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第二章
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どう考えても、あの王太子がエスメなどの婿になるわけがない。
エスメは重たい瞼を開けた。
どれくらい気を失っていたか分からないが、どうやらベッドに寝かせられているらしい。
「ああ、良かった。目が覚めたのだな、可愛い人」
太陽みたいにきらきらとした笑みを浮かべる美青年が、エスメの顔を覗き込んできた。
エスメは、もう一度、気を失いたくなった。
「お、王太子殿下。どうして、こちらに」
「殿下など他人行儀な。どうぞ、グレイ、と。あなたの婿だ」
「……その、婿、というのは?」
あれはエスメの夢ではなかったらしい。
「すでに国王陛下からの許しは得ている。俺は、王太子の座を下りて、あなたの婿として、このオルコット領を守ることになった」
「申し訳ありません。少々、理解が追いついておりません」
「戦争がなくても、オルコット領は、この国にとっても大事な場所だろう。だから、俺があなたの婿となることになった」
「我が領地の一部が、隣国との争いにおいて、重要な場所にあったことは存じております。戦時中でなくても、大事な土地だ、と言っていただけるのも光栄に思います。ですが、王太子殿下に婿にきていただけるような」
「もう王太子ではない」
「失礼しました。グレイ殿下のような」
「もう殿下でもない」
「グレイ様のような方とは、とても釣り合いがとれません。それに、あなたは戦争を終わらせてくださった英雄でもあるのですから」
隣国との終戦や和平条約は、王都からの援軍によって結ばれたのだ。
その援軍を率いていたのが、女神の加護を持っているグレイだった。
(たしか。後後になって、救国の英雄、と言われるのでしたよね)
「英雄など大げさだな。あなたの婿になりたいだけの、ただの男だ」
「婿。その婿というのも。あなたが婿になってくださるのであれば、私ではなく妹のフレアの方がよろしいのではないでしょうか?」
「エスメ。あなたが長子だろう?」
「双子ですから、そのあたりは後でいくらでも。私は、フレアと違って、女神様の加護がないのです。何のお力にも」
「なるほど。分かった。俺も回りくどいことを言うのは止める。そもそも性に合わないからな。そういうのはサフィールの仕事だ」
「グレイ様?」
「あなたに惚れている。あなたの伴侶になりたかったので、俺の取れるいちばん早い方法で、あなたのもとに馳せ参じた」
エスメの右手を、グレイは強く握ってきた。痛いくらいだった。
「フレアではなく? あの子は、オルコットの薔薇姫です。他の方の女神の加護を強める、という特別な加護を持っています。それでフレアを見初めたのでしょう?」
見初めた、と言ってほしかった。
そうでなくては、あの乙女ゲームの物語が始まらない。
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