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10、守護竜不在の学院編
148、なりすまし暗殺者とエリックの2回目の死
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瞬きひとつ、呼吸をひとつ。
ネネツィカは、次の瞬間――アローウィンの初日の学院にいた。ヘレナやユージェニーとお揃いの仮装で、パンフレットを手に。執事を見れば、笑顔で一礼してくれる。
「巻き戻ったのね」
「さようでございます」
ネネツィカはほんのりと微笑んだ。これはずるだ。テストで満点取り放題――こんな時にそんな事を思うのが、なんだか面白かった。
――「引きましたら、指示をこなしてくださいね~、しないとお部屋から出られませんっ」
前回同様に時間が進んで、エリックの取り巻きが心配そうに箱を覗き込む。眼鏡の取り巻きが心配そうに箱の周りをくるくると安全点検みたいに見て回って、自分の体を目隠しに紙の取り出し口に手をかざして何かを落とした。
「お待ちになって」
ネネツィカは扇をぱらりと開いて、それを咎めた。
「あなた、今――『何か』、入れましたわ」
「!!」
眼鏡の取り巻きがぎくりとして、他の取り巻きが「なんだなんだ」と箱と彼を見比べる。
「クルトンちゃん、箱の中に何が入れられたかチェックしてくださる?」
ネネツィカが依頼すれば、妖精のクルトンちゃんは興味津々で箱の中から虫を見つけて、みんなの前にぷかぷか浮かせた。
「これは毒虫ではないですか!!」
オーガストが顔色を変えて叫び、眼鏡の取り巻きが逃げようとしてオスカーに取り押さえられる。
(あっさりと助けられましたわ。なんて、簡単――)
ネネツィカはエリックの無事を喜んだ。
「しゃわっ、しゅわっ」
国賓として豊穣祭に招かれ、学院のアローウィンイベントも見学しにきたクレストフォレスのお姫様、空色の髪の女の子が、シュワシュワのジュースのグラスを揺らしてその色の綺麗さを愛でている。
「虫がつまみ出されちゃいましたねえ」
女の子の正面に座り、微笑ましそうに目を細めていた紫髪の青年――クレストフォレスの外交官ディドは、竜の血が混ざっていると噂の色男。外見は普通の人間で青年のようだが、中身は結構な年月を生きている。ディドは報告に「まあ、気にしなくていいっすよ」と笑った。
「彼の所属はアイザールですし、アイザール人を使って暗殺依頼させたので。捕まっても足はつかない――うちは疑われません」
女の子は無垢な顔でストローを吸って、「ディドさん、悪いことしてます? おねーさまに言いつけなきゃ」と首を傾げる。ディドはパンフレットの縁日コーナーを見せて「ほーらララカ様、縁日コーナー行きましょうかぁ! 楽しいですよぉ!」とご機嫌を取った。
エリックの暗殺を回避したネネツィカはというと、自分たちのスタッフタイムを終えて、そのままエリックたちのグループに混ざり観覧していた。
「それにしてもクレイは何処にいるのかな。一緒に見て回ろうと誘っていたのに」
エリックが不満顔である。
「はっはっは。俺は今朝お会いしましたぞ。何を隠そう本日のクレイ様は俺の用意した衣装をお召しになられていてまさに王子様といった麗しさ」
オスカーがドヤ顔でアピールしまくっている。
「ここだけの話、俺はクレイ様のお気に入りなのです。とても頼られているわけですよ! そんな俺が何故こっちのグループにいるのかと気になっていらっしゃる方もおられるようですが――頼れる一のナイトを護衛としてお付けする――それすなわち忠義! このオスカーはクレイ様からのエリック様への忠誠の証のようなものなのですな!」
熱苦しく延々と語るオスカーに取り巻きたちもうんざりしてきた頃、通路の向こうから噂の人物が姿を見せた。
なるほど、王子様――黒を基調とした若干フリルが多めの豪奢な衣装に、赤い宝石付きの小さな王冠まで被って――普段なら身につけそうも無いものだが――王子様然とした少年がそこにいた。
「おお、ご本人の登場ではありませんか! さてはタイミングを見計らっておられたのですな、こちらに混ざりたいけれどなかなか素直になれない、そんなめんどくさい我儘坊ちゃんなお心がマルっとお見通しでございますぞ!」
「君たち本当に仲良いの?」
オスカーの声にツッコミつつ、エリックが笑顔で歩み寄り「探したんだよ」と両手を広げる。すると、クレイは一瞬で輪郭をぶらすように駆けて懐に飛び込んだ。とても速かった。手にはいつの間にか剣があった。騎士が反応するより速く、尋常ではない速度でそれは王子を貫いた。
同時に何故か爆音が響いて、周囲が混乱に陥る――エリックがとても驚いた顔で何か言おうとして口を開き、ごぽりと血を吐く。間近にそれを見上げる従兄弟は冷えやかな顔でそれを見て、手に握る剣をさらに深く押し込んだ。背に剣の切っ先が覗いて、血溜まりが足元に生まれる。
「――エリック様!!」
――エリックが刺された!!
爆発の混乱に乗じて、黒い少年は異様な身軽さで窓から跳び、あれよという間にその姿を消した。犯人は、公爵令息――、
「ロ、……ロードぉ!!」
ネネツィカは即時に時間を戻した。
「あれがクレイな訳はありませんわ――あんなに素早く動けませんもの」
本人が聞けばしょんぼりしそうな事を呟きつつ、ネネツィカはあの暗殺者をどうしたものかと考えた。
「かかってこられて防いで……、もし逃げられたらエリック様が助かってもクレイが暗殺未遂したことになっちゃうのですわ」
捕まえて正体を暴かなくては――?
けれどあの暗殺者、恐ろしく腕の立つ体捌きで、騎士が反応できないくらい速かった……。
ネネツィカは、次の瞬間――アローウィンの初日の学院にいた。ヘレナやユージェニーとお揃いの仮装で、パンフレットを手に。執事を見れば、笑顔で一礼してくれる。
「巻き戻ったのね」
「さようでございます」
ネネツィカはほんのりと微笑んだ。これはずるだ。テストで満点取り放題――こんな時にそんな事を思うのが、なんだか面白かった。
――「引きましたら、指示をこなしてくださいね~、しないとお部屋から出られませんっ」
前回同様に時間が進んで、エリックの取り巻きが心配そうに箱を覗き込む。眼鏡の取り巻きが心配そうに箱の周りをくるくると安全点検みたいに見て回って、自分の体を目隠しに紙の取り出し口に手をかざして何かを落とした。
「お待ちになって」
ネネツィカは扇をぱらりと開いて、それを咎めた。
「あなた、今――『何か』、入れましたわ」
「!!」
眼鏡の取り巻きがぎくりとして、他の取り巻きが「なんだなんだ」と箱と彼を見比べる。
「クルトンちゃん、箱の中に何が入れられたかチェックしてくださる?」
ネネツィカが依頼すれば、妖精のクルトンちゃんは興味津々で箱の中から虫を見つけて、みんなの前にぷかぷか浮かせた。
「これは毒虫ではないですか!!」
オーガストが顔色を変えて叫び、眼鏡の取り巻きが逃げようとしてオスカーに取り押さえられる。
(あっさりと助けられましたわ。なんて、簡単――)
ネネツィカはエリックの無事を喜んだ。
「しゃわっ、しゅわっ」
国賓として豊穣祭に招かれ、学院のアローウィンイベントも見学しにきたクレストフォレスのお姫様、空色の髪の女の子が、シュワシュワのジュースのグラスを揺らしてその色の綺麗さを愛でている。
「虫がつまみ出されちゃいましたねえ」
女の子の正面に座り、微笑ましそうに目を細めていた紫髪の青年――クレストフォレスの外交官ディドは、竜の血が混ざっていると噂の色男。外見は普通の人間で青年のようだが、中身は結構な年月を生きている。ディドは報告に「まあ、気にしなくていいっすよ」と笑った。
「彼の所属はアイザールですし、アイザール人を使って暗殺依頼させたので。捕まっても足はつかない――うちは疑われません」
女の子は無垢な顔でストローを吸って、「ディドさん、悪いことしてます? おねーさまに言いつけなきゃ」と首を傾げる。ディドはパンフレットの縁日コーナーを見せて「ほーらララカ様、縁日コーナー行きましょうかぁ! 楽しいですよぉ!」とご機嫌を取った。
エリックの暗殺を回避したネネツィカはというと、自分たちのスタッフタイムを終えて、そのままエリックたちのグループに混ざり観覧していた。
「それにしてもクレイは何処にいるのかな。一緒に見て回ろうと誘っていたのに」
エリックが不満顔である。
「はっはっは。俺は今朝お会いしましたぞ。何を隠そう本日のクレイ様は俺の用意した衣装をお召しになられていてまさに王子様といった麗しさ」
オスカーがドヤ顔でアピールしまくっている。
「ここだけの話、俺はクレイ様のお気に入りなのです。とても頼られているわけですよ! そんな俺が何故こっちのグループにいるのかと気になっていらっしゃる方もおられるようですが――頼れる一のナイトを護衛としてお付けする――それすなわち忠義! このオスカーはクレイ様からのエリック様への忠誠の証のようなものなのですな!」
熱苦しく延々と語るオスカーに取り巻きたちもうんざりしてきた頃、通路の向こうから噂の人物が姿を見せた。
なるほど、王子様――黒を基調とした若干フリルが多めの豪奢な衣装に、赤い宝石付きの小さな王冠まで被って――普段なら身につけそうも無いものだが――王子様然とした少年がそこにいた。
「おお、ご本人の登場ではありませんか! さてはタイミングを見計らっておられたのですな、こちらに混ざりたいけれどなかなか素直になれない、そんなめんどくさい我儘坊ちゃんなお心がマルっとお見通しでございますぞ!」
「君たち本当に仲良いの?」
オスカーの声にツッコミつつ、エリックが笑顔で歩み寄り「探したんだよ」と両手を広げる。すると、クレイは一瞬で輪郭をぶらすように駆けて懐に飛び込んだ。とても速かった。手にはいつの間にか剣があった。騎士が反応するより速く、尋常ではない速度でそれは王子を貫いた。
同時に何故か爆音が響いて、周囲が混乱に陥る――エリックがとても驚いた顔で何か言おうとして口を開き、ごぽりと血を吐く。間近にそれを見上げる従兄弟は冷えやかな顔でそれを見て、手に握る剣をさらに深く押し込んだ。背に剣の切っ先が覗いて、血溜まりが足元に生まれる。
「――エリック様!!」
――エリックが刺された!!
爆発の混乱に乗じて、黒い少年は異様な身軽さで窓から跳び、あれよという間にその姿を消した。犯人は、公爵令息――、
「ロ、……ロードぉ!!」
ネネツィカは即時に時間を戻した。
「あれがクレイな訳はありませんわ――あんなに素早く動けませんもの」
本人が聞けばしょんぼりしそうな事を呟きつつ、ネネツィカはあの暗殺者をどうしたものかと考えた。
「かかってこられて防いで……、もし逃げられたらエリック様が助かってもクレイが暗殺未遂したことになっちゃうのですわ」
捕まえて正体を暴かなくては――?
けれどあの暗殺者、恐ろしく腕の立つ体捌きで、騎士が反応できないくらい速かった……。
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