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8、夏の海底洞窟と罪人の流刑地編
108、だが我輩がルールだ
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海水が派手に巻き上げられて露出した洞窟は、ひんやりとして神秘的な空気が充ちていた。学生たちと護衛たちが続々と降りていく。自身も執事のティミオスを伴って群れに混ざるネネツィカは参加学生が増えている事に気付いた。
「早い者勝ち、というルールで、他者の宝を頂こうという『怪盗』が増えたようですね」
ティミオスがのんびりと呟いて、首をかしげた。
「お嬢様、わたくしが宝物を確保してまいりましょうか? お好きなものを、お好きなだけ」
ネネツィカはびっくりして顔を見上げた。
「ますます悪役令嬢になってしまうじゃない」
「競争……? それは認められん。学院での競争事は昨今、不評なのだ。皆が手を繋ぎ一位もビリもなく全員が主役。最近の学院教育はそう方針を定めている」
宝物を他人に奪われないようにするのために走り出そうとした学生を魔術教師のヴァルター・アンドルートが自身を中心に巡らせた広範囲の障壁の外に出ないよう抑えている。
「保護役教師である我輩がルールだ! 学生たちは我輩の眼の届く範囲内にいること!」
「えーっ、では、試験もやめにしましょうよ」
「試験は学力をはかるためにある」
「順位はなんで出すんですかあ」
「そのうち出さなくなるかもしれん」
先生は空気を読めない、という声がちらほらと上がり、睨まれた。デミルは「それでもいいよ」と拘りなくヴァルターの隣を歩いている。その後ろに、アッシュが続いた。
オスカーは、深刻な顔をしていた。
「見舞いに行ったが、面会謝絶だったんだ……東方クレストフォレス産の解毒薬を差し入れしたのだが」
オスカーの脳裏にその時の公爵家陣営が思い出される。
後ろから荷物を運んできた元盗賊団のアドルフとベルンハルトがススッと扉を開けて中に入っていき、すぐに出て何処かに走って行く。入れ違いにやってきたテオドールとマナがまた何かを運び入れて、出ていく……。
「……何を運んでいるんで?」
公爵家の家臣たちは、何も教えてくれなかった。俺だってお役に立てるのに――オスカーは若干むくれ顔でケイオスレッグのメンバーと一緒に海底洞窟を進む。
「なにですか、クレストフォレス、です?」
クレストフォレス出身のショーが出身国の名前に反応している。エインヘリア出身のレビエが「フィワリリエ、ユンク、どくくすり、あげた、エインヴィリエ」とファーリズ語とクレストフォレス語の二国語混じりにコミュニケーションを取っている。ぼくたちの国ではレビエの国の薬という意味になるんじゃないか、間違ってるぞと突っこみをいれたくなったが、オスカーは堪えた。
「オー、なおす、ねがうです」
アイザール出身のシュナは「ボクはー、クレストフォレスことば、ダメ。ファーリズオーケー」と笑っている。
「どく、くすり」
「オーケー、理解」
チョコレートを取り出して、オスカーはメンバーに振る舞った。前方に、コルトリッセン公爵令嬢もいる。きっと兄君のために宝物を獲得しようと参加なされているのだろうとオスカーは思った。
「公爵令息の宝物をいただくのは俺たちだ。そしてそれを俺がクレイ様に献上する。するとどうなるかというと――俺の株があがる」
いいな、と視線を巡らせれば、わかってるようなわかってないようなメンバーたちが声を揃えた。
「「「了解!」」」
お前ら絶対理解してない。内心で思いつつ、オスカーは足を速めた。
なにせ、目的は歌劇にも登場するような『ラーシャ姫と守護竜アスライトの秘宝』だ。自分が宝を盗まれたわけでもないのに参加してる連中の狙いはそれに集中するのではないだろうか? 周り中全員が狙っているのではないだろうか? 俺だったら狙う――オスカーは競争率の高さにハラハラした。
ヴァルターが悠々と中央を歩き、歩く進行可能範囲になっている。
「おもしろいね!」
デミルはそのやり方を気に入ったようだった。
「急ぎ過ぎると後方の学生が、な」
「休憩してたら、障壁に背中押されちゃうね! あはは!」
ヴァルターの灰色の瞳が、不思議な優しさを燈してデミルを見下ろした。
「そうなったら、可哀そうだと思うか? 面白いと感じるか?」
デミルはそんな先生を無垢にみあげて、「両方かも?」と笑った。
ネネツィカとヘレナはそんな学生たちを鑑賞し、妄想ノートを広げた。
「ね」
「ウン」
もはや言葉はいらない。そんな眼差しが交差する――ティミオスは少し呆れ顔になりつつ、向かう先に妖精の悪戯が広がるのを見て「そちらもよろしいですが、前方も興味深いかと存じますよ」と進言した。
「早い者勝ち、というルールで、他者の宝を頂こうという『怪盗』が増えたようですね」
ティミオスがのんびりと呟いて、首をかしげた。
「お嬢様、わたくしが宝物を確保してまいりましょうか? お好きなものを、お好きなだけ」
ネネツィカはびっくりして顔を見上げた。
「ますます悪役令嬢になってしまうじゃない」
「競争……? それは認められん。学院での競争事は昨今、不評なのだ。皆が手を繋ぎ一位もビリもなく全員が主役。最近の学院教育はそう方針を定めている」
宝物を他人に奪われないようにするのために走り出そうとした学生を魔術教師のヴァルター・アンドルートが自身を中心に巡らせた広範囲の障壁の外に出ないよう抑えている。
「保護役教師である我輩がルールだ! 学生たちは我輩の眼の届く範囲内にいること!」
「えーっ、では、試験もやめにしましょうよ」
「試験は学力をはかるためにある」
「順位はなんで出すんですかあ」
「そのうち出さなくなるかもしれん」
先生は空気を読めない、という声がちらほらと上がり、睨まれた。デミルは「それでもいいよ」と拘りなくヴァルターの隣を歩いている。その後ろに、アッシュが続いた。
オスカーは、深刻な顔をしていた。
「見舞いに行ったが、面会謝絶だったんだ……東方クレストフォレス産の解毒薬を差し入れしたのだが」
オスカーの脳裏にその時の公爵家陣営が思い出される。
後ろから荷物を運んできた元盗賊団のアドルフとベルンハルトがススッと扉を開けて中に入っていき、すぐに出て何処かに走って行く。入れ違いにやってきたテオドールとマナがまた何かを運び入れて、出ていく……。
「……何を運んでいるんで?」
公爵家の家臣たちは、何も教えてくれなかった。俺だってお役に立てるのに――オスカーは若干むくれ顔でケイオスレッグのメンバーと一緒に海底洞窟を進む。
「なにですか、クレストフォレス、です?」
クレストフォレス出身のショーが出身国の名前に反応している。エインヘリア出身のレビエが「フィワリリエ、ユンク、どくくすり、あげた、エインヴィリエ」とファーリズ語とクレストフォレス語の二国語混じりにコミュニケーションを取っている。ぼくたちの国ではレビエの国の薬という意味になるんじゃないか、間違ってるぞと突っこみをいれたくなったが、オスカーは堪えた。
「オー、なおす、ねがうです」
アイザール出身のシュナは「ボクはー、クレストフォレスことば、ダメ。ファーリズオーケー」と笑っている。
「どく、くすり」
「オーケー、理解」
チョコレートを取り出して、オスカーはメンバーに振る舞った。前方に、コルトリッセン公爵令嬢もいる。きっと兄君のために宝物を獲得しようと参加なされているのだろうとオスカーは思った。
「公爵令息の宝物をいただくのは俺たちだ。そしてそれを俺がクレイ様に献上する。するとどうなるかというと――俺の株があがる」
いいな、と視線を巡らせれば、わかってるようなわかってないようなメンバーたちが声を揃えた。
「「「了解!」」」
お前ら絶対理解してない。内心で思いつつ、オスカーは足を速めた。
なにせ、目的は歌劇にも登場するような『ラーシャ姫と守護竜アスライトの秘宝』だ。自分が宝を盗まれたわけでもないのに参加してる連中の狙いはそれに集中するのではないだろうか? 周り中全員が狙っているのではないだろうか? 俺だったら狙う――オスカーは競争率の高さにハラハラした。
ヴァルターが悠々と中央を歩き、歩く進行可能範囲になっている。
「おもしろいね!」
デミルはそのやり方を気に入ったようだった。
「急ぎ過ぎると後方の学生が、な」
「休憩してたら、障壁に背中押されちゃうね! あはは!」
ヴァルターの灰色の瞳が、不思議な優しさを燈してデミルを見下ろした。
「そうなったら、可哀そうだと思うか? 面白いと感じるか?」
デミルはそんな先生を無垢にみあげて、「両方かも?」と笑った。
ネネツィカとヘレナはそんな学生たちを鑑賞し、妄想ノートを広げた。
「ね」
「ウン」
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