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2、未だチュートリアルのように、終わりと始まりの狭間に
10、その名はゴレ男くん
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『第一王子シリル様のお相手は「鮮血」の二つ名持ち騎士フィニックス様と、第二王子付の騎士オーガスト様、どっち?』
『筋骨隆々の騎士オーガスト様X優美な騎士フィニックス様』
『優美な騎士フィニックス様X筋骨隆々の騎士オーガスト様』
『おにしょた! 筋骨隆々の騎士オーガスト様X第二王子エリック様』
『しょたおに!? 第二王子エリック様X筋骨隆々の騎士オーガスト様』
ヘレナは自分の本を並べた机の前に座り、訪れるお客さんひとりひとりと萌え語りを交わして交友を広げていた。大人しそうな外見の彼女の瞳は、実在する高貴な方々のカップリングを語れる同志に出会えてキラキラと輝いていた。
「大人向けの本が読めないのが、ざんねんです」
いつか大人になった時のために大人向けの本をエイヴンに確保してもらい、ヘレナは恍惚の表情を浮かべた。
「それにしても恐れ多い方々を扱っちゃってまあ」
生真面目で腐った趣味を嫌っている友人のヴァルターがこれを見たらなんというだろうかと思いながら、エイヴンは貴重な図書を自分の分も確保した。
「あのう。第二王子エリック様をメインに扱った商品はないのでしょうか?」
フードを目深にかぶった黒ローブ姿の茶髪の娘が恐る恐る問いかける。
護衛と思しき黒ローブ呪術師を連れた女の子は、ヘレナやネネツィカと同じぐらいの年齢の、いかにもお忍びといった風情のお嬢様で、どうもエリック王子が推しな様子。
「こちらはいかがでしょうか?」
ヘレナが『おにしょた! 筋骨隆々の騎士オーガスト様X第二王子エリック様』『しょたおに!? 第二王子エリック様X筋骨隆々の騎士オーガスト様』の本を差し出す。
「それぞれ受け攻めは逆で、健全な本なのです」
「……」
茶髪の娘はヘレナと似たような緑色の瞳をしていて、熱心に本を見比べている。
「ユージェニー様」
呪術師が異様なマーケットの空気やタイトルにそわそわオロオロと声をかけ――、
「いただきます。2冊とも」
キリッ! 覚悟を決めた様子で、娘は本を買っていった。
ユージェニーは異母兄が付けてくれた護衛呪術師のレネンを連れて、宝の山にキラキラした目を注いだ。
「全部買って帰りたいくらいだわ」
この世界でも、薄い本が楽しめるのね――それも、この世界産の。元の世界では出会えない新鮮な本だ。
「お嬢様、ここで読まれるんですか」
ベンチにぴょこんと座って本をめくれば、レネンがちょっと困った感じにお座りしている。兄がするみたいに頭をぽんぽんと撫でてやれば、大きなワンコみたいで可愛かった。
「ん。この本、異世界用語がいっぱい使われてるわ。作者は異世界人かしら」
さっきの子――、とその容貌を思い出すユージェニー。
(綺麗な女の子だったわ。お姫様みたいで。ゲームで言うなら、アルマとかそんな感じの……)
「レネン、そういえばお兄さまの本とかグッズはないのかしら。お兄さまを知ってるお兄さま推しの異世界人が描いてたりしないかしら~、お土産にしてあげましょう」
ふと思いついて言えば、レネンはたいそう驚いて気が進まない様子を見せた。
「そんなものがあってたまるもんですか! 異世界人が坊ちゃんの何をご存じで、何を描くと仰るんです! 例えあっても、ご本人には嫌がられますよ、間違いございませんとも」
「だから、嫌がらせにお土産にするのよ」
兄はちょっと苛めたくなる感じの子なのだ。
「むしろ発売されているなら、発売禁止に処してやりたいぐらいですが?」
レネンは兄命といった護衛なので、あやしい商売が気に入らないようだった。
「モデル料――せめてそれを請求しましょう。ええ、ええ!」
「レネン、良い子にしないとお兄さまに言いつけるわよ。護衛が言うこときかなかったって」
◇◇◇
「ネネツィカ、そろそろ帰ろうか」
「ええ、お兄様」
すっかり満足して、心なしか仲良し度がアップしたラーフルトン家の兄妹、ヒューバートとネネツィカがそう言葉を交わした直後。
穏やかな時間を過ごしていた各々の耳に、女子の悲鳴がきこえた。
「キャー! ひったくり!」
「誰か捕まえて!」
雑踏を掻き分けて逃げていく人影を見て、護衛が動くより速くネネツィカが叫んだ。
「大切なものを盗むなんて、許しませんわーっ!!」
その瞬間、道のあちらこちらに転がっていた石ころが幾つも無数に集合し、土を混ぜ――ネネツィカの魔力で新たなゴレ男くんが創られた!
どすっどすっどすっどんっ、ひゅーん。
途中からジャンプで人垣を跳び越え、空中で分解して無数の石礫と土塊に変わって逃げるひったくり犯を打ち据える。居合わせた人々は目を見開いて、石がひったくり犯の上で再結集・合体して人型を造りなおすのを視た。
「つかまえましたわーっ!!」
兄ヒューバートはそんな妹ネネツィカに、「これは怒れないな……」と呟いたのだった。
後日、この地方の新聞には『お手柄ゴーレム、ひったくり犯を確保』『その名はゴレ男くん』といった記事が掲載されたのであった。
『筋骨隆々の騎士オーガスト様X優美な騎士フィニックス様』
『優美な騎士フィニックス様X筋骨隆々の騎士オーガスト様』
『おにしょた! 筋骨隆々の騎士オーガスト様X第二王子エリック様』
『しょたおに!? 第二王子エリック様X筋骨隆々の騎士オーガスト様』
ヘレナは自分の本を並べた机の前に座り、訪れるお客さんひとりひとりと萌え語りを交わして交友を広げていた。大人しそうな外見の彼女の瞳は、実在する高貴な方々のカップリングを語れる同志に出会えてキラキラと輝いていた。
「大人向けの本が読めないのが、ざんねんです」
いつか大人になった時のために大人向けの本をエイヴンに確保してもらい、ヘレナは恍惚の表情を浮かべた。
「それにしても恐れ多い方々を扱っちゃってまあ」
生真面目で腐った趣味を嫌っている友人のヴァルターがこれを見たらなんというだろうかと思いながら、エイヴンは貴重な図書を自分の分も確保した。
「あのう。第二王子エリック様をメインに扱った商品はないのでしょうか?」
フードを目深にかぶった黒ローブ姿の茶髪の娘が恐る恐る問いかける。
護衛と思しき黒ローブ呪術師を連れた女の子は、ヘレナやネネツィカと同じぐらいの年齢の、いかにもお忍びといった風情のお嬢様で、どうもエリック王子が推しな様子。
「こちらはいかがでしょうか?」
ヘレナが『おにしょた! 筋骨隆々の騎士オーガスト様X第二王子エリック様』『しょたおに!? 第二王子エリック様X筋骨隆々の騎士オーガスト様』の本を差し出す。
「それぞれ受け攻めは逆で、健全な本なのです」
「……」
茶髪の娘はヘレナと似たような緑色の瞳をしていて、熱心に本を見比べている。
「ユージェニー様」
呪術師が異様なマーケットの空気やタイトルにそわそわオロオロと声をかけ――、
「いただきます。2冊とも」
キリッ! 覚悟を決めた様子で、娘は本を買っていった。
ユージェニーは異母兄が付けてくれた護衛呪術師のレネンを連れて、宝の山にキラキラした目を注いだ。
「全部買って帰りたいくらいだわ」
この世界でも、薄い本が楽しめるのね――それも、この世界産の。元の世界では出会えない新鮮な本だ。
「お嬢様、ここで読まれるんですか」
ベンチにぴょこんと座って本をめくれば、レネンがちょっと困った感じにお座りしている。兄がするみたいに頭をぽんぽんと撫でてやれば、大きなワンコみたいで可愛かった。
「ん。この本、異世界用語がいっぱい使われてるわ。作者は異世界人かしら」
さっきの子――、とその容貌を思い出すユージェニー。
(綺麗な女の子だったわ。お姫様みたいで。ゲームで言うなら、アルマとかそんな感じの……)
「レネン、そういえばお兄さまの本とかグッズはないのかしら。お兄さまを知ってるお兄さま推しの異世界人が描いてたりしないかしら~、お土産にしてあげましょう」
ふと思いついて言えば、レネンはたいそう驚いて気が進まない様子を見せた。
「そんなものがあってたまるもんですか! 異世界人が坊ちゃんの何をご存じで、何を描くと仰るんです! 例えあっても、ご本人には嫌がられますよ、間違いございませんとも」
「だから、嫌がらせにお土産にするのよ」
兄はちょっと苛めたくなる感じの子なのだ。
「むしろ発売されているなら、発売禁止に処してやりたいぐらいですが?」
レネンは兄命といった護衛なので、あやしい商売が気に入らないようだった。
「モデル料――せめてそれを請求しましょう。ええ、ええ!」
「レネン、良い子にしないとお兄さまに言いつけるわよ。護衛が言うこときかなかったって」
◇◇◇
「ネネツィカ、そろそろ帰ろうか」
「ええ、お兄様」
すっかり満足して、心なしか仲良し度がアップしたラーフルトン家の兄妹、ヒューバートとネネツィカがそう言葉を交わした直後。
穏やかな時間を過ごしていた各々の耳に、女子の悲鳴がきこえた。
「キャー! ひったくり!」
「誰か捕まえて!」
雑踏を掻き分けて逃げていく人影を見て、護衛が動くより速くネネツィカが叫んだ。
「大切なものを盗むなんて、許しませんわーっ!!」
その瞬間、道のあちらこちらに転がっていた石ころが幾つも無数に集合し、土を混ぜ――ネネツィカの魔力で新たなゴレ男くんが創られた!
どすっどすっどすっどんっ、ひゅーん。
途中からジャンプで人垣を跳び越え、空中で分解して無数の石礫と土塊に変わって逃げるひったくり犯を打ち据える。居合わせた人々は目を見開いて、石がひったくり犯の上で再結集・合体して人型を造りなおすのを視た。
「つかまえましたわーっ!!」
兄ヒューバートはそんな妹ネネツィカに、「これは怒れないな……」と呟いたのだった。
後日、この地方の新聞には『お手柄ゴーレム、ひったくり犯を確保』『その名はゴレ男くん』といった記事が掲載されたのであった。
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