【R18】爽やか系イケメン御曹司は塩対応にもめげない

四葉るり猫

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嫌いな理由を聞かれました

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 翌日の土曜日、美緒は朱里と小林、大石の三人と一緒に、車で二時間程の水族館に来ていた。何だかんだ言いつつも友達に頼まれると強く突っぱねられない性分の美緒は、朱里のお願いを無下に出来なかったのだ。決して食べ物に釣られたわけではない。

 この日美緒は、集合後に朱里の行きつけだというブティックに連行された。何事かと困惑している間に店員たちに囲まれて、気が付けばマキシ丈のキャミソールワンピースに、透け感のある黒の短い丈のボレロ、華奢なサンダルに麦わら素材の帽子に着替えさせられていた。ちなみに朱里とは色違いのお揃いコーデだ。

「何で…服まで…」
「ごめんね、美緒。でも、私、本当は姉か妹が欲しかったの。それで、こんな風にお揃いの服を着て出かけたりするのが夢で…」
「そ、そう…」

 どういう事だと思ったが、美緒はそれに関して深く考えるのをやめた。金持ちの考える事はよくわからないし、何よりも朱里がとても嬉しそうだったからだ。それに一人っ子の美緒も、姉妹が欲しいという朱里の気持ちがわかる気がした。
 ちなみに美緒のワンピースの色はスモーキーピンク、朱里はスモーキーグリーンで、色合いは落ち着いているが小花柄がフェミニンさを増していた。ただし、着ている者によってワンピースの印象は酷く違う気がしたが…美緒はそれに関しても早々に考えるのをやめた。どう頑張っても朱里以上に綺麗に着こなせるとは思えなかったからだ。
 ちなみに今日は、小林も大石も会社とは一転して、カジュアルな服装だった。小林はグレー系のTシャツにジーンズと黒のキャップ、大石はポロシャツにスラックス姿で、二人共にサングラスをしていた。一応顔がわからないようにとの配慮だと言っていたが、背が高くて体格もいいだけに、サングラスをしていてもイケメンオーラは隠せていないように美緒には見えた。



 この日の行き先は、一年前にリニューアルして話題になっていた水族館だった。既にリニューアルして一年が過ぎていたせいか、思ったほど混雑していなかった。ただ、同行者が揃って美男美女のせいか、無駄に注目を集めている気がして美緒は落ち着かなかったが…

「おい、あんまりウロウロするなよ」

 朱里と大石から一定の距離を取りながら、二人の後を追う形で水槽を眺めながら歩いていた美緒は、急に腕を取られて躓きそうになった。腕を取ったのは小林で、サングラスをしていてもばっちり目立っているのが何とも小憎たらしい。

「お前、小さいから見つけるの大変なんだよ。あんま離れんな」
「え~ちゃんと朱里たちの近くにいるからいいじゃない」
「よくねぇよ。探す側の身にもなれよ」

 あんたと一緒にいると目立つし、話す事もないんですけど…美緒はそう思ったが、一応上司で未来の副社長様だからと、それは言わずにいた。今日は朱里のために来ているのであって、小林の相手までは引き受けたわけじゃないが、ここで空気を悪くすれば朱里の楽しい一日に水を差しかねなかったからだ。

「誰かに会った時のために、近くにいればいいでしょ」
「仮にいてもわかんねぇよ。それよりそんな風に見張ってたら、あいつらも落ち着かないだろうが。少し離れとけって」
「は?え?ちょっと…」
「普段から周りの目を気にしてるんだ。今日くらい気楽にさせてやれよ」

 小林はそう言うと、美緒の腕をとったまま別方向に歩き始めてしまった。美緒もそう言われてしまうと、確かにそれもそうかも…と思い何も言えなかった。朱里はああ見えて周りに気を使うタイプだから、普段は大石の立場を気にして思うようにふるまえないのは明らかだったからだ。楽しそうに大石に話しかけている朱里の姿に、美緒は渋々ながらも小林のいう事を認めざるを得なかった。

 その後美緒は、何だかんだで小林にあちこち引っ張り回された。小林ははぐれると探すのが面倒だからと手を繋いだまま放してくれなかったため、逃げようがなかったのだ。別行動でいいじゃないか、スマホで連絡を取れば問題ないというが、それだと女が寄ってきて面倒だろうと言う。不本意過ぎて仏頂面の美緒に反して、小林はやけに楽しそうだったのも美緒の癪に障った。



「あんたがさっさと彼女作りゃ、万事解決なんじゃない?」

 あれから小一時間ほどあちこち回った二人は、暑さと喉の渇きに負けて館内の喫茶店に避難していた。エアコンとアップルティーの冷たさが心地いい。ちなみに向かいの席に座った小林はピーチティーを頼んでいた。イメージからするとアイスコーヒー辺りかと思っていたが、意外な事に小林は甘党だった。

「あ~彼女ねぇ…」
「とにかく。朱里と課長のためにも、私の安寧のためにも、さっさと相手見つけてよね」
「お前なぁ…簡単に言うなよ」
「何で?百戦錬磨とか夜の帝王とか言われてたじゃない」
「あれは学生の頃の話だろうが…社会人になってからは誰とも付き合ってねぇよ」
「は?」

 意外な告白に、美緒が目を見開いて小林を見上げた。小林はそんな美緒の態度に、呆れたと言わんばかりに大きくため息をついていた。

「就職してからは遊んでる暇なんかなかったって。親父も兄貴も仕事に関しちゃ鬼だからな。無茶ぶりばっかりしやがるし、周りは社長の息子なんだから出来て当然って態度だし。最初の三年間はろくに寝てなくて記憶ねぇくらいなんだけど」
「それは…お疲れさま?」

 正直、どう声をかけていいのかわからず、美緒はとりあえず労うつもりでそう言ってみたが、そんな事になっていたとは知らなかった。学生時代は授業をサボっているのを見た事もあったから、会社に入ってもそんな感じなのだろうと思っていたのだ。新人研修では卒なく課題をこなしていたから、要領がよくて優秀なのだろうとは思ったが。彼の口から努力という言葉が出るのも意外だった。

「それに、俺、好きな奴いるから」
「…はぁ?」

 予想外の告白に、美緒は呆気にとられた。今、好きな相手がいると言わなかったか?さらっと言われたが、聞き流せる話ではなかった。 

「じゃ…こんなところで油売ってないでさっさと捕まえに行きなさいよ」
「そうは言ってもなぁ…全く俺に興味ないから簡単じゃねぇんだよ…」

 呆れを隠さない美緒に、小林は力なくそう答えた。小林が言うには今のところ全く脈がないらしく、むしろ嫌われている可能性が高いのだという。

「あんたを嫌うとか、珍しい人もいるもんだね」
「お前が言うか、それ。お前もそうだろうが…」
「あ、あ~まぁ、私は仕事でこき使われてるし?あと、やっかみとかで迷惑被ってるからねぇ…」
「…嫌いっての、否定しないのかよ…」
「え?あ、いや、嫌いって程じゃないし。せいぜい苦手?関わりたくない?そんなレベルで…」
「それ…嫌いとどう違うんだ?」
「あ、え…っと…」

 そう言われてようやく、美緒は失敗したと気が付いた。別に嫌っているわけじゃないんだけどな、とは思うが、確かに言われてみるとあんまり変わり映えしないような気がした。ここでまた容易に何かを言っても墓穴を掘りそうな気がした美緒は、何と答えようかと頭をフル回転させた。

「じゃあ、質問。お前は俺のどこが嫌いなんだ?」
「は?」
「お前、俺の事嫌いだろうが。だから、俺を嫌いだって言う理由を教えてくれよ」
「はぁ?何で?」
「いや、嫌われる理由が知りたいから。理由わかんなきゃ、対策のしようもないだろうが…」
「…ああ、そういう事…」

 嫌いだと言っている相手にその理由を聞くとか、こいつ頭おかしいんじゃないかと思った美緒だったが、要は好きな子が自分を嫌う理由が知りたいから参考に教えろという事か、と美緒は合点した。別に嫌っているわけじゃないんだけど…とは思ったが、このままじゃいつまで経っても平安が訪れないと思った美緒は正直に話す事にした。

「最初に言っておくけど、別に嫌ってるわけじゃないから」
「わかった、とにかく頼む」

 念のためにそう前置きをしてから、美緒は小林を苦手とする理由を思いつく限り上げた。学生時代女にだらしなかったところが今でも気持ち悪く感じる事、仕事で無理難題を押し付けてくる事、小林の補佐になったせいで嫌がらせを受けている事、未だに父親の名字で呼ぶ事…
 具体的に上げてみるとそれほど多くなかったな、と美緒は意外に思った。それに嫌がらせは小林のせいではないし、二つ目と四つ目は改善してくれればいいだけの話だ。

「意外と嫌いな理由、大した事なかったかも…」
「なんだよそれ…本人目の前にして言う事か?」
「え?あ~確かに。でも、顔は好きなんだけどねぇ…」
「は?」
「いや、顔だけなら好みど真ん中って事。鑑賞用としては最高級品。まぁ、それも相殺されてプラマイゼロって感じだけどね」

 嫌いを前提に話をしていたせいか、美緒も言う事が随分明け透けになっていた。まぁ、顔で判断されるのは嫌だろうなとは思ったが、既に小林は自分に嫌われていると思っているし、きっと相手も自分を嫌いだろう。これ以上嫌われても困る事はないような気がして、つい本音を漏らしてしまった。まぁ、教えろと言ったのは向こうだし、これを根に持って仕事に影響することもないだろう。

「まぁ、私はこんな感じかなぁ。でも、あんたが好きな子が同じとは限らないし、見極めは慎重にした方がいいよ。全く違う理由かもしれないし」
「いや、参考になったよ、サンキュ。あ、仕事と嫌がらせは出来るだけ気を付けるから。今まで悪かったな」

 機嫌を損ねたかと思っていたが、小林は晴れ晴れとした笑顔を浮かべたので、美緒の方が面食らってしまった。好みど真ん中の顔で笑顔を向けられるのは心臓に悪いから勘弁して欲しい。とは言え、久しぶりに小林の顔で癒された気もした。素直に謝られると思わなかったのもあるだろうが、仕事の無茶ぶりを改善してくれると言ったのだ。それだけでも美緒には収穫だった。
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