戦車バカ一台(戦車に憑依した俺がアメリカで無双する件)

TANK_KONG

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第一章

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 恋愛経験無しの真性オタクの俺も、美奈子との同棲生活に少し慣れてきたのか、最近は特に気負うこともなく普通に声を掛けられるようになってきた。
 最初は美奈子さんとか堅苦しい感じだったが、こっちが年上ということもあり美奈子ちゃんでOKになった。
 それでも相変わらず共通の話題には乏しいので、会話の内容は主に俺が昔話を聞かせることがほとんどだ。
 そんな我々が住む地下街には、いつも同じ古い歌を歌いながら毎日自主的に掃除している少し頭のボケた婆さんがいるのだが、その日はちょうど家の前をいつものように歌を歌いながら掃除をしていた。
 美奈子がシャッターを開けたまま、50m離れたキオスクに日用品を買いに行っていたので、その時は俺も地下街の様子が見て取れた。
 その婆さんが美奈子の家の正面の看板の支柱の根元を掃除している時、支柱の根元の陰にあった何かをホウキで掃き飛ばした。
 その小さく四角い黒い物体は家の手前までカラカラと転がって来た。
 スコープでズームアップして見てみると、四角の片面に丸い穴が明いており、後から細く短いケーブルが飛び出ている。
 何だ?盗聴用のマイクか?いや、カメラかも知れない。
 美奈子が戻ってきたので、その四角い物体の存在を告げると、すぐに彼女はそれを拾い、穴を覗いて見ている。
 無言でそれを持って帰ると、工具箱からマイクロドライバーを取り出し、黒い物体の穴に突きつけ、穴を拡げた。
 ペキッと音がしてケースが壊れ、中から超小形のカメラが出て来た。
 小さなボタン電池で動く、ワイヤレスのカメラのようだ。
 美奈子は電池を外し、カメラのケーブルを切ったので、これでもうカメラは動かないが、これが意図的に設置された物であることは間違いない。

 「どっかのスケベ野郎が盗撮のために仕掛けたんだな」
 「スケベ野郎?野郎なんてこの街に居ないわよ」

 ああそうか、若い男が居ないんだったな。
 見たところ俺でも分かる技術で作られたカメラだ。
 こんなカメラの電波が届く範囲はせいぜい100mだ。
 その範囲に住んでいる者が仕掛けたのだとしたら、その目的は何か。
 彼女も「そんな心当たりはないわ。誰かが頼まない限りこんな回りくどいことする必要が無いもの」と言う。
 確かに犯罪防止というなら、既に防犯カメラがそこかしこにあるし、むしろ目立つように仕掛けるのが普通だ。
 ならば何者かが監視目的で仕掛けたとしか考えられない。
 その対象が自分であるという自覚は無いようだが、美奈子は薄気味悪さを感じていたようだ。
 仕掛けてあったであろう看板の位置からして、どう考えても監視対象は美奈子だろう。
 近隣に人が住む家は2軒しか無く、そのうち一軒は80過ぎの老婆だ。
 監視する意味が無い。
 襲ってきた夜盗の元締めか?とも考えたが、あの手の連中がそんな遠回しな手を使うとも思えない。
 美奈子の友人関係を全て知っている訳ではないが、ほとんどが女友達だと言う話だし、身辺調査をされるとしたら何らかの理由で25式を狙っているヤツか、朱里の店で会ったという男性客ぐらいしか思いつかない。
 いずれにしても不測の事態に備えておくべきだろう。

 「なあ、ちょっと出かけるにしても、シャッターは閉めた方が良くないか?」
 「そうね、でも狙いは本当にアタシなのかしら?」
 「え?俺を狙う意味が無いだろ」
 「あなたと言うよりその中のAIなんじゃない?」
 「ふうむ、なるほど」
 「あ。電話だ」

 その電話は諒子からだった。
 諒子が会社に戻った後、監視カメラの画像を念のため確認したところ、彼女のオフィスに侵入者があったそうだ。
 その映像によると、彼女のコンピュータを起動して画面だけを撮影して帰っていたのだという。
 こちらで見つけた監視カメラの件を諒子に話すと、思い当たる節があるらしく、間違いなく誰かに監視されていると言うのだ。
 そして監視目的はおそらく25式のAIだろうと言う。
 明日の朝一にこっちに来ると言って電話を切ったようだ。
 まさか俺が監視対象だったとはな。
 つまり誰かが諒子のやろうとしていることをそのまま横取りしようって魂胆だな。
 「こんなAIがそんなに大事なの物なのかね」と、独り言を言ったつもりだったが、美奈子への問いかけと受け止めたのか、彼女は「そりゃ規制前のAIなんて危険極まりないもの、悪い奴なら誰でも欲しがるわよ」と答えた。

 「ほう、そういうもんなのか」
 「あなたはもっと自覚を持った方が良いわね」
 「いや~、照れるな~」
 「別にあなたを褒めた訳じゃないから!」
 「冗談だよ」
 「分かってるわよ」

 うん、やっぱり会話が微妙に噛み合ってないな。

 *

 小鳥遊朱里の店に西が顔を出したのは、美奈子と一緒に店を出て以来、一週間ぶりのことだった。
 25式の件が一通り落ち着いたのと、諒子がほぼ全権を持って状況を進めているし、西は水素エンジンの過給器の開発に全力を挙げることとなったため、その報告も含めて店を訪れたのだ。
 「しばらく店に来れない」という話をするつもりだったが、毎日のように店に来ていたいつもの三人組が出入り禁止になったという話とその経緯を聞かされ、嫌な予感を感じていた。
 新城とは元自衛官同士ということもあり、話をすることはあったが他の二人とはあまり話したことは無い。
 特に石黒という男は、西から見ても好ましい男には見えなかった。
 教導団主任教官という立場上、人物を見極める目はそれなりに養われていたと思うのだが、石黒の人物像は思い出そうとしても今ひとつ判然としない。
 そもそも彼に関心が無かったのだが、僅かに交わした言葉の中にも一つとして真実を感じられなかったことだけは記憶している。
 我々との関係は、常にその場限り、上司である関根に対しても上っ面の言葉しか交わしてないように見えた。
 心理学をきちんと学んだことは無いが、恐らくソシオパスと呼ばれる部類の人間だろう。
 そんな男が、美奈子に対して異常な執念を見せたというのだ。
 これは警戒すべき事案と言えるだろう。
 朱里もその事については懸念を持っていたようで、注意して見守って欲しいとまで言われてしまった。
 確かにこのまま諒子に任せきりにしておくのは、少々危険かも知れないと思う一方で、過給器の開発も機械屋として成し遂げたいプロジェクトである。
 すぐに試してみたいアイディアもあったので、とりあえず警戒だけはしておくよう諒子に伝えて、もし事態がエスカレートするようなら本格的に警備を雇うなど対策を講じれば良い。
 なにより過給器が完成しなければあの戦車はまともに動けないのだし、こちらを優先すべきだろう。
 如何にソシオパスといえど、いきなり非合法な手段に出ることはあるまいと考えていた。

 *

 その夜、石黒は新城が雇った探偵からの中間報告を受け取っていた。
 即応性が大事と考え、裏が取れなくても西たちと25式の関係性が推測出来る材料があったら報告してくれと頼んでいたのだ。
 そして、探偵によってもたらされた報告は、非常に興味深い物だった。

 1. 田宮美奈子の所有する25式は、戦争前に実験的に作られた車両で、その実験には当時一等陸佐だった西浩一が直接携わっていた。
 2. 25式には当時の最先端AIである、自律型ニューロンAIが使われており、最終的には無人兵器化を目指すものだった。
 3. 西工業㈱の副社長、橘諒子はコンピュータとメカトロニクスのエキスパートであり、彼女の目的は戦車に積まれたAIの複製で、自社の製品にAIを組み込むことが狙いと考えられる。
 4. 橘諒子の学生時代からの友人等が、AIの開発に係わっている可能性があるため、現在調査中。
 5. 田宮美奈子の自宅を監視していたカメラが露見、破壊されたため、今後身辺調査の難航が予想される。

 これらの報告によって、石黒は美奈子への感情もさることながら、新城の言うようにAIによる利権の方が重要なのではないかと考えるようになった。
 開発元が何処かによっては権利関係で揉める可能性があるが、それが企業ではなく、個人や非営利団体だった場合、著作権は無理でも頒布権は買い取れる可能性がある。
 西たちは恐らく、それを狙っていると納得出来た。
 更に出所が仮にアメリカ軍だった場合、自分もそれに係われる可能性も出て来た。
 石黒はそのAIの開発元の特定と、コピーを所有している可能性がある団体や人物の特定も依頼し、美奈子の直接の監視は中止させた。
 西たちが狙っているAIの性能がどれほどのものかは不明だが、2028年当時の最新式であれば相当に高性能なものに違いない。
 あの核爆発を生き残れたことが信じられないが、仮にそれが「使える」のであれば彼らの狙いは明白である。
 今はAI抑制法によって民間に出回っているAI、あるいは広く公開されたAIは、かなり性能が制限されている。
 1台限りの法整備前の実験的な代物であるなら、その抑制が全く無いか少ない可能性がある。
 現状のAI市場を一変させる可能性を秘めているのではないか?
 上手くすれば、美奈子とAIの利権の両方を手に入れる可能性もあると考え、石黒は舌なめずりをするのであった。

 *

 諒子が美奈子の家を尋ねたのは、朝7:30という、美奈子にすればあり得ないほどの早朝である。
 「朝早くごめんなさい。でも、居ても立っても居られなくて」と、早朝特攻の言い訳を述べたが、美奈子は憮然としている。
 「一応周辺を見て回ったけど、怪しい者は居なかったわ。盗聴電波も飛んでなかったし、いったん手を引いたのかも知れない」と、ポジティブな状況を説明するも、やはり美奈子は仏頂面のままだ。
 単に眠かっただけかも知れないが。
 美奈子は朝食を食べながら、飲み物を飲むか聞いてきたが諒子は断った。
 そんなことより鉄男のAIが気がかりでどうしようもなかった。
 早急にMITオリジナルのプロテクトの掛かったAIと、鉄男と融合精製されたAIとの差分を再度検証しなければならない。
 その異様な侵食性が何処にあるのか、元々あった物なのか、それとも鉄男の情報を取り込んだ過程で生まれた物なのか、そこを見極めねばなるまい。
 本来なら麗子に任せるのが良いのだろうが、何やら不穏なものを感じた諒子は、一刻も早く知りたかったし、何より麗子をこれ以上この件に巻き込むのはマズいと考えたのだ。
 二つの大容量ストレージを用意し、それぞれに二種類のAIをコピーし、物理的なロックを施し、書き込みが一切出来ないようにして、更にパスワードで3重のロックを掛けた。
 挨拶もそこそこに、掛川にとんぼ返りで戻ると、完全に真っ新なワークステーションを2台用意し、それぞれにAIを収めたストレージを接続した。
 MITオリジナルのプログラムは、諒子にも理解出来るほどシンプルな構造で、いかにも軍事用らしく余計な機能が一切無い、戦闘に特化した作りになっている。
 一方の鉄男由来のAIは、一見しただけでは、何処がコアのコードかも分からないほど、同一の構造が無数に連なっており、それぞれがお互いの命令を補完し合うような、複雑な構造になっている。
 麗子の言うアメーバのような構造とは、このことだったのだろう。
 起源は同じでも、もはや全くの別物と言って良い。
 この差はいったい何処から生じたのか。
 そして、その構造のうちの1ブロックを一行一行詳しく見て良くと、1つの特定の命令群に突き当たった。
 どうやらその命令群が、これらの多重構造をつなぎ合わせているシナプスのような役割をしているようだ。
 諒子にはその中の一文に注目した。
 あるサブルーチンに飛ぶ命令なのだが、検索してもそのサブルーチンが出てこない。

 「これってバグ?」

 そんなことがあり得るのだろうか?
 普通、指定された先に実行文が無ければそこでプログラムは止まってしまう。
 あるいはエラーとして最初に戻るか、代替のサブルーチンに飛ばされる。
 だが、そうはなっていないようだし、そもそもこんな重要な命令群の橋渡し役にバグがあったらデバッガが見つけてるだろうし、それに気付かない訳が無い。
 これがバグでは無いとして、それ以外の可能性として、不可視レイヤーの存在が考えられる。
 かつて改ざん防止のプロテクトとして使われていたのだが、プライマリユーザーにも閲覧出来ない、不可視の領域を作って、そこにコアな命令文を隠すという手法がとられたことがある。
 だが、特定のキーコードを入力しないとプライマリユーザーのアクセスも出来なくなるため、あまりにも不便すぎるということで普及しなかった経緯がある。
 しかし、軍事用であれば敵に鹵獲されることを前提としてプログラムを組む。
 だからコアなプログラムは簡単に見つけられないようにするため隠されている。
 その不可視なコードはおそらく暗号化されており、さらにマシン語でしかアクセス出来ない仕組みとなっているだろう。
 これを解析するのは諒子の力量では到底不可能だ。
 そして、その不可視の領域に、このAIの本質が隠されているのだ。
 やはり麗子に頼る以外の選択肢は無いのだろうか。
 そう思った時、ここで学生時代のもう1人の友人、高橋亜希良の存在を思い出した。
 高専のクラスで2人しか居なかった貴重な男子生徒だった彼が、自分に対して好意を抱いていることに感づいてはいたが、その頃には自分の進む道が違うことが分かっていたため、積極的に距離を縮めることはしなかった。
 卒業から何年か後の同窓会の席でカミングアウトされたが、彼も既に結婚していたし、自分も男性と付き合うことは端から諦めていたため、「今さら何言ってんの」という話で、その時は何も起こらず、その後も何の連絡も取っていない。
 連絡先は交換したが、携帯ではなく固定電話の番号だし、そこに電話をするのは憚られた。
 しかし、プログラマーとしての才能は麗子をも凌ぐ天才と言って良いほどだったし、その挑戦的な性格ゆえか、あえて定番を避ける傾向にあるが、結果はキッチリ出すところが凄い。
 その後はアメリカに渡ったと聞くし、恐らくダメだろうと思いつつも、一応電話だけでもしてみようと、その番号に掛けた。
 予想どおり留守電だったため名前だけ告げて電話を切り、彼のことは忘れることにした。
 やはり、麗子しかいない。
 しかしまた、あんな山奥まで行くのは流石にしんどいし、あのセキュリティー環境では機密などあってなきがごとしだ。
 だが、会社も侵入者が居たことを考えると危険すぎる。
 無論警察には連絡してあるが、犯人のシルエットしか確認出来ない映像では手掛かりとはなりにくい。
 侵入者を特定するのは困難を極めるだろう。
 とは言え、自宅も安全とは言い難いし、今のタイミングではむしろ美奈子のガレージが一番安全かも知れない。
 やむなく麗子に電話をしようとしたその時、まさかの亜希良から返しの電話が掛かってきた。

 「もしもし?橘さんですか」
 「アキラ君!お久しぶり!」
 「あ~姫さんだ!4年ぶりだね」
 「今どこにいるの?」
 「なんだい?やっと僕の魅力に気がついたのかな?」
 「あ~そういうのいいから。今日本にいるの?」
 「あぁ、もちろん。今は京都にいる」
 「へぇ、そこで何やってるの?」
 「何って程のこともないけど、まあ、日本政府のためにセキュリティプログラムの開発をちょっと」
 「あ、それ聞いたことある。ハッカー集めて日本独自のセキュリティソフトを作るプロジェクトじゃない?」
 「なんだ、ちゃんと知ってるじゃない。伊達に企業の重役やってる訳じゃないね」
 「まあね。コンピュータ扱ってる企業には逐一そういう情報が来るのよ」
 「なるほど。で?僕にやって欲しいことがあるんだろう?」
 「う、うん、まあ」
 「実はね、麗子からも連絡があってね。姫から連絡いくかもって」
 「麗子、くち軽っ!」
 「ハハハッ、彼女はそういうとこあるよね。ただ僕はAIは専門外だよ。AIから企業情報を守るのが仕事だ」
 「そっか。まあでも、関係無くはない。っていうか最終的にはそっちの方が大事なの」
 「ほう。具体的には?」
 「電話ではちょっと話せない」
 「わかった、静岡に行けば良いのか?」
 「うんそうね。出来れば」
 「じゃあ、明日行くよ。静岡の何処に行けば良い?」
 「駅の地下街の一番奥」
 「分かった。近くに着いたら連絡するよ」
 「ありがとう。恩にきるわ」
 「あ~これは高く付くぜぃ」
 「もう、怖がらせないで」
 「フフフ。じゃあ明日」

 諒子は胸をなでおろしつつも、高く付くの言葉が引っ掛かっていた。
 冗談だと分かっていても、本当に高く付くかもしれないリスクを抱えているのだ。
 そして、亜希良の性格もそのリスクの一つだった。
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