127 / 260
9、裏切りの勇者と妖精王の復活
119、13歳、学院の2年目
しおりを挟む
第二王子は『鮮血』を攫っていってから、しばらく学院を休んでいた。ネネツィカは手紙を何度か送ったけれど、エリックからの返事はなかった。そのまま冬季休暇に入り、年度が代わり、ネネツィカは今日から学院の2年生になる。王都では、妖精サーカスや演劇が定期的に話題になるようになっている。
父に相談してみたところ、情勢不安もあるので、定期的にお手紙を差し上げつつ、相手から何かアクションがあるまでは気にしないで学院生活の2年目を過ごしなさいとのことだった。
「わたくしの立ち位置も、微妙極まりないのですわ。だって、婚約は破棄されて、恋人と仰っていたけれど破局みたいな形で放置されてしまってますもの」
若干淑やかさを意識するようになった13歳のネネツィカは、執事が淹れてくれたお茶を飲みながら未だ黒塗りが目立つ新聞を手に取った。
執事はそんな令嬢に「どんな立ち位置でも、お嬢様が大切な『わたくしのお嬢様』という点については変わりません」と優しく微笑む。こちらは、全く変化がない。
「我が家は、一応中立の立場でしばらく様子を見る。学院内部とはいえ、気を付けて振る舞うように」
兄のヒューバートは、最近婚約をした。相手は、内務系男爵家のご令嬢だ。第二王子の派閥と内務系派閥は第三王子の件でどうしても敵対カラーがある。しかも、2年前には公爵家の支援にもお世話になっている。第二王子の出方次第では第二王子派閥の色がつくのは避けられまいが、放置されて立場が中途半端なうちは中立でいたい、というのがラーフルトン伯爵家の内々の希望だった。
新聞には、『コルトリッセン公爵家が守護竜アスライトをシャジャル第二妃の警護に貸出』という大きな記事が掲載されていたので、ネネツィカは二度見した。
「ティミオス、わたくしの眼がおかしいのかしら」
――加護は、ないのでは?
執事はそんな令嬢に涼しい顔で「お嬢様の眼は正常でございますよ」と保証してくれた。そして、事情通な顔でそおっと「こちらは、公爵家のはったりでございます」と教えてくれた。
「はったり……」
――公爵家は、加護詐欺に磨きをかけてしまわれたのね。
ネネツィカは微妙な顔をしながら、言葉を呑み込んだのだった。
「あら、今日はエリック様がいらっしゃりゅのね」
久しぶりに噛みつつ、学院についたネネツィカは、きらきら王子モードのエリックの取り巻きグループに新入生たちが加わっていくのを見守った。とても大きな取り巻きの輪の中、エリックはこちらを見ようともしないのだが、その隣にちゃっかりクレイがいるのでネネツィカは死ぬほど驚いた。
(えっ、なぜ……仲直りなさいましたの? あんなに……)
もう、わけがわからない。
けれど、ぽかんと見つめているとクレイがふっとこちらに気付いて、ふわりと微笑んでエリックの袖を引き、ネネツィカの存在を知らせてくれたようだった。
「エリック、君の恋人が来てるよ」
それが、如何にも距離感の近い友人といった話し方なのだ。
「ありがとう、クレイ」
にっこりと笑い、エリックがちょっとおろおろと視線を彷徨わせてから、ネネツィカに挨拶をした。
「おはよう。久しぶりだね。手紙をたくさん送ってくれていたのに、返事が書けなくてすまなかった。俺は、ちょっと取り込んでいた……ほら、ティーリーが暴走気味なものだから」
エリックがそう言えば、周囲は同情的な視線を送った。守護竜ティーリーが王子の言う事もあまり聞かなくなっている、という噂は本当なのだ、と。
「『神がありのままを望まれる』」
例の文言が取り巻きたちから次々と上がるのは、少し気味が悪かった。
「おはようございます、お二人とも、お久しぶりでございますわ。わたくしは、ご心配申し上げておりましたわ。お健やかそうで、なによりですの」
ネネツィカがリーガンを理想にして優雅な令嬢然とした声で応えてみると、くすくすと悪戯っぽく笑ったクレイが「うんうん、久しぶりだね」と言葉を添えて鞄からパンフレットとチケットらしきものを取り出し、エリックに渡す。
「君の大好きな先生が、この演劇を観たがっているという噂を聞いたんだ。もしよかったら、いつもお世話になっているお礼にプレゼントしたらどうかな?」
「ああ、フィーリー先生が? ありがとう。枚数が多いけど」
「好きな子を誘ったらいいじゃないか、そこにいることだし」
本当に、仲がよさそう。
お休み中に仲直りなさったの? あんな事を仰って、わたくしをほったらかしにして、騎士を攫って行って――あの騎士はどうなりましたの? 薄い本ですの?
ネネツィカはどきどきした。色々な意味で。
父に相談してみたところ、情勢不安もあるので、定期的にお手紙を差し上げつつ、相手から何かアクションがあるまでは気にしないで学院生活の2年目を過ごしなさいとのことだった。
「わたくしの立ち位置も、微妙極まりないのですわ。だって、婚約は破棄されて、恋人と仰っていたけれど破局みたいな形で放置されてしまってますもの」
若干淑やかさを意識するようになった13歳のネネツィカは、執事が淹れてくれたお茶を飲みながら未だ黒塗りが目立つ新聞を手に取った。
執事はそんな令嬢に「どんな立ち位置でも、お嬢様が大切な『わたくしのお嬢様』という点については変わりません」と優しく微笑む。こちらは、全く変化がない。
「我が家は、一応中立の立場でしばらく様子を見る。学院内部とはいえ、気を付けて振る舞うように」
兄のヒューバートは、最近婚約をした。相手は、内務系男爵家のご令嬢だ。第二王子の派閥と内務系派閥は第三王子の件でどうしても敵対カラーがある。しかも、2年前には公爵家の支援にもお世話になっている。第二王子の出方次第では第二王子派閥の色がつくのは避けられまいが、放置されて立場が中途半端なうちは中立でいたい、というのがラーフルトン伯爵家の内々の希望だった。
新聞には、『コルトリッセン公爵家が守護竜アスライトをシャジャル第二妃の警護に貸出』という大きな記事が掲載されていたので、ネネツィカは二度見した。
「ティミオス、わたくしの眼がおかしいのかしら」
――加護は、ないのでは?
執事はそんな令嬢に涼しい顔で「お嬢様の眼は正常でございますよ」と保証してくれた。そして、事情通な顔でそおっと「こちらは、公爵家のはったりでございます」と教えてくれた。
「はったり……」
――公爵家は、加護詐欺に磨きをかけてしまわれたのね。
ネネツィカは微妙な顔をしながら、言葉を呑み込んだのだった。
「あら、今日はエリック様がいらっしゃりゅのね」
久しぶりに噛みつつ、学院についたネネツィカは、きらきら王子モードのエリックの取り巻きグループに新入生たちが加わっていくのを見守った。とても大きな取り巻きの輪の中、エリックはこちらを見ようともしないのだが、その隣にちゃっかりクレイがいるのでネネツィカは死ぬほど驚いた。
(えっ、なぜ……仲直りなさいましたの? あんなに……)
もう、わけがわからない。
けれど、ぽかんと見つめているとクレイがふっとこちらに気付いて、ふわりと微笑んでエリックの袖を引き、ネネツィカの存在を知らせてくれたようだった。
「エリック、君の恋人が来てるよ」
それが、如何にも距離感の近い友人といった話し方なのだ。
「ありがとう、クレイ」
にっこりと笑い、エリックがちょっとおろおろと視線を彷徨わせてから、ネネツィカに挨拶をした。
「おはよう。久しぶりだね。手紙をたくさん送ってくれていたのに、返事が書けなくてすまなかった。俺は、ちょっと取り込んでいた……ほら、ティーリーが暴走気味なものだから」
エリックがそう言えば、周囲は同情的な視線を送った。守護竜ティーリーが王子の言う事もあまり聞かなくなっている、という噂は本当なのだ、と。
「『神がありのままを望まれる』」
例の文言が取り巻きたちから次々と上がるのは、少し気味が悪かった。
「おはようございます、お二人とも、お久しぶりでございますわ。わたくしは、ご心配申し上げておりましたわ。お健やかそうで、なによりですの」
ネネツィカがリーガンを理想にして優雅な令嬢然とした声で応えてみると、くすくすと悪戯っぽく笑ったクレイが「うんうん、久しぶりだね」と言葉を添えて鞄からパンフレットとチケットらしきものを取り出し、エリックに渡す。
「君の大好きな先生が、この演劇を観たがっているという噂を聞いたんだ。もしよかったら、いつもお世話になっているお礼にプレゼントしたらどうかな?」
「ああ、フィーリー先生が? ありがとう。枚数が多いけど」
「好きな子を誘ったらいいじゃないか、そこにいることだし」
本当に、仲がよさそう。
お休み中に仲直りなさったの? あんな事を仰って、わたくしをほったらかしにして、騎士を攫って行って――あの騎士はどうなりましたの? 薄い本ですの?
ネネツィカはどきどきした。色々な意味で。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。
篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる