125 / 260
9、裏切りの勇者と妖精王の復活
117、今オレ、衝動的にお前の友人攫ってきちゃったんだけど
しおりを挟む王城に帰還したエリックは、留守を任せていた、自分の兄貴分ともいえるお気に入りの騎士オーガスト・ウィンザーが出迎えてくるのを何とも言えない思いで見つめた。
いや、どうしたらいい?
今オレ、お前の友人攫ってきちゃったんだけど。
つい、衝動的に。
「おかえりなさいませ、殿下――そ、その、そちらは」
「ウィンザー卿……オーガスト」
いつかそうしていたように、名前で呼び直す。そうすると、オーガストは少し懐かしそうな顔をして少しだけ緊迫した表情を緩めてくれた。
赤毛の騎士に手を伸ばす事はせず、オーガストはその場で膝をついてエリックの顔を見上げた。ちょっと困ってる顔だ。そうだろう、オレが君の立場でも大いに反応に困ると思うんだよ、とエリックは困り顔に向けて内心で語り掛けた。
「この騎士は、いかがなさいましたか、エリック殿下」
弟に語り掛けるみたいに温かに聞いてくれる。
ああ、何を言っても聞いてくれるけど、結構すれ違いがちなんだよな。たぶん、伝え方が悪いんだ。わかってる!
よし今回も言っちゃうぞ。
「オーガスト、落ち着いて聞いてほしい」
「は」
エリックはオーガストをたっぷり見つめた。
笑顔をつくる余裕がなかった。きっと、気付かれている――気付いてほしいのかもしれなかった。
そうだ。
気付いてくれてもいいじゃないか。
オレはいつも、演じてたんだぞ……いつも、気付かないじゃないか?
だから、だから、本音みたいなものがずっと奥に隠れていっちゃって、よくわからなくなるんだよ。
そのまま、ぶつけてやるよ、もう。
エリックは子どもっぽく唇を尖らせて、迷子みたいに言った。
「いや、どうしたらいい?
今オレ、お前の友人攫ってきちゃったんだけど。
つい、衝動的に」
オーガストは、もうなんかこれまでのあれこれで耐性ができたのだろうか。
静かな眼をしていた。
「まず……あれです。いつも思っておりましたが、もうすこし言葉をおききしたいですね」
保護者然とした顔が、そう言った。
それは多分、子どもっぽく振る舞ったからなのだろう。
『キミはまだ大人じゃないよ』――先生の言葉が思い出された。
「お部屋でお茶でも飲みつつ、ご事情を聞かせていただいても、よろしいでしょうか……?」
「うん」
エリックは頷いて、騎士にその友人を託した。
「まあ、一言で言うと、……」
「一言で言わなくていいですよ。むしろ、一言で言おうとしないでください?」
ほかほかのお茶を前に言葉を交わしていると人間らしさが戻ってくるような心地がした。
「うん」
だから、エリックは素直に頷いた。ずっとずっと小さな子どもに戻ったみたいな気分で。
「まあ、一言で……」
「一言で言わなくていいと――」
「言おうとしても、一言でまとめられないや」
それからエリックは、自分の『ナイト』と長い長い話をした。
その時間はあの少女に会うよりも前に何度もあった時間だったと思いだせば、なんだかすごく懐かしかった。
そして、思い出すのだった。
「そうだ。ハーブティーを淹れた時、クレイにもこんな風に全部相談しようと思ってたんだ」
なのに、あいつは倒れちゃったんだ。
だから――話せなくなった……。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。
篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる