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9、裏切りの勇者と妖精王の復活
118、今日から始まるキング・サクリファイスへの道
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「いいですか、ありのまま話しますよ! ありのままですからね!」
公爵家では、レネンが一部始終を本当にありのまま話したので、室内の『盗賊上がり』たちは呆然として主の反応を見守った。
やらかしたオスカーはといえば、見た目は殊勝に膝をついて、まるで反省するかのように首を垂らしている。
「『鮮血』については……他国に流れなかったなら、良いんじゃないかな」
読みかけの勇者の本を傍らに伏せて、クレイは首を傾げてレネンとオスカーを見比べた。
――レネンが怒るのも無理のない内容なのは確かで、ぼくは怒ってもいい。
しかし、その内容が結構面白いのだ。
(ぼくが第二王子のために加護を使っていた。
王様になる気がないから、代わりの主に尽くしたい、と)
ふむふむ、と思案気に睫毛を伏せる少年を取り巻く従者たちは、妙に長い沈黙に重苦しく黙り込んで反応を待つしかなかった。
従者の存在を忘れたように、少年の中で思考が巡る。
(第三王子は加護があったけれど、守護竜がエリックを守ったから、守られずに亡くなった。
……ぼくは、『別の誰かをアスライトに守らせているから不在なんだ』と言い張れば、自分に加護がない言い訳に使えるのでは)
公爵家が『クレイが暗殺された時や事故に遭った時』に頭を悩ませていた理由の一つがそれだった。
加護を与えし守護竜は守ってくれなかったのか、と言われてしまうのだ。
けれど、第三王子の例ができたので、少なくともそれを回避できる。
――尤も、『加護があるから襲っても無駄ですよ』という視えない盾がこれまで水面下で多少は機能していたのだろうから、『今他人に貸していて無防備ですよ』と言ってしまったら暗殺者が増える事間違いなしだろうけど。
「ショックが大きすぎたのでは」
壁際で護衛たちが囁きを交わしている。この護衛たち、暗殺者が増えたら大丈夫だろうか? レネンなんか過労死してしまうんじゃないだろうか。クレイはそっと心配した。心配しつつ、ずっと言葉を待っているらしき白頭を視た。
(ぼくが王様になる気がなくて、主に尽くしたい……というのも、とても良い発想だね)
考えてみれば、いつからか自分をキングの駒として防衛をしていた、と思い返せば恥ずかしくなってくる。
(ぼくは、母の子かわからなくて、下手すると父の子でもなくて、ユージェニーみたいに孤児院かどこかで拾われてきたルーツ不明のどこぞの馬の骨かもしれないのだ)
そんな自分が『キング』など、考えれば考えるほど思い上がっているではないか。
――しかし、キングだと思って守っていた駒がキングではないと発想を変えると、戦い方はがらりと変わるのだ。
(守っていた『偽キング』を捨ててしまうんだ。獲らせてやる。そして、『偽キング』に釣られた『女王』を獲る)
ティーリーを釣るのは、もはやとても簡単な事のように思えた。
もちろん問題点がないわけでは、ない。けれど、加護の貸し出しと合わせてそれをすれば、その些細な問題点の他はとても綺麗に抑えられるんじゃないかな? キング・サクリファイスだ。今日から始まるキング・サクリファイスへの道だ。とても、めでたい。目指すゴールが策定できたぞ。
「坊ちゃん、坊ちゃん? 大丈夫ですか?」
レネンが「そろそろ、なにか反応を」と促している。
「うん、大丈夫だよ」
室内中から視線が集中している。ひとりだけ、置物になったみたいなのがいるが。
「うまくいかなかったようだけど、苦労をしたのは間違いない。ご苦労だったね、オスカー。その労力と費やしてくれた時間をぼくは労うべきだと思う」
献身とか忠誠という言葉は使わないでおいたが、それでもレネンは「労わなくていいですよ!?」と目を剥いた。
「ぼくにはどう口説いたものかわからなかったので、とても興味深く、参考になる話だった。ぼくにはない新鮮な発想だった。レネンもありがとう」
おかげでぼくはエリックが予想しないような手で『女王』を狙えるよ。
とても参考になった――クレイが心からそう唱えれば、オスカーが顔をあげた。
「おお、おお。寛容な仰りよう、さすがでございますな!」
――どうも、調子が戻ってきたらしい。良い事だ。
「商人は信頼関係を大事にするのだろう。外面を綺麗にしていても嘘吐きや陰湿な足の引っ張り合いばかりの貴族より、ぼくは好きだな」
「商人とは?」
ほんわかと言ってやればオスカーが不思議そうな顔をしたので、クレイは「商人じゃないの?」と聞き返した。
「俺は一応、貴族ですよ。まさか今までずっと俺を……まさか、いくらなんでも」
クレイは水差しを手に取った。
「ところで、ぼくが『ちょろい』やらなにやらは、お前の本心なの? 必要に迫られて用いた方便なの?」
問えば、部屋中の視線を浴びつつもオスカーは全く悪びれずに「その点は本心ですな。クレイ様は、ちょろくていらっしゃる!!」と肩をそびやかしたのでクレイは水差しの水をとくとくと頭から賜ってやった。
「ぼくの加護だ、お飲み」
これくらいで済ませようというのは、やっぱりぼくはちょろいのだろうか――水差しを引いて神妙に思い悩む暴言被害者に向けて、オスカーはケロリとして「これはこれはご馳走様です! なんなら、おかわりをくださっても構いませんぞ!」と言い放ったので、クレイは思わず一歩引いてしまったのだった。
公爵家では、レネンが一部始終を本当にありのまま話したので、室内の『盗賊上がり』たちは呆然として主の反応を見守った。
やらかしたオスカーはといえば、見た目は殊勝に膝をついて、まるで反省するかのように首を垂らしている。
「『鮮血』については……他国に流れなかったなら、良いんじゃないかな」
読みかけの勇者の本を傍らに伏せて、クレイは首を傾げてレネンとオスカーを見比べた。
――レネンが怒るのも無理のない内容なのは確かで、ぼくは怒ってもいい。
しかし、その内容が結構面白いのだ。
(ぼくが第二王子のために加護を使っていた。
王様になる気がないから、代わりの主に尽くしたい、と)
ふむふむ、と思案気に睫毛を伏せる少年を取り巻く従者たちは、妙に長い沈黙に重苦しく黙り込んで反応を待つしかなかった。
従者の存在を忘れたように、少年の中で思考が巡る。
(第三王子は加護があったけれど、守護竜がエリックを守ったから、守られずに亡くなった。
……ぼくは、『別の誰かをアスライトに守らせているから不在なんだ』と言い張れば、自分に加護がない言い訳に使えるのでは)
公爵家が『クレイが暗殺された時や事故に遭った時』に頭を悩ませていた理由の一つがそれだった。
加護を与えし守護竜は守ってくれなかったのか、と言われてしまうのだ。
けれど、第三王子の例ができたので、少なくともそれを回避できる。
――尤も、『加護があるから襲っても無駄ですよ』という視えない盾がこれまで水面下で多少は機能していたのだろうから、『今他人に貸していて無防備ですよ』と言ってしまったら暗殺者が増える事間違いなしだろうけど。
「ショックが大きすぎたのでは」
壁際で護衛たちが囁きを交わしている。この護衛たち、暗殺者が増えたら大丈夫だろうか? レネンなんか過労死してしまうんじゃないだろうか。クレイはそっと心配した。心配しつつ、ずっと言葉を待っているらしき白頭を視た。
(ぼくが王様になる気がなくて、主に尽くしたい……というのも、とても良い発想だね)
考えてみれば、いつからか自分をキングの駒として防衛をしていた、と思い返せば恥ずかしくなってくる。
(ぼくは、母の子かわからなくて、下手すると父の子でもなくて、ユージェニーみたいに孤児院かどこかで拾われてきたルーツ不明のどこぞの馬の骨かもしれないのだ)
そんな自分が『キング』など、考えれば考えるほど思い上がっているではないか。
――しかし、キングだと思って守っていた駒がキングではないと発想を変えると、戦い方はがらりと変わるのだ。
(守っていた『偽キング』を捨ててしまうんだ。獲らせてやる。そして、『偽キング』に釣られた『女王』を獲る)
ティーリーを釣るのは、もはやとても簡単な事のように思えた。
もちろん問題点がないわけでは、ない。けれど、加護の貸し出しと合わせてそれをすれば、その些細な問題点の他はとても綺麗に抑えられるんじゃないかな? キング・サクリファイスだ。今日から始まるキング・サクリファイスへの道だ。とても、めでたい。目指すゴールが策定できたぞ。
「坊ちゃん、坊ちゃん? 大丈夫ですか?」
レネンが「そろそろ、なにか反応を」と促している。
「うん、大丈夫だよ」
室内中から視線が集中している。ひとりだけ、置物になったみたいなのがいるが。
「うまくいかなかったようだけど、苦労をしたのは間違いない。ご苦労だったね、オスカー。その労力と費やしてくれた時間をぼくは労うべきだと思う」
献身とか忠誠という言葉は使わないでおいたが、それでもレネンは「労わなくていいですよ!?」と目を剥いた。
「ぼくにはどう口説いたものかわからなかったので、とても興味深く、参考になる話だった。ぼくにはない新鮮な発想だった。レネンもありがとう」
おかげでぼくはエリックが予想しないような手で『女王』を狙えるよ。
とても参考になった――クレイが心からそう唱えれば、オスカーが顔をあげた。
「おお、おお。寛容な仰りよう、さすがでございますな!」
――どうも、調子が戻ってきたらしい。良い事だ。
「商人は信頼関係を大事にするのだろう。外面を綺麗にしていても嘘吐きや陰湿な足の引っ張り合いばかりの貴族より、ぼくは好きだな」
「商人とは?」
ほんわかと言ってやればオスカーが不思議そうな顔をしたので、クレイは「商人じゃないの?」と聞き返した。
「俺は一応、貴族ですよ。まさか今までずっと俺を……まさか、いくらなんでも」
クレイは水差しを手に取った。
「ところで、ぼくが『ちょろい』やらなにやらは、お前の本心なの? 必要に迫られて用いた方便なの?」
問えば、部屋中の視線を浴びつつもオスカーは全く悪びれずに「その点は本心ですな。クレイ様は、ちょろくていらっしゃる!!」と肩をそびやかしたのでクレイは水差しの水をとくとくと頭から賜ってやった。
「ぼくの加護だ、お飲み」
これくらいで済ませようというのは、やっぱりぼくはちょろいのだろうか――水差しを引いて神妙に思い悩む暴言被害者に向けて、オスカーはケロリとして「これはこれはご馳走様です! なんなら、おかわりをくださっても構いませんぞ!」と言い放ったので、クレイは思わず一歩引いてしまったのだった。
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