竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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3、番外編:ヘレナの秘密

11、ヘレナの秘密

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 11歳の誕生日を迎える貴族令嬢ヘレナ・マッキントンには、秘密がある。それは、自分が乙女ゲームの世界に転生した元日本人だという秘密だ。

 日本人の時の名前は、相川空音(あいかわ そらね)。平凡なパート従業員だった。勉強ができて優等生だった空音は大学までは出たのだが、人見知りと内向的気質を正社員としての就職ができず、かといって彼氏もいない。それどころか友達もいなかった。人生詰んでるなと思いながら生活のための労働(パート仕事)をしていた空音の寂しさを癒してくれるのは、非現実の世界だったのだ。

 日本中で感染症が流行した年。空音もまたウイルスに感染した。熱はなかったが咳を繰り返し、頭痛と耳痛を抱えて病院に電話すると、「流行の感染症の症状がある人は発熱外来へ」と言われて。そちらへ電話で問い合わせをすれば、年齢の若さと熱がないことから「症状の重い方を優先しているので自宅で様子を見てください」と検査も断られてしまった。
 孤立したまま、数日は耐えていただろうか。気付くと空音は転生していた。転生モノの小説が流行っていた時代でもあったので、空音はファンタジー世界で女の子に生まれ変わったと知った時、これは小説でよくある異世界転生だ、私はきっと死んだのだ、ヤッタァ……と思った。

 空音にとって、元の人生は詰んでいて、けれど死ぬのも怖いし、なんだか辛いけど罰ゲームみたいに希望のない道を絶望のエンディングに向けてひたすら歩くような生だったのだ。
「私、この世界で幸せになれるかなあ」
 いかにもファンタジー、貴族、といった部屋やお城みたいなお家。豪華なドレスに食事……しばらくそんな生活を満喫した空音は、ある時気付いた。

「アルマ様」
 自分がそう呼ばれる事に。

(……アルマ?)
 それを機に、空音は周りの人の名前や地名、国名を調べた。そして気づいた。
「私、乙女ゲームの悪役令嬢だわ!!」

 アルマは、ファーリズ王国の南西にあるアイザール共和国の皇女キャラクターだった。アイザール共和国の皇族は象徴的な存在で、権力はあまりない。
 とはいえ、アルマという悪役はエリック第二王子と婚約してファーリズ王国の学院に留学し、ファーリズ王国の聖女ユージェニーのライバルになり、ありとあらゆる嫌がらせをした後敗北して婚約破棄され、処刑されるキャラだった。
(そんなの絶対イヤ!!)


 空音は運命を回避するために、それからコツコツこっそり小遣いを溜めた。ちょうど良いイベントを知っていたから。

(誕生日の夜、城に賊が入り込んで騒ぎが起きるのよね)
 アルマはその時に賊に斬られて顔に怪我をしてしまうというのが、ゲームの隠し設定で語られていた。

 誕生日当日、騒ぎが起きるより早くアルマはこの日のために準備してした旅装に着替えて金目のものを持ち、城の秘密通路に駆け込んだ。ゲームではアルマに捕まった聖女が逃げるための通路だった。
 外に出て、逃げて。行く場所はぼんやりと、安全そうな村や町に、くらいに考えて。
 しかし、幼い体と世間知らずのアルマはすぐに道に迷い、体調を崩して、……気づいたら、どこかの孤児院にいた。記憶が曖昧になっていたが、どうも通りすがりの親切な旅人が奴隷商人に捕まりかけた所を保護してくれて、孤児院に預けたのだと後からわかった。アルマはそこで名を変えた。
 ヘレナ、と。

 幼いヘレナはそこで数ヶ月過ごしていたが、やがて優しそうな貴族の男が引き取って養子にしてくれた。新しい家族は穏やかで優しい人たちで、母も父も血の繋がりがあるみたいに愛情を注いでくれる。兄や姉も優しい。

 そして、友達ができた。

 文通で近況を語り合って、互いの兄同士をカップリング妄想してみたり、執事について語ったり、読んだ本の布教をして感想を語り合ったり。同じ趣味を持つ友達、ネネツィカはゲームには出てこないキャラだったから、ここで初めてヘレナは第二の人生を安心して楽しめるようになったのだった。

「ネネツィカ、私、友達って初めてなんです」
 互いの家に招待し合い、直接顔を合わせて他愛もない話やお茶を楽しむようになって、少しした頃。
 ヘレナは文章を、ネネツィカは絵を書いて、2人の合作とも言える薄い本を作って。
 一緒に作ったお揃いの本を抱きしめて、ヘレナはにっこりと笑った。
「あら。アタクシもですわ!」
 ネネツィカがそう言ってニコニコしてくれたから、ヘレナはこっそりと秘密を思った。

(違うのネネツィカ、私はもっとずっと長い年月、友達が初めてなの)
 この友達になら、いつか言えるだろうか。

 ――私の秘密を。

 ネネツィカと参加したイベントで、偶然お忍び中の聖女を見かけて、ヘレナはドキドキした。けれど、ネネツィカや家族がそばにいる今の自分、『ヘレナ』なら。

 ――きっと、大丈夫。
 そんな予感がするのであった。
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