どうしても、あなたの犬になりたい! 美貌の王子が溺愛したのは、内気な落ちこぼれ令嬢でした。

湖宮つばめ

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第二章

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「あなたの妹君には、まったく興味がない」
「私とフレアを間違えているのでは?」
 そう言いつつも、エスメ自身、分かっていた。
(誰が見ても、私とフレアを見間違うはずがない)
 双子と言いながらも、まるで似ていないのだ。
 エスメは門の前に捨てられていた、と意地の悪い親戚たちが言っていたことも知っている。
 もちろん、父はそれを否定した。
 エスメ自身も、両親の子どもであり、フレアの双子の姉であることは疑っていない。
 それでも、そんな風に言われてしまうほど、エスメはオルコット家にとって異物だった。
「惚れた女の見分けがつかないほど、俺の目が節穴だと。そう、お思いか?」
「そんな! そんなことは、決して」
「では、素直に受け入れてほしい。俺は、あなたの婿になるのだ、と。――それに、婿を取らなければ、と、あなたも困っていたはずだ」
「王太子殿下……」
「グレイ。あなたは、すぐに俺の名を忘れてしまうらしい」
「グレイ様ではなく、オルコットの親戚から、きっと適当な婿が宛がわれます。あなたが犠牲になる必要はないのです」
「それは認められない。あなたが婿にできるのは、俺だけだ。俺以上の男は現れない」
 それはそうだろう。
 そもそも、王太子――彼の言葉どおりなら王家を離れたそうなので、元・王太子か――よりも、身分の高い婿は現れない。
 グレイが婿入りを願った時点で、他の候補は手を挙げられないのだ。
「あなたの婿になることは、俺の武勲に対する報いでもある。陛下からの」
「国王陛下に、そんなものを願ったのですか? 私への婿入りなど」
 エスメの声は震えてしまった。
 終戦の立役者。
 いずれ、救国の英雄と呼ばれる人。
 そんな王太子には、その武勲にふさわしい報償が与えられてしかるべきだ。
 エスメへの婿入りでは、とうてい、彼の功績に報いるには足りない。
「そんなもの? 俺の一番の望みを叶えていただいた。あなた自身であっても、あなたを貶めるような言葉は許せないな」
 グレイはいかにも不満です、と言わんばかりに、眉をつりあげた。
 そういった表情をすると、どこか少年のような幼さが感じられた。まだ、たった十七歳の青年なのだ。
 エスメよりも、二歳も年下の男の子だ。
「いけません。グレイ様、あなたにとって一番ふさわしい伴侶が、どのような方なのか、もう一度、お考えになってください。一時の気の迷いに従ってはなりません」
 エスメは小さく息を吸ってから、年下の子に語りかけるように、優しく言った。
「……あなたの唇は、熟れた莓のようだな。口づけても良いか?」
「グレイ様⁉ 私の話を聞いていらっしゃいますか?」
「あなたの話は聞いている。だが、俺の心は、もう決まっているうえ、すでに引き返せるような段階ではない。言っただろう? 必要な手続きは、すべて終わっている、と。優しいエスメ。あなたは突き放せるのか? もう後戻りはできない俺のことを」
「そのように、言われてしまったら」
「俺のことが嫌いだろうか? 一目見ただけで、こんな男とは番えない、と吐き気がする。それくらい嫌か?」
「いいえ! グレイ様のことを、そのようには」
「では、俺を婿として迎えてくれるんだな。ありがとう、エスメ。あなたが好きだ。俺の可愛い人。あなたの婿になれるなんて、俺はきっと、この国一番の果報者だ」
 グレイはそう言って、エスメの髪を指ですくった。
 それから、何度もエスメの髪に口づけを落とした。

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