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2、未だチュートリアルのように、終わりと始まりの狭間に
5、お兄様は攻めと受けどちらもお似合いですわ
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少し肌寒い風が季節を彩る木々の間を巡る、午後。
ラーフルトン伯爵家の10歳の長女ネネツィカが執事を伴い、邸内の廊下を歩いていた。兄に呼び出しを食らったのである。
綺麗に巻かれた淡いライトピンクブロンドの髪はつややかで、甘い苺色のリボンとドレスが愛らしく華やか。リボンの縁やドレスの裾で繊細に揺れる清楚な白フリルが、もうすぐ11歳になるネネツィカの可愛らしさを引き立てていた。青空によく似た瞳は、執事を振り返って揺れる。
「ティミオス」
執事のティミオスは、妖精の血が混ざっているという噂の繊細で儚げな青年。肌は透き通るように白く、春に咲く花を思わせる薄紅がかった暖色の瞳は優しく温厚で、髪は雨あがりのしっとりした大地の色。クセがなく、長く伸びた髪を首の後ろで一つに束ねてさらりと背に流している。
「大丈夫ですよ、お嬢様。ヒューバート様はお嬢様を心配していらっしゃるのです」
ヒューバート様、というのはネネツィカの兄の名前だ。もうすぐ17歳になる兄は、伯爵家の嫡男で、普段は王立学院通いで忙しく、あまり顔を合わせない。領地経営や歴史、剣術と幅広く学んでいる。
学院という環境は殿方同士の恋愛を妄想するのが趣味な腐女子ネネツィカからすると垂涎ものの美味しいシチュエーションなのだが、いかんせん兄は常識的な感性の持ち主であった。兄に言わせると、「シチュエーションなにそれ」であった。
「お兄様は、アタクシの趣味を理解してくださいませんの」
まだネネツィカが自分の趣味の罪深さ、特殊さを知らずにいた無垢(?)な頃、ネネツィカは兄と執事が手を繋いでほおを染め見つめ合う絵を描いた事があった。そして、出来栄えの良さに嬉しくなって、兄に見せた事がある。
「お兄様ぁー! アタクシ、また天才ぶりを発揮してしまいましたの!」
ネネツィカは魔法も勉強も優秀な天才として超よ花よと甘やかされていた。兄はそんな妹の人格面での成長を常々心配していたのだが。
「お兄様は攻めと受けどちらもお似合いですわ!」
「ネネツィカ……!?」
その瞬間の兄の目を、ネネツィカは忘れない。
なんかやばいものを見てしまったような、ドン引きするような。気持ち悪い物を見るような――何をしても褒められ受け入れられてきたネネツィカにとって、それは初めての拒絶であった。
――ああ、あの気持ち悪い生き物を見るような目!
――あれがティミオスに向けられたら……あら? ちょっとそういうの萌えるかも、ありかも。
回想の兄にうっかり萌えて、ネネツィカは新しい妄想の扉を開きそうになった。
蔑まれる快感――そういうものも世の中には、ある。
さて、そんな新しい扉と一緒に伯爵邸の兄の部屋の扉を開けると、ネネツィカによく似た髪と目の色をした、いかにも優等生という雰囲気の貴公子が待っていた。兄のヒューバートである。
「お兄様、今日は学院から早くお帰りなのですね。おかえりなさいませ」
ネネツィカがドレスの裾を摘んで恐る恐る淑女の礼をする。執事は気配を消し、壁と同化したように控えた。
「ただいま、ネネツィカ」
ヒューバートはおもむろに数枚の紙を取り出し、ひらりと広げた。文字が飛び込んでくる。
『謎のゴーレム、大暴れ! 盗賊団を退治』
新聞の1ページのようだった。もう一枚めくると、別の日の記事が。
『ゴーレム再び。街に迫るモンスターを追い払う』
ぺらり。さらにもう一枚。
『ゴーレム、謎のポーズで伯爵家の庭に。伯爵家と関係が……?』
ネネツィカは新聞に目を丸くした。
「アタクシのゴレ男くんが注目の的ですの!」
ゴレ男くんはネネツィカが得意とする召喚魔法で贔屓にしているゴーレムだ。使い手同様、思い切りが良く脳筋気味、絵のモデルにもなれる。
「ネネツィカ! 魔法が得意なのは良いが、危険な事や不必要に衆目を集める事をするなとこの前も言ったろう」
兄の説教はくどくどと長い。曰く、甘やかす両親の分も僕が厳しくしなければ、と。
「でも盗賊団やモンスターから民を守りましたのよ」
良い事をしましたのに! と妹はむくれ顔。だから、説教はさらに加熱した。
「良い事ではあるが貴族の令嬢、それも10歳の子がする事じゃない!」
しかも兄はしまいに腐った趣味の話までし始めた。あんな趣味はしたない、メリットがない、やめてしまえ……、ネネツィカはいやーっと心の中で悲鳴をあげ、考えた。
「あ、あの。お兄様。アタクシの趣味には、メリットもありますの」
ジロっとジト目が向けられる。
「楽しいとか心が豊かになるとかなら、絵でも良いだろう。あんなモノ……とんでもない、汚らわしい。お前の趣味は豊かになるどころか自他が腐る」
腐るとはよく言ったものである。
しかし! 酷い言いようでは!?
「な、な、なんという暴言。それは、ひどい暴言ですわ!!」
ネネツィカは思った。これは断固として戦わなければならぬ。この世に蔓延る無数の腐れ同志のためにも、この趣味を兄に認めさせ、謝罪させてみせる!!
「お兄様、その言葉はあんまりです! 全世界の同志に失礼ですの!」
「同志……!?」
「アタクシ、戦います。負けませんわ!」
こうしてネネツィカによる『兄の発言の撤回と謝罪を求める戦い』が始まった。
執事に言わせると、「これは平和」の一言である。日常とも呼べるだろうか。当事者である妹は真剣そのもので、兄も兄でおろおろしていたが。
ラーフルトン伯爵家の10歳の長女ネネツィカが執事を伴い、邸内の廊下を歩いていた。兄に呼び出しを食らったのである。
綺麗に巻かれた淡いライトピンクブロンドの髪はつややかで、甘い苺色のリボンとドレスが愛らしく華やか。リボンの縁やドレスの裾で繊細に揺れる清楚な白フリルが、もうすぐ11歳になるネネツィカの可愛らしさを引き立てていた。青空によく似た瞳は、執事を振り返って揺れる。
「ティミオス」
執事のティミオスは、妖精の血が混ざっているという噂の繊細で儚げな青年。肌は透き通るように白く、春に咲く花を思わせる薄紅がかった暖色の瞳は優しく温厚で、髪は雨あがりのしっとりした大地の色。クセがなく、長く伸びた髪を首の後ろで一つに束ねてさらりと背に流している。
「大丈夫ですよ、お嬢様。ヒューバート様はお嬢様を心配していらっしゃるのです」
ヒューバート様、というのはネネツィカの兄の名前だ。もうすぐ17歳になる兄は、伯爵家の嫡男で、普段は王立学院通いで忙しく、あまり顔を合わせない。領地経営や歴史、剣術と幅広く学んでいる。
学院という環境は殿方同士の恋愛を妄想するのが趣味な腐女子ネネツィカからすると垂涎ものの美味しいシチュエーションなのだが、いかんせん兄は常識的な感性の持ち主であった。兄に言わせると、「シチュエーションなにそれ」であった。
「お兄様は、アタクシの趣味を理解してくださいませんの」
まだネネツィカが自分の趣味の罪深さ、特殊さを知らずにいた無垢(?)な頃、ネネツィカは兄と執事が手を繋いでほおを染め見つめ合う絵を描いた事があった。そして、出来栄えの良さに嬉しくなって、兄に見せた事がある。
「お兄様ぁー! アタクシ、また天才ぶりを発揮してしまいましたの!」
ネネツィカは魔法も勉強も優秀な天才として超よ花よと甘やかされていた。兄はそんな妹の人格面での成長を常々心配していたのだが。
「お兄様は攻めと受けどちらもお似合いですわ!」
「ネネツィカ……!?」
その瞬間の兄の目を、ネネツィカは忘れない。
なんかやばいものを見てしまったような、ドン引きするような。気持ち悪い物を見るような――何をしても褒められ受け入れられてきたネネツィカにとって、それは初めての拒絶であった。
――ああ、あの気持ち悪い生き物を見るような目!
――あれがティミオスに向けられたら……あら? ちょっとそういうの萌えるかも、ありかも。
回想の兄にうっかり萌えて、ネネツィカは新しい妄想の扉を開きそうになった。
蔑まれる快感――そういうものも世の中には、ある。
さて、そんな新しい扉と一緒に伯爵邸の兄の部屋の扉を開けると、ネネツィカによく似た髪と目の色をした、いかにも優等生という雰囲気の貴公子が待っていた。兄のヒューバートである。
「お兄様、今日は学院から早くお帰りなのですね。おかえりなさいませ」
ネネツィカがドレスの裾を摘んで恐る恐る淑女の礼をする。執事は気配を消し、壁と同化したように控えた。
「ただいま、ネネツィカ」
ヒューバートはおもむろに数枚の紙を取り出し、ひらりと広げた。文字が飛び込んでくる。
『謎のゴーレム、大暴れ! 盗賊団を退治』
新聞の1ページのようだった。もう一枚めくると、別の日の記事が。
『ゴーレム再び。街に迫るモンスターを追い払う』
ぺらり。さらにもう一枚。
『ゴーレム、謎のポーズで伯爵家の庭に。伯爵家と関係が……?』
ネネツィカは新聞に目を丸くした。
「アタクシのゴレ男くんが注目の的ですの!」
ゴレ男くんはネネツィカが得意とする召喚魔法で贔屓にしているゴーレムだ。使い手同様、思い切りが良く脳筋気味、絵のモデルにもなれる。
「ネネツィカ! 魔法が得意なのは良いが、危険な事や不必要に衆目を集める事をするなとこの前も言ったろう」
兄の説教はくどくどと長い。曰く、甘やかす両親の分も僕が厳しくしなければ、と。
「でも盗賊団やモンスターから民を守りましたのよ」
良い事をしましたのに! と妹はむくれ顔。だから、説教はさらに加熱した。
「良い事ではあるが貴族の令嬢、それも10歳の子がする事じゃない!」
しかも兄はしまいに腐った趣味の話までし始めた。あんな趣味はしたない、メリットがない、やめてしまえ……、ネネツィカはいやーっと心の中で悲鳴をあげ、考えた。
「あ、あの。お兄様。アタクシの趣味には、メリットもありますの」
ジロっとジト目が向けられる。
「楽しいとか心が豊かになるとかなら、絵でも良いだろう。あんなモノ……とんでもない、汚らわしい。お前の趣味は豊かになるどころか自他が腐る」
腐るとはよく言ったものである。
しかし! 酷い言いようでは!?
「な、な、なんという暴言。それは、ひどい暴言ですわ!!」
ネネツィカは思った。これは断固として戦わなければならぬ。この世に蔓延る無数の腐れ同志のためにも、この趣味を兄に認めさせ、謝罪させてみせる!!
「お兄様、その言葉はあんまりです! 全世界の同志に失礼ですの!」
「同志……!?」
「アタクシ、戦います。負けませんわ!」
こうしてネネツィカによる『兄の発言の撤回と謝罪を求める戦い』が始まった。
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