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抑制

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61章

迎者に止めを刺す寸前
牙忍の動きが止まった。
牙忍の武器が本当に目と鼻の先に来ており、迎者は目を瞑っている。
攻撃が来ないことを不思議に思った迎車が目を開けると牙忍が止まっている様子が目に入る。
そして彼の胸の位置に注目した。
そこには魔法陣が。
「あー…危なかった…。ギリギリ作動したのね」
実は迎者が牙忍の心臓に刃を突き刺した際、とある術をかけていた。
それは奇跡抑制の術式だった。
彼女が生み出したどんな凶暴な異人でも抑える事ができる術式。
しかしそれは欠陥があった。
心臓へ直にこの術式をかけないと作動しないことと相手の奇跡量が膨大だと作動まで時間がかかってしまうことだった。
だが今回はそれをクリアして牙忍の奇跡量を抑制することに成功し動けなくなっているわけだ。
「それじゃ、最後の仕上げね」
迎者はそう言って牙忍の胸にある魔法陣を少しいじる。
あくまでこの術式は抑制するだけ。
暴走を止める力はない。
そのために色々と対策を施しておいた。
そうすると
真っ黒だった牙忍の体は元の牙忍に戻った。
同時に彼は力なく倒れる。
これで元通りだ。
「はぁ…こっちは終わったわよ。しくじるんじゃないよ上司共」

「やっと追いつきましたよ本体」
スモッグが幽美と対峙し、怪しい煙を漂わせる。
黒く染まっている幽美は反応も示さず手をスモッグにかざす。
すると勝手にスモッグの体が浮上した。
「これがポルターガイストの正体というわけですか」
そう言うスモッグの体には無数の玉がくっついておりそれが彼の体を浮上させているのだった。
無数の玉の正体は概念。
自然界に存在する奇跡を操っていた。
そして幽美が手を横に振るとスモッグの体も吹き飛ばされる。
体の主導権を握られているため制御できない。
スモッグはビルの壁に衝突した。
しかし彼は無傷だ。
「私の体は煙に変換できるので物理攻撃は効きませんよ」
ビルに打ち付けられたはずのスモッグの体は煙状に変化し、形が不規則に変動するため概念を操っても体の主導権を握れない。
スモッグが有利かと思われた。
すると幽美は自身の体に概念を纏わせ始める。
それに気づいたスモッグは自身の一部の煙を硬化させ、幽美に向かって射出するが。
ガキンと通り道にあった概念に阻まれる。
幽美に煙の矢は届かない。
そして彼女の体に概念が纏い終わった。
その姿は言うなれば悪魔だ。
さっきまで真っ黒だった彼女は自身の頭に角を生やして漆黒の羽を生やしている。
そしてそれ以上に目を引くのは肌の露出面積だ。
肩から胸の半分までは布が無くその下から黒い布が体との隙間なく、ぴっちりとくっついている。
スカートを履いているが短く膝から下は全て丸見えだった。 
幽美は足を踏み込んでスモッグに突撃する。
「そんな色仕掛けには引っかかりませんよ!」
しかしスモッグは突撃してきた幽美が自分にぶつかる寸前に煙に変化し硬化させる。
すると幽美は身動きが取れなくなる。
「このまま気絶するまで抑えれば!」
そう思った。
だが現実はそう甘くない。

スモッグは気がつけば真っ黒な場所にいた。
「な!?さっきまであいつを捉えていたのに何が!」
記憶が正しければ身動きを取れなくし、自分の勝ちだ。と確信していた。
だが何故かこんなところに居る。
一体何が!?
スモッグは走り始める。
「どこ行ったんですかあの女は!」
敵を探すために。
どこまでも真っ黒で出口も何もない世界を。

遅れてキングたちが幽美の元へやってきた。
「自分の姿を崩すのにあんなに時間がかかるなんてな!」
秘術を最大限活用し、自分の体がポルターガイストに認識されないほど崩すことに成功し、今に至る。
なんとかポルターガイストを撒いた。
そして戦いの跡地に着いたキングたちはただ1人だけ倒れているスモッグの姿を発見する。
幽美は居ない。
「おいどうした何があった!?」
キングはスモッグを抱き寄せた。
そして脈を確認する。
脈はあった生きているようだ。だが目を覚ます気配はない。
「そいつは寝てるだけだよ。絶対に起きないけどね」
上空から声が聞こえた。
幹部たちは上を見上げる。
そこには頭に輪っかが乗った女が天使の羽を生やして浮いていた。
そして隣には姿が変わっている幽美の姿も。
「お前は誰だ」
女は答える。
「私が神天使ゴッズ。この世界を壊す者」
確かにそう言った。
それに全員臨戦態勢に移行する。
だがゴッズと名乗った神天使は特に戦う様子は見せない。
「何で攻撃してこない。お前の目的は世界の破壊でそれの障壁になる俺らは殺すべき存在だろ」
キングはゴッズに聞く。
ゴッズは地面に降りてきて言う。
「別に戦おうって誘われるならやってもいいけど勝てるわけ無いじゃん。一方的なワンサイドゲームはつまらないよ。だから私が出ないんじゃないか」
と言い、指を鳴らす。
すると
幹部全員の体に衝撃が走る。
なにか重いものを持たされているように地面に押し倒される!
「これはほんの1%にも満たない力。世界を破壊するんだったら相当な力が必要。そしてそれを私は持っている。言いたいことはわかるね」
と言って重力加重を解除する。
幹部たちの体に自由が戻った。
「俺らなんかは眼中にもないってか。そもそも障壁にすらならないわけだ」
とキングは皮肉そうに言う。
そしてゴッズは今度はニコっと笑って
「だから面白くするために私は来たわけなのです」
と言って幽美を前に出して倒れているスモッグを指差す。
「今そいつはこの子によって眠らせられている状態。この子が起こすか倒さない限り絶対に目覚めない。そしてそいつの命は今私達が握っている」
キングは「どういうことだ」と聞く。
ゴッズは「夢の中で本人を殺せば現実でも死ぬ。それだけでわかる?」と答えた。
わかってしまいたくなかった。
そしてキングは「何をすれば目覚めさせてくれるんだ」と聞く。
ゴッズは悪魔的な笑みをして「聞きたい?」と言った。

「あいつが下界に降りてきたな。しかも幹部たちがいる位置だ」
創神は険しい顔で言う。
そして瞬間神動を使おうとする。

「飛べないか。対策されてるようだ」
どうやら向こうに結界が張られており直でワープが出来ない状況なようだ。
さすが神天使。
無数にある私たちの能力を全部把握している。
私たちでも把握しきれていないというのに。
「とりあえず1番近くの飛べるポイントへ飛ぶ。そうしたらあとは羽で飛んでいこう」
そう言って瞬間神動を発動させる。
飛べたのはまだ地点より遠い位置。
結構な大きさの結界らしい。
そして羽を出し、空を飛んでいく。
頭の中でメイクが「あいつら…無事で居てくれ…」と漏らしていた。
私の命令とはいえ結構な年月をあそこで過ごしたんだ。
情があるのも当たり前だろう。
「あいつが降りてきたところ以外は全て制圧し、操られていた牙忍、追人、そして天川は開放した。あと櫻木のがいる櫻木の家が私の介入が出来ないようにブロックされている。何かが起きていることは間違いない。だが今はあいつ優先だ」
そう言って創神は天川と精神神応を使って意思疎通をする。
「お前は櫻木のところへ行け。私は」
「言わなくてもわかるよ」
精神神応を受信した天川はすぐに櫻木の家に向かって飛ぶ。
ここからそう時間はかからない。
「話が早い部下を持てて私は幸せ者だよ」
と呟く。
するとメイクが
「ちなみに私は部下扱いなの?」と奏臣に聞いた。
随分デリケートなラインを聞いてくるな、と思ったが別に言うことが変わるわけじゃない。
「お前は私の妹だよ」と奏臣は答えた。
自分の2つ目の人格。
自身の肉体を持たないで私の中に生まれたが、本質は変わらない。
私の家族同然。
そして私を支えてくれた。
感謝している。
愛してる。
「おい、最後の一行は思ってないぞ撤回しろ」
メイクはてへと笑う。
だが
「恋人の愛してるとまでは行かないが紳士的に妹としてなら愛してるぞ」
と奏臣は言う。
それを聞いてメイクが何も言わなくなった。
やっぱりかわいいなと思う奏臣であった。

「着いたか」
天川が櫻木の家に到着した。
もうひと目で見た感じで戦いがあったとわかるぐらいに屋敷が半壊していた。
これでは生死もわからないな。
と天川は思う。
だがそれは一瞬で覆された。
庭に誰かが倒れている。
それも2人。
庭に天川が降りてその2人の所へ歩きだす。
その途中で羽根をしまい、天使の輪も消した。
その2人は。
「櫻木と…黒山かこいつ?」
女が男に被さるようにして気絶している。
そしてこの2人は合宿に来た時に居た生徒会のメンバーだが。
黒山は死んでいると聞かされたんだがな。
「俺と同じように蘇らせられたか。ということは操られている可能性が高いか?」
始末しておいたほうがいい。
天川はそう考えて黒山に開いた手をかざす。
するとその腕を誰かが掴んだ。
見ると櫻木の方が立ち上がって黒山と天川の間に入っている。かばっているつもりなのか。
「どけ、こいつは俺が始末する」
そう天川が言った。
すると
「こいつはもう救ってある。始末する必要はない」
櫻木がそう言った。
しかし天川は違和感を覚える。
こいつの中から感じる奇跡の感じは覚えがある。櫻木ではない。
しかも掴まれている手にもとても気持ち悪い何かを感じる。
「お前も生き返ってたのかライ」
かつて天川を殺した相手。
因縁がある敵だった。
「あぁ、お前やそこの不死野郎と同じだ。今は訳あってこいつの中に能力として宿ってるけどな」
ライはそう言う。
しかし天川は
「お前だとしても話は変わらない。俺を殺した奴の話を信じろってか。冗談じゃない。お前が櫻木を操って俺をいいように動かそうとしてる可能性もあるしな」
とライの話を一蹴した。
「ならやるしかないようだ」
「あぁそうなる」
ライは掴んだ腕を離して天川と距離を取る。
あり得るはずがなかったリベンジマッチ。
2人は激突する。
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