竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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8、夏の海底洞窟と罪人の流刑地編

100、南の海と第三王子暗殺事件「ぼくがこいつの立場だったら、取り巻き辞めるけどな」

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「窓の外、海が見えますわよ」
「ゲームの話もしたいけど、日が高いうちに海行きたいね」
 いざ遊泳、と部屋から出た三人の後を、学生の取り巻きや使用人がついてくる。

 寄せて返す海の波飛沫しぶきが、強い日差しを反射してキラキラしている。空気は湿っていて、夏の陽気に満ちていて――暑い。
 潮の香りが鼻腔を擽ると、世界が生き物で溢れているんだ、という感覚が湧いた。

 ネネツィカはショートフロントのワンピース水着姿。キュートなシャークモチーフのミュールをぺたぺたさせて、ティミオスが荷物を持とうとするのを断った。
「このミュールは、ヒューバートお兄様からのプレゼントなの。最近お兄様は、色々とお忙しいみたいなのだけど」
「お兄様、かあ」
 ユージェニーがちょっと表情を曇らせた。
(ちょっと酷い事を言っちゃったわ。……そういえば、お兄様に攻略をさせている影響とかも、ちょっとくらいはあったりするのかしら)
 厚底サンダルの踵と踵をかこんと打ち鳴らして、健康的なネイビーのラッシュガードセットのヘレナが黒髪をサイドアップにして白い花飾りで結わえつつ、「あとでアンドルート先生のポニテスチル……じゃない、リアルポニテ姿を拝みにいかなきゃ」とワクワクしている。
 花柄のフレアキャミソールセパレート水着のユージェニーは華やかなビーチサンダルから素足を出して海水に浸し、水に濡れたオーロラカラーのペディキュアを楽しみながら、ドーナツチューブを手に。
「みんなぁー浮き輪は持ったなぁ~」
「それ、元ネタなんだっけ」
 ヘレナが笑いながらマットタイプの浮具に乗っかっている。
「ユージェニー、ペディキュアきらきらですわね」
「あとで貸してあげる!」
 スイカの浮き輪にしがみついて、足がかろうじて付く程度の浅い海にぷかりぷかりとする三人は、水に浸かる感触を楽しみながらゲームの話を始めた。

 近くで飛んだり跳ねたり大暴れ状態のデミルが「昔はよく海の人魚と巨人がここで遊んでいたんだよ」と笑って、アッシュが「昔? 記憶、ないんじゃなかったっけ?」と聞いている。
「あれっ、オイラ今ちょっとだけ何か思い出したみたい! やったぁ!」
 デミルの記憶がすこしだけ戻った瞬間、ユージェニーがギクリとした。
 
「ゲームがバグってると思うんだ」
 ユージェニーがそう切り出すと、ヘレナが呆れた顔をした。
「バグってるというか、これは」「リアル、でしょ」わかってる、という声で頷いて、ユージェニーは虚空に呪術を綴った。

「いい? 私が把握してる現状をきいてね――プレゼンしまぁす」
 呪術が三人の周りに、光る文字を並べた。ユージェニーは整理するようにして、それを読んでいく。

 そんな女子たちを遠巻きに、クレイが本を読んでいる。
「クレイ様、海なんだから泳ぎましょう。運動しないと背が伸びませんよ」
 顔の面厚く取り巻きを続けるオスカーがビーチボールを投げて顔に命中させたから、他の取り巻きたちは刺すような目を向けた。
「坊ちゃんが泳げるわけないじゃないですか!」
 レネンが顔を真っ赤にして怒っている。
「レネン」
 赤くなった鼻をさすりながら、クレイはユージェニーの方角を指さした。
「ゴー」
「かしこまりました!」
 忠犬……と見送ってオスカーは肩をすくめた。
「俺が教えてあげますよ、泳ぎくらい」
(音楽室の件に続いて色を仕掛けられたり誓いを断られたりしたというのに、この者は、この者は……メンタルがつよい)
 クレイはぼんやりと本のページを捲った。
(すごいな! ぼくがこいつの立場だったら、取り巻き辞めるけどな。そのメンタル、ぼくは尊敬するぞオスカー! よし。ぼくも無かった事にするね。何もなかった……平穏無事の日常、とてもよろしい)


 忠犬レネンはというと、透明化の呪術を施して海に浮かび、少女たちの護衛よろしく近場に潜んでいた。その耳に、声がきこえる。

「まず、エリック王子ルートは進んでて、国王になるフラグが立ってるよ。シリル王子がいなくなったし――本当はシリル王子、死ぬはずだったんだけどね。これがまず、変だよ。まあ、私的にはエリック王子が国王になれればいいから、問題ない部分なんだけど」
 ネネツィカが「そういえば、いなくなる時にシリル王子がエリック様に何か仰っていたので、もしかしたらエリック様は何かご存じかも?」と思いついたように言った。
「ちなみにアタクシはエリック王子が国王になるというのを目指していませんわ」

 レネンは驚いた。
 少女たちは、恐ろしく不穏な会話をしているではないか。
(お嬢様、耳目がございますよ! なんという会話をなさっているのですか!)
 レネンは慌てて周囲に防諜の呪術を放った。

「同時に、デミルのルートも進んじゃってる。ネネツィカがイベントをこなしたの? 記憶が戻ったらどうなるかわかんないよ。デミルは封印された古妖精なんだよ、竜や勇者を恨んでる記憶と本来の力が戻っちゃったら国が亡ぶかもしれないし、世界が滅ぶかもしれないよ。なにより、エリック王子が国王になる障害になるかも」

 ネネツィカは「デミルの記憶を戻すイベントとかは、特にした覚えがありませんけれど」と首を振ってから、「でも、……記憶は戻してあげたいかも、と思ってましたわ。思っただけですわよ……?」と打ち明けた。ヘレナは少し考えて、「確かに、ゲームでは記憶が戻ったら竜陣営に『ざまぁ』したんだよね」と呟いている。

 レネンは震えた。
 とんでもない会話をしている――竜や勇者を恨んでる封印された古妖精がいて、封印が解かれるかもしれない、ですと?

「あとは、勇者が何故か勝手に闇落ちルートみたいになってきてる。竜と敵対し始めちゃった。ここもよくわかんないし、闇墜ちして魔王になったりしたら世界が滅ぶかもしれないから、怖いよ。勇者には大人しく、竜陣営の味方してもらって……その、死んでもらわなきゃ……」
 ネネツィカがびっくりしている。
 死ぬって何? と。
 ヘレナが「だから、これはリアルなんだから……」と窘めつつ、言葉を選んだ。
「ゲームの話だよ? ゲームの話なんだからね? えっと、ゲームでは、誰かの犠牲の上にハッピーエンドっていうルートが結構あってね……、選択肢で展開やエンディングが変わるのがゲームなんだけど、王道っていうか、『ストーリー的にこれが正史だよね』みたいなのがあったのよ。それが、竜陣営のために勇者が死ぬ展開だったんだ」

 ネネツィカにはその概念がわかった。
「……リアルでも、そうですわ。自分や誰かの選択や行動の結果だったり、運が悪かったり――人は、簡単に死んでしまいます」
 そうね、とユージェニーとヘレナはしんみりとした。

「それと並行して、どうしてか守護竜ティーリーが勝手に設定をいじったりするようになっちゃったみたい。あの竜って、創造神がめちゃめちゃ大好きな設定なの。創造神が創った世界をそのまま守るってキャラなはずなんだよ。なのに、なんでか自分の好きなようにし始めちゃってて……ここも怖い」
 
 ユージェニーが続けた言葉に、レネンは息を呑んだ。
「ティーリーは、お兄様の設定コードを弄ってゲームの攻略キャラから外したんだよ。理由はわからない……、でも、少なくとも、ティーリーはお兄様のルートは望んでいないってこと、かな」

 呪力の鳥がぱたぱたと飛んできたのは、その時だった。
 ユージェニーはそれを手に止めて、驚いたように目を瞠った。

「二人とも聞いて……、王都で、第三王子が暗殺されてる」
 ユージェニーは困惑を濃く顔に浮かべて、「またイレギュラーがひとつ」とうめいた。
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