【R18】爽やか系イケメン御曹司は塩対応にもめげない

四葉るり猫

文字の大きさ
27 / 49

人の話が聞けないのは血筋?

しおりを挟む
「ちょっと、小林。どういう事よ!」

 婚約披露パーティーを辞した後、小林のマンションに連れていかれた美緒は、ドレスから普段着に着替えてメイクを落とすと小林を問い詰めた。着替えるまで何も言わなかったのは美緒の金銭感覚のせいで、いくらするか見当もつかないアクセサリーなど一刻も早く外したかったからだ。そして、このセリフいったい何度目だよ…誰も突っ込んでくれないので美緒は自分で突っ込むしかなかった。

「どうって…美緒の紹介?」
「その仕草もやめろ、マジで…」
「何で?」
「何でも!」

 小首を傾げてそう答える小林にそう突っ込んだ美緒だったが、確信犯の彼が止めるはずもなかった。うん、完全に絆されつつある。しっかりしろ、自分!と思うが、今日の洒落たスーツに身を包んだ小林は文句なくかっこよかった。ああもう、かっこいいよ、そこは認めるよ…今は半袖の開襟シャツとジーンズだけど、それも無駄に似合っているよ!とやさぐれる美緒だったが、このまま流されるのにはまだ抵抗があった。

「社長が婚約のお披露目がどうこう言ってたけど、あれ何の事?もちろん、私は関係ないよね?」

 そう、美緒にとってはあの社長の一言が気になって、あの後は気もそぞろだったのだ。だが、次々と挨拶に押し寄せる人達と、相手が社長だという事で美緒は何も聞けずに悶々と過ごすしかなかった。早く小林を問い詰めて事実を確認し、本当なら何としても止めないと!と、意を決していたのだが…

「もちろん、俺と美緒のだけど?あと、朱里と大石さんも一緒にしようかって言ってたな」
「はぁ?!」

 もしかしてと思いつつも聞き間違いだと思いたかったが、現実は美緒が願うのとは真逆な方向にまっしぐらだった。付き合うという話になってまだ二週間だというのに、婚約?更にはお披露目?いやいや、その前に色々大事なものが抜けていないか…?いや、間違いなくすっ飛ばし過ぎだろう…!

「な…何を言って…」
「だって、会場押さえるには時間かかるから仕方ないだろう?早くても半年くらいかかるからな。出来ればもっと早くしたいんだけど…」
「せんでいい!」

 冗談だと思いたかったが、敵は本気だった。しかも家族総出で…質が悪いのは、朱里達も一緒にと言うところだ。これはアレだ、美緒が逃げないよう保険をかけているとしか思えなかった。額の血管が切れそうだ…

「大体、何で付き合うって言っただけで婚約になるのよ。おかしいわよ、あんた達!」
「それは、逃がす気がないから?」
「小首傾げるな!可愛く言えば許されると思うな!」
「え~だって、美緒好きだろう?これすると直ぐに赤くなるし。はぁ…もう可愛すぎる…」
「なっ…!」

 確かに嫌いじゃないけど…いや、確かに弱いって自覚はあるけど、だからって顔まで赤くはなっていない!と叫ぼうとした美緒だったが、小林に抱きしめられてそれは言葉に出来なかった。

「あ~もう、今日のドレスもすげー似合ってたし、ほんと可愛かった…ヤバ過ぎ…」
「…はぁ?」
「マジで他の野郎に見せたくなかった…あ~パーティーに連れて行ったの、やっぱ失敗だったな。美緒のあんな可愛い姿、他の奴に見せるべきじゃなかった…」
「なっ…」

 ヤバすぎるのはお前の思考回路だ!そして耳元で囁くの、やめろ…マジで。その声も内容も反則だろう…しかも今は白シャツで爽やかさ増量中、爽やか系イケメンに弱い美緒には毒に近かった。

「はぁ…やっぱ無理…」
「え?は…?」

 小林が何かを呟いたが、ぎゅうっと抱きしめられていた美緒には届かなかった。何て言ったのかと聞き返そうとして顔を上げた瞬間、唇を塞がれた。何?と急な事に理解が付いていかなかった美緒だったが、ぬるりと入り込んできた舌の感触に、キスされているのだと理解した。しかもいきなりディープキスだ…

「んんー!」

 いつの間にかがっしり後頭部を抑えられ、美緒は完全に捕獲されていた。しまった、いつの間に…と思っても後の祭りだ。どういう事かと話を聞きたくて来てしまったが、それ以前に部屋に来るなんて迂闊だった…と美緒は悔やんだ。

「…ん…んっ…んー…!」

 まだ夕方と言うには早い時間の明るい室内でのご乱心に、美緒は必死で抵抗した。こんな真昼間から盛るな!私は同意していないんだから!と思うのだが、肉厚の舌が歯列をなぞり、舌に絡みついて吸い上げられると、ゾクゾクとした何かが這い上がってきて、身体の力だけでなく思考まで奪われていった。この流れはマズい…と何とか腕を突っぱねて小林の身体を押し返そうとするのだが、見た目細身で実際はしっかり筋肉がついている身体はびくともしなかった。

「…ッ、はぁ…」

 散々貪られて唇が離されたころには、美緒は完全に戦意を奪われていた。キスにすらまだ慣れていない美緒は酸素不足とそれ以外の何かで、足腰もおぼつかなくなっていた。空気美味しい…酸素最高…と息が出来る事に感謝したのは、きっと酸素不足で意識が朦朧としていたせいだ。

「はぁ…お前、その顔反則…」

 小林の腕に支えられてようやく立っている体の美緒に届いたのは、掠れ気味の小林の声だった。美緒の肩に顔を埋め、荒くなった息を整えているようだが、キスに慣れている筈の小林の方が荒い息をしているのを美緒は不思議に感じた。何だか具合が悪そうにも見える…

「…ちょ…小林?なんか、大丈夫?」
「…ん…大丈、夫…」

 そうは言われてもとてもそうは見えない小林の様子に、美緒は戸惑うしかなかった。とりあえずソファにでも座ろうと言ったが、小林は不規則に荒い呼吸を繰り返すだけだった。

「いや、とても大丈夫に見えないし。辛いなら医者行く?」
「…いや…いい…病気じゃないし」
「え?そうなの?」
「ああ…美緒に…欲情してるだけだから」
「……は?」

 言われた言葉の意味を、美緒は直ぐに理解出来なかった。よくじょう?浴場ってお風呂の事?と美緒が思ったのは仕方ないだろう。元より性的な事に興味がなく、そんな単語は身近ではなかったのだから。

「…えっと…?」
「…はぁ…もうちょっと耐えれると思ったんだけど…」
「え?」
「…やっぱ無理。これ以上は…」
「ちょっと…何言って…」

 耳元でブツブツ独り言を繰り返す小林に、美緒はどうしていいのかわからず戸惑っていた。病気ではないと言われたのは安心材料だが、その後の言葉の意味が分からなかったからだ。よくじょうと言われてもピンとこないし、その後の言葉も聞き取れるかどうか…のレベルなのだ。言動が美緒の予想範囲から大きく外れる相手なだけに、美緒も迂闊には動く事が出来なかった。とりあえず放して欲しい…

「え?あの…んんっ…」

 具合が悪いのではないならとりあえずソファで話を…と思った美緒だったが、再び小林に唇を奪われた。びっくりしたせいでまた舌の侵入を許してしまい、しまったと思うも遅かった。角度を変えながら舌を絡ませたり唾液を流し込まれたりして、濃密さはさっきの比ではなかった。今度はお腹のあたりに何やら固いものが押し付けられているが…これはマズいのではないだろうか…昼間なのに、話も途中なのにと思うのに、小林の力が強くて逃げる事も出来ず、一方的に熱を注ぎ込まれる感覚に身体が震えた。

「…っは…ぁ…え…?」

 やっと唇を解放されたかと思ったら、いきなり浮遊感を感じて美緒は我に返った。気が付けば小林に抱きかかえられて…いわゆるお姫様抱っこされていた。ちょっと待て…この展開はマズいなんてもんじゃない…!と焦ったが、抱きかかえられた状態では逃げようがなかった。あっという間に寝室に運び込まれ…案の定、ベッドの上に降ろされた。直ぐに逃げようとしたが、間髪入れず小林に覆いかぶされてそれは叶わなかった。

「ちょっと…昼間っから何…!」

 さすがにこれ以上流されてたまるか!そもそも人の話も聞かずにどういう了見だ!とむくむくと怒りが湧いてきた美緒は、感情そのままに小林を睨みつけたが、目が合った途端に目を瞠った。美緒の視界に映ったのは、まだわずかに息を乱し、目の周りを微かに赤く染めた、情火に身を焦がす雄の姿だった。色気などと言う甘いものじゃない、むき出しの獣のような荒々しさに、美緒は息をするのも忘れて見上げるしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

思わせぶりには騙されない。

ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」 恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。 そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。 加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。 自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ… 毎週金曜日の夜に更新します。その他の曜日は不定期です。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」 (三度目はないからっ!) ──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない! 「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」 倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。 ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。 それで彼との関係は終わったと思っていたのに!? エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。 客室乗務員(CA)倉木莉桜 × 五十里重工(取締役部長)五十里武尊 『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

処理中です...