竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
61 / 260
6、ゲームのスタート

53、世界のコードと王家の守護竜、おねだり坊ちゃんと囀りの呪術師

しおりを挟む
「いやぁ~、刺激的な入学式だった……、なんであの子にあんな事をさせたのあいつ……、ありのままじゃないんかあい。あの子も可哀そうに。はー、しんどっ」
 教師陣の会議を終えて、フィーリー先生ことエイヴンは肩をぐるんと回して欠伸あくびをした。
「あー、変な恰好で固まったから腰がいてえわぁ」

 ――あいつが変なことするし。
 ――いきなりサポートキャラが出てくるから、焦るのなんの。

 橙色の瞳が夜空の月を見て、瞬いた。
「はー」
「ふむ。それほどひどいなら、治癒しようか」
 ふっと力の抜けた笑みを浮かべるエイヴンへと、同僚のアンドルート先生ことヴァルターがそっと手を向けた。エイヴンは友人でもある同僚にへらりと笑い、手を振った。
「お前も疲れてるだろ。いいよ、ちょっと普段使わない変な筋肉使っただけだし」
「そうか」
 夜闇に溶け込むような陰鬱な長い黒髪が不機嫌そうなヴァルターの顔をいっそう印象悪く見せている。眉間に刻まれた深い皺が心配してくれているのだとわかるから、自身もだいぶ前から疲労感を覚えていたエイヴンは少しだけ元気になった。
「明日も先生やるかあ」

 夜空に無数の小さな星が煌めいている。どこにいても変わらないその輝きに、エイヴンは柔らかな声を紡いだ。
「おやすみ、ヴァルター」
 友に挨拶をして、エイヴンは狭くて平凡な自分の部屋へと引き上げる。

「ま、あのお嬢様はもう本命決まってるようだし。俺を口説いてくるこたぁないっしょ」
 そっと吐息交じりに、苦笑するような声を吐く――エイヴン・フィーリーはずっとずっと、うんざりするくらい前から自分がゲームのキャラクターだと理解しているのだった。


◇◇◇


 寮ではなく、王城の自室へと帰宅したエリック王子はそのころ――、
「今日、ネネツィカと目が合ったんだ」
 嬉しさをこらえきれないといった顔でベッドに転がり、守護竜と話をしていた。白い竜、ティーリーである。
「すごく一生懸命、じーっとオレを見てたんだ! オレのことが好きって感じの眼だった! オレが壇上で格好良くスピーチできたから、すっごくキラキラした目で、ニコニコして、いっぱい拍手してくれたんだ!」
 護衛として控えながら会話を耳にする騎士オーガストは自分のことのように嬉しくなってニマニマとした。
 自分の主である王子は立派なお姿を魅せたのだ。
 オーガストには、それがなにより誇らしく、嬉しくて堪らないのだった。

「でも、ネネツィカは途中で男子生徒と何か揉めたみたいで、先生に連れていかれちゃったんだ。注意とかされたんだろうか」
 エリック王子は心配そうに呟いた。エリックには、揉めた時の声が届いていなかった。その後に取り巻きが吹き込んで来た情報も一切するりと耳に入らず、何も知らないままでいた。
 それは、守護竜ティーリーが成したのだ。
「もしかして、ナンパでもされたんじゃないかな。それとも――意地悪なことを言われたとか。オレ、心配だな」
 心底心配そうに呟く少年の声にオーガストはすぐさま部下を呼びつけて、その事件について調査するように命じた。
「それに、クレイもちょっとネネツィカを気にかけてるように見えたかな……、うん。クレイのスピーチ中のトラブルだったから、おかしなことじゃないんだけど」
 心配事がいっぱいある。そんな風情のエリック王子に、ティーリーではやさしく子守りするような声色でさえずる。
「王子。我はいつも王子の幸せを祈っている。そのためには……多少、世界のコードの書き換えくらいなら、してみせよう。ゆえに、心配をすることなくゆっくりと眠るといい」

 王子に要らぬ心配をかけるライバルなど、いない。
 白竜はそう微笑んだ。

「うん。ティーリーがいてくれるから、オレは安心する。……ティーリーに見放されないように、立派な王子でいるよ」
 健気な少年の声が、ふと問いかける。
「そういえば、たまに言うそれはなに? 『コード』っていうの」

 オーガストはそっと耳を澄ませた。
 それは、彼も気になっていたことだったのだ。
 ひとの身には、計り知れない世界の神秘。守護竜はそれを知っていると言われている。世界の在り方、成り立ち、仕組みを把握している、限りなく神にちかい偉大な存在。神には敵うことはないが、その存在をのぞけばこの世界で守護竜にまさる者はいない。
 その言葉の数々は、人々にとっては世界の神秘の片鱗。
 多くの学者たちが記録し、考察を交わし、偉大なる竜とこの世界に想いを馳せている。

「『コード』か……。それは、我にも完全に理解はできていない神々の創造の言葉だ。下手にいじると大変なことになってしまうので、滅多にいじることはないのだが」
「神々の……」
「我が王家の守護竜であるのも、コードに定められている」

 ――ティーリーは、それを書き換えることができるんだ。すごいや!

 ――安心したなら、もう休むといい。我の可愛い王子。

 やりとりを耳に、オーガストは空恐ろしいものを感じてそっと腕をさするのだった。


◇◇◇


 公爵家では、呪術師レネンが主クレイの夜に侍り、書きあがった手紙を受け取っていた。
 それは、派閥貴族にあてた『ちょっとしたおねだり』の手紙となっている。
「どういった対応をするにせよ、真相を知るのは最初の一歩だ。敵がいるのなら、誰が敵なのかは把握しなくちゃ。ぼくはあの噂を囀らせた黒幕を探そう」

 ――心の底でほんのわずかに、『黒幕がエリックだったらどうしよう』と怯えながら。

 ――もしそうだったら?

 少年は、黒ローブの従者呪術師の袖をつまんで俯いた。

「思えば、無いものを有ると長く言い通すのは限界があるのではない? つまり、つまり……」

 ぼくは、そろそろ無難な形で死んでおいたほうが周囲の『味方』のためなのではないだろうか?
 生きているほど、あれこれとフォローをしないといけない自分も周りも面倒なのでは?

 ――少年はそう思ったのだ。

 ひんやりとした温度で声が返る。
「坊ちゃん、うだうだ言ってないでさっさとお休みなさい、就寝のお時間ですよ」
「……レネンは情緒がないな……」

 拗ねたように言って、少年は袖を離して寝台に転がった。

 手紙の宛名を確認して懐に仕舞う呪術師は、いつも当たり前にそこにいて、基本的に静かで、気配も殺していて、空気のよう。
 けれどこの空気は、たまに美しく囀ることもあった。

「坊ちゃんには、このレネンがおりますよ。姿を隠し、いつもお傍におりましょう。黒竜の加護をみせよと言われた際には、このレネンが呪術にてそれらしき奇跡の真似事も演出してみせますとも」

 寝台に丸くなって、少年はぱしぱしと目を瞬かせた。

「それは、頼もしいね。ぼくは歴史家を買収して国中の史書に記されし黒竜の名をレネンと改修するよう命じようか……、とはいえ、ずっとだと疲れるだろうから、たまにでよい。我が公爵家は、使用人にホワイトな労働環境でいこうと妹ユージェニーも言っていた」

 呪術師は目深にかぶったフードに覆われた顔をかすかに綻ばせ、そっと頭を下げたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...