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9、裏切りの勇者と妖精王の復活
120、なにあれ、怖っ
しおりを挟む僕は講義に行くよ、と微風みたいに笑んで、クレイが取り巻きと一緒に去っていく。
「それじゃあ、もし君が嫌じゃなかったら、今度は勇者の演劇を観にいこうか」
エリックがそう言って笑い、こそこそと呪術を紡いで耳打ちをするからネネツィカはどきりとした。突然の内緒のお話なのです?
「妖精学校見学用の幻想馬車で待ち合わせしよう。凄く、話したい事がある。あれの事とか、これの事とか。凄く、話したい」
必死な声が久しぶりで、ネネツィカはこくこくと頷いた。
幻想馬車は、デミルがユンク伯爵家の支援のもとに開発した妖精族の虹色一角馬が引く不思議な馬車で、コンパクトな見た目だけれども中は広々としていて、個室に分かれている。
全員が乗り込むとふわりと浮いて、虹色一角馬がひひーん、と嘶いて肌が緑色の御者妖精が「しゅっぱあつ」と変な調子の声を響かせた。
社窓からは、妖精の世界が垣間見えるので、学生たちは夢中になって窓に張り付いた。
乗車時間、20分ほど。たったそれだけ。異空間を経由してあらかじめ指定した地点どうしを転移みたいに移動する幻想馬車の技術は、世界中から注目されている――軍事用途で活用されれば大変な事になる、とヒューバート兄様が呟いていて、これを創れるのは現時点デミルだけなのだというからネネツィカは「それは怖い」と震えた。
デミルは、気紛れで自由で――けれど最近は、ヴァルター・アンドルート先生と一緒に妖精学校に夢中で、比較的事件は起こしていない。
「外の景色が凄いな」
15歳に成長したエリックは幻想馬車が初めてらしく、頬を紅潮させて少年らしさ溢れる表情を見せていた。
「あれはお伽草、物語をおしゃべりしてくださいますの。あちらは冬うさぎ……」
ネネツィカはおっとりと知っている妖精について紹介した。こんな時間は、とても平和で癒される。喧嘩に巻き込まれるのはもうコリゴリーー、
「俺、あの後、オーガストと話して、専属医師のトラン先生にカウンセリングを毎日受けてるんだ」
エリックがそっと打ち明けた。
「あの騎士は、事情を話して本人の意向を確認したところ城に留まってくれることになって、」
なるほど、不安定なお心を診て頂けているのね。ネネツィカはそっと安心した。
「クレイなんだけど」
いきなり始めるじゃあ、ありませんか。大丈夫ですか?
ネネツィカは飲みかけのプリズム・サワードリンクを吹きそうになって堪えた。とても優雅な淑女を目指す最近なので。
「は、はい」
「俺もおかしくなったけど、あっちもおかしいと思うんだよ」
エリックは「さっきも見ただろう?」とコソコソと囁いた。
「加護がないはずなのに、貸出とか言って。友達面で前みたいに絡んでくるし、前より社交的になって、前は仮病使ったりして休んでたいろんなパーティとかにも顔を出してる……なにあれ、怖っ」
エリックはそんな風に眉を顰めて、最後に「俺からカウンセリング勧めてやった方がいいと思うか?」なんて心配そうに言うのだ。
「……お嫌いなのでは?」
これをきいていいのかしら。そう思いながらそぉっと問えば、エリックは「そうなんだ」と窓の外に視線を移した。
「相変わらず、嫌いなんだ。向こうもそうだと思うんだけど、寄ってくるし、パーティでの邂逅率も上がったしで、正直俺は毎日トラン先生とオーガストにそのストレスを聞いてもらってて――こんな風に」
「なるほど、なるほど」
ネネツィカは、首を傾げた。
「ご自分を飾るのは、そのお二人にはしなくても大丈夫なのですね」
エリックは、耳を少し赤くして頷いた。
「そうなんだ。だから、俺は少し楽になっている」
学院にも通ってみてください、と言われたのだと語るエリックは嬉しそうだった。
「よかったですわね、エリック様」
ネネツィカは心からそれを喜んで、微笑む――同時に、エリックの「なにあれ、怖っ」にも大変共感しながら。
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