竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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10、守護竜不在の学院編

146、明日の天気は火矢かもしれない。

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「薄い本は白くならなくなったから、それもティーリーのせいなのだね」
 ――窓際で少年が呟いて、首を傾げる。
「『盗賊上がり』にも何か良さげな名前をつけてあげたいが、お前たちは自分で名前を考えるのと僕に考えてもらうの、どちらが良い?」
 まるで『余所者』など知らぬとばかりに、身内だけを見て話すのだ。

「エインヘリア女帝ネスリン・フォン・ゼーゲブレヒトが道化外交官ダスティン・フォン・ヘスとファビアン・フォン・リーディガー、もしくは苦労性の将ヘルマン・フォン・ホルムを来させるだろう」
 
 資料や本が詰まれた広い部屋の片隅で、『拾い物』に囲まれて、公爵家陣営がアローウィンの話を始めている。
 あまり興味のない、知らない名前の羅列というのは、眠くなる――『盗賊上がり』などは聞き流しながら話の切れ目を辛抱強く待っているようだった。
 
「クレストフォレス盟主は古妖精のレイスト・リア。竜族混じりの外交官ディド・ラバルを派遣するだろう」
 
 語る少年の声は、押し入った無礼者の伯爵公子などいないも同然といった自然さであった。
 
「アイザールは行方不明の姫君アルマが当国にいると当たりをつけている。傭兵出身の『成り上がり』グリエルモと親友でもある外務長官ネクシ・エイホが多分ペアで来るのかな」
 そして、馬の被り物を「僕はこれを被りたいのだけど」と真剣な眼で見つめるのだ――。

「うおっほん。おっほん」
 身内の輪に押し入ってスルーされていた伯爵公子オスカー・ユンクがアピールすると、最初に家臣たちが白い目を向けた。呪術師のレネンなどは刺すような眼であった。エリック第二王子に押し付けられてからそちらにばかり足を向けていたが、久しぶりに来てみればやはりこのアウェー感も懐かしく感じるものだ。
(こいつらは本当に俺を仲間扱いする気がないな! とはいえ、実はけっこう身内認定されているんじゃないか!?)
 ――先ほどまでも身内な話を聞かせてくれていたことだし。

「やあやあ皆々様! お話に夢中なところをすいませんが、この俺が久しぶりに顔を出したわけですよ、この俺が! 泣いて喜んでくださっても構いませんぞ! そしてクレイ様は、そんな被り物よりこのオスカーが用意致しました衣装をぜひご着用ください! このオスカーが用意致しました衣装を!」
 オスカーは前向きだった。ちゃっかり衣装まで持ってきていた。
「僕は馬が良いのだけれど……」
 少年クレイがおっとりと首を傾げるのが自分を認識した証に思えて、オスカーは声のトーンを下げた。以前、「うるさい」と言っていたからだ。
「なぜそんなに死んだ目をした馬の被り物が被りたいのですかな。公爵家の権威が地に落ちますぞ」
「だから、『被りたいけど駄目だろうな』って残念がってるんじゃないか。それで、何の用かな。エリック殿下から何かお使いでも?」
 問う声は、如何にも不思議そうで「お前はなぜ此処に?」といった風なのだ。

「いやいや、あんなにお役に立ったではありませんか。それはない。それはないでしょう」
 そんなリアクションで済まされてよいものか。
 オスカーは全力で不満を訴えた。そうせずにはいられなかった。
「勇者グッズだって散々集めて献上し。妖精関連事業とて言われるがまま執り行い――現在も継続中なのですが。
 何より、竜と暗殺者を釣った時に自主的に駆け付けてお助けしたではないですか。
 まさかお忘れではありますまい――クレイ様はあの塔の上で「自分を大勢の星ではなくただ一つしかない月と呼べ」と仰ったではありませんか!」
 
 少年はびっくりした顔で「そう解釈できるか、なるほど」などと言っている――。
 
「あれだけ尽くして、この扱いはあんまりですぞ! 俺は悲しいのです。俺が哀れというものです。俺が」
 レネンが「お前は本当に『俺がー俺がー』とそればかりですね」と零しつつも、「まあ少しは仰りようもわかりますよ」と奇跡的に共感してくれている。明日は王都に火矢が降り注ぐのかもしれない。
「坊ちゃん……」
 
 おお、レネン。まさかのお前が俺に味方してくれるというのか!?
 オスカーはある種の感動を覚えた。
 
「商人は、取引が終わったら『有難う、また機会があればよろしく』で終わるのでは」
 クレイは視線を逸らしている。ああ、とても子供っぽい。
「僕はちゃんと感謝の形として、もっと良い取引先を紹介してあげたではないか」
「俺は商人ではないと――」言葉を返せば、「そうだよね、お前は偽物の商人だから」と頷くのだ。偽物ってなんだ。いや、そこに突っ込んでいる場合でもないのだろうが。
「俺は貴族ですよ、と」
「うん、うん」
 主張すれば、少年は素直に頷いた。そして、ふと思い出したようにそれを告げた。
「ああ、そういえば……僕は今思い出したのだけれど、『ケイオスレッグ』って、オスカーのチームだった?」
「? ええ、そうですよ」
 
 なぜ、そんな事を問うのだろう。
 
「――そうか。そうだったね、うん」
 ――なぜ、ちょっと申し訳なさそうな眼で俺を見るのだろう。

「クレイ様? なんぞ俺のチームにありましたかな?」
「いや……大したことではない。全然。まったく。気にしなくて、いい」
 少年は誤魔化すように背を向けて、その後は『ケイオスレッグ』について何も話してくれなかった。
 
「そんなことより、先ほど話していた三国がエリック殿下に暗殺を仕掛けるだろうから、エリック殿下の護衛をするであろうオスカーはそちらに気を付けるべきだと僕は思うな」
 微妙に取り繕う風情に話を変えられる。どうも、冒頭のあれはオスカーに話してくれていたらしい。
「……三国が暗殺を。それはモテモテですなあ」
「うん、うん。……何回だって死ねそうだね」
 クレイは残念そうに馬の被り物を見た。
 馬の被り物は、なんとも言えない虚ろな眼をしていて、気品も何もない間抜け面だ。
 この馬の被り物の何がそれほど心の琴線に触れたというのか――取り巻きたちには、それが全く理解ができないのであった。
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