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ケルビニ

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60章

もどきと追人の力は互角。
というか2人の行う攻撃は全て相殺されている。
追人はしおりを持ち、虚空を切る。
それによりしおりの能力が発動し周りの窒素を変換する。
変換した物質は水。
そして生み出した水を操作し、銃のように打ち出す。
水は追人ともどきの間にあるコンクリートを撃ち抜き、もどきに向かっていく。
だが
もどきもしおりを持ち、虚空を切る。
それによりしおりの能力が発動し周りの窒素を変換する。
変換した物質は水。
そして生み出した水を操作し、銃のように打ち出す。
水はもどきと追人の間にあるコンクリートを撃ち抜き、追人に向かっていった。
撃ち出した水の高さも同じで水と水がぶつかり合う。
水が弾けて地面に落ちた。
次に追人が落ちた水を棘状にして急激に凍らせ氷柱を複数個作る。
またもどきも落ちた水を棘状にして急激に凍らせ氷柱を同じ数作る。
そしてそれを各自相手に向かって飛ばした。
もちろん打つ方向高さ全てが同じ。
氷柱はぶつかり合い砕け小さい結晶になって溶けて目視できないほど小さくなり消える。
結晶は周りを薄く光らせた。
「お前は本当に僕なのか?」
追人が言う。
さっきからこいつは自分と全く同じ行動しかしていない。
全てが同じだ。
呼吸を入れるタイミング、攻撃のタイミング、攻撃の仕方、動き方。
諸々全てが。
もどきは答える。
「僕はこいつの能力によって生み出された人間。こいつの能力によってお前の脳構造を全てコピーし体を形成され生まれたお前。よって行動パターン思考パターン全てが同じ。同じ攻撃を行って攻撃を全て相殺することは容易い」
そして、ともどきは続ける。
「お前のすることは全て僕は予測できる」
もどきはしゃがんで地面に触れる。
するとコンクリートが一瞬のうちに砂漠のような不安定な足場に変わる。
さらにもどきは砂を持ち追人に投げる。
投げる直前、もどきの持つしおりの効果が発動し砂は矢に変わる。
矢は狙われた追人の足に向かって飛んでいく。
追人はジャンプをして避ける。
するとその横から刀が振られていることに気がついた。
持ち主はもちろんもどきだ。
砂を変換し、刀を作ったようだ。
そしてジャンプをして避けることもわかっていたように刀はもう首筋まで来ていた。
咄嗟に本を開いて刀に追人自身の能力をかける。
能力をかけられた刀はコンクリートに戻って切れ味を失う。
そのままコンクリートとなった刀は振り切られる。
それが追人の首に当たった。
激痛が走る。
すぐに刀と同じ方向に体を動かして難を逃れた。
しかし刀は確実に彼の首に当たっており、痛みは引かない。
もしかしたら骨にヒビが入っているかもしれない
もどきは刀を振り抜いてもう一度しおりを使ってコンクリートを鉄に変換して刀を作る。
「今度は逃さないよ」
そう言ってまた砂を持ち、反対の手で刀を持つ。
あいつは僕の逃げる方向を読んで刀を振っている。読むどころか行動がわかるのだから100%の的中率。確実だ。あいつがさっきと同じ攻撃をして、僕がどんな行動をしても全てあいつの手の内。逃げたとしてもまた刀を振られる。
しかもあの刀は元がコンクリートだから能力を使って無効化してもコンクリートの塊が襲ってくるだけ。
思考パターンも同じということは僕のこの考えていることもわかるということ。
「ちっ的中率100%の予測AIとでも戦ってるのか?僕は」
そう言った直後、もどきはまた砂を投げて直前に矢に変換される。
ここで四方に避けても避けた先で刀を首に振られる。もし無効化しても既にヒビが入っているから首は耐えられない。
矢を受けつつ進んでも何かしら行動を起こすだろう。
何をしてもあいつは命を奪う。
だったら行動を読まれたとしても対抗出来ない相手にとって詰みの盤面を作ればいい。
悪意を溜め込む。
神天使を許せないという怒り、恵まれすぎている自分を許せない怒り。
あの時の力を使えれば。
ドクン
その時追人はこれはやばいと自身で悟った。
意識が段々と遠のいていく。
「た…こみ…ぎた…」
あの時は悪意自分に対する悪意だけだったが。
今回はそれに足して神天使に対する悪意もある。
それによって追人の悪意の許容量を超えたのだ。
そして悪意によって能力は進化する。
進化した能力は自我を持った。
「失せろ。今すぐ」
追人はそう言う。
そして矢は全て追人に当たった。
しかし矢は刺さることなく弾かれ足元に落下した。
もどきはため息をつく。
「そうなんですよね…。この勝負僕に絶対の勝ちなんてないんですよ」
大きな黒い羽を生やし、天使の輪を持った追人を見て言う。
もどきは全てわかっていた。
追い詰められた追人が悪意を溜め込むことを。
だがその先の行動は読めなかった。
何故か。
それは追人自身じゃなくなってしまうからだ。
もどきはあくまで追人の思考パターンと行動パターンしか持っていない。
進化した自我を持った能力の思考パターン行動パターンは予測できない。
「何だお前。誰だ」
追人の体を乗っ取った能力がもどきに言う。
まだ能力は何が起きているか理解しきれていない状況のようだ。
「なら今のうちに!」
もどきは砂を持ちそれを能力の上に投げる。
そして投げる直前に複数の物体。
矢、氷柱、ナイフ、など全てが異なる刺突物に変換する。
あいつの暴走時の能力は物体の内容を消す能力。
矢など同じ物体を複数個同時に射出しても全て一気に無効化されるだけ。
ならば全てを異なる物体にして対処を遅らせればいい。
しかも相手はまだ何も知らない赤子のようなもの。
そこまで頭が回るはずない!
刺突物は能力の頭上から落下し、体を貫こうと狙いを定める。
だが
「うっぜぇな。俺の聞いたことに答えろよ。まず」
と能力が言い、頭上を手で払う。
すると刺突物は全て無効化され能力に刺さることなく頭上に落ちる。
もちろん能力は無傷だ。
もどきは驚きを抑えられない。
まさか自我を持ったことによって能力が強化されたというのか!?まさか神格能力に匹敵しているのか!?
「だから俺の言うことに答えろよ。さっさと」
とてつもない殺気に当てられてもどきは言う。
「…僕は追人手捨ですがあなたは?」少し震えた声でもどきは言う。
能力は首を傾げながら答える。
「俺はケルビニといったものだ。だがおかしいな。俺の宿主も同じ名前だぞ。お前と」
それに対しもどきは答える。
「僕はそいつと全く同じ存在だから同じなのは当たり前ですよ!」
しかし言葉の最後にもどきはケルビーニの頭上に特大の鉄を窒素から変換した。
重さは100トン。
人間の体なら一瞬にして潰れてしまう重さであり、大きさも簡単にケルビニを覆っている。
それがケルビ二に落下。
しなかった。
ケルビ二の頭に鉄が落下した瞬間、鉄の塊は跡形もなく消えてしまった。
正確には窒素に戻った。
「常時無効化のバリアを展開してるのか!?」
もどきは言う。
そしてケルビ二はもどきの向こう、すなわち人爽の方を見て、顔を険しくし
「消えろ。1つ残さず」
と言った。
するともどきの体が段々と崩れ始めた。
「何が起こってる!?僕の体は正真正銘普通の人間!召喚されたのと同じ扱いのはずだから無効化は出来ないはずなのに!?」と崩れる体を見ながら叫んだ。
そして後ろを見た瞬間に全てを理解した。
人爽が倒れている。
そして彼が持っていた莫大な量の奇跡も減少しており、もどきを呼び出すための魔法陣が維持できなくなっていたのだ。
「まさか…一瞬で状況を把握してどこが弱点か判断した…?まだお前が生まれてから5分も経ってないぞ!」
もどきは消えかけている体で叫ぶ。
能力が自我を持ったと言っても成長が少し早い人間のような成長速度だ。
これは異常としか言いようがない。
ケルビニはその問いにこう返す。
「俺は元々だ」
と。
「くそがぁぁぁぁぁぁ…」
もどきの体が完全に消滅した。
それと同時に魔法陣も消え、人爽も元の異人に戻っている。
奇跡量も正常だ。
「…あれ?僕は何を?」
戦闘が終わって追人の人格が戻ってくる。
しかし戦った記憶はなく、いつのまにか人爽が倒れ、もどきが消えているという事象しかわからなかった。
混乱していると頭の中に声が響く。
「俺とお前の力だ。これが」
びくんと追人は驚く。
「だっ誰だお前は!」
と口に出して言う。
それに対し声の主は
「声に出さなくても聞こえる。お前の能力だ、俺は。」
と答えた。
能力?新しく念話の能力でも取得したのか?
と本気でそう思う。
しかし
「違う。抵抗神力。無効化能力の人格。ケルビニだ、名前は」
と否定された。
そしてそういえば何か黒山さんと戦った時に炎を使う異人?と黒山さんが融合してたりしたような…。もしかしてあれが能力だったりするんですか?
追人はそうケルビニに聞く。
ケルビニは
「多分合っている。能力には強さのランクがあり、その中で最上級の能力。神格能力の中からさらに強い意志や魂に反応し能力が自我を持つことがある。その一例だ、俺も」
と説明してくれた。
ということは暴走させた僕の能力は神格能力になったっていうことか~。
と少し感動した。
すると
「追…人…?」
声が聞こえてきた。
その声の主は目を覚ました人爽。
追人はケルビニとの会話を置いていて人爽に駆け寄る。
そして肩を貸してゆっくりと人爽を立ち上がらせた。
「俺は…何をしてた…?まさか…迷惑かけてたわけじゃない…だろうな…?」
人爽は詰まりながらも言葉を紡ぐ。
能力の暴走で疲労しているのだろう。
ゆっくり休ませたほうがいいな。
と追人は判断し、自分たちの高校へ運ぶ。
そして
「ほんとーに大変だったよ。でも謝罪は聞きたくない。謝ってる暇なんてないからね」
そう謝ってる暇なんてない。
人爽は救った。
そして残りの2人の生徒会メンバーを救えばきっとやつは動く。
そのために体力を回復させておかなければ。
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