竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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10、守護竜不在の学院編

151、昇格する歩兵、気に入らなくても気に入れ、交渉カード

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 お化け屋敷で暗殺と無縁の時間を過ごした一行は、そのままサバイバルマッチの観戦に移動した。
 オスカーと『ケイオスレッグ』が元チームメイトのシュナたち『エンジョイ・フレンド』と因縁対決をするということで、観客席は盛り上がっている。

「わあーっ、オイラがここで悪戯したら、みんな怒るかな?」
 デミルがケタケタ笑ってドリンクカップを揺らしている。隣でぎょっとした顔をするアッシュは、中身がこぼれてしまいそうなデミルのドリンクカップをさりげなく抑えてあげつつ。
「だめだよデミル……」
 おろおろ、やわやわと止めていた。
「冗談だよ?」
「あ、そ、そう……」
 デミルはキョトンとして、席に大人しく落ち着くようだった。
「その、冗談なのをわからなくてごめんね」
「いいよ!」
「でも、デミルの冗談はわかりにくいや。だって、その。気を悪くしないで欲しいけど、本当にやっちゃいそう……」
「うん! 冗談ってのはウソ! 本当にやろうかと思ってたからね!」
「え……え……?」

「シュナのお母さまはちゃんと観てるのだろうか」
 クレイがこそりと問う相手は、姿を隠して傍らに潜む呪術師のレネン。
「あちらで懸命に応援なさってますよ」
 示された先には、なるほどシュナによく似た母らしき人物がいる。
「お母さまは、皆んなに応援されながら晴れの舞台で頑張る我が子を直に応援できて嬉しいと思いますよ」
 レネンの声は優しかった。だからだろうか、ふとクレイは気になってチラリと視線を向けた。
「レネンは妻帯しないのか?」
 こいつにはプライベートの時間を過ごす余裕もないに違いない、そう危惧しながら。
「休みを増やすから家庭を持つといい……」
 エリックの声がどうにも思い出されてならない。

 『クレイの子守り』とか――。

 なにせ、人の生きる時間は限りある。年がら年中『子守り』をして、そのまま人生終了というのは、この優秀な人物に相応しい人生であろうか?
 そんな疑念が浮かぶのだ。
「レネンはもう少し自分の時間を増やして人生を楽しむべきだと、僕は思うのだ」
 呪術師は応えなかったけれど。聞いてる?

「なんか、どちらのチームもイライラしてるね」
 エリックが呟くので、ネネツィカがちょっぴり眉を下げた。
「因縁対決ですし。単なる勝負って感じじゃなくて、相手が許せないってなってしまっているのかしら」
「さもありなん……」
 作戦を相談するシュナが味方にキツイ言葉をかけている。異国の言葉だからシュナの母にはわからないのだろうか? クレイは少し心配した。
「エンジョイ、フレンド、なのに勝ちたい一心で仲違いしては本末転倒なのでは……」
 すると、エリックが妙な目で頷くのだ。
「たかがゲームといえ、熱くなってしまうのは、よくある。あんな風に特別な才能があって周囲からも期待されるような強者なら、特に」
 遊びじゃなくなってしまうんだ――そんな声と合わさるように、レネンが耳元で知らせた。
「『鮮血』が来ています」
 お前、さっきの聞いてた? 確認したくなったが、知らせの内容はそれどころでもなさそうだった。
 視線をそろそろと移せば、エリックの騎士オーガストも「フィニックスが来たって?」と部下から知らせを受けている様子――「早速他国勢がちょっかい出そうと寄っていってますが」レネンが深刻そうな声で続ける。

「僕は急用が出来た……」
 試合の勝敗は未だ決まらないが、途中まで観たのだから良いのではないだろうか? クレイはいそいそと席を立った。
「どこに行くの?」
 エリックがはかるような目で確認している。おかしな企み事をするつもりではないか、とか。最後まで観てやれとか。そんな目で。
「僕は、僕は……」
 オーガストが部下に何かを指示して送り出している。ステージでケイオスレッグが得点を許して、ワッと観客席が沸いている。
「ケイオスレッグ、ざまぁ!!」
「友情の勝利だ!!」
 観客の中にはそんな野次を飛ばす者もいた。それは、クレイが『エンジョイ・フレンド』のブランディングにそんな筋書きを盛り込んだからで――『それで元のチームに勝ったらとても盛り上がるよね』――自分の声が甦る。

「僕は、気分が悪い」
 それは真実だ。だから、エリックは納得したようだった。
「ああ――、それなら」
「でも、応援して努力を労ってやったら選手は喜ぶ。君たちが慰めてやればいい。僕は知らない」
 シュナはお母さまにそれを貰えるだろう。だから、そちらもほっといていいのだ。そう思いながら思考は『鮮血』に向いて行く。

「わたくし、実は贔屓にしている商会を頼ってシュナのためのチームを作らせた犯人ですの……」
 ネネツィカは、申し訳なさそうに頭を下げた。
「軽い思い付きでした。良かれと思って……」
 エリックがそんな彼女に驚いた顔をして、「大丈夫だよ」と微笑んだ。
「シュナは試合ができないよりは、できた方が良かったんじゃないかな。だって、選手が腕を磨くのって試合で活躍してやるぞって目標があるからじゃないか。ちょっとその気持ちが前のめりに出過ぎてるかもしれないけど」
「シュナのママも、よかったって言ってくれてるかしら」
「なんなら、俺と一緒にオスカーに事情を話して謝ろうよ。必要であればその新しいチームごと返してやって、『勝つためのチームとエンジョイチームと、両方経営するように』と提案すればいいじゃない」

(僕は『自分は何も知らない』って顔で、全て放置して逃げるんだな)
 友人たちの声を背に、クレイは仄暗く微笑んだ。

 『鮮血』はゆっくりと移動中らしい。

「冒険者が二国の足止めをしてますぜ」
 変な仮装をしたテオドールがそう報告しながら、ワクワクとした顔をしている。
「俺も足止めに混ざっていいですかねえ?」
 その後ろには、ベルンハルトやアドルフもいて、血気盛んな顔を見せている。
「顔を隠して、正体がバレないように。少し遊んだら怪我をする前にさっさと退く。言い付けが守れる子だけ遊んでいい」
「よっしゃ!」
「お前たちはエインヘリアの兵だ。逃げる時にはそれをさりげなくアピールしておいで」

 歩兵は何にでもなれる可能性を秘めている。
 罪人の流刑地から始まり盗賊に至り莫迦道楽貴族の子守りになった荒くれ者は、次に何になるだろう。

「お前たちの名前を決めた。『昇格する歩兵プロモーション・ポーン』というのだ」
 気に入らなくても気に入れ。そう昂然と言ってやれば、めんどくさい反論を唱える奴は、いなかった。

 さて、赤毛『鮮血』が見える。
 オーガスト・ウィンザーは自分でこれの元に駆けつけたかったに違いないが、大事な王子の護衛で離れることができずに部下を寄越している。
 オーガストには友人騎士フィニックスの望みを叶える交渉カードは無く、せいぜいできるのは情に訴える程度。それをするなら友人である本人が言わなければ情も何もない。部下に伝えさせた伝言など、心に響くわけがなかろうに――呪術師レネンがオーガストの部下を抑えてくれるので、少年は微笑んだ。
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