竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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10、守護竜不在の学院編

144、アーサー王と胃薬の騎士

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 豊穣祭、アローウィンを控えた王城で、父と息子が顔を合わせていた。父アーサーは玉座に。息子エリックはその前で膝をつき。

「病の具合はどうだ、エリックよ。少しはましになったのか」
 息子が心を病んでいるのは、だいぶ前からだと言う。多感な年頃の我が子は最近まで守護竜ティーリーの過保護すぎるくらいの加護により守られていたものだが。あの竜が『我がついている(キリッ)』なんて言うものだからすっかり任せっきりでいれば、気づけば今の状態だ。
 第一王子の亡命や弟王子の暗殺、と血生臭い騒乱を招いてしまったし、文官派閥とギスギスしているとも聞く。敬愛され慕われるはずの守護竜は一時期恐怖の暴君めいた存在となり――現在は、それは魔王のせいだったと言われて印象を幾分回復している――第二王妃は悲しみの果てに心を美しく優しい思い込みの世界に逃してしまった。第三王子はよく懐いていて愛らしかったし、シャジャルも淑やかで優しく、良き母っぷりで夜は大胆とギャップ萌えのある魅力的な妃だったのに。

 このような事態を招くとは――深刻な顔の父に、爽やかな声が返された。
「俺は最高のコンディションです、パパ上!」
 エリックだ。
「俺はユンク伯爵家の騎士として剣術大会で優勝します。あと、恋人が二人になりました。どちらも可愛い!」
 これは、だめだ――父はゆるゆると頭を振った。あー、バカだ。バカ王子だ、うちの子は。微妙にまた女好きの自分の血を感じさせるのが困る。自分に似てるのだなと感じるほどに情が湧いて甘くなってしまうではないか。
「エリックよ、何故お前は伯爵家の騎士に?」
「ウィンウィンだからです!」
「ウィ……? 本当に大丈夫か……?」
 最近『胃薬の騎士』という、いまいち嬉しくない二つ名を公爵令息から賜ったオーガストが胃を抑えている。だめかもしれん。

「エリックよ。今年のアローウィンには他国からの客も招いておる。愚かな振る舞いは見せぬようにな? 振りではないぞ? あっ、この国の王子バカだ、と思われるようなバカ王子な言動はするでないぞ? いいな? バカな子ほど可愛い、が通用するのはパパだけだからな?」
「はいっ、お任せくださいパパ上!」
 父は指折り注意した事項の復習を促した。
「エインヘリアの使者を見たら」
「強そうなオーラを出す!」
「クレストフォレス?」
「道理を弁えてます。平和主義ですって顔をする」
「アイザール!」
「困ってたら助け合おうね! 俺達ずっ友……!」

 生真面目な顔で控えていた騎士オーガストは胃の辺りをさすりながら、ここにフィニックスを連れてこなくてよかったと思うのであった。この王と王子の有り様を見られれば国外に出て行かれてしまうかも知れない……。

「エリックよ、我が国は長らくティーリーのおかげで栄え、他国の侵略から守られ、外交も有利に交渉ができていたのだ」
 そのティーリーが不在なのだ。
 とても危険なのだ。
「加護がない今が好機、と襲われるかもしれん。本当に加護がないか試そうなどという不埒ものも現れよう」
 公爵家が守護竜を貸してくれているが、ならば貸し出して無防備なあちらから暗殺しようか、となる危険性もあるのだ。ティーリーが不在な今、他国にとっての懸念事項は、いるかいないか不確かなもう一柱なのだから。

 本当に大丈夫なのか――不安を胸に父はオーガストを見た。騎士は――そっと目を逸らした。
「女性関係は特に気をつけるのだぞ……」

「ご安心ください、パ……父上」
 若干キリッとした声になり、エリックが俯いて目を閉じる。
「俺は、本物です」

 エリックはイメージする。
 赤子からシニアまで、ありとあらゆる女性を。

 ――みんなが好きな王子のイメージを俺にくれ。

「俺は……」
 カッと目を見開き、凛然と立ち上がって、エリックは宣言した。
「……俺は、全女性のための王子です!!」

 父はそれを聞き、さすがにドン引きした顔で「お前……それほどの女好きであったか……」と呻いた。
「あ、いえ。ハーレムを作りたいとかではないですよ。そういう意味では、決して」

 エリックはちょっと慌てた。別に女好きなわけではない――たぶん。

「誰に似たんだろう……」
 そっと呟く声には、控えていた皆が沈痛な表情を浮かべて顔を伏せた。
「パパ上はな、女好きではあるが、これでもうまくバランスを取って揉めないように気を遣って子作りしたのだよ……おかげで王位継承争いには無縁かと思っていたものだ。うまくやったと思っていたのだが……シリルがなぁ……」

 しみじみと行方不明の息子を思い遣った父は、「ティーリーがいないというのに、内側で足の引っ張り合いをしていては他国の良い餌食になってしまう。くれぐれも争いはほどほどに」と言い含めたが。

「パパ上ご安心ください! 俺は他国もフレンド路線でキラキラのデロデロにしますから!」
息子はそんな事をいって張り切っていた――なるほど、これではお付きの騎士に妙な二つ名が贈られるわけだ。王はため息をつくばかりであった。
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