152 / 260
10、守護竜不在の学院編
144、アーサー王と胃薬の騎士
しおりを挟む
豊穣祭、アローウィンを控えた王城で、父と息子が顔を合わせていた。父アーサーは玉座に。息子エリックはその前で膝をつき。
「病の具合はどうだ、エリックよ。少しはましになったのか」
息子が心を病んでいるのは、だいぶ前からだと言う。多感な年頃の我が子は最近まで守護竜ティーリーの過保護すぎるくらいの加護により守られていたものだが。あの竜が『我がついている(キリッ)』なんて言うものだからすっかり任せっきりでいれば、気づけば今の状態だ。
第一王子の亡命や弟王子の暗殺、と血生臭い騒乱を招いてしまったし、文官派閥とギスギスしているとも聞く。敬愛され慕われるはずの守護竜は一時期恐怖の暴君めいた存在となり――現在は、それは魔王のせいだったと言われて印象を幾分回復している――第二王妃は悲しみの果てに心を美しく優しい思い込みの世界に逃してしまった。第三王子はよく懐いていて愛らしかったし、シャジャルも淑やかで優しく、良き母っぷりで夜は大胆とギャップ萌えのある魅力的な妃だったのに。
このような事態を招くとは――深刻な顔の父に、爽やかな声が返された。
「俺は最高のコンディションです、パパ上!」
エリックだ。
「俺はユンク伯爵家の騎士として剣術大会で優勝します。あと、恋人が二人になりました。どちらも可愛い!」
これは、だめだ――父はゆるゆると頭を振った。あー、バカだ。バカ王子だ、うちの子は。微妙にまた女好きの自分の血を感じさせるのが困る。自分に似てるのだなと感じるほどに情が湧いて甘くなってしまうではないか。
「エリックよ、何故お前は伯爵家の騎士に?」
「ウィンウィンだからです!」
「ウィ……? 本当に大丈夫か……?」
最近『胃薬の騎士』という、いまいち嬉しくない二つ名を公爵令息から賜ったオーガストが胃を抑えている。だめかもしれん。
「エリックよ。今年のアローウィンには他国からの客も招いておる。愚かな振る舞いは見せぬようにな? 振りではないぞ? あっ、この国の王子バカだ、と思われるようなバカ王子な言動はするでないぞ? いいな? バカな子ほど可愛い、が通用するのはパパだけだからな?」
「はいっ、お任せくださいパパ上!」
父は指折り注意した事項の復習を促した。
「エインヘリアの使者を見たら」
「強そうなオーラを出す!」
「クレストフォレス?」
「道理を弁えてます。平和主義ですって顔をする」
「アイザール!」
「困ってたら助け合おうね! 俺達ずっ友……!」
生真面目な顔で控えていた騎士オーガストは胃の辺りをさすりながら、ここにフィニックスを連れてこなくてよかったと思うのであった。この王と王子の有り様を見られれば国外に出て行かれてしまうかも知れない……。
「エリックよ、我が国は長らくティーリーのおかげで栄え、他国の侵略から守られ、外交も有利に交渉ができていたのだ」
そのティーリーが不在なのだ。
とても危険なのだ。
「加護がない今が好機、と襲われるかもしれん。本当に加護がないか試そうなどという不埒ものも現れよう」
公爵家が守護竜を貸してくれているが、ならば貸し出して無防備なあちらから暗殺しようか、となる危険性もあるのだ。ティーリーが不在な今、他国にとっての懸念事項は、いるかいないか不確かなもう一柱なのだから。
本当に大丈夫なのか――不安を胸に父はオーガストを見た。騎士は――そっと目を逸らした。
「女性関係は特に気をつけるのだぞ……」
「ご安心ください、パ……父上」
若干キリッとした声になり、エリックが俯いて目を閉じる。
「俺は、本物です」
エリックはイメージする。
赤子からシニアまで、ありとあらゆる女性を。
――みんなが好きな王子のイメージを俺にくれ。
「俺は……」
カッと目を見開き、凛然と立ち上がって、エリックは宣言した。
「……俺は、全女性のための王子です!!」
父はそれを聞き、さすがにドン引きした顔で「お前……それほどの女好きであったか……」と呻いた。
「あ、いえ。ハーレムを作りたいとかではないですよ。そういう意味では、決して」
エリックはちょっと慌てた。別に女好きなわけではない――たぶん。
「誰に似たんだろう……」
そっと呟く声には、控えていた皆が沈痛な表情を浮かべて顔を伏せた。
「パパ上はな、女好きではあるが、これでもうまくバランスを取って揉めないように気を遣って子作りしたのだよ……おかげで王位継承争いには無縁かと思っていたものだ。うまくやったと思っていたのだが……シリルがなぁ……」
しみじみと行方不明の息子を思い遣った父は、「ティーリーがいないというのに、内側で足の引っ張り合いをしていては他国の良い餌食になってしまう。くれぐれも争いはほどほどに」と言い含めたが。
「パパ上ご安心ください! 俺は他国もフレンド路線でキラキラのデロデロにしますから!」
息子はそんな事をいって張り切っていた――なるほど、これではお付きの騎士に妙な二つ名が贈られるわけだ。王はため息をつくばかりであった。
「病の具合はどうだ、エリックよ。少しはましになったのか」
息子が心を病んでいるのは、だいぶ前からだと言う。多感な年頃の我が子は最近まで守護竜ティーリーの過保護すぎるくらいの加護により守られていたものだが。あの竜が『我がついている(キリッ)』なんて言うものだからすっかり任せっきりでいれば、気づけば今の状態だ。
第一王子の亡命や弟王子の暗殺、と血生臭い騒乱を招いてしまったし、文官派閥とギスギスしているとも聞く。敬愛され慕われるはずの守護竜は一時期恐怖の暴君めいた存在となり――現在は、それは魔王のせいだったと言われて印象を幾分回復している――第二王妃は悲しみの果てに心を美しく優しい思い込みの世界に逃してしまった。第三王子はよく懐いていて愛らしかったし、シャジャルも淑やかで優しく、良き母っぷりで夜は大胆とギャップ萌えのある魅力的な妃だったのに。
このような事態を招くとは――深刻な顔の父に、爽やかな声が返された。
「俺は最高のコンディションです、パパ上!」
エリックだ。
「俺はユンク伯爵家の騎士として剣術大会で優勝します。あと、恋人が二人になりました。どちらも可愛い!」
これは、だめだ――父はゆるゆると頭を振った。あー、バカだ。バカ王子だ、うちの子は。微妙にまた女好きの自分の血を感じさせるのが困る。自分に似てるのだなと感じるほどに情が湧いて甘くなってしまうではないか。
「エリックよ、何故お前は伯爵家の騎士に?」
「ウィンウィンだからです!」
「ウィ……? 本当に大丈夫か……?」
最近『胃薬の騎士』という、いまいち嬉しくない二つ名を公爵令息から賜ったオーガストが胃を抑えている。だめかもしれん。
「エリックよ。今年のアローウィンには他国からの客も招いておる。愚かな振る舞いは見せぬようにな? 振りではないぞ? あっ、この国の王子バカだ、と思われるようなバカ王子な言動はするでないぞ? いいな? バカな子ほど可愛い、が通用するのはパパだけだからな?」
「はいっ、お任せくださいパパ上!」
父は指折り注意した事項の復習を促した。
「エインヘリアの使者を見たら」
「強そうなオーラを出す!」
「クレストフォレス?」
「道理を弁えてます。平和主義ですって顔をする」
「アイザール!」
「困ってたら助け合おうね! 俺達ずっ友……!」
生真面目な顔で控えていた騎士オーガストは胃の辺りをさすりながら、ここにフィニックスを連れてこなくてよかったと思うのであった。この王と王子の有り様を見られれば国外に出て行かれてしまうかも知れない……。
「エリックよ、我が国は長らくティーリーのおかげで栄え、他国の侵略から守られ、外交も有利に交渉ができていたのだ」
そのティーリーが不在なのだ。
とても危険なのだ。
「加護がない今が好機、と襲われるかもしれん。本当に加護がないか試そうなどという不埒ものも現れよう」
公爵家が守護竜を貸してくれているが、ならば貸し出して無防備なあちらから暗殺しようか、となる危険性もあるのだ。ティーリーが不在な今、他国にとっての懸念事項は、いるかいないか不確かなもう一柱なのだから。
本当に大丈夫なのか――不安を胸に父はオーガストを見た。騎士は――そっと目を逸らした。
「女性関係は特に気をつけるのだぞ……」
「ご安心ください、パ……父上」
若干キリッとした声になり、エリックが俯いて目を閉じる。
「俺は、本物です」
エリックはイメージする。
赤子からシニアまで、ありとあらゆる女性を。
――みんなが好きな王子のイメージを俺にくれ。
「俺は……」
カッと目を見開き、凛然と立ち上がって、エリックは宣言した。
「……俺は、全女性のための王子です!!」
父はそれを聞き、さすがにドン引きした顔で「お前……それほどの女好きであったか……」と呻いた。
「あ、いえ。ハーレムを作りたいとかではないですよ。そういう意味では、決して」
エリックはちょっと慌てた。別に女好きなわけではない――たぶん。
「誰に似たんだろう……」
そっと呟く声には、控えていた皆が沈痛な表情を浮かべて顔を伏せた。
「パパ上はな、女好きではあるが、これでもうまくバランスを取って揉めないように気を遣って子作りしたのだよ……おかげで王位継承争いには無縁かと思っていたものだ。うまくやったと思っていたのだが……シリルがなぁ……」
しみじみと行方不明の息子を思い遣った父は、「ティーリーがいないというのに、内側で足の引っ張り合いをしていては他国の良い餌食になってしまう。くれぐれも争いはほどほどに」と言い含めたが。
「パパ上ご安心ください! 俺は他国もフレンド路線でキラキラのデロデロにしますから!」
息子はそんな事をいって張り切っていた――なるほど、これではお付きの騎士に妙な二つ名が贈られるわけだ。王はため息をつくばかりであった。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。
篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる