24 / 47
辺境伯について
しおりを挟む
辺境伯に王女の降嫁の話があると聞いた理緒が真っ先に考えたのは、ルイとその母親の事だった。今のところ辺境伯はルイを後継者だと公言していたが、王女が降嫁するとなれば状況は変わってくるのではないか…そしてそれがいい方向に向くとは限らないと容易に予想出来たからだ。
「そうよねぇ…王女様ははっきしりた性格の方だって噂だし、自分のお子様を次期後継者にと思われても不思議じゃないわよね」
「そう、だよね…」
「でもまぁ、辺境伯様は大層美形でいらっしゃるし、領主になられる前は王都の騎士団にいらっしゃったのだから、案外王女様とも顔見知りだったかもね」
「え?そうなの?」
「やだ、リオったら知らなかったの?」
「う、うん…と言うか、ルイ様を助けるまでは領主様なんて雲の上の人だったし…」
「あ~そっかぁ、それもそうよね」
「うん。ねぇ、辺境伯ってどんな人?」
そう言えば第一印象が悪過ぎて全く興味を持てなかったな…と理緒は自分が雇い主について何も知らない事に気付いた。まぁ、ここを辞めればもう接点はないが、聞いてみようという気になったのは、領主がどういう人となりかを知っておいた方がいいかもしれないと思ったからだ。この世界は領主の気持ち一つで、税金や法律が変わるのだ。あんまり性格がよくないなら、違う地に引っ越すのもありかもしれない、との懸念が理緒にはあった。
「今の辺境伯様は次男で、元々は領主になる予定はなかったの。でも、昨年、辺境伯様のお兄様で前辺境伯様がお亡くなりになって…」
侍女たちの話では辺境伯には兄がいて、名をブライアンと言った。既に辺境伯を継いでいて、ルイの母親との間にはルイを含めた三人の子供がいたという。ブライアンは明朗で公明正大な人物で、領民からの信頼も期待も高かったが、一年前に馬車の事故で亡くなったという。雨の日の移動中、ぬかるみに車輪を取られた馬車が道を外れて横転し、下敷きになったのだ。
この事故でルイとその母以外の三人は亡くなり、次男のアルバートは急遽騎士団を辞めて帰郷し、兄に跡を継いだのだという。
王都でのアルバートは、王立騎士団に所属し、辞めた当時は第一騎士団の副団長を務めていたという。次男だったため十三の年に王都に出て騎士団に入団し、順調に力を付けて出世していた。父親はいずれ次男に辺境伯領の騎士団を任せるつもりで、政は兄、騎士団は弟と分散して兄の負担を減らし、この地で強力な体制を敷く予定だったのだ。
だが、兄の死でその予定は変更を余儀なくされ、アルバートは一人でこの地を治めているが、まだ日が浅いのもあって余裕がないらしい。
ちなみに女性関係では、あんなにも美形でモテそうなのだが、浮ついた話は全くないという。元より外見で寄ってくる女性に不信感が強かったらしく、若干女性不信気味なのだろうと言うのが侍女たちの見解だった。
中には兄嫁のコーデリアに懸想しているのでは?との声まであったが、これは自身が結婚する前にルイを後継者にと公言した事と、未だにコーデリアを屋敷に住まわせているのが理由らしい。基本的にこの様な場合は、先代の家族は別邸に移るし、後継者もアルバートの実子が優先されるからだ。
「まぁ、仮に辺境伯様がコーデリア様を好きでも、結婚は出来ないからねぇ…」
「え?そうなの?」
「やだ、リオったらそんな事も知らないの?兄や弟の妻をその兄弟が娶るのは禁止じゃない」
「あ、そうだっけ…」
「もう、リオってば世間知らずなだけじゃなくうっかり者よねぇ」
「ごめんごめん、周りでそんな話聞いた事なかったから」
思わず出た質問を不審がられたように感じた理緒は、内心大きく動揺しながらも誤魔化す様に苦笑いを浮かべた。こんな些細な会話でも、自分の常識とこの世界の常識が違うため気を使わざるを得ないのだ。下手に疑われては身の危険に至る可能性もあり、いつもは聞き手に回っていた理緒だったが、この日はルイの事が気になってつい会話に加わってしまった。幸いにもエミーはいつものうっかりで流してくれたようだった。
「そう?まぁでも、コーデリア様は再婚禁止だしね」
「……」
「そうねぇ。貴族って平民より縛りが多くて大変だわ~」
「そうそう。そう思うと、お気楽な平民でよかったかもね」
「ちがいない」
下手に質問して、世間知らずを通り越して不審がられないかと不安を感じた理緒は、侍女たちの会話に耳を傾けるだけにした。どうやら貴族の後継者の妻は夫が亡くなった後は再婚出来ないらしい。となると、ルイの母親が義弟のアルバートと再婚…も無理なのだろう。案外いい案ではないかと思ったが、その考えは秒で却下されてしまった。
でも今は王女の降嫁の話が出ているだけに、他の縁談が割り込む可能性は皆無だろう。王女と結婚した場合はルイが不遇に落とされる可能性もあり、理緒は気分が沈むのを止める事が出来なかった。やっと笑顔で過ごせるようになったのに…と思うが、案外別邸で母子共に暮らせるのなら、それも有ではないか?と言う気もする。
だが、理緒はこの件に関して考えるのをやめた。ただの雇われ子守の理緒には意見を言える立場ですらないと思い至ったからだ。
「そうよねぇ…王女様ははっきしりた性格の方だって噂だし、自分のお子様を次期後継者にと思われても不思議じゃないわよね」
「そう、だよね…」
「でもまぁ、辺境伯様は大層美形でいらっしゃるし、領主になられる前は王都の騎士団にいらっしゃったのだから、案外王女様とも顔見知りだったかもね」
「え?そうなの?」
「やだ、リオったら知らなかったの?」
「う、うん…と言うか、ルイ様を助けるまでは領主様なんて雲の上の人だったし…」
「あ~そっかぁ、それもそうよね」
「うん。ねぇ、辺境伯ってどんな人?」
そう言えば第一印象が悪過ぎて全く興味を持てなかったな…と理緒は自分が雇い主について何も知らない事に気付いた。まぁ、ここを辞めればもう接点はないが、聞いてみようという気になったのは、領主がどういう人となりかを知っておいた方がいいかもしれないと思ったからだ。この世界は領主の気持ち一つで、税金や法律が変わるのだ。あんまり性格がよくないなら、違う地に引っ越すのもありかもしれない、との懸念が理緒にはあった。
「今の辺境伯様は次男で、元々は領主になる予定はなかったの。でも、昨年、辺境伯様のお兄様で前辺境伯様がお亡くなりになって…」
侍女たちの話では辺境伯には兄がいて、名をブライアンと言った。既に辺境伯を継いでいて、ルイの母親との間にはルイを含めた三人の子供がいたという。ブライアンは明朗で公明正大な人物で、領民からの信頼も期待も高かったが、一年前に馬車の事故で亡くなったという。雨の日の移動中、ぬかるみに車輪を取られた馬車が道を外れて横転し、下敷きになったのだ。
この事故でルイとその母以外の三人は亡くなり、次男のアルバートは急遽騎士団を辞めて帰郷し、兄に跡を継いだのだという。
王都でのアルバートは、王立騎士団に所属し、辞めた当時は第一騎士団の副団長を務めていたという。次男だったため十三の年に王都に出て騎士団に入団し、順調に力を付けて出世していた。父親はいずれ次男に辺境伯領の騎士団を任せるつもりで、政は兄、騎士団は弟と分散して兄の負担を減らし、この地で強力な体制を敷く予定だったのだ。
だが、兄の死でその予定は変更を余儀なくされ、アルバートは一人でこの地を治めているが、まだ日が浅いのもあって余裕がないらしい。
ちなみに女性関係では、あんなにも美形でモテそうなのだが、浮ついた話は全くないという。元より外見で寄ってくる女性に不信感が強かったらしく、若干女性不信気味なのだろうと言うのが侍女たちの見解だった。
中には兄嫁のコーデリアに懸想しているのでは?との声まであったが、これは自身が結婚する前にルイを後継者にと公言した事と、未だにコーデリアを屋敷に住まわせているのが理由らしい。基本的にこの様な場合は、先代の家族は別邸に移るし、後継者もアルバートの実子が優先されるからだ。
「まぁ、仮に辺境伯様がコーデリア様を好きでも、結婚は出来ないからねぇ…」
「え?そうなの?」
「やだ、リオったらそんな事も知らないの?兄や弟の妻をその兄弟が娶るのは禁止じゃない」
「あ、そうだっけ…」
「もう、リオってば世間知らずなだけじゃなくうっかり者よねぇ」
「ごめんごめん、周りでそんな話聞いた事なかったから」
思わず出た質問を不審がられたように感じた理緒は、内心大きく動揺しながらも誤魔化す様に苦笑いを浮かべた。こんな些細な会話でも、自分の常識とこの世界の常識が違うため気を使わざるを得ないのだ。下手に疑われては身の危険に至る可能性もあり、いつもは聞き手に回っていた理緒だったが、この日はルイの事が気になってつい会話に加わってしまった。幸いにもエミーはいつものうっかりで流してくれたようだった。
「そう?まぁでも、コーデリア様は再婚禁止だしね」
「……」
「そうねぇ。貴族って平民より縛りが多くて大変だわ~」
「そうそう。そう思うと、お気楽な平民でよかったかもね」
「ちがいない」
下手に質問して、世間知らずを通り越して不審がられないかと不安を感じた理緒は、侍女たちの会話に耳を傾けるだけにした。どうやら貴族の後継者の妻は夫が亡くなった後は再婚出来ないらしい。となると、ルイの母親が義弟のアルバートと再婚…も無理なのだろう。案外いい案ではないかと思ったが、その考えは秒で却下されてしまった。
でも今は王女の降嫁の話が出ているだけに、他の縁談が割り込む可能性は皆無だろう。王女と結婚した場合はルイが不遇に落とされる可能性もあり、理緒は気分が沈むのを止める事が出来なかった。やっと笑顔で過ごせるようになったのに…と思うが、案外別邸で母子共に暮らせるのなら、それも有ではないか?と言う気もする。
だが、理緒はこの件に関して考えるのをやめた。ただの雇われ子守の理緒には意見を言える立場ですらないと思い至ったからだ。
2
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない
みん
恋愛
精霊に護られた国ルテリアル。精霊の加護のお陰で豊かで平和な国ではあったが、近年ではその精霊の加護も薄れていき、他国から侵略されそうになる。戦いを知らない国王は、スネフリング帝国に助けを求めるが、その見返りに要求されたのは──。
精霊に護られた国の王女として生まれたにも関わらず、魔力を持って生まれなかった事で、母である王妃以外から冷遇されているカミリア第二王女。このカミリアが、人質同然にスネフリング帝国に行く事になり─。
❋独自設定有り。
❋誤字脱字には気を付けていますが、あると思います。すみません。気付き次第修正していきます。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる