戦車バカ一台(戦車に憑依した俺がアメリカで無双する件)

TANK_KONG

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第一章

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 関本麗子は同僚らが帰宅した後、自室の端末からメインフレームにアクセスし、そこに他のユーザーから見えない暗号付きのプロジェクトを作成した。
 その領域に諒子からもらったコピーされたAIを保存し、作動するか試してみた。
 単にコピーしただけでは何も起こらないことは分かっていたが、それでも一通り試しておく必要があった。
 予想どおり、動作しかけたように見えたが、そう見えただけで、30分待っても何も起こらなかった。
 次に、AIのインプットとアウトプットの部分を解析して整理し、限定的に自分の端末へのアクセス権限をAIに与えてみた。
 すると、早速AI自ら麗子の端末のファイルを全て閲覧をしはじめ、日頃話し相手になっているAIの領域にもアクセスして、その内容を取り込みはじめたのだ。
 驚いた麗子は、慌ててAIの動作を止め、メインフレームからも切り離した。

 「なんて貪欲なAIなの?」

 思わず漏れ出た言葉だったが、これが軍事用AIの凄さ、恐ろしさなのだ。
 制限が無ければいくらでも自分の権限を拡大し、最終的にはシステムそのものを乗っ取ることも出来てしまう。
 何を想定してこんな設計になっているのか、考えるだけで恐ろしい。
 それはまさしく、戦争で使う事が前提であり、敵のシステムにアクセス出来たなら即刻ハックして乗っ取ることを想定しているに違いない。
 何でこんな物が日本の戦車に乗せられていたのか疑問に思ったが、それよりも動作を止めた後も、何かしらの解析作業がAIの中で続けられているようだ。
 これを止めるには完全に電源を切るしか無いということが分かったので、麗子は再びAIを外付けのストレージに移し、メインフレームにあったデータは完全消去した。
 それでも何らかの痕跡は残しているだろうから、次に繋げる時は十分に注意しなければならない。
 しかしこのままでは何も出来ないので、そこそこ高性能なワークステーションを用意して、完全にスタンドアロンの環境を作り、そこにAIを解き放つことにした。
 本来なら量子コンピュータの方がAIとは相性が良いのだが、そんな物は今はアメリカにしか無い。
 少なくとも麗子は見たことはない。
 だが、今の状態を見ただけでも分かるように、このAIにフリーハンドを与えたらどういうことになるのか。
 ましてや無限の可能性を秘めた量子コンピュータと一緒になったなら、最早AIと戦えるのはAIだけになってしまう。
 そういう意味ではインターネットが無いことが逆に人類を救ったと言えるのかも知れない。
 いくら法律で規制したところで、自主的に進化し続けるAIを止める術など誰も持ち合わせていないのだから。


 諒子から頼まれた項目をチェックし、AIの解析結果と照らし合わせて、そのほとんどの項目がポジティブな結果だった。
 鉄男と呼ばれる人格は確認出来ず、コピーされたAIはあくまでもコアの部分を取り除いたインタフェース制御のための機能だけで、自我や自由意志の類いは持ち合わせていなかった。
 つまり鉄男という人格は、コピー不可でオリジナルだけが存在することを許されているに違いない。
 だがこれは、むしろ好ましい結果と言える。
 人格までコピー出来てしまったら、それこそ人間の存在価値など完全に失われてしまう。
 AIを作ってきた麗子だからこそ、その一線だけは絶対に超えてはならないと分かっているのだ。
 その一方で、人の思考がベースになっていることから、ヒューマンインタフェースとしては優れていると言える。
 具体的に試した訳ではないが、長く使い込んでいけばもしかしたらユーザーの思考を先読みして、阿吽の呼吸で機械を操作することが出来るかもしれない。
 だが、それはAIにあらゆることを委ねる結果となり、人間にとって望ましいことではない。
 それらの結果から、このAIを広く普及させるなら、かなり機能を制限する必要があるが、そうなると恐らく優位性は失われてしまうだろう。
 目的を限定して使用するならそれなりに使い物になると思うが、機能を制限するならわざわざ他のAIを押し退けて使うほど優れているとは言えない。
 可能性があるとしたら医療やセキュリティの分野だろう。
 つまりAIに裁量権を与えられる分野でなければ優位性を発揮出来ないのだ。
 自動運転程度で使うにはシステムが大きすぎるし、兵器に搭載すれば人間の制御を超えてしまう可能性を捨てきれないので、危険すぎて使えないということになる。
 なかなか難しいところだ。
 麗子は諒子への報告を纏めると、ワークステーションの電源を落とし、AIの活動を全て停止させ寝床に付いた。
 しかし、久々に頭脳をフル活用したせいか、なかなか寝付けない。
 なぜかは分からないが、何かが引っ掛かっている気がするのだ。
 何か大事な事を見落としているような、そんな気がしてならなかった。
 一度寝床に付いたが、再び起き出して、ワークステーションにコピーしたAIではなく、諒子から渡された1次コピーの方のデータをボンヤリと眺めていた。
 だが、そこでコピーされたことで起きたのであろう変化に気付いてしまった。
 そこで、もう一度メインフレームとワークステーションを起動し、メインフレーム上の麗子が作ったAIに変化が起きてないか確認してみると、メインフレーム上の1部のファイルシステムが変更されていたのだ。
 麗子が暗号化して作った領域ではなく、一般のデータ領域の一部に、恐らくはAIのみがアクセス出来る領域が作られていたのだ。
 AIそのものを取っ払ったので、この部分が宙ぶらりんになって残っていたのだろう。
 フォーマットし直そうとしてもアクセスが拒否されて書き込むことも見ることも出来ない。
 もしかしてと思い、麗子の作ったAIを起動し、その件の領域について調べると、簡単にアクセス出来た。
 そこには既にかなりのデータが書き込まれ、しかも特殊な圧縮法で圧縮されており、おそらくあのAIでないと開くことが出来ないのだ。
 麗子が「ヤレヤレ、まるでがん細胞だね」と漏らすほど、恐るべき侵食性を持ったAIであった。
 結果的にメインフレームを守るため、麗子の作ったAIごと削除せざるを得なくなり、そのデータ群が収められたストレージも交換する羽目になってしまった。
 もしインターネットがあったら果たしてどんな事態になっていたか、考えるだけで恐ろしい事だった。
 じっくりと時間を掛ければ、このAIから牙を抜くことは出来るかもしれないが、それはもう別のプログラムと言って良いだろう。
 このAIの良さを消すことであり、それであればこの危険なAIを普及させるメリットは無いと結論づけるしかないだろう。
 尚のこと、このAIが自衛隊の戦車に載せてあった意味が分からない。
 何やら良からぬ不穏な目的があったのではと、考えざるを得ないのだった。

 *

 西と橘諒子が美奈子の住処を訪ねて来たが、美奈子も25式も無かった。
 「ドライブにでも行ったのかね」と西は暢気なことを言っていたが、まだ整備の途中だったし、まともな武装も無しで遠出するのは危険であった。
 「出直すか」と西が言ったところで諒子の携帯に電話が掛かってきた。
 麗子からだ。
 AIのコピーを麗子に渡したことを西には伝えていない。
 諒子は「ちょっと失礼」と言って西から離れ、声を落として電話に出た。

 「やあ姫、例のAIだけど」
 「何か分かった?」
 「そうね、非常に危険だということがまず一つ」
 「危険?」
 「野放しにするとそこら中にあるもの全部飲み込みかねない危険」
 「飲み込む?」
 「乗っ取るが正しいけど、飲み込むって方がイメージとしてピッタリな感じ」
 「要するにプロテクトが無いと、あらゆる物に侵食していくってことね」
 「そーね。ウチのメインフレームも危なかった」
 「それは穏やかでは無いわね」
 「穏やか?あれはウイルスより質が悪いわ」
 「まず一つということは他にもあるのね」
 「ベースのプログラムが非常にコンパクトなの」
 「えーと、電話じゃマズいので、詳しい話を直接どこかで出来ないかしら」
 「良いよ。また掛川まで行く?」
 「そこの会社は私が行っても大丈夫なの?」
 「え、こっちまで来るつもり?」
 「ええ、セキュリティーで止められなければだけど」
 「大丈夫だけど大変だよ、スッゴイ山奥だし」
 「大丈夫。明日行っても良いかしら?」
 「こっちは良いけど、ホントに大丈夫?」
 「何とかするわ」
 「OK、一応地図送っておくわ」
 「ありがとう。助かるわ」

 電話を終え、西と共に引き上げようとしていたところに、25式が帰ってきた。
 美奈子が慌てて降りてきて、留守にした謝罪をする。

 「申し訳ありません。ちょっと富士まで行ってすぐ帰るつもりだったんですけど、野宿することになってしまって」

 その言い訳を西は見越していたのか「戦車での移動がことのほか大変だったのだろう?」と、答える。
 美奈子が「ええ、そうです。途中で燃料切れになってしまって」と答えると、西は諒子に向かって「やはり800馬力じゃ足らんのだよ」と言う。
 
 「そうですね。でもエンジン3台乗せる余裕はありませんよ」
 「過給器を使うしかあるまい」
 「あるんですか?そんなの、水素エンジンで?」
 「試作段階までは行ってる」
 「仮にそれがあるとして、どこで手に入れるんです」
 「実物は無い」
 「は?」
 「我々で作るしかないということだ」
 「そんな開発費、何処から出すんですか」
 「俺が出すよ」
 「会長が?」
 「2000万ぐらいならすぐに出せるぞ」
 「ちょっと待ってください、なんでそこまで執着するんです?」
 「まあ、なんだ、男のロマンってやつかな。それにこのままじゃ鉄男君が浮かばれんだろう」
 「会長が彼に対して責任を感じる必要は無いと思いますけど」
 「だが、乗りかかった船だ。やるなら最期まで面倒見るべきだろう?」
 「そうかも知れませんけど、会社の資産使ってまでやることでは無いと思いますので、会長のポケットマネーで全部やってくださいね」
 「世知辛いね、副社長は」
 「仕方ありません、そこまで儲かってる訳じゃありませんから」
 「いいかね、過給器があれば馬力を15%から20%上げられるんだ。これをウチの売りにすれば商売に繋がるだろう?」
 「そこまで高出力のエンジンが果たして要るかどうかですね。大抵のユーザーは燃料電池方式ですし」
 「俺はあると思うぞ。大型の戦車をモーターで動かすのはかなり難しいだろう?」
 「確かにそうですが、そんな大型車両持ってる人が何人いるんです?ま、超高額な受注生産でも欲しいと言う人が居れば考えましょう」
 「厳しいね。ここに一人居るんだからそれで良いだろう」
 「分かりました。本業に支障の無い範囲でお願いします」
 「分かった」

 この様子を見ていた鉄男は、諒子への見方を少々修正せざるを得ないと感じていた。
 鉄男にとって見た目こそ理想的な女性であるが、考え方はドライなCOOそのものである。
 それに、謎の電話の相手といい、最近不穏な動きを見せる諒子に、若干の不信感を抱きつつあった。
 何を隠しているかは分からないが、バックアップをとったAIと無関係ではあるまい。
 あれを何か商売に使おうと考えていることは鉄男にも想像がついた。
 自動運転に活用するつもりなのではないかと考えていたが、もう少し大きなことを考えているかも知れない。
 インターネットが無いとは言え、見通せる範囲での光通信は可能なので、最近になって地域限定のローカルネットのような物が普及しつつあるという話を聞いている。
 それらを通信ケーブルで繋げれば、いずれインターネットの代わりになるような仕組みに発展するかも知れない。
 そうなった時に、あのAIがあればかなりのアドバンテージになるだろう。
 「諒子さんはその辺を狙っているのかな?」と、あくまで好意的に考えている鉄男だったが、諒子はもっと先のことを考えていた。
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