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3、聞いてませんでした
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「では、フェリックス様。お部屋の方にご案内します。三カ月後にはマリアンネ様と同じ学園に入学されますので、それまでに最低限の教養を身につけて頂きますので。今日の所はゆっくりお休みください」
セバスティアンの言った言葉に俺は動揺する。
「へ? はいぃ! ど、どうゆうこと」
「跡継ぎとして迎えられたのですから、当然でしょう。……フェリックス様、まさか貴族であれば何もしなくても裕福な生活が出来るとでも思っていたのですか?」
「……ちょっと思っていました」
呆れた様なセバスティアンの言葉に変な汗が背中を伝う。
頭の上の犬耳がぺしょりと力なく項垂れる。
だってあの時は腹減ってたから、目の前に奢りの肉料理に気持ちを持ってかれて、住むところと食事を保証してくれるということしか聞いてなかった。
「働かざる者食うべからず……か」
「左様でございます」
がっくりと肩を落とす俺にセバスティアンが慈愛溢れる残念なモノを見つめる目で見てくる。
でも、口の端が僅かに上がっていたので、絶っっ対楽しんでいるだろうこの執事は!
母ちゃんはおろおろして、「グミ食べる?」と真っ黒い甘草入りのグミを渡してくる。
……これ苦手なんだけど。
そうも言えないので、礼を言い口に入れる。
まっず!!
余りの不味さに思わず涙目になり、垂れていた尻尾がぶわりと膨らむ俺を見て「そんなに好きなのね!」となぜか感激する母ちゃん。
この人は親切にしようとして相手にダメージを与えるタイプなんだと思った。
もぐもぐと不味いグミを咀嚼しながら、明日からの事を思い、不安になった。
案内された部屋は落ち着く作りの部屋だった。
天蓋付きのベッドとサイドチェストは、派手な装飾はないけど精緻な彫刻が施され、素材も作った職人の腕も一級品であることが分かる。
壁の一面は書棚になっていた。
革張りの小難しい本がぎっしりと並んでいた。
「旦那様がご結婚前に使われていたお部屋です」
そうセバスティアンに説明されて吃驚した。
頭の中ピンク色のエロ親父かと思っていたけど、結構勉強家だったんだな。
俺も頑張らないとなと思い、一冊の本を手に取った。
これだけやたらと背表紙が擦れて金箔で押した題名が読めない。
父ちゃんのお気に入りだったのかな?
中身をパラリとめくって、膝から崩れ落ちた。
男女が様々な形で裸で絡み合う挿し絵の数々にこれがどんな本か理解した。
「まず最初にその本を手に取るとは……さすがに親子ですなあ」
「誤解だあぁぁぁ!!」
「……まさか、フェリックス様はそちらのご趣味が」
「普通に女の子が好きだよ! お前の主人の性癖の認識はどうしようもない女好きか男色かの二択しかないのかよ!」
「はっはっは。冗談でございますよ。フェリックス様落ち着いてください。どうどうどう」
「馬じゃねえよ!」
「失礼しました。では、お詫びに夕食にフェリックス様には仔牛肉のカツレツを一皿追加するよう料理長に申し伝えましょう」
「ぐうぅ……、大盛なら許してやるよ」
「承知しました」
穏やかに笑うと丁寧に辞儀をする。
計ったかのようなタイミングで扉が叩かれ、セバスティアンが許可すると五十くらいの貫録のある女性が入ってきた。
紺色のお仕着せを皺ひとつなく着こなし、白髪交じりの黒髪を一筋のほつれも無く結い上げている様に自然と背筋が伸びる。
はっきり言えば、すっごい怖そうな女性だ。
「フェリックス様、使用人たちは追々ご紹介いたしますが、まずは家政婦長のフラウ・ヴェステルマンをご紹介します」
「フェリックス様、家政婦長のマルガ・ヴェステルマンにございます。フェリックス様の礼儀作法の教師を仰せつかりました。学園に入るまでの三カ月で伯爵家の跡継ぎに恥じないようにしなければなりませんので、少々厳しく参ります。お覚悟なさいませ」
にこりとも笑わずに言い切ったマルガに思わず腰が引ける。
「あ、はい。よろしくお願いします。え~と、マルガさん?」
「フェリックス様、使用人に敬語は不要です」
「そうでございますよ、私は普通に呼び捨てだったのに、なぜフラウ・ヴェステルマンだけ?」
表情を一切変えずに言うマルガに対して、片眉を上げ不満そうな表情になるセバスティアンにふっと笑う。
「あ~、そこはかとない威厳に怯みました」
「フェリックス様、素直さは庶民であれば、美徳でしょうが、貴方様は伯爵家の跡継ぎです。御言葉を発する時は良く良くお考えになって下さい」
「は……分かった」
思わず「はい」と言いそうになって、マルガにじろりと睨まれ慌てて言い直した。
セバスティアンの言った言葉に俺は動揺する。
「へ? はいぃ! ど、どうゆうこと」
「跡継ぎとして迎えられたのですから、当然でしょう。……フェリックス様、まさか貴族であれば何もしなくても裕福な生活が出来るとでも思っていたのですか?」
「……ちょっと思っていました」
呆れた様なセバスティアンの言葉に変な汗が背中を伝う。
頭の上の犬耳がぺしょりと力なく項垂れる。
だってあの時は腹減ってたから、目の前に奢りの肉料理に気持ちを持ってかれて、住むところと食事を保証してくれるということしか聞いてなかった。
「働かざる者食うべからず……か」
「左様でございます」
がっくりと肩を落とす俺にセバスティアンが慈愛溢れる残念なモノを見つめる目で見てくる。
でも、口の端が僅かに上がっていたので、絶っっ対楽しんでいるだろうこの執事は!
母ちゃんはおろおろして、「グミ食べる?」と真っ黒い甘草入りのグミを渡してくる。
……これ苦手なんだけど。
そうも言えないので、礼を言い口に入れる。
まっず!!
余りの不味さに思わず涙目になり、垂れていた尻尾がぶわりと膨らむ俺を見て「そんなに好きなのね!」となぜか感激する母ちゃん。
この人は親切にしようとして相手にダメージを与えるタイプなんだと思った。
もぐもぐと不味いグミを咀嚼しながら、明日からの事を思い、不安になった。
案内された部屋は落ち着く作りの部屋だった。
天蓋付きのベッドとサイドチェストは、派手な装飾はないけど精緻な彫刻が施され、素材も作った職人の腕も一級品であることが分かる。
壁の一面は書棚になっていた。
革張りの小難しい本がぎっしりと並んでいた。
「旦那様がご結婚前に使われていたお部屋です」
そうセバスティアンに説明されて吃驚した。
頭の中ピンク色のエロ親父かと思っていたけど、結構勉強家だったんだな。
俺も頑張らないとなと思い、一冊の本を手に取った。
これだけやたらと背表紙が擦れて金箔で押した題名が読めない。
父ちゃんのお気に入りだったのかな?
中身をパラリとめくって、膝から崩れ落ちた。
男女が様々な形で裸で絡み合う挿し絵の数々にこれがどんな本か理解した。
「まず最初にその本を手に取るとは……さすがに親子ですなあ」
「誤解だあぁぁぁ!!」
「……まさか、フェリックス様はそちらのご趣味が」
「普通に女の子が好きだよ! お前の主人の性癖の認識はどうしようもない女好きか男色かの二択しかないのかよ!」
「はっはっは。冗談でございますよ。フェリックス様落ち着いてください。どうどうどう」
「馬じゃねえよ!」
「失礼しました。では、お詫びに夕食にフェリックス様には仔牛肉のカツレツを一皿追加するよう料理長に申し伝えましょう」
「ぐうぅ……、大盛なら許してやるよ」
「承知しました」
穏やかに笑うと丁寧に辞儀をする。
計ったかのようなタイミングで扉が叩かれ、セバスティアンが許可すると五十くらいの貫録のある女性が入ってきた。
紺色のお仕着せを皺ひとつなく着こなし、白髪交じりの黒髪を一筋のほつれも無く結い上げている様に自然と背筋が伸びる。
はっきり言えば、すっごい怖そうな女性だ。
「フェリックス様、使用人たちは追々ご紹介いたしますが、まずは家政婦長のフラウ・ヴェステルマンをご紹介します」
「フェリックス様、家政婦長のマルガ・ヴェステルマンにございます。フェリックス様の礼儀作法の教師を仰せつかりました。学園に入るまでの三カ月で伯爵家の跡継ぎに恥じないようにしなければなりませんので、少々厳しく参ります。お覚悟なさいませ」
にこりとも笑わずに言い切ったマルガに思わず腰が引ける。
「あ、はい。よろしくお願いします。え~と、マルガさん?」
「フェリックス様、使用人に敬語は不要です」
「そうでございますよ、私は普通に呼び捨てだったのに、なぜフラウ・ヴェステルマンだけ?」
表情を一切変えずに言うマルガに対して、片眉を上げ不満そうな表情になるセバスティアンにふっと笑う。
「あ~、そこはかとない威厳に怯みました」
「フェリックス様、素直さは庶民であれば、美徳でしょうが、貴方様は伯爵家の跡継ぎです。御言葉を発する時は良く良くお考えになって下さい」
「は……分かった」
思わず「はい」と言いそうになって、マルガにじろりと睨まれ慌てて言い直した。
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