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9、裏切りの勇者と妖精王の復活
125、塔の上のラーシャ姫、竜を呼び
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パーティ会場に並べられた料理は、絵画のように鮮やかで美しく、彩も豊かで、囲む人々の顔は明るい。椅子に落ち着いて貝入りのパスタを頂くネネツィカは、エリックが『あちらの陣営』を見つめている事に気付いた。
「殿下」
そっと囁く。
――あまり、見ない方がいいのでは?
けれど、エリックは神妙な顔でそれを示した。
「あれを見てくれ」
第二王妃が傍らに幼児が好んで抱くような大きな茶熊のぬいぐるみを椅子に座らせている。そのぬいぐるみの前に、子供が好みそうな料理を並べさせている。
美しく女性らしい柔らかさを漂わせるリーガンがお姉さんの顔をして、第二王妃と一緒にぬいぐるみに笑いかけている。
風がふわりと声を運んでくる。
星空の下、人々の間を吹き抜けて、人が何をしていても知らないって風情で空気が翔ける。
「――フレデリック、優しいお兄様が今宵は一緒なのよ。怖いひとたちから、守ってくださるわ……」
エリックはドリンクグラスを軽く揺らして、照明に煌めく彩を鑑賞するような目をしてからポツリと呟いた。
「ああ、……謝罪しても弟は生き返らないんだ」
その実感が初めて訪れたような顔で、そっと息を吐いた。
「フレデリック殿下は、お誕生日に頂いたこの熊さんをクレイと呼んでいらっしゃるようですよ」
リーガンが楚々とした声でふわりそよりとぬいぐるみが座る椅子の背を撫でている。まるで椅子がその子でいるかのような仕草に、クレイはほわりと微笑みを返して。
「僕と同じ名前をつけてくださったのですね」
おままごとでも楽しむかのように、そこでは皆が優しく綺麗な笑顔を浮かべていた。
「今夜は、しのげるかしら……ああ、夜が更けていくようです」
第二王妃がふと不安そうに空を見上げて、暗殺を恐れている。
遠目にいくつもの囁きが交わされた。
「病んでおられる」
「おいたわしいが……」
誰もどうしようもない。そんな空気が流れていた。
「夜になにを恐れたらよいでしょう」
少年の声が少し高く響いている。
「鐵の矛を? 人の悪意を? この孤独を? それとも、この心が消えてなくなる無を恐れたらよい?」
――それは『塔の上のラーシャ姫』で姫が夜空に唱える台詞だったから、皆が息を呑んだ。
それは、姫が竜を呼ぶシーンだから。
「この星々の輝く宝石箱のような天の、なんと美しいことか。けれど、手をどれだけ伸ばそうと全く届かない冷たさがあるのです。ならば、それを恐れましょうか。ねえ、人と天、どちらになさる?」
夜紫色の瞳が星天蓋を臨めば、痛いほどの緊張感が充ちて、歓談が静寂に呑み込まれていくよう。
リーガンがぬいぐるみをそっと抱き寄せて、まるで全身で大人たちから守るようだった。第二王妃は、不安を忘れたようにリーガンに微笑んだ。
何も理解していない。そんな気配で、たおやかに。触れれば折れてしまう儚い花のように。
「人ならば、このまま落ちてしまいましょう。天ならば、あなたを呼びましょう。あなたは今、きいていらっしゃるのでしょう? 守護竜さん」
少年の声が伸びやかに風に溶けていく。
涼しく花の香りを含んだ微風が天に翔けて、束の間――静寂が怖かった。
「けれど、今はいらっしゃらなくて結構。僕たちは人だけの時間を楽しんでいるのですからね!」
少年はそう締めくくって、あやしく微笑み周囲に視線を巡らせた。
「所かまわず首を突っ込んで人々の『ありのまま』を邪魔する守護竜など、――いるはずがないではございませんか!」
――それは明らかな挑発だった。
竜に対する苦言だった。周囲の人々はそっと例の聖句を唱えて、いつその『竜』が現れることかと身構え、怯えた。
けれど、『今はいらっしゃらなくて結構』という一言がきいたのかは知らないが――守護竜ティーリーはこの夜、現れなかった。
「殿下」
そっと囁く。
――あまり、見ない方がいいのでは?
けれど、エリックは神妙な顔でそれを示した。
「あれを見てくれ」
第二王妃が傍らに幼児が好んで抱くような大きな茶熊のぬいぐるみを椅子に座らせている。そのぬいぐるみの前に、子供が好みそうな料理を並べさせている。
美しく女性らしい柔らかさを漂わせるリーガンがお姉さんの顔をして、第二王妃と一緒にぬいぐるみに笑いかけている。
風がふわりと声を運んでくる。
星空の下、人々の間を吹き抜けて、人が何をしていても知らないって風情で空気が翔ける。
「――フレデリック、優しいお兄様が今宵は一緒なのよ。怖いひとたちから、守ってくださるわ……」
エリックはドリンクグラスを軽く揺らして、照明に煌めく彩を鑑賞するような目をしてからポツリと呟いた。
「ああ、……謝罪しても弟は生き返らないんだ」
その実感が初めて訪れたような顔で、そっと息を吐いた。
「フレデリック殿下は、お誕生日に頂いたこの熊さんをクレイと呼んでいらっしゃるようですよ」
リーガンが楚々とした声でふわりそよりとぬいぐるみが座る椅子の背を撫でている。まるで椅子がその子でいるかのような仕草に、クレイはほわりと微笑みを返して。
「僕と同じ名前をつけてくださったのですね」
おままごとでも楽しむかのように、そこでは皆が優しく綺麗な笑顔を浮かべていた。
「今夜は、しのげるかしら……ああ、夜が更けていくようです」
第二王妃がふと不安そうに空を見上げて、暗殺を恐れている。
遠目にいくつもの囁きが交わされた。
「病んでおられる」
「おいたわしいが……」
誰もどうしようもない。そんな空気が流れていた。
「夜になにを恐れたらよいでしょう」
少年の声が少し高く響いている。
「鐵の矛を? 人の悪意を? この孤独を? それとも、この心が消えてなくなる無を恐れたらよい?」
――それは『塔の上のラーシャ姫』で姫が夜空に唱える台詞だったから、皆が息を呑んだ。
それは、姫が竜を呼ぶシーンだから。
「この星々の輝く宝石箱のような天の、なんと美しいことか。けれど、手をどれだけ伸ばそうと全く届かない冷たさがあるのです。ならば、それを恐れましょうか。ねえ、人と天、どちらになさる?」
夜紫色の瞳が星天蓋を臨めば、痛いほどの緊張感が充ちて、歓談が静寂に呑み込まれていくよう。
リーガンがぬいぐるみをそっと抱き寄せて、まるで全身で大人たちから守るようだった。第二王妃は、不安を忘れたようにリーガンに微笑んだ。
何も理解していない。そんな気配で、たおやかに。触れれば折れてしまう儚い花のように。
「人ならば、このまま落ちてしまいましょう。天ならば、あなたを呼びましょう。あなたは今、きいていらっしゃるのでしょう? 守護竜さん」
少年の声が伸びやかに風に溶けていく。
涼しく花の香りを含んだ微風が天に翔けて、束の間――静寂が怖かった。
「けれど、今はいらっしゃらなくて結構。僕たちは人だけの時間を楽しんでいるのですからね!」
少年はそう締めくくって、あやしく微笑み周囲に視線を巡らせた。
「所かまわず首を突っ込んで人々の『ありのまま』を邪魔する守護竜など、――いるはずがないではございませんか!」
――それは明らかな挑発だった。
竜に対する苦言だった。周囲の人々はそっと例の聖句を唱えて、いつその『竜』が現れることかと身構え、怯えた。
けれど、『今はいらっしゃらなくて結構』という一言がきいたのかは知らないが――守護竜ティーリーはこの夜、現れなかった。
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