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第五章
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この国の社交シーズンは、秋、と決まっている。
建国の女神様の誕生を祝う一連の行事が、秋に行われるからだ。
それに合わせて、秋の間は、地方にいる貴族たちも、王都のタウンハウスで過ごす。
辺境伯であるオルコット家も、王都にタウンハウスを持っており、エスメたちの父も、存命のときは社交界に顔を出していたことも知っている。
エスメもフレアも、父の意向で、今まで社交界に顔を出したことはなかったが。
「お姉様、素敵!」
夜会のためにドレスアップしたエスメを見て、フレアは早口でまくし立てる。
「フレアこそ、とっても美しいですよ」
そう言ったフレアこそ、髪の色と同じ真っ赤なドレスが良く似合う。
「私よりもお姉様よ。お姉様こそ、この国いちばんの美女! 悔しいですけど、あの人、お姉様にぴったりのものを選ぶセンスだけは褒めてさしあげるわ」
エスメのドレスは、目の色に合わせた、淡いグリーンのドレスだ。
腰元から裾にかけて花びらを重ね合わせたような、繊細なデザインだった。
とはいえ、繊細だけでは終わらず、胸元には大輪の薔薇の刺繍がされている。
きっと、エスメの世話をしている薔薇を思って、グレイはこの刺繍のある生地をつかって、ドレスを仕立ててくれたのだろう。
「御仕度が終わりましたので、グレイ様をお呼びしてまいります」
「ありがとう。マリー」
エスメとフレアの世話をするために、王都のタウンハウスまで着いてきてくれた侍女のマリーは、そう言って、部屋の外に向かった。
「エスメ! なんて美しい」
マリーと入れ替わるように、グレイがやってくる。
別室で仕度をしていたグレイの姿に、エスメは頬を赤く染めた。
正装に身を包んだ彼は、まさしく王子様だった。
深みのある銀髪は、いつもと違って丁寧になでつけられている。その銀髪は、ミッドナイトブルーのジャケットにも、中に着ている白いシャツやウエストコートにも、よく映えていた。
きっと、誰が見ても、目を逸らさずにはいられない。
まるで物語から飛び出してきたかのような姿に、エスメは見蕩れてしまった。
「格好、良いです」
思っていたことが、口から出てしまった。
「格好良いか⁉ そうか、それは良かった。あなたに恥をかかせるわけにはいかないからな。いつもより気合いを入れてみた」
「グレイ様は、いつも格好良くて、素敵、です」
「~~っ! フレア嬢、聞いたか?」
「聞こえましたわ、腹立たしいことに! でも、私だって、お姉様に美しい、と褒めていただいたもの!」
「そ、そこは張り合うところでは。どちらも、私の大事な人ですもの」
エスメは苦笑して、妹と夫のことをなだめる。
それから、三人は夜会に向かうため、タウンハウスを出て馬車に乗り込んだ。
建国の女神様の誕生を祝う一連の行事が、秋に行われるからだ。
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エスメもフレアも、父の意向で、今まで社交界に顔を出したことはなかったが。
「お姉様、素敵!」
夜会のためにドレスアップしたエスメを見て、フレアは早口でまくし立てる。
「フレアこそ、とっても美しいですよ」
そう言ったフレアこそ、髪の色と同じ真っ赤なドレスが良く似合う。
「私よりもお姉様よ。お姉様こそ、この国いちばんの美女! 悔しいですけど、あの人、お姉様にぴったりのものを選ぶセンスだけは褒めてさしあげるわ」
エスメのドレスは、目の色に合わせた、淡いグリーンのドレスだ。
腰元から裾にかけて花びらを重ね合わせたような、繊細なデザインだった。
とはいえ、繊細だけでは終わらず、胸元には大輪の薔薇の刺繍がされている。
きっと、エスメの世話をしている薔薇を思って、グレイはこの刺繍のある生地をつかって、ドレスを仕立ててくれたのだろう。
「御仕度が終わりましたので、グレイ様をお呼びしてまいります」
「ありがとう。マリー」
エスメとフレアの世話をするために、王都のタウンハウスまで着いてきてくれた侍女のマリーは、そう言って、部屋の外に向かった。
「エスメ! なんて美しい」
マリーと入れ替わるように、グレイがやってくる。
別室で仕度をしていたグレイの姿に、エスメは頬を赤く染めた。
正装に身を包んだ彼は、まさしく王子様だった。
深みのある銀髪は、いつもと違って丁寧になでつけられている。その銀髪は、ミッドナイトブルーのジャケットにも、中に着ている白いシャツやウエストコートにも、よく映えていた。
きっと、誰が見ても、目を逸らさずにはいられない。
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「格好良いか⁉ そうか、それは良かった。あなたに恥をかかせるわけにはいかないからな。いつもより気合いを入れてみた」
「グレイ様は、いつも格好良くて、素敵、です」
「~~っ! フレア嬢、聞いたか?」
「聞こえましたわ、腹立たしいことに! でも、私だって、お姉様に美しい、と褒めていただいたもの!」
「そ、そこは張り合うところでは。どちらも、私の大事な人ですもの」
エスメは苦笑して、妹と夫のことをなだめる。
それから、三人は夜会に向かうため、タウンハウスを出て馬車に乗り込んだ。
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