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第2章
10、対立の始まり ※
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R18入ります。
________________________
王太子に無事ヘレナ王女を解放したことを報告した。
「そうか、それは良かった」
「……ヘレナ王女に怪我を追わせてしまいました。申し訳ありません」
「お前がか?」
「……はい」
「違います! あれは……」
「黙れユタ」
ユタの発言を遮るように言うナイジェルに不満そうに視線を向けるが、その表情に息を呑んだ。
ロークも驚いた顔をしていたが、徐々に真顔になる。
「ナイジェル、私には真実を話せといったはずだ。……それが例え、元王族を讒訴するものだとしてもだ」
ロークの言にきつく唇を噛み締め、ナイジェルは項垂れた。
詳しい経緯をロークに説明する。
メルヴィンがヘレナの首にけがを負わせたことも含めて。さすがにロークも眉を顰めた。
「ヘレナ王女から精霊を追い出すために仕方なきことと思います。ですが、この事を進言したのは私です。王女の怪我は私の責任です」
生真面目に言うナイジェルに僅かに笑みを浮かべる。
「では、ヘレナを解放した功は無かったことにしよう。どちらにしろ、他言できることではないからな。侍女たちにも言い含めて置く、お前たちもこの事は忘れろ」
「しかし!」
「ナイジェル、今お前を失うことは出来ないことは分かっていないのか? ヘレナを怪我させたとしてもだ。それともそれを口実に私から離れたいのか?」
ハッとしたようにロークを見つめる目は翡翠色に煌めいていた。
「殿下、私の忠誠心はそれほど殿下の信用を得られぬものなのでしょうか?」
「言ったはずだナイジェル、私は疑い深いとな。お前の忠誠心を常に確認せずにはいられないのだよ。……お前の忠誠心を当たり前のように受け止められるほどの器でないことを知っているからな」
最後の言葉は、小さく零れるように呟かれた。
暫く、ロークとナイジェルは互いを見詰めた合ったまま、無言だった。
ふとナイジェルは視線を逸らせて、溜息を吐く。
「殿下は面倒くさい性格でいらっしゃいますね」
「……お前は顔に似合わず、口が悪いな」
むっつりと不機嫌そうに言うロークに不覚にもナイジェルは笑ってしまった。
その笑顔を間近で見たロークは一瞬目を見張り、次いで苦笑した。
南方に月の光を浴びて一晩限り咲く花があるという。
白く淡く透けるような繊細な花弁を幾重にも持つ神秘的なまでに美しい花だとか。
人目に触れることなくひっそりと咲く至高の花を目にすることが出来るのは望外の喜びなのだろう。
ヘレナがナイジェルに執着するのも分かるな。
その時、ムスタムが部屋の中に入ってきた。
「ハーランド公爵様がおいでにございます」
ナイジェルは笑顔を消して、すっと立ち上がった。
数歩足を進めるとロークの横に立った。ロークを庇うかのように。
ナイジェルの行動に内心驚きながらも、表情には出さずにメルヴィンを迎えた。
「ハーランド公爵、エレナ王女の見舞いご苦労だったな。王女も同腹の兄の見舞いであれば、病状も落ち着いただろう?」
ロークに目を向けて、その涼しげな表情にメルヴィンは口の端を上げる。
そう言うことにしたのか……。
ゆったりとロークの横に立つナイジェルに目をやる。
「はい、だいぶ落ち着いてございます。それにしても、ナイジェル部隊長随分と物々しい態度だな」
視線を逸らすことなく、嘲る様な笑みを浮かべる。
ナイジェルは、ほんの一瞬視線を伏せるとゆっくり視線を上げ、メルヴィンの視線を受け止める。
「異な事を申されますな、カーマーゼン辺境伯。私の職責は近衛大隊の長。王家の盾にございます」
微笑みを浮かべて答えるナイジェルに背筋が凍るほどの冷たい怒りを宿した目を向ける。
酷く重い空気の中でモラーヴィが喚きながら、飛び込んできた。
「ナイジェル様ああああ、お、置いてかれてしまいましたああ!」
床に突っ伏して泣き喚く小男によって、殺気すら感じられるほどの空気が霧散した。
メルヴィンもほんの少し苦笑すると
「では王太子殿下、私はこれで失礼いたします」
「そうだな、下がるといいハーランド公爵」
メルヴィンは丁寧に頭を下げると出て行った。
モラーヴィに助けられた場面ではあるが、素直に言うのは憚られる。
「メルヴィンがあれほど感情を表に出すとはな」
ナイジェルも無言で頷く。
「……メルヴィンは敵に回ると思うか?」
ロークも動揺しているのか、そう本心を漏らす。
ナイジェルは考え込んでしまった。フェルガナ帝国の動向が常に気になるエルギンや南方諸国と小競合いを繰り返すライギットと違い、カーマーゼンは数年前に対立していた都市国家群と和平条約を結んでいる。
メルヴィンがカーマーゼン辺境防備隊を率いて、王都に攻め込むことは現実的に可能だ。
ナイジェルの麾下の騎兵は三百。
五千の辺境防備隊にはどうやっても敵わない。
近衛大隊の右翼と左翼にはそれぞれ千名の騎兵がいるが、視察して思ったが、まるで使えない。
グラントとベルナルドを通して、これはと思う者に声を掛けているが、遅々として進まない。
「申し訳ありません、殿下」
「ナイジェル?」
「たとえ、カーマーゼン辺境伯が敵に回ろうとも、ご安心くださいと申し上げなければならない立場であるのに今はそれがかないません」
「まだ部隊長に就任して半年しかたっていない。お前は良くやっている」
珍しくロークが宥める様な事言った。
ナイジェルはロークに宥められ、落ち込んでいく。
丁寧に辞儀をして下がろうとするとロークに声を掛けられた。
「ナイジェル」
「はい」
「……ありがとう」
様々な感情が込められた言葉だった。
ナイジェルは瞳を翡翠色に煌めかせると無言で頭を下げた。
グスグスと泣くモラーヴィの襟首を持って引き摺りながら、ずっとナイジェルは無言だった。
ユタも声を掛けるのを憚られる雰囲気だった。
「ナイジェル」
「悪いが、こいつを預かってくれないかユタ」
「いいですが」
「今は一人になりたい」
「……分かりました」
従者たちが待機する控えの間でナイジェルを待っていたベルナルドもナイジェルの様子に笑顔を消す。
無言でユタに問いかけたが、ユタは首を振る。
馬に乗り、帰路についてもナイジェルは無言だった。
「部隊長、今日はガーランド家に移られるのではなかったのでしょうか」
元の家に無意識に向かっていたナイジェルにベルナルドは言った。
「……そうだったな」
溜息をついて、道を変える。
酷く心が騒めいていた。
ガーランド家につくと見知った門番が笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ナイジェル様」
「ああ、これからよろしくな」
強張ったナイジェルの表情に門番は訝しげな顔になるが幉をとるとナイジェルの馬を厩舎に連れて行った。
「また、明日お迎えに参ります」
そう声を掛けるベルナルドに顔を向けずに頷くと屋敷内に入っていく。
古くからガーランド家に仕え、ナイジェルも顔見知りの家令が笑みを浮かべて出迎える。
「養母上は?」
「今、マリア様とハイル様が来てお出ででして、ナイジェル様のお部屋に居られます。アナイリン様も朝から来られて、お部屋と整えておいでですよ」
「そうか」
溜息をつきそうになって、ナイジェルは飲み込む。
ああ、またかと思った。
ナイジェルの部屋となる場所に案内されるとぴたりと話を止めてこちらをマリアたちが見た。
マリアは目元を赤くしていた。
アイーシャは困ったような顔をして、アナイリンは戸惑ったように眉を寄せている。
「お帰りなさい、ナイジェル。出迎えせずにごめんなさいね。片付けに時間がかかってしまって」
「いえ、お任せしてすいません、養母上」
「あのね、ナイジェル。座蒲団を作ったのよ。ここに置いてもらおうと思ってね」
「……マリア、座蒲団ならここにはいくらでもあるのよ」
「だけど……、ナイジェルもこの色いいと思わない?」
「……」
「ね、ナイジェル」
「母さんはいつもそうでしたね。俺が伯母上や伯父上を嫌えば満足ですか?」
温度の感じない酷く冷ややかな声で吐き出された言葉に驚いて、マリアは目を見開いてナイジェルを見ている。
ハイルも茫然と蒼い顔で見ていた。
吐き出してからナイジェルは後悔した。
本当はそんな顔をさせずに済ませられれば良かった。
だが、今日はもう本心を隠して、取り繕うことが出来そうになかった。
「養母上、ここは俺の部屋ですね」
「ええ、そうよ。ナイジェルの部屋にと思って」
「疲れました。一人にさせてください」
「ナ、ナイジェル」
縋る様な声を上げるマリアを見もせずに窓辺に置かれた文机の前の円座に座り、頬杖をつく。
こちらを見ないナイジェルにマリアはなおも声を掛けようとするが、ハイルに止められた。
「すまなかった、ナイジェル」
悄然と俯く妻を促して、顔色を青白く染めたハイルは出て行った。
「ナイジェル、食事は?」
無言で首を振る。そうと小さな声を溢す。
「ゆっくり休んでね」
そう言うとアイーシャはアナイリンを促して部屋から出て行った。
「アイーシャ様」
「私たちはずっとあの子に我慢をさせてたのね」
つぅと涙が頬を伝う。静かに涙を流すアイーシャにアナイリンはどう慰めの言葉を掛けてよいか戸惑っていた。
「家の者に送らせるわ。もう帰りなさい」
指先で涙を拭うとアナイリンに笑いかけて言った。
アナイリンは暫く俯いて何か葛藤しているようだったが、意を決すると顔を上げ、アイーシャを見つめる。
「アイーシャ様、お願いがございます」
アナイリンが部屋に入るとナイジェルは乱暴に脱ぎ棄てたのか、部隊長の礼装が散らばり、絨毯の上で座蒲団に背を預け、足を投げ出して座っていた。
手にしていたお茶と軽くつまめるようにとパンと乾酪の載った盆を文机の上に置くと散らばった礼装をたたみ始めた。
「帰ったんじゃなかったのか?」
ナイジェルの口からこぼれた言葉は不機嫌さを隠しきれていなかった。
礼装をたたむ手を止めて、ナイジェルを見る。こんなナイジェルは初めてだった。
緊張で心臓が早鐘の様になっていた。
「いくら婚約者といえ、未婚の男女が二人きりで部屋にいるのは外聞が悪いだろう。早く帰るといい」
投げやりな態度で言うのに、アナイリンは畳んだ礼装を床に置くとナイジェルの前に座る。
近づいてきた気配で、ナイジェルは目を開くと不快そうに眉を顰める。
「聞えなかったのか?」
「……嫌です」
拒絶の言葉に唖然と目を見開くと、口を歪めて笑みを形作る。
「今部屋を出て行かないと何をするか分からないぞ」
「構いません」
きっぱりと言い切った。
真っ直ぐにこちらを見る瞳は言葉にならない思いで溢れていた。
ナイジェルは溜息をつくとやや乱暴な仕草でアナイリンを抱き寄せた。
ナイジェルは茫然と横で眠るアナイリンの寝顔を見つめていた。
目元を赤くし、薄く開いた口元は酷く稚い。
弄んでいた艶やかな赤茶色の髪を一房手に取るとそっと口づける。甘く爽やかな薔薇の香りがした。
刺繍の入った寝具から覗く白い陶器のような肌はそこらじゅうに鬱血の痕が紅い花びらのように散っていた。
ほんの少し脅かして、部屋から出すつもりだった。
華奢に見えた体は豊麗で、白い乳房はナイジェルの手に余るほど豊かで柔らかな弾力があった。
腰は綺麗にくびれ、強引に両足を割開くと髪と同じ色の下肢の繁みの奥は男を知らないはずなのに紅い色に濡れていた。
羞恥に目元を赤くし見上げてくるアナイリンに理性の糸が切れる音が聞こえた。
指で少しだけほぐすと、アナイリンの秘所に自身をあてがい、乱暴に貫いた。
白い喉を仰け反らせて痛みに耐えるアナイリンを抱きしめて、何度となく抽挿を繰り返す。
アナイリンの唇から洩れる声が徐々に甘い嬌声に変わり、絶頂を迎えたのか白い身体は痙攣した。
膣内で締め付けられ、ナイジェルも今まで感じたことのない快楽を感じて、吐精する。
白い内臑を破瓜の血で赤く染めていても、罪悪感より劣情を掻き立てられるだけだった。
汗に濡れて、息を乱すアナイリンの白い肌に舌を這わせ、時折弄るように音を立てて吸い付く。
吸い付くたびに、ん、あぁと上がる甘い嬌声に呷られて、そこかしこに唇の痕を残していく。
体中に紅い花びらが散ったようになった時には、吐精で萎えたものはもう元の硬さを取り戻していた。
白い腰を抱えると破瓜の血と白濁のぬるみで滑らかになったそこに再び穿つ。
あ…い、いやぁと小さく拒絶の言葉を溢した唇を塞ぎ、舌を差し入れて口内を蹂躙する。
されるがままに口内を犯されていたアナイリンが、潤んだ眼差しでナイジェルを見上げると拙い仕草で応え始める。
口の端から唾液が伝い、小さな波のように来る絶頂に体を戦慄かせて、アナイリンが気絶するまでそれは続いた。
アナイリンにしてしまったことにナイジェルは内心頭を抱えた。
男を知らない処女にやる事ではない。
娼婦を抱いたことは何度かあったが、性的な興奮は覚えても、どこか冷静だった。
あまりそう言うことに興味を感じなかった自分は随分淡白な人間なのだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
この手のことに随分世話を焼いてくれたブレンドンに後日「失敗」したことを愚痴ると何とも言えない引き攣った顔で「残念でしたね」と慰めてくれた。
流石に詳しい内容は語れなかったナイジェルを憐れむような眼で見ていたのには気づかずに。
溜息をつくと起き上がって、アナイリンが持ってきてくれたお茶を一口飲む。
完全に冷めていたが、喉の渇きは癒せる。
部屋に置いてあった水差しを手に取ると手巾を濡らして、寝ているアナイリンの体を清める。
アナイリンの破瓜の血が思った以上に布団に広がっているのを見て、悔恨に居た堪れなくなる。
自分も体を拭き、服を身につけ始めたところでアナイリンが目を覚ました。
「ナイジェル様……」
「……体は大丈夫か?」
思わず聞いてしまったことに本当に頭を抱えてしまった。
気絶させておいて、何を聞いているんだ。
「ナイジェル様? あの、頭が痛いのですか?」
アナイリンが心配そうにこちらを見ている。
「いや、アナイリンは?」
「……私は大丈夫です」
頬を赤らめて、恥ずかしそうに言うのを腕の中に閉じ込める。
その肌のぬくもりに心まで温かくなるようだった。
アナイリンの髪に顔を埋め、その甘い薔薇の匂いを堪能する。
「……ファッハード候に叱られるだろうな」
「その時は私も一緒に叱られます。でも、ナイジェル様を困らせたら、たとえ父上でも私が仕留めて見せます」
顔をこちらに向け、真顔でなかなか物騒なことを言うアナイリンにくすりと笑いが零れる。
「頼もしいな」
忍び笑いを漏らしながら、アナイリンの体を抱きしめていた。
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王太子に無事ヘレナ王女を解放したことを報告した。
「そうか、それは良かった」
「……ヘレナ王女に怪我を追わせてしまいました。申し訳ありません」
「お前がか?」
「……はい」
「違います! あれは……」
「黙れユタ」
ユタの発言を遮るように言うナイジェルに不満そうに視線を向けるが、その表情に息を呑んだ。
ロークも驚いた顔をしていたが、徐々に真顔になる。
「ナイジェル、私には真実を話せといったはずだ。……それが例え、元王族を讒訴するものだとしてもだ」
ロークの言にきつく唇を噛み締め、ナイジェルは項垂れた。
詳しい経緯をロークに説明する。
メルヴィンがヘレナの首にけがを負わせたことも含めて。さすがにロークも眉を顰めた。
「ヘレナ王女から精霊を追い出すために仕方なきことと思います。ですが、この事を進言したのは私です。王女の怪我は私の責任です」
生真面目に言うナイジェルに僅かに笑みを浮かべる。
「では、ヘレナを解放した功は無かったことにしよう。どちらにしろ、他言できることではないからな。侍女たちにも言い含めて置く、お前たちもこの事は忘れろ」
「しかし!」
「ナイジェル、今お前を失うことは出来ないことは分かっていないのか? ヘレナを怪我させたとしてもだ。それともそれを口実に私から離れたいのか?」
ハッとしたようにロークを見つめる目は翡翠色に煌めいていた。
「殿下、私の忠誠心はそれほど殿下の信用を得られぬものなのでしょうか?」
「言ったはずだナイジェル、私は疑い深いとな。お前の忠誠心を常に確認せずにはいられないのだよ。……お前の忠誠心を当たり前のように受け止められるほどの器でないことを知っているからな」
最後の言葉は、小さく零れるように呟かれた。
暫く、ロークとナイジェルは互いを見詰めた合ったまま、無言だった。
ふとナイジェルは視線を逸らせて、溜息を吐く。
「殿下は面倒くさい性格でいらっしゃいますね」
「……お前は顔に似合わず、口が悪いな」
むっつりと不機嫌そうに言うロークに不覚にもナイジェルは笑ってしまった。
その笑顔を間近で見たロークは一瞬目を見張り、次いで苦笑した。
南方に月の光を浴びて一晩限り咲く花があるという。
白く淡く透けるような繊細な花弁を幾重にも持つ神秘的なまでに美しい花だとか。
人目に触れることなくひっそりと咲く至高の花を目にすることが出来るのは望外の喜びなのだろう。
ヘレナがナイジェルに執着するのも分かるな。
その時、ムスタムが部屋の中に入ってきた。
「ハーランド公爵様がおいでにございます」
ナイジェルは笑顔を消して、すっと立ち上がった。
数歩足を進めるとロークの横に立った。ロークを庇うかのように。
ナイジェルの行動に内心驚きながらも、表情には出さずにメルヴィンを迎えた。
「ハーランド公爵、エレナ王女の見舞いご苦労だったな。王女も同腹の兄の見舞いであれば、病状も落ち着いただろう?」
ロークに目を向けて、その涼しげな表情にメルヴィンは口の端を上げる。
そう言うことにしたのか……。
ゆったりとロークの横に立つナイジェルに目をやる。
「はい、だいぶ落ち着いてございます。それにしても、ナイジェル部隊長随分と物々しい態度だな」
視線を逸らすことなく、嘲る様な笑みを浮かべる。
ナイジェルは、ほんの一瞬視線を伏せるとゆっくり視線を上げ、メルヴィンの視線を受け止める。
「異な事を申されますな、カーマーゼン辺境伯。私の職責は近衛大隊の長。王家の盾にございます」
微笑みを浮かべて答えるナイジェルに背筋が凍るほどの冷たい怒りを宿した目を向ける。
酷く重い空気の中でモラーヴィが喚きながら、飛び込んできた。
「ナイジェル様ああああ、お、置いてかれてしまいましたああ!」
床に突っ伏して泣き喚く小男によって、殺気すら感じられるほどの空気が霧散した。
メルヴィンもほんの少し苦笑すると
「では王太子殿下、私はこれで失礼いたします」
「そうだな、下がるといいハーランド公爵」
メルヴィンは丁寧に頭を下げると出て行った。
モラーヴィに助けられた場面ではあるが、素直に言うのは憚られる。
「メルヴィンがあれほど感情を表に出すとはな」
ナイジェルも無言で頷く。
「……メルヴィンは敵に回ると思うか?」
ロークも動揺しているのか、そう本心を漏らす。
ナイジェルは考え込んでしまった。フェルガナ帝国の動向が常に気になるエルギンや南方諸国と小競合いを繰り返すライギットと違い、カーマーゼンは数年前に対立していた都市国家群と和平条約を結んでいる。
メルヴィンがカーマーゼン辺境防備隊を率いて、王都に攻め込むことは現実的に可能だ。
ナイジェルの麾下の騎兵は三百。
五千の辺境防備隊にはどうやっても敵わない。
近衛大隊の右翼と左翼にはそれぞれ千名の騎兵がいるが、視察して思ったが、まるで使えない。
グラントとベルナルドを通して、これはと思う者に声を掛けているが、遅々として進まない。
「申し訳ありません、殿下」
「ナイジェル?」
「たとえ、カーマーゼン辺境伯が敵に回ろうとも、ご安心くださいと申し上げなければならない立場であるのに今はそれがかないません」
「まだ部隊長に就任して半年しかたっていない。お前は良くやっている」
珍しくロークが宥める様な事言った。
ナイジェルはロークに宥められ、落ち込んでいく。
丁寧に辞儀をして下がろうとするとロークに声を掛けられた。
「ナイジェル」
「はい」
「……ありがとう」
様々な感情が込められた言葉だった。
ナイジェルは瞳を翡翠色に煌めかせると無言で頭を下げた。
グスグスと泣くモラーヴィの襟首を持って引き摺りながら、ずっとナイジェルは無言だった。
ユタも声を掛けるのを憚られる雰囲気だった。
「ナイジェル」
「悪いが、こいつを預かってくれないかユタ」
「いいですが」
「今は一人になりたい」
「……分かりました」
従者たちが待機する控えの間でナイジェルを待っていたベルナルドもナイジェルの様子に笑顔を消す。
無言でユタに問いかけたが、ユタは首を振る。
馬に乗り、帰路についてもナイジェルは無言だった。
「部隊長、今日はガーランド家に移られるのではなかったのでしょうか」
元の家に無意識に向かっていたナイジェルにベルナルドは言った。
「……そうだったな」
溜息をついて、道を変える。
酷く心が騒めいていた。
ガーランド家につくと見知った門番が笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ナイジェル様」
「ああ、これからよろしくな」
強張ったナイジェルの表情に門番は訝しげな顔になるが幉をとるとナイジェルの馬を厩舎に連れて行った。
「また、明日お迎えに参ります」
そう声を掛けるベルナルドに顔を向けずに頷くと屋敷内に入っていく。
古くからガーランド家に仕え、ナイジェルも顔見知りの家令が笑みを浮かべて出迎える。
「養母上は?」
「今、マリア様とハイル様が来てお出ででして、ナイジェル様のお部屋に居られます。アナイリン様も朝から来られて、お部屋と整えておいでですよ」
「そうか」
溜息をつきそうになって、ナイジェルは飲み込む。
ああ、またかと思った。
ナイジェルの部屋となる場所に案内されるとぴたりと話を止めてこちらをマリアたちが見た。
マリアは目元を赤くしていた。
アイーシャは困ったような顔をして、アナイリンは戸惑ったように眉を寄せている。
「お帰りなさい、ナイジェル。出迎えせずにごめんなさいね。片付けに時間がかかってしまって」
「いえ、お任せしてすいません、養母上」
「あのね、ナイジェル。座蒲団を作ったのよ。ここに置いてもらおうと思ってね」
「……マリア、座蒲団ならここにはいくらでもあるのよ」
「だけど……、ナイジェルもこの色いいと思わない?」
「……」
「ね、ナイジェル」
「母さんはいつもそうでしたね。俺が伯母上や伯父上を嫌えば満足ですか?」
温度の感じない酷く冷ややかな声で吐き出された言葉に驚いて、マリアは目を見開いてナイジェルを見ている。
ハイルも茫然と蒼い顔で見ていた。
吐き出してからナイジェルは後悔した。
本当はそんな顔をさせずに済ませられれば良かった。
だが、今日はもう本心を隠して、取り繕うことが出来そうになかった。
「養母上、ここは俺の部屋ですね」
「ええ、そうよ。ナイジェルの部屋にと思って」
「疲れました。一人にさせてください」
「ナ、ナイジェル」
縋る様な声を上げるマリアを見もせずに窓辺に置かれた文机の前の円座に座り、頬杖をつく。
こちらを見ないナイジェルにマリアはなおも声を掛けようとするが、ハイルに止められた。
「すまなかった、ナイジェル」
悄然と俯く妻を促して、顔色を青白く染めたハイルは出て行った。
「ナイジェル、食事は?」
無言で首を振る。そうと小さな声を溢す。
「ゆっくり休んでね」
そう言うとアイーシャはアナイリンを促して部屋から出て行った。
「アイーシャ様」
「私たちはずっとあの子に我慢をさせてたのね」
つぅと涙が頬を伝う。静かに涙を流すアイーシャにアナイリンはどう慰めの言葉を掛けてよいか戸惑っていた。
「家の者に送らせるわ。もう帰りなさい」
指先で涙を拭うとアナイリンに笑いかけて言った。
アナイリンは暫く俯いて何か葛藤しているようだったが、意を決すると顔を上げ、アイーシャを見つめる。
「アイーシャ様、お願いがございます」
アナイリンが部屋に入るとナイジェルは乱暴に脱ぎ棄てたのか、部隊長の礼装が散らばり、絨毯の上で座蒲団に背を預け、足を投げ出して座っていた。
手にしていたお茶と軽くつまめるようにとパンと乾酪の載った盆を文机の上に置くと散らばった礼装をたたみ始めた。
「帰ったんじゃなかったのか?」
ナイジェルの口からこぼれた言葉は不機嫌さを隠しきれていなかった。
礼装をたたむ手を止めて、ナイジェルを見る。こんなナイジェルは初めてだった。
緊張で心臓が早鐘の様になっていた。
「いくら婚約者といえ、未婚の男女が二人きりで部屋にいるのは外聞が悪いだろう。早く帰るといい」
投げやりな態度で言うのに、アナイリンは畳んだ礼装を床に置くとナイジェルの前に座る。
近づいてきた気配で、ナイジェルは目を開くと不快そうに眉を顰める。
「聞えなかったのか?」
「……嫌です」
拒絶の言葉に唖然と目を見開くと、口を歪めて笑みを形作る。
「今部屋を出て行かないと何をするか分からないぞ」
「構いません」
きっぱりと言い切った。
真っ直ぐにこちらを見る瞳は言葉にならない思いで溢れていた。
ナイジェルは溜息をつくとやや乱暴な仕草でアナイリンを抱き寄せた。
ナイジェルは茫然と横で眠るアナイリンの寝顔を見つめていた。
目元を赤くし、薄く開いた口元は酷く稚い。
弄んでいた艶やかな赤茶色の髪を一房手に取るとそっと口づける。甘く爽やかな薔薇の香りがした。
刺繍の入った寝具から覗く白い陶器のような肌はそこらじゅうに鬱血の痕が紅い花びらのように散っていた。
ほんの少し脅かして、部屋から出すつもりだった。
華奢に見えた体は豊麗で、白い乳房はナイジェルの手に余るほど豊かで柔らかな弾力があった。
腰は綺麗にくびれ、強引に両足を割開くと髪と同じ色の下肢の繁みの奥は男を知らないはずなのに紅い色に濡れていた。
羞恥に目元を赤くし見上げてくるアナイリンに理性の糸が切れる音が聞こえた。
指で少しだけほぐすと、アナイリンの秘所に自身をあてがい、乱暴に貫いた。
白い喉を仰け反らせて痛みに耐えるアナイリンを抱きしめて、何度となく抽挿を繰り返す。
アナイリンの唇から洩れる声が徐々に甘い嬌声に変わり、絶頂を迎えたのか白い身体は痙攣した。
膣内で締め付けられ、ナイジェルも今まで感じたことのない快楽を感じて、吐精する。
白い内臑を破瓜の血で赤く染めていても、罪悪感より劣情を掻き立てられるだけだった。
汗に濡れて、息を乱すアナイリンの白い肌に舌を這わせ、時折弄るように音を立てて吸い付く。
吸い付くたびに、ん、あぁと上がる甘い嬌声に呷られて、そこかしこに唇の痕を残していく。
体中に紅い花びらが散ったようになった時には、吐精で萎えたものはもう元の硬さを取り戻していた。
白い腰を抱えると破瓜の血と白濁のぬるみで滑らかになったそこに再び穿つ。
あ…い、いやぁと小さく拒絶の言葉を溢した唇を塞ぎ、舌を差し入れて口内を蹂躙する。
されるがままに口内を犯されていたアナイリンが、潤んだ眼差しでナイジェルを見上げると拙い仕草で応え始める。
口の端から唾液が伝い、小さな波のように来る絶頂に体を戦慄かせて、アナイリンが気絶するまでそれは続いた。
アナイリンにしてしまったことにナイジェルは内心頭を抱えた。
男を知らない処女にやる事ではない。
娼婦を抱いたことは何度かあったが、性的な興奮は覚えても、どこか冷静だった。
あまりそう言うことに興味を感じなかった自分は随分淡白な人間なのだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
この手のことに随分世話を焼いてくれたブレンドンに後日「失敗」したことを愚痴ると何とも言えない引き攣った顔で「残念でしたね」と慰めてくれた。
流石に詳しい内容は語れなかったナイジェルを憐れむような眼で見ていたのには気づかずに。
溜息をつくと起き上がって、アナイリンが持ってきてくれたお茶を一口飲む。
完全に冷めていたが、喉の渇きは癒せる。
部屋に置いてあった水差しを手に取ると手巾を濡らして、寝ているアナイリンの体を清める。
アナイリンの破瓜の血が思った以上に布団に広がっているのを見て、悔恨に居た堪れなくなる。
自分も体を拭き、服を身につけ始めたところでアナイリンが目を覚ました。
「ナイジェル様……」
「……体は大丈夫か?」
思わず聞いてしまったことに本当に頭を抱えてしまった。
気絶させておいて、何を聞いているんだ。
「ナイジェル様? あの、頭が痛いのですか?」
アナイリンが心配そうにこちらを見ている。
「いや、アナイリンは?」
「……私は大丈夫です」
頬を赤らめて、恥ずかしそうに言うのを腕の中に閉じ込める。
その肌のぬくもりに心まで温かくなるようだった。
アナイリンの髪に顔を埋め、その甘い薔薇の匂いを堪能する。
「……ファッハード候に叱られるだろうな」
「その時は私も一緒に叱られます。でも、ナイジェル様を困らせたら、たとえ父上でも私が仕留めて見せます」
顔をこちらに向け、真顔でなかなか物騒なことを言うアナイリンにくすりと笑いが零れる。
「頼もしいな」
忍び笑いを漏らしながら、アナイリンの体を抱きしめていた。
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