と歩いていた。
しばらく歩くと、西棟が見えて来た。と、その時だった。
「ひゃあ!」
建物の中から出て来た一人の男性研究員が、動物の大群を目にして腰を抜かした。更に、先頭にいるのが道円が閉じ込めたはずのシリウスだというのが分かると目を丸くした。
「た、大変だ!博士に知らせないと!!」
そして、慌てて立ち上がると叫び声を上げながら走って建物の中に戻って行った。その姿を見て、シリウスは何だか胸がせいせいするような感じがして良い気分になった。
「みんな、ボクたちがいっしょになれば、こわいものなんてないよ!」
「うおー-!!」
動物達が一斉に吠えた。その異様な光景に建物の中にいる研究員達も驚き、みな慌てふためいていた。逃げる者、叫ぶ者、助けを呼ぶ者、様々だった。更に進んでいくと、シリウスは前方に見覚えのある人物を発見した。
「あれは……ユウヒ?!」
雄飛は男性研究員ともみ合いになっていた。しばらく柔道の技の掛け合いのように両手両足を使ってグルグルと回っていたが、やがて雄飛は足を取られてしまい、芝生の上に倒れ込んだ。
「うあっ!」
「さっき他の研究員から怪しい奴が二、三人、入り込んでるって聞きましてねえ。君のことでしたか」
雄飛の上に研究員が馬乗りになり、強い口調でそう言った。
「シリウスはどこだ?!」
「ああ、あのボクくんは今頃、狭い箱の中で泣いてるんじゃないでしょうかねえ」
「なっ、なんだと……?!」
「とりあえず、黙っててもらえませんかね?」
研究員が雄飛の顔面目掛けて拳を繰り出した、その時。
「ユウヒをいじめるなー-!!」
シリウスは走りながら犬に変身した。そして研究員に飛び掛かり、拳に思い切り噛み付いた。
「いってえええ!」
研究員はあまりの激痛に芝生の上で悶絶した。
「シ、シリウス?!」
雄飛が驚きのあまり声を上げた。シリウスは変身を解くと、体を起こそうとしている雄飛に抱き付いた。
「ユウヒ!」
「シリウス、良かった……無事で……」
満面の笑顔を浮かべるシリウスの小さな体を思い切り抱きしめ、雄飛は安堵の涙を流した。
「ユウヒ、もしかしてないてるの?」
「当たり前じゃないか。心配したんだぞ」
「ボクを……たすけにきてくれたの?」
「もちろん、そうだよ。言っただろ?シリウスに何かあったら俺が守るって」
雄飛はシリウスの頬を両手で包み込んで、優しく言った。その目には優しさと温かさが込められているのが分かった。
「それは……ボクが『かぞく』だから?」
シリウスの言葉に雄飛の表情が少し驚いたようなものから明るいものに変わった。嬉しさが込み上げ、雄飛はもう一度シリウスの体を思い切り抱きしめた。
「そう!そうだよ!これが家族ってやつだ!」
「そっか!これが『かぞく』なんだね!ボク、ようやくわかった気がする!」
雄飛は嬉しそうに、シリウスの頭を優しく何度も撫でた。すると、二人の様子を黙って見ていた漆黒のドーベルマンが静かに口を開いた。
「おい、坊主。感動の再会に水を差して申し訳ないが、先を急いだ方がいいぞ。我々の騒ぎを聞きつけた研究員達が、続々と集まってきておる」
「そ、そうだった……ユウヒ!ボク、みんなでここを出たいんだ。どうすればいいかな?」
その時、雄飛は初めてシリウスが従えている大群の存在に気づいた。様々な動物が入り混じった群れを見て目を丸くすると、一番後ろにいる猛獣たちを見て、ぎょっとした顔をした。
「えっ……この動物達、もしかしてシリウスが逃がしたのか……?」
「そうだよ!ボク一人がたすかるなんて、そんなのいやだもん」
「シリウス……いつの間に君はそんなに思い遣りのある子に育ったんだ……」
雄飛は心がじんわりと温まるのを感じた。
「よし。みんなでここを出よう。でもな、シリウス。まずはベネラとハレーと合流しなくちゃいけないんだ。俺はハレーと一緒にここに来たんだけど、二手に分かれたんだ。だからハレーは今、ベネラを助けに行ってるはずなんだ。でも、どこにいるのか分からない」
シリウスはあっという顔をすると、言った。
「そうだ……!ベネラは?!はかせにいじめられたりしてないかな?!」
「きっと大丈夫さ。シリウス、ベネラの強さは君の方がよく知ってるだろう?」
「うん!」
「じゃあ、ベネラとハレーをさがしにいこう!」
シリウスは大きく頷くと、動物達に向かって言った。
「みんな!ボクのなかまをさがすの、てつだってくれるかな?」
動物達は一斉に吠えた。OKのサインだ。
「ありがとう!じゃあ、いこう!」
そして、シリウスは再び大群を率いて行軍を開始した。時折、果敢な研究員達が彼らを止めようと立ち向かってきたが、動物達は容赦なかった。噛み付いたり、蹴り飛ばしたりして研究員達を一蹴した。また、雄飛も自分に立ち向かって来る研究員をハレーに教わったばかりの拳銃を駆使して倒して行った。雄飛は我が子の逞しさ、頼もしさに感心しながらも複雑な心境だった。
「シリウスに、逆に助けられてしまった……俺が助けにきたのになぁ」
苦笑いしながら呟いたのだった。
最初は犬だけだった集団が、鳥、うさぎ、猫を始め、爬虫類や猛獣類までに膨れ上がり、あっという間に総勢50匹以上の大群になった。シリウスは犬だけではなく彼らの言葉を全て理解し、意志の疎通を図ることができた。彼らは皆、先頭に立つシリウスを群れのリーダーだと認識し、彼の言う事をよく聞いた。ライオン、トラ、ヒョウなどの猛獣でさえも、シリウスの言う事を聞いて大人しく群れの後ろについて堂々と歩いていた。
しばらく歩くと、西棟が見えて来た。と、その時だった。
「ひゃあ!」
建物の中から出て来た一人の男性研究員が、動物の大群を目にして腰を抜かした。更に、先頭にいるのが道円が閉じ込めたはずのシリウスだというのが分かると目を丸くした。
「た、大変だ!博士に知らせないと!!」
そして、慌てて立ち上がると叫び声を上げながら走って建物の中に戻って行った。その姿を見て、シリウスは何だか胸がせいせいするような感じがして良い気分になった。
「みんな、ボクたちがいっしょになれば、こわいものなんてないよ!」
「うおー-!!」
動物達が一斉に吠えた。その異様な光景に建物の中にいる研究員達も驚き、みな慌てふためいていた。逃げる者、叫ぶ者、助けを呼ぶ者、様々だった。更に進んでいくと、シリウスは前方に見覚えのある人物を発見した。
「あれは……ユウヒ?!」
雄飛は男性研究員ともみ合いになっていた。しばらく柔道の技の掛け合いのように両手両足を使ってグルグルと回っていたが、やがて雄飛は足を取られてしまい、芝生の上に倒れ込んだ。
「うあっ!」
「さっき他の研究員から怪しい奴が二、三人、入り込んでるって聞きましてねえ。君のことでしたか」
雄飛の上に研究員が馬乗りになり、強い口調でそう言った。
「シリウスはどこだ?!」
「ああ、あのボクくんは今頃、狭い箱の中で泣いてるんじゃないでしょうかねえ」
「なっ、なんだと……?!」
「とりあえず、黙っててもらえませんかね?」
研究員が雄飛の顔面目掛けて拳を繰り出した、その時。
「ユウヒをいじめるなー-!!」
シリウスは走りながら犬に変身した。そして研究員に飛び掛かり、拳に思い切り噛み付いた。
「いってえええ!」
研究員はあまりの激痛に芝生の上で悶絶した。
「シ、シリウス?!」
雄飛が驚きのあまり声を上げた。シリウスは変身を解くと、体を起こそうとしている雄飛に抱き付いた。
「ユウヒ!」
「シリウス、良かった……無事で……」
満面の笑顔を浮かべるシリウスの小さな体を思い切り抱きしめ、雄飛は安堵の涙を流した。
「ユウヒ、もしかしてないてるの?」
「当たり前じゃないか。心配したんだぞ」
「ボクを……たすけにきてくれたの?」
「もちろん、そうだよ。言っただろ?シリウスに何かあったら俺が守るって」
雄飛はシリウスの頬を両手で包み込んで、優しく言った。その目には優しさと温かさが込められているのが分かった。
「それは……ボクが『かぞく』だから?」
シリウスの言葉に雄飛の表情が少し驚いたようなものから明るいものに変わった。嬉しさが込み上げ、雄飛はもう一度シリウスの体を思い切り抱きしめた。
「そう!そうだよ!これが家族ってやつだ!」
「そっか!これが『かぞく』なんだね!ボク、ようやくわかった気がする!」
雄飛は嬉しそうに、シリウスの頭を優しく何度も撫でた。すると、二人の様子を黙って見ていた漆黒のドーベルマンが静かに口を開いた。
「おい、坊主。感動の再会に水を差して申し訳ないが、先を急いだ方がいいぞ。我々の騒ぎを聞きつけた研究員達が、続々と集まってきておる」
「そ、そうだった……ユウヒ!ボク、みんなでここを出たいんだ。どうすればいいかな?」
その時、雄飛は初めてシリウスが従えている大群の存在に気づいた。様々な動物が入り混じった群れを見て目を丸くすると、一番後ろにいる猛獣たちを見て、ぎょっとした顔をした。
「えっ……この動物達、もしかしてシリウスが逃がしたのか……?」
「そうだよ!ボク一人がたすかるなんて、そんなのいやだもん」
「シリウス……いつの間に君はそんなに思い遣りのある子に育ったんだ……」
雄飛は心がじんわりと温まるのを感じた。
「よし。みんなでここを出よう。でもな、シリウス。まずはベネラとハレーと合流しなくちゃいけないんだ。俺はハレーと一緒にここに来たんだけど、二手に分かれたんだ。だからハレーは今、ベネラを助けに行ってるはずなんだ。でも、どこにいるのか分からない」
シリウスはあっという顔をすると、言った。
「そうだ……!ベネラは?!はかせにいじめられたりしてないかな?!」
「きっと大丈夫さ。シリウス、ベネラの強さは君の方がよく知ってるだろう?」
「うん!」
「じゃあ、ベネラとハレーをさがしにいこう!」
シリウスは大きく頷くと、動物達に向かって言った。
「みんな!ボクのなかまをさがすの、てつだってくれるかな?」
動物達は一斉に吠えた。OKのサインだ。
「ありがとう!じゃあ、いこう!」
そして、シリウスは再び大群を率いて行軍を開始した。時折、果敢な研究員達が彼らを止めようと立ち向かってきたが、動物達は容赦なかった。噛み付いたり、蹴り飛ばしたりして研究員達を一蹴した。また、雄飛も自分に立ち向かって来る研究員をハレーに教わったばかりの拳銃を駆使して倒して行った。雄飛は我が子の逞しさ、頼もしさに感心しながらも複雑な心境だった。
「シリウスに、逆に助けられてしまった……俺が助けにきたのになぁ」
苦笑いしながら呟いたのだった。
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