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第一章
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この世界は、乙女ゲームである。
エスメラルダ――エスメが、その事実に気づいたのは、五歳のときだった。
「お姉様‼ エスメお姉様、死んだら嫌よ‼ お母様みたいに女神さまのところに行かないで」
高熱に浮かされていた五歳のエスメは、その声に意識を取り戻した。
双子の妹であるフレアが、大きな目いっぱいに涙を浮かべながら、エスメのベッドにすがりついていた。
エスメに熱が出ているから引き離されたのに、夜になって、こっそり忍び込んできたのだろう。
どうやら、物心ついたときには亡くなっていた母と、熱を出して弱っているエスメを重ねてしまったらしい。
「フレア」
同じ日、双子として生まれたエスメの片割れ。
燃えるように真っ赤な髪をした、美しい女の子。
ぱっちりとした目に、そばかすなんて知らない透けるように白い肌、莓みたいに色づいた唇。美しいだけでなく、とっても頭が良くて何でもできる。
極めつけには、国の創造主である女神様からの加護も強く、特別な寵愛を受けている。
(私とは、ぜんぶ正反対の女の子)
エスメは自分のことを思う。
瞼が重たい垂れ目に、そばかすの散った頬、くすんだような唇。波打つような癖のある茶髪は、毎朝丁寧に梳かないとすぐに絡まる。
礼儀作法にダンス、勉学、何をやらせても要領が悪くて、いつも教育係を困らせる。
そのうえ、女神様の加護もなかった。
(ああ、でも。当たり前ですよね。だって、フレアは主人公だもの)
主人公。
そう思ったとき、熱で朦朧としてエスメの頭に、一気に知らない記憶がなだれこんできた。
(待って。フレア? フレア・オルコット? あの乙女ゲーム『灼熱の乙女は愛に溺れる』の主人公!)
灼熱の乙女は愛に溺れる。
ブラック企業のOLだったエスメが、ストレスで眠れない夜、ずっとプレイしていたゲームである。
終わらない仕事、給料の出ない時間外労働、上司からのハラスメントの数々。
もう何もかもがつらくて、苦しくて、遠い世界の可愛い女の子になって、誰かに大事にされたかったのだ。
誰のルートでも、ハッピーエンドしか用意されていない異色のゲームだった。
そのことで賛否両論巻き起こっていたらしいが、確実に幸せな結末を迎えられるという意味で、ゲームに不慣れな自分でも手を出しやすかったのだ。
(ブラック企業? OL? そう。そうだ。私は)
どうしてか、ゲームに存在しないはずの、主人公フレアの姉として転生していたのだ。
知らないはずの人生。
現代を生きていた成人女性の記憶に、ぱたっと、エスメは気絶してしまった。
「お、お姉様‼ いやあ、死なないで‼」
フレアがぎゃんぎゃん泣いている声だけが、いやに頭に残っていた。
エスメラルダ――エスメが、その事実に気づいたのは、五歳のときだった。
「お姉様‼ エスメお姉様、死んだら嫌よ‼ お母様みたいに女神さまのところに行かないで」
高熱に浮かされていた五歳のエスメは、その声に意識を取り戻した。
双子の妹であるフレアが、大きな目いっぱいに涙を浮かべながら、エスメのベッドにすがりついていた。
エスメに熱が出ているから引き離されたのに、夜になって、こっそり忍び込んできたのだろう。
どうやら、物心ついたときには亡くなっていた母と、熱を出して弱っているエスメを重ねてしまったらしい。
「フレア」
同じ日、双子として生まれたエスメの片割れ。
燃えるように真っ赤な髪をした、美しい女の子。
ぱっちりとした目に、そばかすなんて知らない透けるように白い肌、莓みたいに色づいた唇。美しいだけでなく、とっても頭が良くて何でもできる。
極めつけには、国の創造主である女神様からの加護も強く、特別な寵愛を受けている。
(私とは、ぜんぶ正反対の女の子)
エスメは自分のことを思う。
瞼が重たい垂れ目に、そばかすの散った頬、くすんだような唇。波打つような癖のある茶髪は、毎朝丁寧に梳かないとすぐに絡まる。
礼儀作法にダンス、勉学、何をやらせても要領が悪くて、いつも教育係を困らせる。
そのうえ、女神様の加護もなかった。
(ああ、でも。当たり前ですよね。だって、フレアは主人公だもの)
主人公。
そう思ったとき、熱で朦朧としてエスメの頭に、一気に知らない記憶がなだれこんできた。
(待って。フレア? フレア・オルコット? あの乙女ゲーム『灼熱の乙女は愛に溺れる』の主人公!)
灼熱の乙女は愛に溺れる。
ブラック企業のOLだったエスメが、ストレスで眠れない夜、ずっとプレイしていたゲームである。
終わらない仕事、給料の出ない時間外労働、上司からのハラスメントの数々。
もう何もかもがつらくて、苦しくて、遠い世界の可愛い女の子になって、誰かに大事にされたかったのだ。
誰のルートでも、ハッピーエンドしか用意されていない異色のゲームだった。
そのことで賛否両論巻き起こっていたらしいが、確実に幸せな結末を迎えられるという意味で、ゲームに不慣れな自分でも手を出しやすかったのだ。
(ブラック企業? OL? そう。そうだ。私は)
どうしてか、ゲームに存在しないはずの、主人公フレアの姉として転生していたのだ。
知らないはずの人生。
現代を生きていた成人女性の記憶に、ぱたっと、エスメは気絶してしまった。
「お、お姉様‼ いやあ、死なないで‼」
フレアがぎゃんぎゃん泣いている声だけが、いやに頭に残っていた。
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