竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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7、春の学院生活

84、ゴーレムと白竜

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 あれはなんだと学院中が視線を集める。
 エリック王子もまた、同様だった。

 夕方に臨む世界を背負うみたいに巨大な全身を立たせ、存在感を放つゴーレム。
 その手のひらにいるのは、堂々と人々を睥睨へいげいする伯爵令嬢と、呆然と座り込む公爵令息。

 魔法で拡声したのだろうか、すぐ近くで話しているみたいに感じる自然な声がきこえる。
『アタクシが公爵令息を捕まえましたの! アタクシのお手柄ですの!』

「わあ~っ、ネネツィカちゃんっ、すごいすごい!」
 デミルがはしゃいだような声をあげて、ふわりと跳びあがる。高く跳躍して、そのまま足に羽が生えたように自由にふわふわするりと飛翔する姿にどよめきが起きた。あれが噂の天才か、といった声が幾つも広がる。白銀の瞳が眼鏡の奥から一瞬、エリック王子を見下したのがはっきりとわかった。

『エリック王子と、ゲームをしましたのよ。どっちが先にクレイを捕まえて、夏休みの約束を結べるかのゲームです!』
 幼さを感じさせる無邪気な少女の声。
 それがただの遊びだったのと軽やかに笑い飛ばす少女の笑顔。
 それは、勝利宣言だった。
『結果は、アタクシの勝ちですの。アタクシ、先に約束をしてもらいました! けれど、エリック王子がどうしてもクレイと夏休みに遊びたいというなら、二番目を譲って差し上げてもよろしくてよ」
 少女は、二番目を譲ると言って笑った。
『ああ、でも殿下はシャイで奥手ですから? ご自分の口で好きな子を誘ったりできませんのね……っ、アタクシ、代わりに誘ってあげてもいいですわ。ねえ、クレイ、エリック殿下があなたと仲良くしたいんですって。遊んであげてくださらない?』
 少年がびっくりした様子で、現実が理解できていないような――夢の中にいるような顔でおずおずと頷く。全く、それを見ている全員が同じ感想を抱いていた。まるで、非現実――けれど、このわけのわからない一連の事件は『そうだったのだ』。
 あの天真爛漫なお嬢様が、気紛れにわがままにゲームを始めた。
 そして、ゲームに勝った。
 ただ、それだけ。それだけの事にこれほどの大騒ぎが起きて、皆が巻き込まれて、第二王子は――?

 ……皆が視線を巡らせた。

 
 第二王子は、顔を真っ赤にしていた。
 拳を握りしめ、全身を震わせて『悔しがっている?』――皆の眼にはそのように映った。

『そうそう、ハーレムはやっぱり、よろしくないんじゃないかしら。それも、美少年を囲おうなんて……そりゃあ、クレイだって逃げちゃいますわ。無理やりはいけないと思いますの、薄い本が厚くなっちゃう、なんて。……オーッホホホホホ!! アタクシ、今日は最高に気分がいいですわ!』
 ネネツィカはご機嫌で笑い、すこしずつゴレ男くんをサイズダウンさせて優雅に手を振った。
『やっぱりアタクシには、一番が似合うと思いますの。天才ですから! ……テストもがんばらなくちゃ』

『ごきげんよう! 今日はこのまま家に帰りますわ!』
 可憐に挨拶をして、令嬢はさっさと学院の外に逃げた。

「……」
 エリック王子はそれをしばらく見つめていたが、やがてひとことだけ名を呟いた。
 
「ティーリー」

 短い声に呼ばれて奇跡が顕現する。
 人々は、その日、それを視た。
 どんな高価な真珠でも魅せられない真なる白を。

 美しい異形――神々しく力強い竜の姿。
 強大で圧倒的な存在感。優しく、清らかな青の竜眼。
 何百年もこの国を守護する、生きる伝説。至高の白竜――本物の守護竜、ティーリー!
 
 フィルターがかかったようにノイズが遮断され、喧噪が強制的に無音になって、先刻までのゴーレムよりも遥かに人の心を震わせるインパクトを持つ巨大な竜躰が惜しげもなくその威容を晒して、ふわりと王子を背に乗せ、人々を見下ろした。
 エリック王子は爽やかな初夏の太陽めいた微笑みを浮かべ、皆に視線を巡らせた。
 
「さて、オレもそろそろ城に帰るよ。皆、また明日!」
 守護竜と似た色の王子の青い瞳は優しく気さくな風で、けれど決して届かない高い空のように、とびきり綺麗だった。
 
 人々はその日の騒動の事もゴーレムの事もすっかり忘れて、自分達の国を守護する偉大なる守護竜を見たのだという衝撃と、自分たちが学院で物理的に近い距離で過ごしている第二王子が守護竜の加護を持つ世界で最も特別な存在なのだという真実に心を支配され、陶酔したのだった。


「帰っちゃった」
 ふわふわと飛翔して、アッシュを見つけて地上に戻るデミル。
「竜、すごいね」
 びっくりした様子で空を見上げるアッシュ。そんなアッシュに気付いたデミルはちょっぴりムスッとした顔でアッシュの袖を引っ張った。
「竜なんか、すごくなーい! オイラのほうが、すごい!」
「えっ」
 アッシュは目を丸くしてデミルに視線を移した。

 弟が拗ねている――そんな実家での日常とデミルが重なる。

「うん、そうだね。デミルはすごいよ。空も自由に飛んで、うらやましいな」
「オイラ、アッシュを抱えて飛べる!」
「あっ、飛びたいってわけじゃないんだよ――うわあああああ!?」

 ひゅーんと空を飛ぶ学生二人。
 それを視ていた学院教師のエイヴンは「あの二人は仲良しだねえ」とほのぼのへらへらとして、そおっと傍らの友人魔術教師を窺った。

「あれは、どうも――あやしいと思っていたが、人ではなく妖精だな」
 ヴァルターはそう呟いた。
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