遊佐賀奈子と八人の鬼婦人

マヤカナヒロキ

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23話

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休憩が終わって遊佐はスーツのポケットから地図を出す。


「ふぅ。やっぱり一区画だけでも相当広いなー。」


ため息交じりで愚痴をこぼす。


「まぁここは大都市だからな。して遊佐賀奈子よ。何か気づくことはあったか?」


「いや全然。」


「そうか。ではこれからどうする?」


「んーとりあえずその煙果の被害に遭った人に話を聞いてみたいかな。」


「、、、。」


ムルドはあまりよくない表情を浮かべる。


「どしたの?」


「いや、まともに話ができるのだろうかと思ってな。」


「どういうこと?」


「まぁ、行ってみないとわからないな。被害者を隔離している施設がある。そこに行くぞ。」


ムルドは立ち上がってスタスタと歩き始めた。


「ちょっ、待って!」


遊佐も慌てて地図を閉まってムルドについて行く。


「煙果について患者に話を聞きたいのだが。」


施設の受付にムルドが話しかけ被害者のいる部屋へと案内された。遊佐は被害者を見て驚愕する。


「っ!!。これが被害に遭った人。。」


目の前には二十代くらいの女性がベットに横になっていた。頰は痩せこけて半開きの目からは生気が感じられない。服の隙間から覗く肌は骨と皮だけかと思うくらいに骨が浮き出ている。


「これが煙果の影響だ。ピーカ様から聞かれたかと思うが、満腹感がひたすら続き食事をしようにも吐いてしまう。水もな。だから栄養失調と水分不足でこの状態だ。」


ムルドは怒りを抑えられずに拳を強く握りしめている。


「今月でもう20人になります。まだ死者は出てないですがこのままでは、、。」


遊佐たちを案内した職員は暗い表情で現状を伝える。


「あなたたちもここに来てたの。」


その時、職員の後ろから声が聞こえた。
遊佐とムルドがその声の方を見ると、そこにいたのはピーカだった。


「ピーカ様。」


ムルドは頭を少し下げる。ピーカは片手を上げて頭を上げるようムルドに伝える。


そしてピーカは被害者の寝ているベットの近くの椅子に座り患者の手を握る。


「これが煙果の影響よ。いつまでたっても無くならない満腹感に苦しめられてじわじわと弱っていく。」


ピーカは患者の手を両手で優しく握り、遊佐を殺そうとした時とは別人のような悲しみと慈愛を含んだ声色で話す。


「無理やり食べさせたりはしてるんだけど、それでも吐いて殆ど食べれない。ゆっくりと死を待つだけ、、。私は許せない。罪もない人をこんな状態にするなんて。」


ピーカは悲しそうだ。


遊佐は予想以上に酷い被害者の状態とピーカの変貌ぶりに戸惑っていたが、我に返って詰まりながらも言葉を発する。


「、、、かもしれない。」


「え?」


ピーカが遊佐を見る。遊佐は再度しっかりと言葉にする。


「どうにかなるかもしれない。」
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