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4、春の踊り子は縁繋ぎ
19、醜聞と友情
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「それにしても、今年は涼しいですわね」
分厚い本のページをめくり、呟いたネネツィカ。視界の隅に呪いの聖女人形が転がっている。捨てようか捨てまいか迷ったのだが、なんだかんだ愛着めいたものを覚えて放置していた。
「さようでございますね。民の中には……いえ」
執事ティミオスが桜のチョコレートを飾るチェリームースをテーブルに置いてくれたから、ネネツィカは本に栞を挟んで休憩した。
「あら、遠慮しなくてもよろしくてよ。民の中には、アタクシが呪われたせいだと噂する者もいるのでしょう?」
聖女が積極的に呪っている、だとか。聖女の機嫌を損ねたから、だとか。天が怒って罰を下した、だとか。
噂に尾鰭がついて世間で好き勝手言われているネネツィカである。
コポコポと耳に優しい湯音を立てて、ティミオスが紅茶を注いでから手紙が入ったトレイを差し出した。
「お嬢様、こちらを」
手紙は、可愛らしい縞模様の猫の柄。封の印はマッキントン家のものだ。
「これは……ヘレナからですのね」
ネネツィカは震える指先で手紙を摘んだ。
聖女との騒動が噂になっている。当然、ヘレナの耳にも入っているだろう。
貴族社会では醜聞を機に親しき者が離れていったり、陰口を叩かれたりするのが珍しくない。
聖女との諍いは、相手の態度もとんでもなく非常識なのだが(特に呪い)、それでも家格と聖女の身分自体の特殊性から、どちらを悪役として叩くかを考えればネネツィカの方が叩きやすいのは間違いなかった。ゆえに、ネネツィカは不安だった。
――アタクシと縁を切るとか書いてあったらどうしましょう。
「中身を見るのが怖いですわ」
思わずそんな呟きを溢して、ネネツィカは涙目になった。
「お嬢様、ヘレナお嬢様は大切なご友人なのでしょう」
ティミオスが薄紅の瞳を瞬かせ、ネネツィカが座る椅子の隣に膝をついた。
「僭越ながら、わたくしの眼にはヘレナお嬢様とネネツィカお嬢様のご友情は、風評に流されて壊されてしまうほど浅くは見えませんでしたが」
穏やかな声は優しく、ネネツィカに勇気をくれた。目尻に浮かんだ涙をそっと拭われる。優しくて温かい体温を身近に感じて、ネネツィカはぎゅっと唇を結んで頷いた。
「ありがとう、ティミオス……アタクシ、信じますわ」
恐る恐る封を開け、数枚の手紙を取り出して。じっくり大切に読む文面には、ヘレナらしさ溢れる几帳面そうな字が並んでいて、その内容がネネツィカを心配してくれているとわかってネネツィカの視界が涙で歪んだ。
「ぅ、うぅ」
お嬢様、と心配そうな声がする。ネネツィカは涙で手紙が濡れないように卓上に置き、何度も何度も頷いた。
「アタクシ、心配してもらってますわ。アタクシさっきまで疑ってしまってましたのに、ヘレナは、ぜんぜん、風評なんて」
――ヘレナがアタクシを心配してくれないわけ、ないじゃない。
「だってアタクシたち同志ですものね……っ」
――悪い事ばかりでもありませんわ。おかげでヘレナとは仲直りできますもの。
そう呟くネネツィカに、執事はふわりと微笑んだ。
「ようございました」
ネネツィカは返信に、城であった出来事とイケメン騎士たちの萌え妄想を添えてから、ヘレナがネネツィカを嫌いになるのではないかと疑ってしまった謝罪と、心配してくれてとても嬉しいという素直な気持ちを丁寧にゆっくりと時間をかけて綴ったのだった。
「それと、ティミオス……ヘレナが冷夏対策のアイディアを手紙に添えてくださってますの」
ネネツィカは執事に手紙の返事を渡し、ついでにこの後行動しようと思いついた予定を打ち明けた。
分厚い本のページをめくり、呟いたネネツィカ。視界の隅に呪いの聖女人形が転がっている。捨てようか捨てまいか迷ったのだが、なんだかんだ愛着めいたものを覚えて放置していた。
「さようでございますね。民の中には……いえ」
執事ティミオスが桜のチョコレートを飾るチェリームースをテーブルに置いてくれたから、ネネツィカは本に栞を挟んで休憩した。
「あら、遠慮しなくてもよろしくてよ。民の中には、アタクシが呪われたせいだと噂する者もいるのでしょう?」
聖女が積極的に呪っている、だとか。聖女の機嫌を損ねたから、だとか。天が怒って罰を下した、だとか。
噂に尾鰭がついて世間で好き勝手言われているネネツィカである。
コポコポと耳に優しい湯音を立てて、ティミオスが紅茶を注いでから手紙が入ったトレイを差し出した。
「お嬢様、こちらを」
手紙は、可愛らしい縞模様の猫の柄。封の印はマッキントン家のものだ。
「これは……ヘレナからですのね」
ネネツィカは震える指先で手紙を摘んだ。
聖女との騒動が噂になっている。当然、ヘレナの耳にも入っているだろう。
貴族社会では醜聞を機に親しき者が離れていったり、陰口を叩かれたりするのが珍しくない。
聖女との諍いは、相手の態度もとんでもなく非常識なのだが(特に呪い)、それでも家格と聖女の身分自体の特殊性から、どちらを悪役として叩くかを考えればネネツィカの方が叩きやすいのは間違いなかった。ゆえに、ネネツィカは不安だった。
――アタクシと縁を切るとか書いてあったらどうしましょう。
「中身を見るのが怖いですわ」
思わずそんな呟きを溢して、ネネツィカは涙目になった。
「お嬢様、ヘレナお嬢様は大切なご友人なのでしょう」
ティミオスが薄紅の瞳を瞬かせ、ネネツィカが座る椅子の隣に膝をついた。
「僭越ながら、わたくしの眼にはヘレナお嬢様とネネツィカお嬢様のご友情は、風評に流されて壊されてしまうほど浅くは見えませんでしたが」
穏やかな声は優しく、ネネツィカに勇気をくれた。目尻に浮かんだ涙をそっと拭われる。優しくて温かい体温を身近に感じて、ネネツィカはぎゅっと唇を結んで頷いた。
「ありがとう、ティミオス……アタクシ、信じますわ」
恐る恐る封を開け、数枚の手紙を取り出して。じっくり大切に読む文面には、ヘレナらしさ溢れる几帳面そうな字が並んでいて、その内容がネネツィカを心配してくれているとわかってネネツィカの視界が涙で歪んだ。
「ぅ、うぅ」
お嬢様、と心配そうな声がする。ネネツィカは涙で手紙が濡れないように卓上に置き、何度も何度も頷いた。
「アタクシ、心配してもらってますわ。アタクシさっきまで疑ってしまってましたのに、ヘレナは、ぜんぜん、風評なんて」
――ヘレナがアタクシを心配してくれないわけ、ないじゃない。
「だってアタクシたち同志ですものね……っ」
――悪い事ばかりでもありませんわ。おかげでヘレナとは仲直りできますもの。
そう呟くネネツィカに、執事はふわりと微笑んだ。
「ようございました」
ネネツィカは返信に、城であった出来事とイケメン騎士たちの萌え妄想を添えてから、ヘレナがネネツィカを嫌いになるのではないかと疑ってしまった謝罪と、心配してくれてとても嬉しいという素直な気持ちを丁寧にゆっくりと時間をかけて綴ったのだった。
「それと、ティミオス……ヘレナが冷夏対策のアイディアを手紙に添えてくださってますの」
ネネツィカは執事に手紙の返事を渡し、ついでにこの後行動しようと思いついた予定を打ち明けた。
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