竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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10、守護竜不在の学院編

147、王都炎上セーブ&ロード

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 アローウィンは二日間に渡るお祭りだ。初日の学院は、国内外からの多数の来客で賑わいを見せていた。

「お嬢様――」
「ここでセーブしますわ」
 ティミオスに一言告げて、ネネツィカが友人の元に行く。あまり『ずる』は好まない。けれど、ティミオスの様子からするとした方が良いのだろうと考えて。
 揃いの仮装は東風で、ヘレナとユージェニーいわく『巫女さん』なのだとか。
 出店のスタッフは交代制で、三人は先にスタッフ役をする事になっていた。

「珍しい衣装だね、清潔感があって、貞淑な感じで。神聖さもある……なにより似合ってる」
 騎士に扮するエリックがそう言って出店を訪ねてくれた。供に連れているのは、お揃い衣装みたいになっているオーガストにオスカーだ。ぞろぞろと他の取り巻きも連れて、皆が揃いの騎士姿。

「お兄様はあのグループに混ざりたくないって」
 ユージェニーがこそっと耳打ちしてくれた。
「朝からずっと、エリック様と遭遇しないように逃げまわってる」

「君たちのお店は、『◯◯しないと出られない部屋』? 面白いね!」
 エリックは物珍しげに内装と説明に目を通して、早速お客様になってくれた。

「この箱に手を突っ込んで、指示が書かれた紙を一枚引いてください」
 ヘレナが期待の眼差しを仮装騎士団に向けている。妖精学校から参加した悪戯な妖精スタッフのクルトンちゃんが一緒になってワクワクしている。
「引きましたら、指示をこなしてくださいね~、しないとお部屋から出られませんっ」

 眼鏡の取り巻きが心配そうに箱を覗き込み、箱の周りをくるくる安全点検みたいに見て回って、紙の取り出し口に手をかざしたりしている。
「それは単なる罰ゲームなんじゃ?」
 オスカーがフルーツ飴や綿菓子を女子に配りながら突っ込んだ。
「このお嬢さんたちの書いた指示ですよ、『男同士でキスしろ』とか書いてるやも知れませんぞ。やめといた方がよくないですかねえ」

 取り巻きたちが「うげっ」と声をあげて箱から遠ざかる。しかし、エリックはそんな取り巻きに「そんな態度、失礼だぞ」と宥めるように困り顔で笑ってから、箱に近づいて手を入れた。迷いはなかった。

「俺は彼女たちを喜ばせるためなら、男とキスでもなんでもしよう! 責任も取る――ッ」

「エ、エリック様……!!」
 薔薇の花が咲き誇る――取り巻きが撒いていた。
「ちょっ、殿下……っ!? そんなノリで責任取ってたらキリがありませんよ……!?」
 オーガストが胃を抑えて笑顔を引き攣らせている。皆が同情の視線を集めたその時、突然エリックがピクリと全身を硬直させ、「アッ」――、一言短く悲鳴のようなものを漏らして、ガクリと崩れ落ちた。
 見開いた青い瞳。咄嗟に引いた様子の手。ハラリと紙が指からこぼれて、床につくより先に王子の膝がくたりとして床に着く。
「殿下!?」
 慌てて肩を抱き支えようとするオーガスト。しかし、秒を待たずにエリックは全身から力が抜けたみたいにぐったりとして――「キャアアアアアアアア!!」悲鳴が響き渡る――……!

 その後は、祭りどころではなかった。

 ――何が起きたの?
 頭が真っ白になってしまった。とても怖い出来事が起きてしまった。取り返しのつかない何かが目の前で過ぎてしまった。

 ネネツィカは気付けば親に囲まれていて、王子がそのまま亡くなったと知らされた。


 ――亡くなられた。

 ――エリック様が、死んでしまった!!

 
 それを耳にした瞬間、ネネツィカの足元が崩れるようで、景色が逆さまになって流れるみたいで、全身がゴムになったみたいに感覚を鈍くして、感情の波がどこかから自分全部を侵略して染めてしまうみたいだった。
 笑顔を思い出した。
 近しい体温みたいなものが当然みたいにいつもあるようで、けれどそれが突然あっけなくふっと消える感覚を覚えた。
 そして、もう戻らぬのだと思った。思って、震えた。失う感覚を強く強く覚えて、悲しくて仕方なくなった。

 箱に毒虫が入れられていて、伯爵家の関与も疑われていると語る父と兄は蒼白であった。国内が暗殺犯を探し荒れるうち、他国が混乱に乗じて侵攻してきて、防衛もままならずに電撃的な速度で進軍した他国により、王都は炎上したのであった――「お嬢様、」どうしてこんなことに――「ネネツィカお嬢様!」

 執事が心配そうにネネツィカの手を握る。あたたかい。

 綺麗な青年の顔が懸命に何かを喋っている。聞いてくださいと繰り返している。

「ロード、です。お嬢様。ロードと仰ってください、お嬢様……」

 ネネツィカの瞳が理性の色を濃くしていく。

「そう」
 ……そういえば、そう。
「そうでしたわ、ティミオス……そういえば、そう」
 ――わたくし、『ずる』ができるのだわ。


「ありのまま、起きたまま、それが『今』」
 ネネツィカは考えた。
 守護竜ティーリーの気持ちがわかる気がした。

「わたくしがセーブとロードを使えるのは、『ずる』ですわ。でも……わたくしがこの力を使えるというのは、魔法使いが魔法を使えるのと何か違うかしら、鳥が空を飛べるのと何か違うかしら」

 だって、できるのだ。
 ネネツィカは執事を見た。執事は、優しく哀しく微笑んだ。
「お嬢様のティミオスにお命じください」

「ええ」
 ネネツィカはこの時、『起こった過去の出来事を否定する』という選択をした。

「ロード」

「わたくし、エリック様の暗殺を防ぎますわ」

 執事は恭しく礼をして、時間を過去へと巻き戻してくれたのだった。
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