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酒は飲んでも呑まれるな
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「ん…」
ふわふわの寝心地に、美緒は思わず頬ずりした。頬に接するリネンは滑らかで肌触りがよく、しつこさや嫌味のない清潔感のある香りが心地よかった。僅かに目を開けると、白い壁に白い天井、そして差し込む柔らかな光が映った。
(…どう考えても…私の安アパートじゃないよねぇ…)
夢かなぁ…だとしたらいい夢だなぁ…と思って三秒経ったところで、美緒の意識は一気に覚醒した。慌てて飛び起きると、そこは美緒の物の三倍くらいの大きさはあるだろうベッドの上だった。身に覚えのない部屋は、家具や建具一つをとっても高級そうな気配がする。
(何…ここ…どこ…?)
暫く呆然と周りを見渡していた美緒だったが、ふと違和感を覚えて自分に目を向けた。
「嘘…!」
視線の先には、全く身に覚えのないダボダボのTシャツ一枚だけ着た自分がいて、美緒の混乱は最高潮に達した。恐る恐るTシャツの下を確認すると、幸いも下着はちゃんとつけていて、それだけで驚くほど安堵感に包まれた。だが、ここはどこなのか、どうしてここにいるのかが全く思い出せない。美緒は座り込んだまま、最後の記憶を手繰り寄せた。
昨日美緒は、朱里に頼まれて大石とのデートのカモフラージュ要員として小林と一緒に水族館に行った。うん、そこは覚えている。水族館を後にしたのは…午後三時半頃だったろうか…六時前には解散になって、小林に今日の分の報酬だと言われてお寿司屋さんに連れて行かれた。確かその時美緒は、朱里の依頼で出かけたのに、報酬の同行者が小林とはどういう事だと言ったのだが、朱里と大石はこの後もデートなんだから野暮な事言うなと小林に言われてしまい、今一つ納得できないまま連れていかれたのだ。
そうは言っても、連れていかれたお寿司屋さんは最高に美味しかった。多分、美緒なんぞ一生入れないだろう高級店。お寿司のネタも最高だったが、そこで出された日本酒も格別だった。ビバ、大将!いい仕事してる!と心の中で小躍りしたのは誰にも内緒だ。そこで調子よく飲んだところまでは覚えているが…その後、どうやって店を出たのか、一ミリも記憶に残っていなかった。
「ああ、起きたのか」
記憶を辿るのに夢中だった美緒は、急に後ろからかけられた声に飛び上がらんばかりに驚いた。声の主に覚えはあるが振り返ってはいけないような気がして、美緒はそこから動けなかった。どうしよう…どうする…どうしたら…と一人頭の中で意味のない活用形を唱えながら、嫌な汗が流れるのを感じた。
「おい、どうした?大丈夫か」
「ひぃい…!」
いつの間にか小林が正面に来ていて、思いっきり顔を覗き込まれた瞬間、美緒は飛びあがって後退った。何か言おうにも声が出なくて、鯉のように口をパクパクさせるしか出来ない。そんな美緒の様子に、小林も呆れたのか眉間にしわを深めるのが見えた。うん、イケメンだとこんな表情も絵になるな…などと思ったのは、多分意識が正常じゃなかったからだろう…
「危ない!」
「はえ?」
小林の焦った声が聞こえたと思った瞬間、美緒の視界が急転した。それと同時に鈍い音がして、背中と頭に痛みを感じた。
「…痛い…」
「当たり前だろうが…ったく…それで?二日酔いは?」
「…そっち…は大丈夫…と思う…」
あれから美緒はリビングに移動させられて、いかにも高級ですと言わんばかりのソファに座って、タオルを巻いた保冷剤で後頭部を冷やしていた。この部屋の家賃一体いくらだよ…社長の息子はそんなに給料がいいのかよ…と心の中で毒付いていたが、それは自分の失態からの現実逃避の様なものだった。
あの後美緒は、後ずさりし過ぎてベッドから転がり落ちたのだ。お陰で背中と後頭部とお尻をしっかりとぶつけてしまい、頭にはしっかりたんこぶが出来てしまった。しかもベッドと壁の隙間に落ちてしまったせいで、自力で抜け出す事が出来ず小林に助けて貰ったというおまけつき。羞恥プレイでしかない状況に、恥ずかしすぎて泣きたい気分だった。もちろん、人前で泣けるほど可愛げのある性格ではないのだが…
「ほら、とりあえず飲めよ」
「なに?」
「ああ?ミルクティーだよ。朝は温かい方がいいだろう?今飯作ってるからもう少し待ってろ」
そう言い残してキッチンに戻った小林は、Tシャツに短パンという極めてラフな格好の上に黒のエプロンを付けただけだったが、悔しいほどに様になっていた。こんな格好でもかっこよく見えるなんてイケメンずるい…と思う。
ただ、自分の数々の失態もあってか、イケメンのレアな姿を鑑賞するだけの余裕は今の美緒にはなかった。もう恥ずかしすぎて死にたい気分だし、昨日の自分を消し去りたかった。
(美味しい…)
温かいミルクティーを一口飲んだ美緒は、その味を嬉しく感じながらも、素直に口には出せなかった。
昨夜の事は、さっき小林からある程度話を聞かされた。聞いたが全く記憶になく、相当酔って前後不覚になっていた、という事だけはわかった。小林の話では、何とかタクシーに乗せたまではよかったが、車が走り出すと直ぐに寝てしまい、何度起こそうとしても目を覚まさないため、仕方なく小林の家に連れて帰ったとの事だった。
ちなみにTシャツに着替えていたのは、小林が目を離したすきにワンピースを自分で脱いでいたらしく、さすがにこれはマズイだろうとTシャツを着せてくれたのだと言う。それを聞いた時には、本気で死にたくなったし、合わせる顔がないから会社も辞めたい、と切に思った。
その後、もう少し危機意識を持てと散々小林に説教をされてしまい、言い返す言葉もなく、ひたすら平身低頭で謝るしか出来なかった。非常に申し訳ないとは思うのだが、何だか弱みを握られたような気分になった美緒は、恥ずかしさなどの諸々の感情を誤魔化す様に不貞腐れるしかなかった。
「ほらよ。簡単なもんで悪いけど…」
「いえ…こっちこそ…お手間かけてごめん…」
出てきた朝食を前に、美緒は更に身の置き所のない気分に陥った。昨夜散々迷惑をかけた上に、朝ご飯まで出して貰っている自分って…と益々惨めな気分になったのだ。その気分を助長したのは、出された朝食にもあった。焼きたてのトーストに、ネギと卵のスープ、スクランブルエッグ、レタスとハムとミックスベジタブルのサラダ、そしてミルクティーだ。美緒ですら急な来客があったとして、ここまでの朝食を出せる自信はなかった。イケメンなのに料理まで出来るなんて…と、美緒の自己嫌悪は更に深まるのを感じた。
「……」
「…何だ?」
一通りの料理を口にした美緒は思わず眉をしかめてしまったが、それを小林に気付かれてしまった。気まずい…気まずい事この上ない…
「いや、美味しいな…と、思って…」
そう、悔しい事に出されたものはどれも美味しかった。イケメンってだけでも狡いのに、その上料理も上手いって反則だろう…と思う。正直言って美緒は、こんなプライベートの事まで知りたくはなかった。イケメンは観賞用と割り切っていたから、それ以上の情報は不要だったのだ。そう、アイドルもそうだが、ハマるほど興味を持ちたくはない、というのが美緒のスタンスだった。いや、アイドルならまだいい、完全に異世界人だから。だが、目の前のイケメンは性格に難ありだとしても、美緒にとって理想的な外見を持ち、手を伸ばせば届く距離にいる。美緒の中の何かが危険だと警告していた。
「そうか?でも無理すんなよ。気持ち悪いのに食べると吐くぞ」
「あ、うん…」
何だかもう、色々あり過ぎて食欲がないのは確かだった美緒は、二日酔いという事にする事にした。凄く気まずいし、とにかく食べたら直ぐに帰ろう。そして朱里のデートのカモフラージュも出来るだけやめよう、少なくとも小林と食事は二度と行かないでおこうと心に誓った。
「片づけはいいから、シャワー浴びて来いよ」
食事が終わり、せめて片付けくらいはしようと食器を持って立ち上がった美緒は、小林からそう告げられて面食らった。いやいや、異性の家でシャワーとかありえないだろう。
「いや、さすがにそれは…」
「だけど、化粧落とさず寝たからひでぇ事になってるぞ」
これ以上ここに留まりたくない美緒だったが、そう言われて返す言葉がなった。髪も寝ぐせになってるし、それで外歩く気か?と言われると、そこまで酷いのかと不安になってきた。大雑把でがさつな美緒ではあるが、さすがにまだ恥じらいまでは捨てられなかったのだ。それに昨日は暑くてかなり汗をかいたし、さっきも散々嫌な汗をかいただけに、本音を言えばシャワーを浴びたかったのだ。
服は昨日、ブティックに行くまで来ていた服がそのまま残っていたし、下着は入る前に手洗いして乾燥機に入れておけば、上がるまでには乾いてるだろうと言われたため、美緒は素直にそれに従った。異性の部屋であるまじき行為だとは思うが、小林は平然としていたし、美緒も一々騒ぐと意識しているように思われる様な気がして何も言えなかった。第一、奴には片思いの相手がいるのだから、自分に手を出す愚行に走る事はないだろう。
(はぁ、もう最悪…)
身から出た錆ではあるが、さすがにこの展開は美緒を大いに落ち込ませた。今まで飲み過ぎて前後不覚になった事などなかったからだ。美緒は小柄で151センチと小学生並みの身長しかないが酒には強かったため、昨日の量で酔いつぶれるだろうか…と正直思うのだ。しかもそれを小林に介抱されるとか、精神的に色んなものが抉られる気分だった。
(とにかく、シャワーから上がったら直ぐに帰ろう)
これ以上の失態を晒す前に帰ろう。そう固く誓った美緒は、気を引き締めるように熱いシャワーを頭から被った。
ふわふわの寝心地に、美緒は思わず頬ずりした。頬に接するリネンは滑らかで肌触りがよく、しつこさや嫌味のない清潔感のある香りが心地よかった。僅かに目を開けると、白い壁に白い天井、そして差し込む柔らかな光が映った。
(…どう考えても…私の安アパートじゃないよねぇ…)
夢かなぁ…だとしたらいい夢だなぁ…と思って三秒経ったところで、美緒の意識は一気に覚醒した。慌てて飛び起きると、そこは美緒の物の三倍くらいの大きさはあるだろうベッドの上だった。身に覚えのない部屋は、家具や建具一つをとっても高級そうな気配がする。
(何…ここ…どこ…?)
暫く呆然と周りを見渡していた美緒だったが、ふと違和感を覚えて自分に目を向けた。
「嘘…!」
視線の先には、全く身に覚えのないダボダボのTシャツ一枚だけ着た自分がいて、美緒の混乱は最高潮に達した。恐る恐るTシャツの下を確認すると、幸いも下着はちゃんとつけていて、それだけで驚くほど安堵感に包まれた。だが、ここはどこなのか、どうしてここにいるのかが全く思い出せない。美緒は座り込んだまま、最後の記憶を手繰り寄せた。
昨日美緒は、朱里に頼まれて大石とのデートのカモフラージュ要員として小林と一緒に水族館に行った。うん、そこは覚えている。水族館を後にしたのは…午後三時半頃だったろうか…六時前には解散になって、小林に今日の分の報酬だと言われてお寿司屋さんに連れて行かれた。確かその時美緒は、朱里の依頼で出かけたのに、報酬の同行者が小林とはどういう事だと言ったのだが、朱里と大石はこの後もデートなんだから野暮な事言うなと小林に言われてしまい、今一つ納得できないまま連れていかれたのだ。
そうは言っても、連れていかれたお寿司屋さんは最高に美味しかった。多分、美緒なんぞ一生入れないだろう高級店。お寿司のネタも最高だったが、そこで出された日本酒も格別だった。ビバ、大将!いい仕事してる!と心の中で小躍りしたのは誰にも内緒だ。そこで調子よく飲んだところまでは覚えているが…その後、どうやって店を出たのか、一ミリも記憶に残っていなかった。
「ああ、起きたのか」
記憶を辿るのに夢中だった美緒は、急に後ろからかけられた声に飛び上がらんばかりに驚いた。声の主に覚えはあるが振り返ってはいけないような気がして、美緒はそこから動けなかった。どうしよう…どうする…どうしたら…と一人頭の中で意味のない活用形を唱えながら、嫌な汗が流れるのを感じた。
「おい、どうした?大丈夫か」
「ひぃい…!」
いつの間にか小林が正面に来ていて、思いっきり顔を覗き込まれた瞬間、美緒は飛びあがって後退った。何か言おうにも声が出なくて、鯉のように口をパクパクさせるしか出来ない。そんな美緒の様子に、小林も呆れたのか眉間にしわを深めるのが見えた。うん、イケメンだとこんな表情も絵になるな…などと思ったのは、多分意識が正常じゃなかったからだろう…
「危ない!」
「はえ?」
小林の焦った声が聞こえたと思った瞬間、美緒の視界が急転した。それと同時に鈍い音がして、背中と頭に痛みを感じた。
「…痛い…」
「当たり前だろうが…ったく…それで?二日酔いは?」
「…そっち…は大丈夫…と思う…」
あれから美緒はリビングに移動させられて、いかにも高級ですと言わんばかりのソファに座って、タオルを巻いた保冷剤で後頭部を冷やしていた。この部屋の家賃一体いくらだよ…社長の息子はそんなに給料がいいのかよ…と心の中で毒付いていたが、それは自分の失態からの現実逃避の様なものだった。
あの後美緒は、後ずさりし過ぎてベッドから転がり落ちたのだ。お陰で背中と後頭部とお尻をしっかりとぶつけてしまい、頭にはしっかりたんこぶが出来てしまった。しかもベッドと壁の隙間に落ちてしまったせいで、自力で抜け出す事が出来ず小林に助けて貰ったというおまけつき。羞恥プレイでしかない状況に、恥ずかしすぎて泣きたい気分だった。もちろん、人前で泣けるほど可愛げのある性格ではないのだが…
「ほら、とりあえず飲めよ」
「なに?」
「ああ?ミルクティーだよ。朝は温かい方がいいだろう?今飯作ってるからもう少し待ってろ」
そう言い残してキッチンに戻った小林は、Tシャツに短パンという極めてラフな格好の上に黒のエプロンを付けただけだったが、悔しいほどに様になっていた。こんな格好でもかっこよく見えるなんてイケメンずるい…と思う。
ただ、自分の数々の失態もあってか、イケメンのレアな姿を鑑賞するだけの余裕は今の美緒にはなかった。もう恥ずかしすぎて死にたい気分だし、昨日の自分を消し去りたかった。
(美味しい…)
温かいミルクティーを一口飲んだ美緒は、その味を嬉しく感じながらも、素直に口には出せなかった。
昨夜の事は、さっき小林からある程度話を聞かされた。聞いたが全く記憶になく、相当酔って前後不覚になっていた、という事だけはわかった。小林の話では、何とかタクシーに乗せたまではよかったが、車が走り出すと直ぐに寝てしまい、何度起こそうとしても目を覚まさないため、仕方なく小林の家に連れて帰ったとの事だった。
ちなみにTシャツに着替えていたのは、小林が目を離したすきにワンピースを自分で脱いでいたらしく、さすがにこれはマズイだろうとTシャツを着せてくれたのだと言う。それを聞いた時には、本気で死にたくなったし、合わせる顔がないから会社も辞めたい、と切に思った。
その後、もう少し危機意識を持てと散々小林に説教をされてしまい、言い返す言葉もなく、ひたすら平身低頭で謝るしか出来なかった。非常に申し訳ないとは思うのだが、何だか弱みを握られたような気分になった美緒は、恥ずかしさなどの諸々の感情を誤魔化す様に不貞腐れるしかなかった。
「ほらよ。簡単なもんで悪いけど…」
「いえ…こっちこそ…お手間かけてごめん…」
出てきた朝食を前に、美緒は更に身の置き所のない気分に陥った。昨夜散々迷惑をかけた上に、朝ご飯まで出して貰っている自分って…と益々惨めな気分になったのだ。その気分を助長したのは、出された朝食にもあった。焼きたてのトーストに、ネギと卵のスープ、スクランブルエッグ、レタスとハムとミックスベジタブルのサラダ、そしてミルクティーだ。美緒ですら急な来客があったとして、ここまでの朝食を出せる自信はなかった。イケメンなのに料理まで出来るなんて…と、美緒の自己嫌悪は更に深まるのを感じた。
「……」
「…何だ?」
一通りの料理を口にした美緒は思わず眉をしかめてしまったが、それを小林に気付かれてしまった。気まずい…気まずい事この上ない…
「いや、美味しいな…と、思って…」
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「そうか?でも無理すんなよ。気持ち悪いのに食べると吐くぞ」
「あ、うん…」
何だかもう、色々あり過ぎて食欲がないのは確かだった美緒は、二日酔いという事にする事にした。凄く気まずいし、とにかく食べたら直ぐに帰ろう。そして朱里のデートのカモフラージュも出来るだけやめよう、少なくとも小林と食事は二度と行かないでおこうと心に誓った。
「片づけはいいから、シャワー浴びて来いよ」
食事が終わり、せめて片付けくらいはしようと食器を持って立ち上がった美緒は、小林からそう告げられて面食らった。いやいや、異性の家でシャワーとかありえないだろう。
「いや、さすがにそれは…」
「だけど、化粧落とさず寝たからひでぇ事になってるぞ」
これ以上ここに留まりたくない美緒だったが、そう言われて返す言葉がなった。髪も寝ぐせになってるし、それで外歩く気か?と言われると、そこまで酷いのかと不安になってきた。大雑把でがさつな美緒ではあるが、さすがにまだ恥じらいまでは捨てられなかったのだ。それに昨日は暑くてかなり汗をかいたし、さっきも散々嫌な汗をかいただけに、本音を言えばシャワーを浴びたかったのだ。
服は昨日、ブティックに行くまで来ていた服がそのまま残っていたし、下着は入る前に手洗いして乾燥機に入れておけば、上がるまでには乾いてるだろうと言われたため、美緒は素直にそれに従った。異性の部屋であるまじき行為だとは思うが、小林は平然としていたし、美緒も一々騒ぐと意識しているように思われる様な気がして何も言えなかった。第一、奴には片思いの相手がいるのだから、自分に手を出す愚行に走る事はないだろう。
(はぁ、もう最悪…)
身から出た錆ではあるが、さすがにこの展開は美緒を大いに落ち込ませた。今まで飲み過ぎて前後不覚になった事などなかったからだ。美緒は小柄で151センチと小学生並みの身長しかないが酒には強かったため、昨日の量で酔いつぶれるだろうか…と正直思うのだ。しかもそれを小林に介抱されるとか、精神的に色んなものが抉られる気分だった。
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