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9、裏切りの勇者と妖精王の復活
121、妖精学校と花舟浮かべのお誘い
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ほわりと吹く風はまだ少し肌寒い温度で、お菓子と花のかおりがした。
妖精学校の周辺は、明らかに魔法のちからに溢れていた。
幹がキャンディで、葉っぱが綿菓子みたいな木が並んでいて、地面のタイルはクッキーでできている。噴水なんて、黄金の蜂蜜味の水がさらさらキラキラと陽光を反射しながら水飛沫をあげていたから、はじめて妖精学校を見学しにきた学生たちは目を輝かせてあちらこちらで「これ美味しい」とか「家にもこんな家具を置きたいですわ」と夢中。
「そのへんのお菓子をつまんで良いんですって」
「葉っぱを?」
まるで、妖精の世界に迷い込んだよう。実際、半分ここは妖精の世界と言える状態かもしれない――ネネツィカは微笑んだ。
北の伯爵領でも、妖精たちが一か所に集まったり、安定的に『過ごす』場所をつくることは滅多になかった。
「グミを頂いたよ」
エリックが戸惑いがちに長くびよんと伸びる紐状のグミを広げた。蛍光緑のグミはちょっと安っぽい甘さで、白いグミ粉がちょっと酸っぱい。
「貴族の子女たちが皆してこれに夢中になってるの、面白いね」
あちらこちらでグミを広げてる学生たちを見て、エリックは楽しそうに笑った。
エリックはというと「デミル・マジェスが天才なのは有名だけど、ちょっと伯爵家が支援したからってこんな施設ができるものなのか?」と驚き訝しんでいる。ネネツィカはそっと話題を逸らした。
「妖精たちがデミルと一緒になって、好きなように魔法を使いまくった結果、らしいです」
この施設は、毎日姿を変える。
気紛れなデミルと妖精たちが「今日はこんな感じ!」と自由に魔法で施設を作り変えてしまうから、毎日が『その日だけの初めて』なのだ。
「……魔法って、本当に不思議だね」
思わずといった風情で呟いて、エリックはそおっと『神はありのままを望まれる』と付け足した。ここでティーリーが暴れ出したら、大変な事になってしまう。
「そうそう、演劇は勿論だけど、他にも今度……『花舟浮かべ』のパーティーに呼ばれていて誘いたかったんだ。一緒に行かない?」
妖精たちが授業を受けている最中の教室をそろそろと覗き込み、エリックが『断らないで欲しいな……』という捨てられる寸前の子犬みたいな目を向ける。
「『花舟浮かべ』?」
「湖畔に会場を構えて、『花舟』という灯りを燈した自分の願いを籠めた函小舟を湖に浮かべて、しっとりと音楽やご馳走を楽しむようなパーティ、かな。シャ、……シャジャル第二王妃が出席予定のパーティで……シャジャル第二王妃は、俺と同様に最近までずっと離宮に籠っておられて」
後ろめたさを滲ませる声に、ああ、と思う。
暗殺された第三王子の母君だ。
「俺の陣営の者たちはあちらの方にあまり接するな、頭を下げてはいけない、自分が正しいという態度を貫け、と言う。オーガストとトラン医師は、出席しない方が良いかもと言っていて」
「エリック様は、出席なさるおつもりなのですね」
誘うからには、そうなのだろうとネネツィカは扇を広げた。最近お気に入りの扇は、13歳の誕生日祝いに公爵令息が贈ってくださったもの。広げてから「あっ」とその地雷性に気付いたけれど、今のところエリックにはバレていない。セーフ!
「喜んでご一緒しますわ」
「よかった。ありがとう……ドレスや装飾品は俺がプレゼントしても、構わない?」
エリックはホッとした顔で胸を撫でおろした。
「それはとても有難いですわ」
ラーフルトン伯爵家の領地経営は、可もなく不可もなく、低空飛行だ。兄は優秀らしいので、代替わりしたら改革がもっと進むかもしれないが父はまだまだ元気で、ふわふわにこにこと「ヒューバートの婚約祝いにちょっと3年ほど減税しようか」なんて言っている……。兄は止めていたので、実現はしない事だろう。
同じ伯爵家で、領地の大きさならラーフルトンのほうが大きいし、ラーフルトンのほうが由緒正しい歴史あるお家柄なのに、この差はどこから。南と北だから、では済まない経営力の差がある気がしますわ。特にこの一年の急変ぶりときたら――。
キャラキャラと愛嬌たっぷりな笑い声をたてて、妖精たちは部屋中を飛んだり滑ったり泳いだりしている。
教壇に立つヴァルター・アンドルート先生は、慣れ切った様子で淡々と杖を振って動く映像を教室中に流していた。映像が喋ると、妖精たちは面白がって魅入り、没入していく。
「感覚的な授業なんだね」
「そうですわね、楽しそう……」
劇に似てるかも。ネネツィカはそう思って、貰った劇のチケットをそっと撫でた。
「先生も誘いますの?」
「あ、そうだね。俺が誘ってみるよ」
エリックが懐いている先生は、ネネツィカが入学前から親しくしている歴史教師のエイヴン・フィーリー。
ちょっとへらへらしたところのある、なんかゆるゆるした雰囲気の――腐男子だ。
「楽しみですわ」
きっと、『カップルに挟まれて演劇鑑賞って罰ゲーム?』とか言うんじゃないかしら。エイヴンですもの。
妖精学校の周辺は、明らかに魔法のちからに溢れていた。
幹がキャンディで、葉っぱが綿菓子みたいな木が並んでいて、地面のタイルはクッキーでできている。噴水なんて、黄金の蜂蜜味の水がさらさらキラキラと陽光を反射しながら水飛沫をあげていたから、はじめて妖精学校を見学しにきた学生たちは目を輝かせてあちらこちらで「これ美味しい」とか「家にもこんな家具を置きたいですわ」と夢中。
「そのへんのお菓子をつまんで良いんですって」
「葉っぱを?」
まるで、妖精の世界に迷い込んだよう。実際、半分ここは妖精の世界と言える状態かもしれない――ネネツィカは微笑んだ。
北の伯爵領でも、妖精たちが一か所に集まったり、安定的に『過ごす』場所をつくることは滅多になかった。
「グミを頂いたよ」
エリックが戸惑いがちに長くびよんと伸びる紐状のグミを広げた。蛍光緑のグミはちょっと安っぽい甘さで、白いグミ粉がちょっと酸っぱい。
「貴族の子女たちが皆してこれに夢中になってるの、面白いね」
あちらこちらでグミを広げてる学生たちを見て、エリックは楽しそうに笑った。
エリックはというと「デミル・マジェスが天才なのは有名だけど、ちょっと伯爵家が支援したからってこんな施設ができるものなのか?」と驚き訝しんでいる。ネネツィカはそっと話題を逸らした。
「妖精たちがデミルと一緒になって、好きなように魔法を使いまくった結果、らしいです」
この施設は、毎日姿を変える。
気紛れなデミルと妖精たちが「今日はこんな感じ!」と自由に魔法で施設を作り変えてしまうから、毎日が『その日だけの初めて』なのだ。
「……魔法って、本当に不思議だね」
思わずといった風情で呟いて、エリックはそおっと『神はありのままを望まれる』と付け足した。ここでティーリーが暴れ出したら、大変な事になってしまう。
「そうそう、演劇は勿論だけど、他にも今度……『花舟浮かべ』のパーティーに呼ばれていて誘いたかったんだ。一緒に行かない?」
妖精たちが授業を受けている最中の教室をそろそろと覗き込み、エリックが『断らないで欲しいな……』という捨てられる寸前の子犬みたいな目を向ける。
「『花舟浮かべ』?」
「湖畔に会場を構えて、『花舟』という灯りを燈した自分の願いを籠めた函小舟を湖に浮かべて、しっとりと音楽やご馳走を楽しむようなパーティ、かな。シャ、……シャジャル第二王妃が出席予定のパーティで……シャジャル第二王妃は、俺と同様に最近までずっと離宮に籠っておられて」
後ろめたさを滲ませる声に、ああ、と思う。
暗殺された第三王子の母君だ。
「俺の陣営の者たちはあちらの方にあまり接するな、頭を下げてはいけない、自分が正しいという態度を貫け、と言う。オーガストとトラン医師は、出席しない方が良いかもと言っていて」
「エリック様は、出席なさるおつもりなのですね」
誘うからには、そうなのだろうとネネツィカは扇を広げた。最近お気に入りの扇は、13歳の誕生日祝いに公爵令息が贈ってくださったもの。広げてから「あっ」とその地雷性に気付いたけれど、今のところエリックにはバレていない。セーフ!
「喜んでご一緒しますわ」
「よかった。ありがとう……ドレスや装飾品は俺がプレゼントしても、構わない?」
エリックはホッとした顔で胸を撫でおろした。
「それはとても有難いですわ」
ラーフルトン伯爵家の領地経営は、可もなく不可もなく、低空飛行だ。兄は優秀らしいので、代替わりしたら改革がもっと進むかもしれないが父はまだまだ元気で、ふわふわにこにこと「ヒューバートの婚約祝いにちょっと3年ほど減税しようか」なんて言っている……。兄は止めていたので、実現はしない事だろう。
同じ伯爵家で、領地の大きさならラーフルトンのほうが大きいし、ラーフルトンのほうが由緒正しい歴史あるお家柄なのに、この差はどこから。南と北だから、では済まない経営力の差がある気がしますわ。特にこの一年の急変ぶりときたら――。
キャラキャラと愛嬌たっぷりな笑い声をたてて、妖精たちは部屋中を飛んだり滑ったり泳いだりしている。
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「感覚的な授業なんだね」
「そうですわね、楽しそう……」
劇に似てるかも。ネネツィカはそう思って、貰った劇のチケットをそっと撫でた。
「先生も誘いますの?」
「あ、そうだね。俺が誘ってみるよ」
エリックが懐いている先生は、ネネツィカが入学前から親しくしている歴史教師のエイヴン・フィーリー。
ちょっとへらへらしたところのある、なんかゆるゆるした雰囲気の――腐男子だ。
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