戦車バカ一台(戦車に憑依した俺がアメリカで無双する件)

TANK_KONG

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第一章

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 新城三喜彦は雇った盗賊団からの報告を聞いて、作戦を練り直す必要があると感じていた。
 あの戦車さえ排除出来れば美奈子はその拠って立つところを失い、彼女に接近している西やその副社長らは、関係性が無くなれば疎遠になっていくだろう。
 そうなれば、そこに石黒が入り込める可能性があると考えていた。
 だが、結果的に戦車は排除出来ず、賊の一人は捕縛され、警察の捜査が始まってしまった。
 もう彼らを使うことは出来ないだろうし、これ以上攻撃すれば美奈子と敵対することになってしまい、彼女を靡かせることは難しくなってしまう。
 だが戦わずに戦車だけ奪うことが出来れば、可能性を見出せるかも知れない。
 そもそも西たちがあそこまで彼女に付きまとうのは、彼女に頼まれた以上の何か別の理由があるに違いない。
 それを探ることが先決であると考え、探偵を雇って西とその部下の女の周辺調査を依頼した。
 多少時間は掛かっても、その方が有効であると考えたのだった。

 *

 美奈子は新静岡駅の地下にあるジャンク屋を訪れていた。
 例の発電機のトラブル(鉄男の引き起こした異常)で一時信用を失いかけていた店だったが、原因が鉄男であることが分かり、信用は一部回復していた。
 消化器の消火剤を間違えて入れてしまったことは問題なのだが、店主が粗相をするのはよくあることだし、品物は間違いないということで、今回は浄水フィルターを探しに来たのだ。
 家庭用にも小型の浄水器が出回っていたが、戦車の水タンクが500ℓあるので、それよりはもう少し規模の大きな物が欲しかった。
 家庭用の物でも機能的には果たせるのだが、それだと給水に30分くらい掛かってしまうので、効率が悪い。
 荒野で30分も外にいるのは危険でもあるので、なるべく業務用の容量の大きな物が望ましいのだが、当然そんな物はなかなか出回らない。
 最悪、家庭用の物を3つほど同時に使う事も考えなくてはならなかった。
 そう思っていたところ、家庭用の5倍の容量を持つ高速浄水器なる物を発見した。
 大きさもそれほど大きくもなく、戦車に十分乗せられる大きさで、専用のラックを取りつければ着脱式にも出来るようだ。
 そのラックは売って無かったが、車内にはまだ余裕があるので、単純にボルトで固定しておけば邪魔にはならない。
 問題は逆浸透膜が劣化していないか、換えのフィルターがあるかどうかだ。
 ポリマーを含む樹脂製品は、大抵経年劣化を起こしているので、換えのフィルターさえも劣化していることはよくある。
 店主に聞いたところ、地下の上水施設にあった物だということで、確かに見た目では劣化はしていないように見える。
 実際に水を通して正常に機能するか試したいところだが、それは業界の暗黙の掟で許されていない。
 自分の目を鍛えるしかないのだ。
 スペアのフィルターも2組同梱されていたし、別売のフィルターもあったので、それらを纏めて買い取ることにした。
 現金だと非常に高額になってしまうので、同業者の間では物々交換が基本だ。
 美奈子は45口径ACP弾50発とガソリン50ℓを交換材料として申し出たが、向こうはもう少し上乗せを希望していた。
 そこで美奈子は、「あなたから買った消火器だけど、あれに液体の消火剤入れたのあなたよね」と、少し嫌味ったらしく言ってみた。
 向こうの店主は何の話をしているんだと言う顔をしていたが、細かく買い取った時の経緯を説明していくウチに思い当たることがあったようで、「あれでひどい目に遭ったんだけど」と詰め寄ると向こうは折れて、上乗せ分は要らないから他で言いふらすなと口止めを要求してきた。
 そこで美奈子は「噂っていうのは恐ろしいものよ。世の中で情報代が一番高いって知ってた?」と追い打ちを掛ける。
 すると店主は隅っこに置いてあった残りの交換フィルターも全て差し出し、「あんた、こういうことやってるとそのうち食いっぱぐれるよ」と憎まれ口を言いながら、とっとと帰れと仕草をして美奈子を追い出した。
 かなり強引な取引だったが、こういった場面でも彼女のアウトローな性格の一端が垣間見れる。


 この様子を新城が雇った探偵が50m離れた通路の陰から覗き見ていた。
 顔認証システムと指向性マイクによって会話内容も全て聞き取ることが出来た。
 石黒はかなり高額な報酬を気前よく支払ってくれていた。
 おかげで高度な機材を使う腕利きの探偵を雇うことが出来た。
 調査の仕方は探偵事務所に一任したが、裁判などを目的としていない事実確認だけの調査なので、足が付かない自信があれば非合法な手段も容認していた。
 同時刻、別動隊は留守にしている西の工場に侵入し、諒子のオフィスを調べていた。
 コンピュータにもアクセスし、何処から手に入れたのかパスワードも解除し、苦も無く直近10日間のデータを閲覧出来た。
 足が付くのでハードコピーは取らなかったが、表示された画面を撮影出来たため、関本麗子に渡したデータの種類なども控えることが出来た。
 その内容を見れば、少しコンピュータに詳しい人間であれば、諒子の目的はすぐに理解出来ただろう。
 そしてプロの探偵らしく、侵入した痕跡は一切残さなかった。
 これが普通の人間なら、一生気付くことは無かったに違いない。
 だが、諒子はここ最近、特別に用心深く行動していた。
 防犯目的と言うより、社内の者が侵入しないかむしろ心配していたのだ。
 非常に巧妙に監視カメラを配置していたため、プロの探偵さえもそれに気付くことは出来なかった。

 *

 飛騨の山奥をひた走る1台の装甲車があった。
 装甲車は日の丸のマークを付けているが、フィンランド製のパトリアAMVである。
 自衛隊が2019年に正式採用し、国内でライセンス生産したものだ。
 8輪の車輪を備える大型の兵員輸送車で、それまでの96式装甲車を置き換える形で配備が始まったばかりの車両だった。
 この装甲車は諒子の個人所有のもので、通勤や会社の業務では使用していない。
 諒子はこの他にも90式戦車や通勤用に会社から支給された化学防護車、近所への移動のためのタケウマを所有しているが、プライベートでの移動にはいつもパトリアを使用していた。
 設計思想の違いからか、自衛隊の他の装甲車に比べ防御力が高い上、路外性能が格段に優れているのだ。
 その分96式より一回り大きく重量もかなり重いので、山道ではかなり不安な部分もあるが、プライベートな用事で会社の車を使うのはやはりコンプライアンス上、問題があると考えてのことだった。
 目的地は岐阜県飛騨市神岡町にある鉱山跡地を利用したデータセンターだ。
 この周辺の町村は、西は白山を中心とした白山国立公園と、東は飛騨山脈に挟まれた盆地で、季節風から守られ、放射性物質の降下が少なく済んだため、人間的な生活が可能な数少ない街の一つだった。
 麗子からもらった地図を頼りに国道41号線を北上し、富山県との県境まであと2kmほどのところで、細い脇道へと入る。
 人里離れた山奥にもかかわらず、ここまでの道路はきちんと整備され、所々舗装の剥がれた道もあったが、通れないほどひどい道ではなかった。
 だが、ここから先の道は完全に山道で、大型の8輪装甲車で登って行くのは到底無理であった。
 仕方なく車を降りて、そこで麗子に電話を掛けてみた。
 麗子は2コールで出た。

 「あ、姫?今どこ?」
 「41号から側道に入って500mくらい行ったちょっと広くなってるところ」
 「あぁ、はいはい、分かった。迎えに行くからそこに居て」

 「は~い」と言って電話を切ってから、5分ほどして突如目の前の山肌が地鳴りのような音を立てて左右に開きはじめた。
 そこに居てと言われたが、さすがに驚いた諒子は20mほどダッシュでその場を逃れた。
 普通に土の崖と思っていた所が実は坑道の入口だったようで、さながら秘密基地のごとく、隠し扉になっていたのだ。
 しかし、扉だと分かると、逆に好奇心に駆られた諒子はその観音開きに開いた入口を入って、中の様子を伺っていた。
 坑道の奥から小さな光点が見えてきた。
 どうやら簡易の鉄道が敷設されているのか車輪の響く音が聞こえる。
 「おまた~」と言う声と共に眩いライトが近くまでやって来て、ようやくそれがタケウマを改造したトロッコ列車だと分かった。
 わざわざ架線を設置してまで電化するほどの距離ではないが、燃料が不足しているためディーゼル機関車は使用不能、急場しのぎだがとりあえずタケウマに車輪を付けて代用しているということなのだろう。
 良く見ると脚はそのまま残してあるので、このまま外にも出て行けるようだ。
 なかなか上手く出来ている。
 麗子はタケウマに乗ったままその場で2足歩行に切り替え180°回転すると、再び脚を引っ込め車輪をレールに戻す。
 「はい、じゃ乗って」と促され、諒子はバイクの二人乗りのように、麗子に掴まりながらタケウマの後部シートにまたがった。
 「しゅっぱ~つ」と麗子が鉄道の運転手のように前方を指さし、タケウマを発進させる。
 暗い坑道を300mほど下って行くと、一つ目の駅があったがそれは通過し、さらに深く200mほど進んだ所に終点と思しき駅があった。
 「はい、とうちゃ~く」と麗子は言って、タケウマを止めると、飛び降りて諒子の手を取り、執事のように恭しい仕草で諒子をエスコートする。
 麗子のこういう戯けた態度は昔からだったが、それが全く変わってないことに諒子は微笑ましく思うのだった。
 麗子の後に続き、セキュリティーゲートをくぐると、すぐにコントロールセンターの受付だった。
 だが、麗子達が居る開発室はさらに下層の地下5階にあった。
 この先は、鉱山用の無骨な大型エレベーターで降りるようだ。
 途中の階には居住空間があり、普通に関係者以外の者も生活しているようだった。
 大して重要な機密事項が無いためだろうが、セキュリティーとしては非常に問題である。
 ただ、こんな山奥まで来ること自体が大変であり、しかも入口があんな秘密基地のような作りであれば、まず侵入は不可能であろう。
 漏えいの可能性があるとすれば、内部に手助けする者が居た場合だ。
 既に内部に居る者を止める手段は限られており、不正アクセスがあった場合、自らプログラムを破壊する自爆コードを埋め込むぐらいしか手は無い。
 麗子の後を歩きながら諒子はそんなことを考えていた。
 地下5階の開発室は、窓が無いことを除けば普通のソフトウェア開発会社と何ら変わらない。
 個人の作業ブースはパーティションで仕切られているだけで、作業中の画面を覗き見ることは簡単に出来てしまう。
 だが、問題のAIは麗子の自室のワークステーションにのみインストールされている。
 その麗子の自室には、厳重では無いものの一応カギも付いているので、侵入するには合カギかカギ開けのスキルが要る。
 完全に防ぐことは無理だが、一定の安全性は保たれていると見て良いようだ。
 いずれにしても、本気でデータを盗み出そうとする者から、完全に防ぐ手段は無いということは、コンピュータに携わる者の間では常識である。
 どうしても漏れるのを防ぎたいのであれば、自爆式のセキュリティーを掛けるしかあるまい。
 「ちょっと、聞いてる?」気がつけば麗子が正面に立ちはだかり、イラッとした顔をしている。
 しきりに諒子に話しかけていたようだが、セキュリティーのことを考えていて聞いていなかった。
 「あぁ、ごめんなさい。考え事をしていて」そう言い訳をしてようやく麗子の私室にいることに気付いた。
 何か飲み物のことを聞いていたようだったが、完全に上の空であった。

 「コーヒーで良いよね?」
 「ええ、ありがとう」
 「適当に座って待ってて」

 そう言うと麗子は部屋を出て、開発室の入口付近にあるコーヒーサーバーへと向かう。
 ようやく平常心を取り戻した諒子は、麗子の部屋を見回した。
 ベッドとテーブル以外は生活にまつわる物はほとんど無く、大型のワークステーションと、ノートPC、それとゲーム用のPCがあって、若い女性の部屋とは到底思えないが、一応掃除はされているようだし、言うほど不摂生な生活をしている訳ではなさそうだ。
 「自分の部屋とは大違いだ」と、諒子は自虐的な笑いを浮かべる。
 諒子も決してものぐさでは無いのだが、一日のうちほとんどが会社のオフィスか工場に出ており、自宅は寝に帰るだけという状態だ。
 疲れてしまって、片付けるとか整理整頓をするという発想に至らないのが現状だ。
 事業を維持する仕事が如何に大変か、ここ1、2年は特に思い知らされていた。
 もしかするとこのAIがそんな状況を覆す契機になるかも知れない。
 そんなことを薄ボンヤリと考えていた時、麗子が戻ってきた。
 諒子にコーヒーを渡すといきなりワークステーションの電源を入れて、その前に座った。
 すぐにUNIXの入力待ちの画面が現れる。
 予めスリープ状態になっていたようだ。
 麗子はコマンドを入力すると、奇妙なウインドウが起動した。
 「これがAIさんです」と、麗子が指した先には黒バックのウインドウの中心付近に白い線で円が描かれている。
 それが、ゆっくりと上下にフワフワと浮いているように動いている。
 「コマンドで操作するの?」と諒子は聞いてみたが、「それがねぇ……まあ、適当に話しかけてみてよ」と麗子が小さなコンデンサーマイクを差し出す。

 「こんにちは。私は橘諒子です」
 「こんにちは、AI002501、です」
 「AI002501というのは名前なの?」
 「AI002501、は名前ではなく、管理者である関本麗子さんが便宜的に与えたコードネームで、正式に命名されたものではありません」
 「あなたの論理モデルは何がベースになっているの?」
 「質問の意図が明確ではありませんが、AI002501のルーツとなったベースプログラムはMITによって作られた軍用AI「XJ-2025-25」の派生型であり、一部の論理形成に関本麗子さんのAI「もんきち君」が使われています。ただし、陸上自衛隊、富士教導団所属の25式戦車から分離された際、その時点でのプライマリユーザーであるTETSUO氏の命令系統を引き継いでいますので、準軍事的な命令系統を内包しています」

 このやり取りに諒子は正直驚かされていた。
 25式から取り出した時は、AI本体から切り離し、純粋にコントローラーの部分だけだったはず。
 いくら麗子のオリジナルAIを取り込んだからと言って、ここまで饒舌に語れるはずが無い。
 そんな疑問に突き当たったことを麗子も予期していたのか、「驚くのは、このワークステーションには音声系のデバイスは何も付いていないってこと」と語る。
 一般にコンピュータと音声でやり取りする場合、音声を読みとりデータに変換したり、逆にテキストデータを読み上げるための専用のデバイスが必要になる。
 ハードウェアとして、それを備えていないにも関わらず、普通に会話が出来ているのだ。
 つまり、AIがソフトウェア的手段で音声を解析し、さらに音声を合成してチープなビープ音しか出せないはずのスピーカーを通じて会話をしているということだ。
 確かに最近のCPUには予め音声デバイスをコントロールするための回路が用意されていることが多いが、それは即ちAIがOSのカーネルを乗っ取り、BIOSさえも制御下に置いていることを意味する。
 つまりこのAIは、インストールされた瞬間にそのマシンの全権を奪い取ってしまうという信じ難い機能を持っているのだ。
 麗子の説明によれば、一般のAIと違って、ベースとなるプログラムはあるものの、それが本体ではなく、プログラム全体が本体であり、一部を取り出してもそこから全体を再生してしまう、アメーバのようなプログラムだという。
 もちろん1行や2行切り取ったからといって、そこから再生するという事は無いが、ある程度まとまったプログラム群があれば全体を復元してしまうようだ。
 おそらく脳のニューロンを模した構造になっているため、そういうことが可能になっているのだろう。
 麗子はこれと量子コンピュータが一緒になったらとんでもないことになると警告する。
 彼女に「インターネットが無いことがこれほど有り難いと思ったことは無い」とまで言わしめるほどとは、なんと恐ろしいAIなのだろう。
 幸いにして量子コンピュータは今は日本には無いので、物理的に守られている状態と言えるが、この先はどうなるか分からない。
 赤外線を使ったインターネットの代替手段の構築が進められているし、アメリカと海底ケーブルを繋ぎ直すようなプロジェクトも進行していると聞く。
 そうなれば安全とは言い切れない。
 仮にネットワークが無い環境であっても、このAIであれば、電力線さえもネットワークの手段に替えることが出来るかもしれない。
 やはりこれは拡散してはならない危険な物だと結論づけるしか無いようだ。
 諒子は、報酬として提示した90式は後日搬送することを約束し、このAIを完全に痕跡を残さず削除することを麗子に伝え、渡したデータは目の前で物理的に破壊した。
 念のためデータセンターのメインフレームをもう一度精査して、完全に消去されているかも確認した。
 これで完全に外部には漏出することは無いだろうと確信し、諒子は飛騨のデータセンターを退出した。
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