竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
81 / 260
7、春の学院生活

73、婚約破棄ザマァ、チャンスって思ってるけど

しおりを挟む
 ――テスト勉強もしないといけない、宿題もしないといけない……。
 勉強前に癒しの時間を過ごすか、勉強後に癒しの時間を過ごすか、悩んだネネツィカは前者を採った。

 乙女たちが萌えと希望を胸にキラキラした目で入室し、ギラギラした目で本棚を舐め回している――ああ、うるわしの同人図書ルームの安心感と言ったら!
「実家のような安心感。この空間がアタクシの癒しですわ……」
 『乙女のための同人図書ルーム』を訪れると、神絵師のマリア様が新作を描いていた。
「マリア様、ごきげんよう」
 平民出のマリア様は貴族令嬢に囲まれてリクエストイラストを描いている。マリア様の絵は格好良さと可愛らしさが同居していて、線が綺麗で立体感がある。
「特に体つきが好みですわ」
 ネネツィカの好みを告白すると「わかる」とヘレナが手を差し出してくる。がしっと手と手を握り合い、深まる友情――。

「そうそう、ユンク先輩もマリア様の絵が綺麗だと仰ってました」
 陰口には幻滅したけど、と心の中で付け足しつつ、賞賛を届けねばという使命感みたいなものを感じて、ネネツィカは褒め言葉を共有した。
「ええっ。ユンク先輩が」
 見たんですか、同人誌? 女の子たちが眼を剥いてキャアキャア騒ぎ出す。
「お気に召しましたの? 薄い本を」
「殿方にも素晴らしさが伝わるなんて、さすがマリア様!」
 マリア様は満更でもない表情で「次はユンク先輩の絵を描きましょうか」なんて言い出して、乙女たちはおおいに癒されたのだった。

「キミたちはまたそんなことを……」
 クロは呆れたように言って、扉の方を見た。
「あの子、見てるよ」
「んっ?」
 見れば、『乙女のための同人図書ルーム』の入り口にユージェニーがいるではないか。

「あら、ご興味がないと仰ってましたのに」
 ネネツィカが眼を丸くしていると、ヘレナが小声で打ち明けた。
「私が呼んだの」

 上品な艶を放つ黒髪を靡かせて、ヘレナがユージェニーに堂々と歩み寄る。
「ユージェニーさん、例のものよ。受け取って」
「私も例のものを持ってきたわ」
 そっと交換される薄い本と薄い本……。互いの目がタイトルと概要メモを確認して。
「ふふふ、あなたも業が深いわね」
「ヘレナさんこそ」

「いつの間に仲良くなったんですの?」
 ネネツィカは置いてけぼりを食らった気分で間に入った。
「仲良しじゃないわ。これは取引よ」
「ええ。利害が一致しただけなの」
 二人はあやしく微笑んだ。

「このマイナーな界隈で貴重な供給仲間だから……」
 見れば、薄い本はマイナーなカップリングを扱った内容だった。

 供給がないマイナー民は強い絆で結ばれる――まるで世界中に私とあなたしかいないみたい――。
「アタクシもマイナー村に入村しますわ!」
 ネネツィカは嫉妬した。
 ――ヘレナの一番の友達はアタクシなのに!

「供給して供給してしまくってやりますわよ!!」
 燃えるネネツィカに、クロが冷静なツッコミをいれる。
「ネネ、勉強はしなくていいの?」
 その声はあどけなく、ユージェニーがまじまじと目を凝らすようにそちらを見て――「可愛い」と呟いた。

「あ、みえるんだ。今、二人にしか見えないようにしてるのに」
 聖女と呼ばれるだけあるね、とクロが視線を返すと、ユージェニーは「どやぁ」と呟いてそろそろと手を伸ばして、「触ってもいい?」と尋ねた。
「ちょっとだけだよ」
「わー!」
 他の学生たちは、「なにをしてるんだろう」と言った目で三人を見ている。

「ふむん。……あのー、ユージェニー。アタクシたち、これから勉強しようと思うのだけど」
 ネネツィカは当然のようにヘレナの腕を引っ張って「一緒に勉強しますの」と決めた。
「うん、いいけど」
 ヘレナはくすっと笑って、「わからないとこ、教え合おうね」と言う。ユージェニーがそれを少し羨ましそうに見た気配を感じて、ネネツィカはここぞとばかりに切り出した。

「いっしょに勉強しますこと? 特別に――お膝にクロを乗せてもいいですわよ!」
 ちょっとびっくりしたみたいに、少女の眼が丸くなる。
 キラキラした緑色が、宝石みたいだ。初めて会った時、可愛いと思ったのを思い出した。

「アタクシたちのお部屋には、薄い本もいっぱいありますの」
 それに、とネネツィカはそっと小声で付け足した。
「アタクシ、今は殿下の婚約者でもありませんし……」

 ユージェニーは薄い本で口元を隠すようにして、おずおずと頷いた。
「私も、もともと候補だっただけで婚約者じゃなかったけど」
 続いて言葉は、あまり可愛くなかった。
「これから心を射止めて婚約者になる気はすごくあるし、なんなら婚約破棄ザマァ、チャンスって思ってるけど」 
「……現時点では心を射止めてないという自覚はおありですのね」
「あ゛?」
「お゛?」
 にらみ合う二人の間に挟まったヘレナが助けを求めるように周囲を見る。助けてくれる人は、いなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...