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2、未だチュートリアルのように、終わりと始まりの狭間に
8、ファーリズ同好文化マーケット
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茶席での相談は、穏やかに続いている。
「お金なら、良いアイディアがあります……ネネツィカ、見てください」
ヘレナが茶席で一冊の本を披露した。
「先日入手した、冒険物語です」
分厚い本にはびっしりと文字が書かれている。読むのにはかなり時間がかかるだろう。ヘレナはあらすじを語った。
「辺境の少年が、幼馴染の混血妖精種の少年と一緒に冒険の旅に出るんです。主人公は剣を、幼馴染は杖を持ち」
エイヴンが「これは、実話をもとにした伝記小説だな」と呟いた。ぶっちゃけ、彼自身の話である。事実とはかなり違う部分もあるようだったが。
「……お二人はとても強い絆で結ばれていて、お互いを相棒と呼びますの」
ヘレナが萌えポイントを語っていく。例えば、女の子に囲まれる相棒に嫉妬するところとか。
「相棒は俺のなのに、という心の声が……行間から読み取れました」
「あら!」
あくまで行間から勝手に妄想しただけであり、公式に書いてあるわけではない。エイヴンはそっと補足してパラパラとページをめくる。
「この竜の巣を訪ねて、竜のお姫様と主人公が婚礼の式を上げるエピソードは?」
(俺は結婚してないし、竜のお姫様なんていない、と言いたいぞ。誰が考えたんだこのエピソード)
エイヴンは創作の世界を楽しんだ。
竜は竜である。
この物語みたいに人間に似た姿になったりは、しない……はずである。
はず、というのは、エイヴン自身その生き物に精通しきってるわけでもないからなのだが。
ヘレナはチラッとそのページを見て、首を振った。
「悪い敵……古の『冬の』妖精王を倒すために、仕方なく……」
「そういう解釈か。なるほど」
「仕方ないと思いつつ、割り切れずに本心では嫉妬と悲しみで心が張り裂けそう。それでも喜ぶふりをする幼馴染の健気さに身悶えしてしまいました」
「本の中の幼馴染は普通におめでとーって喜んでるけど、実は嫉妬と悲しみで心が張り裂けそうなのか、なるほどぉ」
エイヴンはうんうんと頷き、物語をそんなふうに楽しめるって才能だなーと感心した。
「いいねぇ、じゃあ俺はその時竜のお姫様とやらが本当は勇者の暗殺を企んでたって妄想しちゃおうかな」
ドロドロの関係を妄想して、エイヴンはニコニコした。
「こんな風に、世の中のお話には無限の可能性と萌えがあるのです」
ヘレナが言えば、ネネツィカは本に手を伸ばして頷いた。
「わかりましたわ! つまり……アタクシたちで本をつくるんですの。そういうことですわね!?」
「あ、今のそんな話だったの?」
エイヴンはネネツィカの手を無視して本をめくり続けている。
「……何してますの、その本を寄越してくださいな」
「いや、試しにそういう色眼鏡な設定でもっと読んでみようかと思って」
ヘレナはそんな二人にほわほわと微笑み、紙に文字を書いた。
「いち。全くの架空の人物、全部想像の物語。
に。存在する誰かや、既にある物語を私たち好みの見方で行間を補足して書き直したもの」
ヘレナとネネツィカはしっかりと手を握り合った。友情の握手だ。
「やりましょう、ヘレナ」
「はい、ネネツィカ」
「ちなみに俺は百合も嗜む」
エイヴンがこそりと呟いた。
つくるものが決まれば、二人の行動は早かった。
「本屋さんに行きましょう」
「商人を呼びましょう」
「……」
2人は見つめ合った。
「本を売っているお店に行って、これから本を作るから置いてくださいとお願いしたらいいんじゃないでしょうか?」
「商人を呼んで、本を買わせれば良いのでは?」
なんだかんだ10歳の子どもたちだ、と微笑しげに少女らを見つめて、エイヴンが咳払いをした。
「おほん、こほん」
「なんですの、風邪ですの?」
「お手洗いならあちらですよ」
「いやいや、そうじゃないよ君たち」
大人がここにいるじゃないかと嘆かわしげに言って、エイヴンは一枚の紙を広げて見せた。
「『ファーリズ同好文化マーケット』?」
ネネツィカが読み上げる。これには、執事のティミオスもちょっとびっくりした顔をしていた。
「このファーリズでそのような類の催しが許されるとは?」
「許されてるんだ、これが」
エイヴンはしたり顔で笑った。
「何故、許されているのでしょう? 白竜はこのような催しを、好まないはず……」
ティミオスは思案気に首をかしげた。
ファーリズの神々は、二次創作のボーイズラブを禁止していたのだ。
ゆえに、同人誌即売会など許されるはずもないのがこの国なのだが。
「聖女様のご趣味なんだぜ」
エイヴンはにこにこと教えた。
「はっ……?」
「聖女様は、ボーイズラブ愛好家なんだ」
「ええ……」
ティミオスは深く困惑した。
エイヴンはにやにやとして、少女たちを嗾ける。
「文章、絵画。幼い君たちは知らないかも知らないが、世の中には確かに間違いなく、同志はいる。これは君たちより先に趣味に目覚めた先達による我々の社交の場……。同志による同志のためのマーケットだ!」
「なんですって……!!」
「まあ!」
世界は広かった。
ネネツィカとヘレナは手を握り合い、ショックに震えた。
「このマーケットは、同志がたくさんいるんですか?」
ヘレナがふるふる震えながら問いかける。エイヴンはこくりと頷いた。
「いるッ」
「まぁ!!」
くらぁっと目眩を起こすヘレナ。メイドたちが悲鳴を上げた。ヘレナしっかり! と背を支えてネネツィカが問いかける。
「このマーケットには、その……同志の作品がいっぱいありますの?」
「あるッ」
「あぅぁ……!!」
ネネツィカの心が射止められた。
「お嬢様! おのれ、腐男子め。よくもお嬢様を」
「黙って聞いていれば幼いお嬢様たちの情操教育に悪影響を齎しそうな刺激物を教えて……!」
執事とメイドが敵意を向ける。エイヴンは「えぇ……」と後退り、己の行いを振り返った。
「いや、マーケット教えるくらいしかしてないよぉ、あはは。やだなぁ」
ともあれ、これによりネネツィカとヘレナはマーケットに参加することを決意したのである。
「お金なら、良いアイディアがあります……ネネツィカ、見てください」
ヘレナが茶席で一冊の本を披露した。
「先日入手した、冒険物語です」
分厚い本にはびっしりと文字が書かれている。読むのにはかなり時間がかかるだろう。ヘレナはあらすじを語った。
「辺境の少年が、幼馴染の混血妖精種の少年と一緒に冒険の旅に出るんです。主人公は剣を、幼馴染は杖を持ち」
エイヴンが「これは、実話をもとにした伝記小説だな」と呟いた。ぶっちゃけ、彼自身の話である。事実とはかなり違う部分もあるようだったが。
「……お二人はとても強い絆で結ばれていて、お互いを相棒と呼びますの」
ヘレナが萌えポイントを語っていく。例えば、女の子に囲まれる相棒に嫉妬するところとか。
「相棒は俺のなのに、という心の声が……行間から読み取れました」
「あら!」
あくまで行間から勝手に妄想しただけであり、公式に書いてあるわけではない。エイヴンはそっと補足してパラパラとページをめくる。
「この竜の巣を訪ねて、竜のお姫様と主人公が婚礼の式を上げるエピソードは?」
(俺は結婚してないし、竜のお姫様なんていない、と言いたいぞ。誰が考えたんだこのエピソード)
エイヴンは創作の世界を楽しんだ。
竜は竜である。
この物語みたいに人間に似た姿になったりは、しない……はずである。
はず、というのは、エイヴン自身その生き物に精通しきってるわけでもないからなのだが。
ヘレナはチラッとそのページを見て、首を振った。
「悪い敵……古の『冬の』妖精王を倒すために、仕方なく……」
「そういう解釈か。なるほど」
「仕方ないと思いつつ、割り切れずに本心では嫉妬と悲しみで心が張り裂けそう。それでも喜ぶふりをする幼馴染の健気さに身悶えしてしまいました」
「本の中の幼馴染は普通におめでとーって喜んでるけど、実は嫉妬と悲しみで心が張り裂けそうなのか、なるほどぉ」
エイヴンはうんうんと頷き、物語をそんなふうに楽しめるって才能だなーと感心した。
「いいねぇ、じゃあ俺はその時竜のお姫様とやらが本当は勇者の暗殺を企んでたって妄想しちゃおうかな」
ドロドロの関係を妄想して、エイヴンはニコニコした。
「こんな風に、世の中のお話には無限の可能性と萌えがあるのです」
ヘレナが言えば、ネネツィカは本に手を伸ばして頷いた。
「わかりましたわ! つまり……アタクシたちで本をつくるんですの。そういうことですわね!?」
「あ、今のそんな話だったの?」
エイヴンはネネツィカの手を無視して本をめくり続けている。
「……何してますの、その本を寄越してくださいな」
「いや、試しにそういう色眼鏡な設定でもっと読んでみようかと思って」
ヘレナはそんな二人にほわほわと微笑み、紙に文字を書いた。
「いち。全くの架空の人物、全部想像の物語。
に。存在する誰かや、既にある物語を私たち好みの見方で行間を補足して書き直したもの」
ヘレナとネネツィカはしっかりと手を握り合った。友情の握手だ。
「やりましょう、ヘレナ」
「はい、ネネツィカ」
「ちなみに俺は百合も嗜む」
エイヴンがこそりと呟いた。
つくるものが決まれば、二人の行動は早かった。
「本屋さんに行きましょう」
「商人を呼びましょう」
「……」
2人は見つめ合った。
「本を売っているお店に行って、これから本を作るから置いてくださいとお願いしたらいいんじゃないでしょうか?」
「商人を呼んで、本を買わせれば良いのでは?」
なんだかんだ10歳の子どもたちだ、と微笑しげに少女らを見つめて、エイヴンが咳払いをした。
「おほん、こほん」
「なんですの、風邪ですの?」
「お手洗いならあちらですよ」
「いやいや、そうじゃないよ君たち」
大人がここにいるじゃないかと嘆かわしげに言って、エイヴンは一枚の紙を広げて見せた。
「『ファーリズ同好文化マーケット』?」
ネネツィカが読み上げる。これには、執事のティミオスもちょっとびっくりした顔をしていた。
「このファーリズでそのような類の催しが許されるとは?」
「許されてるんだ、これが」
エイヴンはしたり顔で笑った。
「何故、許されているのでしょう? 白竜はこのような催しを、好まないはず……」
ティミオスは思案気に首をかしげた。
ファーリズの神々は、二次創作のボーイズラブを禁止していたのだ。
ゆえに、同人誌即売会など許されるはずもないのがこの国なのだが。
「聖女様のご趣味なんだぜ」
エイヴンはにこにこと教えた。
「はっ……?」
「聖女様は、ボーイズラブ愛好家なんだ」
「ええ……」
ティミオスは深く困惑した。
エイヴンはにやにやとして、少女たちを嗾ける。
「文章、絵画。幼い君たちは知らないかも知らないが、世の中には確かに間違いなく、同志はいる。これは君たちより先に趣味に目覚めた先達による我々の社交の場……。同志による同志のためのマーケットだ!」
「なんですって……!!」
「まあ!」
世界は広かった。
ネネツィカとヘレナは手を握り合い、ショックに震えた。
「このマーケットは、同志がたくさんいるんですか?」
ヘレナがふるふる震えながら問いかける。エイヴンはこくりと頷いた。
「いるッ」
「まぁ!!」
くらぁっと目眩を起こすヘレナ。メイドたちが悲鳴を上げた。ヘレナしっかり! と背を支えてネネツィカが問いかける。
「このマーケットには、その……同志の作品がいっぱいありますの?」
「あるッ」
「あぅぁ……!!」
ネネツィカの心が射止められた。
「お嬢様! おのれ、腐男子め。よくもお嬢様を」
「黙って聞いていれば幼いお嬢様たちの情操教育に悪影響を齎しそうな刺激物を教えて……!」
執事とメイドが敵意を向ける。エイヴンは「えぇ……」と後退り、己の行いを振り返った。
「いや、マーケット教えるくらいしかしてないよぉ、あはは。やだなぁ」
ともあれ、これによりネネツィカとヘレナはマーケットに参加することを決意したのである。
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