【R18】爽やか系イケメン御曹司は塩対応にもめげない

四葉るり猫

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外堀は埋められるためにある

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 柚希たちとの飲み会の翌日、美緒はアパートに押しかけて来た小林にあっさり捕獲され、車に押し込まれていた。行かないと主張した美緒だったが、金曜日の夜の予定を無理やり反故にした罪悪感と、寂しかったと捨てられた子犬のように訴えるイケメンに負けたのだ。わんこ風イケメンなんて、あんなの反則だろう…子供の頃に犬を飼っていたせいで犬派の美緒は、あの縋りつくような表情に抗う術がなかった。

「パーティ?」
「そう。知り合いの婚約パーティー」
「何で私が…!」
「何でって…俺の恋人だから」
「はぁ?!」

 ちょうど信号待ちで止まったタイミングで、小首をかしげて当然と言わんばかりの小林に、美緒は思わず声を荒げたのは当然だったろう。百歩どころか百万歩譲って付き合うのは仕方ないが、パーティーで恋人と紹介されるほどの付き合いはない。そして小首をかしげる仕草はやめろ。それに弱いの、絶対にわかってやっているだろう…

「家族に紹介して会社でも公表したんだし、別にいいだろう?」

 そんな風に話を持って行ったのはお前だが、私は認めてはいない…!一発殴れば正気に戻るだろうか…とこぶしを握り締めた美緒だったが、さすがに運転中にそんな暴挙に出るほど理性を失ってはいなかった。さすがに事故を起こすのはマズいだろう…

 結局、そのまま押し切られた美緒は、いつぞやのブティックに押し込まれ、パーティードレスと装飾品一式、メイクとヘアセットまで施されてしまった。夏らしい涼し気な素材、丈は膝下、水色に紺色の指し色のワンピースは露出控えめで確かに可愛かった。アクセサリーもドレスに合わせて青い色の石が付いているが…これが本物なのかどうか、正直怖くて聞けない庶民の美緒だった…
 一方の小林も、濃灰色の生地にストライプの織が入った高そうなスーツに着替えていた。悔しいが非常に似合っているし、爽やかさに凛々さが加わってこれは反則だろう…ネクタイの色が美緒のドレスとお揃いになっていて、並べば誰もがペアだと分かりそうな色合いだった。何この羞恥プレイ…と思ったところに、朱里と大石がやって来た。

「美緒、可愛いわ。いい感じに仕上がったわね」
「…朱里…」

 げんなりした美緒に対し、朱里は嬉しそうな表情で美緒の半分以下の時間で準備を済ませた。透け感のあるレースのワンピースは控えめなイエローで、膝丈のタイトで身体の線が綺麗に出るタイプだ。背が高くモデル並みの朱里だからこそ着こなせるデザインだな…と美緒は思った。自分では服の良さが半分も生かせないだろう。結上げた髪も凄く合っていて、がっしりした体格の大石と並ぶと、非常に絵になり眼福物だった。



 連れていかれたのは有名ホテルで、ここで小林家と付き合いのある家の婚約パーティーがあるという。ちなみに重要な取引先でもある。朱里達と共に、小林のエスコートで会場に入った美緒は、想像以上の華やかな会場に気を失いそうになった。
 案の定、会場に足を踏み入れた小林は多くの人の目を引いていた。日本人で王子様のようだと言っても多くは盛り過ぎだろうと言われるものだが、小林はちゃんと通用するレベルのイケメンなのだ。背が高い上に姿勢がよく、質のいいスーツを無難に着こなしていて、この暑い中でも爽やかさ満載だ。イケメン鑑賞歴の長い美緒でも、ここまでのイケメンはテレビの向こうでしかお目にかかった事がないし、芸能人にも負けていないだろう。
 そして、それに比例するかのように、美緒は突き刺さるような視線を感じていた。どうして隣にいるのだと言わんばかりだ。嫉妬や羨望など可愛い方で、中には殺気が籠った視線も感じられた。そんな視線を向けるのは若い女性だけかと思ったが、意外にも年齢は関係なかった。どうして…と思った美緒だが、答えは直ぐに見つかった。若い女性以外は、家族として娘のライバルの美緒を疎ましく思っていたのだ。

「美緒は何もしなくていい。俺の隣で笑っててくれるだけで十分だから」

 糖度増量のキラッキラの笑顔でそう言われたが、むしろそれ以上の何をやれと…とパーティーなんぞに出た事のない美緒は思った。好意とは逆の視線を向けられた場で、気の利いた会話なんて芸当は自分には絶対に無理だし、笑っているのだって正直自信がない。だが、今更逃げ出す事も出来ず、美緒は引きつる表情筋を叱咤して必死に笑顔を作った。

 パーティー自体はまだ婚約発表だからと、小林に言わせるとかなりカジュアルで気楽なものだったらしい。出た事がないので美緒にはさっぱりわからなかったが、少なくとも友人の結婚式よりも立派なのは間違いなかった。婚約の発表と紹介、挨拶などが終わると後は立食形式のパーティーだという。

 会場には、既に小林の両親と兄夫婦も来ていた。社長も鋭も背が高くてそれぞれに趣の異なるイケメンだが、巧と大石の二人が加わるとそこだけ別世界のように輝いて見えた。社長は紳士系で大石はスポーツ系、鋭はインテリ系で巧は爽やか系だな…とその様を離れたところから眺めていたい美緒だったが、そうこうしている間に色んな人がやってきて次々挨拶を交わしていくため、美緒は仕方なく巧の隣、それも一歩引いたところに立って慣れない笑顔を浮かべていた。
 主催者側から、婚約の発表と婚約する二人の紹介のあと、二人からの挨拶があり、その後主賓達からの祝辞が続いた。祝辞には巧の父親からのものもあり、親しい間柄である事が伺えた。それらを美緒は小林一家と共に聞いていたが、巧がぴったり側に張り付いているため、どういう事かと詳しく朱里に聞こうとしたもののその機会がなかった。
 その後、主催者側の元に向かうと、美緒は巧から婚約者として紹介されてしまった。違う!と声を大にして言いたかったが、さすがにこの場で苦情を言うだけの度胸はなかった。こんなお祝いの席で騒動になりそうな発言をするのは避けるべきだろうと思ったからだ。

 主催者への挨拶が終わると、気が付けば美緒の周りには巧と社長夫婦だけになっていた。朱里はどこへ…と思ったが既に姿がなく、それは社長夫婦もだった。巧がくっ付いているので探しに行く事も出来ず、またこんなパーティーは初めてだったため、美緒は仕方なく三人の後を付いていく羽目になった。
 社長がゲストと挨拶を交わし、その合間に美緒を巧の婚約者だと紹介したため、美緒は巧と並んで笑顔を浮かべ、時折頭を下げて簡単な挨拶を繰り返した。好意的な相手もいるにはいるが、それでも好奇の目は隠せていなかったし、若い女性を連れている家族からはマイナスの感情を遠慮なくぶつけられた。親世代はまだ取り繕うだけマシなのだが、子供世代は甘やかされて育ったせいか躾がなっていない者も多く、あからさまに睨まれたり蔑んだ視線を向けられたりした。さすがに失礼だし、周りの目を気にするべきだろうに…と美緒は珍獣を見ている様な気分だった。

「巧様!」

 挨拶も一通り済んだだろうか…と思ったところに、甲高い女性の声が美緒の耳に届いた。声のする方に視線を向けると、人をかき分けるように黒のドレスに身を包んだ、少し年上と思われる女性がこちらに向かってくるのが見えた。朱里と同じタイトなデザインのドレスだが、胸元は大きく開いているし、スカート部分も大きくスリットが入っているが、何と言うか…ピチピチ感が半端なかった。くしゃみでもしたら裂けるんじゃないか…と美緒は他人事ながら心配になった。

「巧様、いらしていたんですね!」
「ああ、あなたは栗原さんのところの…」
「はい、栗原莉々華です。お義父様、ご無沙汰しております」

 巧に衝突しそうな勢いだった女性と巧の間に半身だけ割って入ったのは社長だった。さすがに巧の父親とあっては莉々華も無視できなかったらしく、立ち止まって礼をした。息を切らしながらも頬をわずかに染めて目を輝かせた姿はまぁ、美人と言えなくもないが、香水の香りが強烈で、ここまでくると香害レベルだった…冷房のために締め切られたこの場所でこれは、はっきり言って迷惑でしかないだろう。

「滅多にパーティーにいらっしゃらない巧様がいらっしゃると聞いて…」
「そうですか。今日は特別でしてね」
「まぁ、そうなんですの。一体どのような?」

 小首を傾げて尋ねる様は、あざといというか、媚びているのが見え見えだった。美緒から社長の顔は見えなかったが、隣の巧は営業スマイルを張り付けていた。

「ええ、今日は巧の婚約者の紹介も兼ねてね。主催者の菊沢さんが是非にと仰って下さったので」
「…え?」

 社長の言葉に、莉々華が声を詰まらせて固まった。どうやら美緒の事はまだ耳にしていなかったらしい。

「え…あの…巧様の…婚約、者…?」
「ええ、長年想い続けていたようですが、ようやく振り向いて貰えたと聞きましてね。唯一巧の相手が決まっていなかったので、これでようやく一安心ですよ」

 にこやかに、さも嬉しそうにそう告げる社長を、莉々華は信じられないものを見るような目で見上げていた。隣の巧をちらっと覗き見ると、巧は口の端を上げていた。何と言うか…してやったり、と言う感じに見えるが気のせいだろうか…

「そ、そんな…巧様のお相手は…」
「我が家も近々婚約のお披露目をする予定ですので、栗原さんもぜひ祝ってやってください」

 既に顔色が白を通り越して青くなった女性に追い打ちをかけるように、社長はにこやかな笑顔を浮かべながらそう告げた。さすがに会社のトップに立つだけあって、誰も反論出来ない雰囲気を放っていた。婚約のお披露目?どういう事?と別の意味で驚いていた美緒だったが、その直後に別のゲストが声をかけてきたためその場では何も言えなかった。
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